え、まさか……
ミノタウロスみたいな大男を倒した後、私は全身の力が抜けたようで、その場にへたれこむことになった。
(ダメ、動いて、私! 敵を倒したけど、それは一時的なもの。激痛が収まったら、また動き出す。完全に気絶させないと。それにジークを連れて帰らないといけない。ここはカタコンベだけど、ジークにはちゃんとしたお墓を用意してあげないと、恨まれる!)
そこで何とか四つん這いから立ち上がろうとした時。
足首を掴む者がいる。
(え、まさか……)
振り返ると、ミノタウロスみたいな大男の憤怒に満ちた瞳と目が合う。
そこで感じたのは明確な「死」。
(ダメだったの!? もう回復したの!?)
掴まれた足首に力が入り、骨を砕かれると思った時。
「いたぞ!」
「ここだ!」
「攻撃、開始!」
ロイドや他の諜報員、大勢の足音が迫り、ミノタウロスみたいな大男は私の足首から手を離す。そのまますぐそばに落ちている棍棒を、大男は拾おうと立ち上がったが……。
ビュン。
ビュン、ビュン、ビュン、ビュン……。
無数の矢が、雨のようにミノタウロスみたいな大男に降り注ぐ。
いくらこの大男の皮膚がぶ厚くても、ドラゴンの逆鱗のように弱い場所もある。
地面に落ちている矢も沢山あった。だがいくつかの矢は大男の皮膚の薄い場所を直撃している。その一つには口もあったようだ。
ミノタウロスみたいな大男は声をあげることもなく、今度こそ崩れ落ちる。
「オルリック嬢、大丈夫ですか!」
ロイドが私に駆け寄る。
「ミノタウロスは……」
「ミノタウロス? ああ、確かに。角の生えた獣の頭蓋骨を被っていますね」
ロイドは私を立ち上がらせながら、地面に倒れ、呻くミノタウロスみたいな大男を一瞥する。
「矢じりに強い薬が塗りこめられています。猛獣を眠らせるための薬です。これだけの数の矢を受けたのですから、もう動けませんよ。大丈夫です」
それを聞いてようやく安堵するが、すぐにハッとしてロイドを見る。
「ジークが……」
「! ジーク副長官はどちらに? 見つけられたのですか!?」
そこで私は牢屋を指さす。
ロイドは私が指さす方向を見て「!」となる。
「気絶しているんですか!? まったく、ジーク副長官は……いつもはみんなの大ピンチに颯爽と登場して、敵をあっという間に殲滅してくれるんですよ。それなのによりよってオルリック嬢がこんな大男と対峙している時に、気絶しているなんて……!」
憤慨するロイドを見て、私の瞳に一度は引っ込んだ涙がぶわっと溢れる。
「……です」
「? 何ですか、オルリック嬢?」
「……違うんです!」
「違う……? 何が……」
「ジークは……ジークは……」
ボロボロと涙が頬を伝い、嗚咽する私を見て、ロイドの顔が強張る。
「へ……まさか、そんな」
ロイドが声を震わせ、牢屋へと近づく。
他のメンバーはミノタウロスみたいな大男を拘束し、私が倒した用心棒を確保している。そして戦闘中に私が落とした牢屋の鍵束に気づいた諜報員が「ここに囚われている人たちを解放しろ!」と叫んでいた。
そんなみんなの動きを遠くに感じながら、ロイドと私はジークが横たわる地下牢の中へ足を踏み入れる。
「……嘘ですよね、ジーク副長官! あなたいつもここぞというところに登場し、女性諜報員のハートを鷲掴みじゃないですか! 今日はどうしたんですか? もう見せ場はないですよ。もしかして不貞腐れているんですか? 起きてくださいよ!」
ロイドがジークの両肩を掴み、力強くゆする。簡易ベッドから床に伸びた腕がだらん、だらんと激しく揺れた。
「な……、そんな、ジーク副長官!?」
ロイドがさらに強くその体をゆらすが、ジークが「おいおい、やり過ぎだよ、ロイド!」と声をあげることはない。
「副長官、起きてくださいよ!」
叫びながらロイドがジークの鼻や口に手をあてるのを見ていると……。
視界がぐにゃりと歪む。
涙で……にじんでいるわけではない。
(そういえば私、ちゃんと呼吸を……)
「オルリック嬢!」
お読みいただき、ありがとうございます!
オルリック嬢、めっちゃ強くなっていました~
よく頑張った☆彡















