それぞれのホリデーシーズン①12/20
(まさかミハイルが爵位を賜るなんて!)
本当に驚きだった。
宮廷医は王家に近く、その立場は大切にされているものの。医者という職業の地位は低い。それは仕方ない。外科手術なんてしたら、血まみれになる。貴族で医者なんてこれまでこの国、この大陸には存在していなかった。ゆえにボルチモア家が代々宮廷医を務めても、爵位を得ることはなかったが……。
レグルス王太子殿下とコルネ伯爵が革新的な考えが出来るから、ミハイルは今回、爵位を得ることになった。
(まさか貴族になったミハイルとあたしが結婚なんて……)
嫁が鍛冶職人の貴族なんて聞いたことがない。
(ではあたしが鍛治をやめる? それも考えた。でもあたしが鍛治をやめると言ったら、ミハイルは断固として止めるだろう)
そうなるとミハイルはやっぱり鍛治職人を嫁にすることになる。
(ミハイルに恥をかかせる訳にはいかないよ)
そこで婚約の解消を申し出たけれど……。
(ミハイルには本当に驚かされた。あたしと結婚できないなら、爵位なんていらない、なんて言うのだから……!)
あたしにそんな価値はないと言っても、ミハイルは耳を貸さない。その場で爵位辞退の手紙を書き始めたから、慌てて「分かったから! 婚約は解消しない! 爵位は受けるんだよ、ミハイル!」となったわけだ。
(……しかし、あたしにお貴族なんて務まるのかねぇ)
そんなことを思っているうちにも爵位の授与式となり、その後に行われる晩餐会にあたしも出席することになった。
ドレスを着ればそれなりになる。だが食事のマナーや貴族との社交については…… モンクレルテ嬢に教えてもらうことになった。
「今回は晩餐会ですからね。大丈夫ですよ。三週間もあるのですから、食事のマナーと礼儀作法、貴族の社交術、伝授しますわ!」
あたしが晩餐会に出席するとなった時、モンクレルテ嬢だけではなく、テレンス嬢もルベール嬢も、コルネ伯爵までサポートを申し出てくれた。
でもテレンス嬢は、実は上級侍女になることが決まっており、そのための昇格試験のための勉強もしていたのだ。そんな忙しい彼女にあたしごときに時間を割いてもらうわけにはいかない。
そしてルベール嬢は、どうやら誰かにマナーレッスンをつけているようで、こちらも多忙。
「私、暇で暇で毎晩ロマンス小説を読み漁るような状態です。ぜひダイアンさんをサポートさせてください!」
こうしてモンクレルテ嬢にいろいろ教えてもらい、爵位授与式に伴う晩餐会は乗り越えたが……。
「次はダンスですね。爵位を得たボルチモア先生は、十二月二十四日とニューイヤーイブとニューイヤーの舞踏会に漏れなく招待されるはずです。もちろん、宮廷医の職務が優先ですが、王家の皆様が健全であれば、出席となるでしょう。その時、同伴するのは……ダイアンさんです!」
以前、金属のペン先の件で褒賞頂くことになり、舞踏会にも参加したことはある。だがその時はダンスは貴族に任せ、鍛治工房の仲間はみんな、隣室で飲んで食べてで、あたしもそうだった。
でも今回は男爵になったミハイルの婚約者としてエスコートされるのだ。ダンスは……せめて一曲は踊らないと、ミハイルの顔が立たない。
「モンクレルテ嬢、ダンス、教えてくれるかい?」
「はい! お任せください!」
こうしてモンクレルテ嬢にダンスを習い始めて十日が経った頃。
「ダイアン!」
「ミハイル!」
モンクレルテ嬢はコルネ伯爵と殿下のオペラ観劇に同行し、あたしは夕食後、ダンスの自主練をしていた。そこにミハイルが尋ねて来たのだ。
白衣を脱ぎ、アンティークグリーンのセットアップ姿になったミハイルに、私は声をかける。
「ミハイル、今日は国王陛下夫妻もオペラの観劇だろう? 戻るまで時間が出来たのかい?」
「そうなんだ。しばらく陛下は公務の晩餐会続きで、僕もそれに連動してバタバタしていたけど、ようやく落ち着いた。……と言ってもこれから年末年始に向け、まだまだドタバタが続くけど……」
鍛治工房もこれから忙しくなる。
年末に向け、大掃除をして、古いものを処分して新調したり、修理したりとなり、依頼が増えるのだ。
「今のうちにダイアンでエネルギー補給をしておきたい」
ミハイルの白衣をフックにかけていると、彼はあたしをぎゅっと抱きしめる。
ミハイルからこんなふうに抱きしめられるなんて、以前は想像したことがなかった。でも今となってはこれが当たり前になっていた。
(それでもなんだか恥ずかしいわよね!)
そこであたしはその背を撫でながら思いつく。
(そうだ! ミハイルにダンスの練習に付き合ってもらえばいいのでは!?)
「ミハ……」
「ダイアン、膝枕をしてもらえる?」
完全に声が被り、あたしは少し慌てながら「あ、ああ、もちろんだよ!」と応じることになる。そこであたしがカウチに腰かけ、ミハイルはその長身を丸めるようにして、あたしの膝に頭を乗せた。
あたしが着ているのは、作業用のレンガ色のドレスで、エプロンを外したから、鍛冶仕事の汚れはついていない。それでも貴族令嬢が着ているような、オシャレなものではなかった。
「ミハイル、あんたが度々こうやって膝枕を求めるだろう? だからさ、ちょっといいクッションを手に入れたんだよ。宮殿の客間で使われていたもののおさがり。おさがりだけど、客間でクッションなんてそう使われない。新品と変わらないんだよ。こっちの方が」
「ダイアン」
「なんだい、ミハイル?」
「僕はダイアンの膝がいいんだ。こうやってダイアンを感じ、横になるだけで、一気に気持ちが安らぐ。どんな高級クッションでもダイアンの膝には敵わないこと、覚えておいて」
お読みいただき、ありがとうございます。
今日からクリスマス、年末年始を『24』みたいにリアルタイム日付で更新していきます!
思いついて書き始めて本当に大変でしたが読者様の笑顔を思い浮かべ頑張りました。
よかったらお付き合いくださいませ~















