未練
未練があり、こうやって私の夢にジークは現れた。
(きっと思い残したことをやり切らないと、天国にも地獄にも行けないのかもしれない)
そう思った私はジークの未練を昇華させる手伝いをしようと心に誓う。
(これは夢であり、今、目の前にいるジークはゴーストであり、本物ではない。そうだとしても……何かしないと気持ちが収まらない)
「……ジーク、よく分かりました。あなたは……本当によく頑張ったと思います。大勢が救われたのは、ジークのおかげです。ジークが連行されていなかったら、カタコンベに足を踏み入れようなんて……誰も思わなかったでしょう。なにせ地下の迷宮で地図もないのだから……。でも今回みんながジークを助けようとして、カタコンベへ向かったのです……。……。……」
言葉が出なかった。
カタコンベへみんなが向かい、そこで帰らぬ人となったジークと対面することになったのだ。
「リエットに褒められるなんて……なんだか落ち着かないな。これ、何かの罠……なんてことは……」
「罠ではありません。本当に心からジークの労をねぎらっています」
「そ、そうか」
「何を望みますか?」
「?」
「ジークはこれだけのことをしたのです。どんな願いでも叶えます。ミラーの長官になりたい? それともこの国の王になりたい? なんでも私が叶えます」
私の発言を聞いたジークは目をキョトンとさせ、ビックリしている。
(こんなジークの表情が見られるなんて……。自分の夢ながら素晴らしいと思うわ)
ジークは私を自身の腕の中に抱き寄せたまま、キラキラとした笑顔になる。
「別に長官にも国王にもなれなくてもいい。もしもリエットが願いを叶えてくれると言うのなら……これ一択だろう」
「何ですか? 舶来品のスイーツでも異国の食べ物でも。どんなものでも取り揃えますよ」
何せ私の夢の中なのだ。思うがまま。自由自在だ。
「リエットは、魔法の力でも手に入れたか!?」
「そうなのかもしれません」
「なるほど。……でも魔法の力なんていらないさ。僕の願いは単純だから」
「……せっかくなので、大きな夢を語っていいですよ。すべて私が叶えます」
これを聞いたジークは「そりゃすごい」と笑った後、急に真面目な表情になる。
「僕の願いはただ一つだ」
「……謙虚ですね」
「うーん、そう言われるとな。でも……うん。今、こうやって考えても、やっぱりこれだけだ」
「いいですよ。後から増えても。対応できると思うので」
「……リエット、その言葉に二言はないのか?」
「ありません。ジークにはちゃんと昇天して欲しいですから」
「えっ……」
ジークは何だか急に顔を赤くして「いや、それは嬉しいけど……」「ダメだ、ダメ!」と一人でブツブツ言っている。
(……未練たらたらね。願いを叶えたぐらいで、あの世に行けるのかしら……)
そこで「こほん」と咳払いをしたジークは神妙な面持ちで告げる。
「昇天できるのは嬉しいが、今ではないと思う。それは……もう少し後の話だ」
それを聞いた私は困ってしまう。
(まだまだ旅立つ準備ができていない、ということ?)
そう思ってしまったが、すぐに思い直す。
(でも……それは……仕方ないのかもしれない。あまりにも急逝だった。それに「もう少し後」と言っているのだから、いつかは旅立つということ。しばらくは夢に現れるジークの相手をしてあげよう)
以前の私だったら、到底許容できないことも、今は違う。ジークへの手向けの気持ちで、全てを許す境地になっていた。
「それでジーク、願いは?」
問われたジークは頬をポッと赤くする。
(そうやって無言で顔を赤くしていたら、可愛いと思えるのに……)
一度視線を伏せたジークだが、意を決したようで顔を上げる。
「願いは一つだよ、リエット。僕はリエットのことが好きだ。だからリエットのことが欲しい」
真摯な表情で告げるジークを見て、私は驚愕することになる。
(私は……私は……なんてことを……! これでは死者への冒涜だわ! いくら何でも殉死したジークにこんな願い事を言わせるなんて……)
私が「わかった」と答えれば、この夢は叶う。
(こんなチープ過ぎる願いをジークに強要してしまうなんて! いくら私の夢でもヒドイわ!)
申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
(ダメね。この夢は。ジークが可哀想すぎる)
そこで私は素直に打ち明ける。
「ジーク、ごめんなさい。この夢は……最低のクオリティだわ。この夢からは目覚めるようにするから、次の夢に現れて。その時は自由に発言していいわ。私の夢だから、私の影響を受けやすいのかもしれない。でも本当の願いを口にしていいから」
私の言葉を聞いたジークは「えっ……」と絶句し、そして「リエット」と彼は私の名を呼ぶ。
「ここは夢ではなく現実だし、たとえリエットの夢に僕が登場する機会があっても……。間違いなく、同じことを言うと思う。僕が心から欲しいと願うのは、リエットだけだ」
そう告げるジークを見て、気づいてしまう。
(……待って。グリーンティーを勧められた夢でジークは、バターブロンドの髪をしていた。でも闇カジノ摘発のため、髪をダークブラウンに染めていたはず。そして目の前のジークの髪は……ダークブラウン……)
もうその瞬間に走った衝撃は、言葉に出来ない。
「リエット、約束したよな、さっき? 女に二言はないのだろう? 僕の夢を叶えてくれる。ならばもう、これでいい。婚約なんてまどろっこしいことはいらない。もう結婚式でいいだろう。結婚しよう、リエット!」
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わーヾ(≧▽≦)ノ















