これまでより深い
「リエットは呑み込みが早い! 元々運動神経が優れているんだろうな。泳ぎ方も覚えた。呼吸もできている。今日は……少し深めの場所にも行ってみるか?」
下着のような水着姿で海に入る時は、いくら大判のショールで隠しても、浮力で布が浮き上がり、私は恥ずかしくて泳ぐどころではなかった。でもジークは「大丈夫。僕以外は誰も見ていない。この時間、ここに人はあまり来ないから、気にするな」と根気強く言い、その時は私をからうようなことは一切言わなかった。そのおかげで私の羞恥心も収まり、「わあ、小さな魚、可愛い!」「ジーク、この星は!? え、ヒトデ? 何ですか、それは?」「きゃあ、あれは、ジーク! え、オクトパス!?」と、初めての海の世界を大満喫することになったのだ!
「深いところではいざという時、服は本当に邪魔になる。ショールははずして、水着だけで行くぞ、リエット」
「え、ショールはなし!?」
「どのみち海の中に入ったら、波があれば、ショールは浮き上がり、脚は見えている。でも僕は見ない。リエットが嫌がることはしたくないんだ。それに海から上がる時は、すぐにタオルをリエットに渡す。僕の大切なリエットの素肌を、他の奴らに見せるつもりはない。そこは安心していい」
その後のジークは真剣そのもの。
「浅瀬と違い、深さがある場所ではマンタやエイだっている。きっとリエットはますます海を好きになるだろう。でもそこへ行くには本当は裸がいいぐらいだ。もしもがあると危険だからな。よってショールはなし。OKなら案内する。でもやはり恥ずかしいというなら、無理はしないでいい。その選択を僕は尊重する」
ジークの心のこもった言葉に胸が熱くなる。
(こんなふうに私のことを大切にしてくれるなんて……)
そうなるともう、自然と答えが口をつく。
「見たことのない海の世界を……見て見たいわ、ジーク。だからショールは置いていく」
「わかった。じゃあ、リエット。案内するよ、これまでより深い海の世界へ」
ジークはそう言うと、まるで私をエスコートするようにして、海へと入っていく。ゆっくり浅瀬を歩き、「よし。ここからは泳ぐぞ」というジークの言葉に従い、さらに進んでいくと――。
「!? ジーク、何か大きな黒い布が海の中に見えたわ!」
「リエット、あれがマンタだ。大きいだろう?」
「マンタ……あ、え、あれが!? あれが魚なの!?」
いつもとは違う深い海では、ジークの言う通りで、大きなウミガメを見ることも出来た。ドルフィンとも遭遇し、さらに……。
「リエット! すごいぞ! あれは……クジラだ」
「え、島が見えているのではなく!?」
「ああ、あれは島じゃない」
そこでジークが息を呑み、「リエット、すごい景色を見られるぞ」と言うので「?」と前方を見ていると……。
ブシュッという音と共に、クジラがいる方角から白煙のような水しぶきが立ち上る。
「ジーク、何!?」
「あれはクジラの潮吹きだ。あの巨大な生き物は僕らと同じで肺呼吸をしている。肺の中の空気を一気に吐き出しているんだ」
そこでもう一度、巨大な白い柱が立ち上る。
「吐き出して……空気を吸っているの?」
「吸っているはずだ。かなりの時間、海に潜っているが、空気が足りなくなり、浮上する。そして古い空気を肺から吐き出し、新しい空気を吸っているはず」
「なるほど。というか、どれだけの大きさなんですか!?」
「大きさか。クジラは……馬車四~五台分はあるかもしれないな」
「そんなに!?」
海はまさに神秘の世界。
しかも浅瀬にいたら、クジラの迫力ある潮吹きを間近で見ることは出来なかった。
「ジーク、ありがとうございます」
「どうした、リエット!?」
「連日、泳ぎを教えてくれたこと。ここまで泳ぐことを提案してくれたジークに……感謝の気持ちでいっぱいです。沢山感動できました!」
私の言葉にジークはまさに破顔する。
「そうか! それはよかった。リエットが感動できたなら、僕も嬉しい!」
その笑顔は陽射しを受け、キラキラと輝いて見えた。そんな笑顔のジークと、お互い立ち泳ぎをしながら、向き合った時。
「リエット」
ジークに優しく名前を呼ばれ、胸がキュンと苦しく切なく、甘くときめく。
(やっぱり、南の島で私、変な病にかかっている……!)
その病のせいなのか。
私の頬を優しく包み込むジークの手を、払いのけることが出来ない。それどころか、私は自分から顔をあげ、視線を落とし――。
「うわあああ!」
間違いなくいいムードだったのに、ジークが突然叫んだ。
「な、どうしたんですか、ジーク!」
「カニが! カニが足の指を挟んでいる! 僕の足を餌と間違えたのか!?」
ヤシガニに続きジークは……カニになぜだか因縁があるようだ。
「ふうーっ、ようやく外すことができた。……リエット、さっきの続きを!」
「ジーク、もう疲れたので、浜に戻りたいです」
「え! 続きは……」
「喉も乾いたし、戻りましょう、ジーク!」
「えええっ!」
静かな波音を立てる南の島の海で、ジークの情けない叫び声が響き渡った。
お読みいただき、ありがとうございます!
残業の後にラーメン食べながらの更新でした~(笑)
さてさて。明日のお昼から本編の更新が再開です~☆彡
クリスマスに向かう物語が始まります!
読者様が読みたかったあのカップルが登場しますよ~
お楽しみに♪
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