表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
【おまけの物語】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

150/194

とっておき

 ミノタウロス。


 それはこの大陸に伝わる半人半牛の怪物だ。神話にも登場している。牛の頭部に人間の体を持ち、凶暴で人間を喰らうと言われていた。


 かつて本当に存在したのか。その真実はわからない。でも今、突然現れた人物はミノタウロスに見えてしまう。その理由は……。


 闇の中から突然現れたその人物は、処刑人のように頭に頭巾……ではなく、角の生えた獣の頭蓋骨を被っていた。そして腰布を巻き、上半身は裸なのだ。ゆえにミノタウロスのように見えていたのだ。


(しかも手に持っているのは……棍棒だわ……)


 その棍棒を持つ手は、前腕と上腕が同じぐらい太い。肩も大きく盛り上がり、胸板もぶ厚かった。


(ようは筋骨隆々。もしあの棍棒をまともにくらうことになったら……皮膚は裂け、肉片が飛び散り、骨は砕け、臓器が破壊される)


 絶対に棍棒の一撃は受けられない。防御に徹し、攻撃するなら……。


 咆哮にも近い雄叫びをあげると、ミノタウロスみたいな大男がこちらへ突進してくる。


(考えている時間もないわ!)


 それにその姿を見ただけで、腰が抜けそうだった。さらに突進に合わせ、地面が揺れているようにも感じる。


(まさに牡牛のような重量級、ただ、動きは……遅い!)


 ブンという風を切る音がして、棍棒が振り下ろされる。その軌道は目で捉えることができ、回避は可能だ。


(攻撃は回避できる。でも逃げてばかりで、持久戦にもつれ込んだら()が悪い。向こうのスタミナは底なしに思える。ジークの言う通り、私はそこまでの体力がない。動きが鈍ったところで一撃をくらえばジ・エンドになる)


 ならば狙うはアキレス腱。動きを封じたい。


 そこでナイフを太腿のホルスターから取り出し、敵の背後に回り込む。私からするとかなりの大男なので、ナイフを持つ腕の位置を調整すれば、足首を狙える。


(よし。いける!)


 動き出そうとしたまさにその瞬間。


「うおおおおおっっっ」


 獣のような咆哮は、ただそれだけで戦意を喪失させられそうになる。それに本能で恐怖を感じ、動きが鈍った結果……。


(歯が立たない!?)


 攻撃はヒットしているのに、サーカスで見たゾウの皮膚のように、ナイフを弾かれたように感じる。


「……っ!」


 ビュンと風圧を感じ、頭部ギリギリに棍棒が振り下ろされたことを悟り、冷水を浴びたような心地になる。だがそこで固まっている暇はない。棍棒を振り下ろし、振りあげる――その動きは連続で何度も繰り返されていた。しかもそこに疲れは感じられない。


 ブン、ビュン、ブワンと振り下ろされる棍棒の勢いと速度。


(先程からずっと変わっていないわ!)


 焦りを覚えそうになるが、それをなんとかこらえて考える。ナイフでの攻撃が通らないなら、打撃……。警棒でアキレス腱を何度も狙い、動きを封じるしかない。


(一度や二度の打撃では意味がないと思う。めげずに当てて行くしかない)


 そして実際、一度目の攻撃ではまるで岩を叩いたかのような衝撃を受ける。つまり加えた打撃の分だけ、自分の腕が受けるダメージも半端なかった。


「うおおおおおっっっ」


 ミノタウロスみたいな大男も、さすがに私が動きを封じるため、足首を狙っていることに気づいた。自身の背後に私が回り込まないよう、動きに変化をつけてきた。


(足首への攻撃ができないっ!)


 そこですかさずブワンと棍棒が振り下ろされる。


「!」


 なんとか避けることになった。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 気づけば私は肩を上下させ、荒い呼吸を繰り返している。


(悔しいけど、ジークが言うことは本当だった。私は……スタミナが全然足りていない。実戦では体力がとにかく必要なのは事実。もっと……ジークの言う通り……)


 そこで視界がぼやけ、自分の瞳に涙が溢れていることに気づく。


 ミノタウロスみたいな大男は、疲れ知らずで攻撃を続け、私はもはや回避一辺倒。攻撃ができていない。


 もしジークが気絶しているフリをしていたのなら、今の状況を見て、黙っているわけがなかった。


「リエット、下がっていろ。こういうスタミナパワー系を倒すにはコツがある。僕の戦い方を見て、まずは学習だ」


(ジークの意識があれば、絶対に助けてくれる……)


 地下牢の鍵は開いている。だが簡易ベッドに横たわったジークは……。


 腕はだらんと床に向かい下がったまま。

 その姿勢、顔の向きに変化はない。


(つまりジークは……)


「あっ……」


 予想外の方向から棍棒が振り下ろされ、咄嗟の防御で警棒を使うことになった。


 ものすごい衝撃で警棒が折れ、私の手はあんなに強く握っていたグリップを手放している。


 カラン、カラン、カラン……。


 折れた警棒とグリップが地面に落下し、乾いた音を立てる。


 腕は痺れ、感覚が麻痺していた。


 警棒はコルネ伯爵からギフト(祝福)でもあった。私にとってのお守りでもある。そのギフトは無残にも破壊され、ジークは私を助けることはない。


 兄に疎まれ、両親に見捨てられ、修道院に送りになっても。決して心が折れることはなかった。婚約式で爆弾を爆発させようとした悪党を前にしても、最後まで諦めなかったのに。


 ビュンと振り下ろされた棍棒を避けたのは、私の意志というより生命維持を願う本能の動き。だがその動きは緩慢でキレはない。


「ジーク、無理です。今の私では勝てません」

――『諦めるのか? リエットらしくないな。ネクタリンを必死に奪おうと頑張っていた、あの時のリエットはどこへ行った? 僕が見出したリエットは、そんな弱虫だったか?』

「何を勝手なことを。こんな絶体絶命の状況なのに。ジーク、助けてくれないじゃないですか!」

――『リエットはこれまでも、自分の力でピンチを切り抜けてきた。リエットには、とっておきのあの一撃があるだろう?』

「とっておき……」


 その時、振り下ろされた棍棒はもう目前だった。


 だが体は信じられないほど、なめらかに動き、そして考える前に足が動いている。


 狙うはあの一点。


 ジークには一度もヒットせず、いつも寸前でかわされていた。だがミノタウロスみたいな大男は、まさかそんな場所を狙われるとは、想像だにしていない。


 まさにノーガード。


「はあっ!」


 私からの渾身の一撃を食らうと……。


 ズドンと大きな音がして、大男の手から離れた棍棒が、地面に沈む。


「うおおおおおっっっ」


 悶絶した大男は、私に攻撃された場所を両手で押さえ、膝から崩れ落ちた。


お読みいただき、ありがとうございます!

こんな場面でタイトルにもある「とっておき」がwww

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【一番星キラリの作品を紹介】
作品数が多いため、最新作を中心にバナーを並べています(2025年12月の大掃除で・笑)。 バナーがない作品は、作者マイページタイトルで検索でご覧くださいませ☆彡

●紙書籍&電子のコミカライズ化決定●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件~辺境伯のお父様は娘が心配です~
『悪役令嬢に転生したらお父様が過保護だった件~辺境伯のお父様は娘が心配です~ 』

●これぞ究極のざまぁ!?●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢は死ぬことにした
250万PV突破『悪役令嬢は死ぬことにした』

●出版社特設サイトはコチラ●
バナークリックORタップで出版社特設ページへ
婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!
80ページが試し読みできる特設サイトへ
『婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!』


●もふもふも登場!●
バナークリックORタップで目次ページ
断罪の場で自ら婚約破棄シリーズ
『断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた』
日間恋愛異世界転ランキング3位!

●壮大なざまぁを仕掛けます!●
バナークリックORタップで目次ページ
婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした
『婚約破棄された悪役令嬢はざまぁをきっちりすることにした』

●章ごとに読み切り!●
バナークリックORタップで目次ページ
ドアマット悪役令嬢~ドン底まで落ちたらハピエンでした!~
『ドアマット悪役令嬢はざまぁと断罪回避を逆境の中、成功させる~私はいませんでした~』

●商業化決定●
バナークリックORタップで目次ページ
悪役令嬢はやられる前にやることにした
『悪役令嬢はやられる前にやることにした』

●宿敵の皇太子をベッドに押し倒し――●
バナークリックORタップで目次ページ
宿敵の純潔を奪いました
『宿敵の純潔を奪いました』

●コミカライズ化も決定●
バナークリックORタップで書報ページへ
断罪後の悪役令嬢は、冷徹な騎士団長様の溺愛に気づけない
ノベライズは発売中!電子書籍限定書き下ろし付き
『断罪後の悪役令嬢は、冷徹な騎士団長様の溺愛に気づけない』


●妹の代わりに嫁いだ私は……●
バナークリックORタップで目次ページ
私の白い結婚
『私の白い結婚』

●[四半期]推理(文芸)2位●
バナークリックORタップで目次ページ
悪女転生~父親殺しの毒殺犯にはなりません~
『悪女転生~父親殺しの毒殺犯にはなりません~』

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ