贈り物
ダイアンは持参したブドウのタルトを喜んでくれた。そして別途材料代も払うということで相談すると、私が欲しいものを作ってくれることになった。
「そういうアイデアはとっても素晴らしい! ぜひ作らせてよ! 手間賃はいらないからさ、材料の金の代金だけお願いできれば!」
そんな言葉と共に、快諾してくれたのだ。
しかもダイアン、仕事が早い!
自身の仕事を終えた後、一心不乱で作業をして、翌日には完成したものを部屋に届けてくれたのだ!
「一応、自分でも試したけど、バッチリだったよ。作ったのは私だけど、作ろうと言い出したのはコルネ嬢。しかも自分のためではない。殿下のために。本当に素晴らしいよ!」
ダイアンにそう言われると「えへへへへ」と照れ笑い。ともかくレグルス王太子殿下の役に立ちそうな物を用意出来た。
気持ちが盛り上がっているからか。明るいシトラス色のドレスを着てレグルス王太子殿下のいる執務室へ向かうことになる。
今日のレグルス王太子殿下は、濃紺のセットアップで、いつも通りのキリッと無表情。でも朝から心の声は……。
《今日の子リスのドレスは、レタスみたいな色だな。きっと青虫みたいなアレが似合いそうだ》
涼しげな表情で書類に目線を向けているのに。
(青虫? なんだか悪戯を思いついた五歳児みたいだわ)
思わず心の中でクスリと笑いつつ、声をかけることにした。
「レグルス王太子殿下、おはようございます! 今日はレタス色のドレスを着てみましたが、どうでしょう?」
ズバリ彼の心の声で、聞いたことを伝えてみた。
(ここはギクッとかしてくれるかしら?)
レグルス王太子殿下はゆっくり書類から顔をあげ、今気づいたというかのようにして、私のドレスをじっくり見る。
「レタス……よりも、もぎたてのシトラスを思わせるみずみずしい色合いです。ただ、白のレースとフリルに頼り、宝飾品が足りないですね」
「殿下、彼女は侯爵令嬢としてここにいるわけではなく、殿下の侍女ですから。余計な宝飾品はつけませんよ」
スコット筆頭補佐官、ナイスフォロー! そしてまさにその通り!
「……なるほど。そうなのか」
「そうですよ」
「あの……」
私の声に二人は黙り込み、こちらを見る。
満を持して私は持参していた箱を、執務机に座るレグルス王太子殿下のところへ持って行く。
「これは?」
「殿下の執務効率アップにつながるかと用意したものです。ぜひ受け取ってお役立てください」
「なるほど。贈り物ですか。それは受け取らないわけには行きません。ありがとうございます」
王太子という立場で、物を贈られることに慣れているのだろう。そつなく受け取ってくれる。
さらにこの世界では、受け取った物は当事者からここでは開けないでくださいと言われない限り、その場で開封がマナーだった。感謝と喜びをその場で伝えるためだ。
ということでレグルス王太子殿下も、箱につけられたリボンを外し、蓋を開ける。
「!」
相変わらずのポーカフェイス、でもその紺碧色の瞳がキラキラと輝く。
「羽根ペンだが、ペン先に付いているこれは……ゴールドですね。飾り……ではないですよね?」
「はい。そちらは王家お抱えの鍛治職人のダイアンさんに相談して作っていただきました。その金属製のペン先があることで、保持できるインクの量が増えますし、書きやすさも増します。しかも付け替えも可能にしたので、そちら以外の羽根ペンにつけることも出来ます」
《何!? 保持できるインクの量が増える!?》
「えええっ、そんなすごい物、どうしたんですか!?」
スコット筆頭補佐官が椅子から立ち上がり、レグルス王太子殿下が手にしている木箱を覗き込む。二人は「試してみましょう!」と早速、木箱から羽根ペンを取り出す。
《一体どれぐらいインクを保持できるのだ!?》
レグルス王太子殿下は、表情には何も出ていないが、心の声は興奮しまくっている!
こんなふうにレグルス王太子殿下がテンション高めになってしまうのには理由がある。
実はこの世界で使われている羽根ペン。ペン先につける金属はまだなかった。頻繁にインクをつけて使う必要があったし、目詰まりしたら切り落として使う、使えなくなったら新しい羽根ペン……という使い方が当たり前。そうなると書類仕事が多いレグルス王太子殿下が、頻繁にインクをつけることに心の中の声で愚痴ってしまうのも、仕方ない話だった。
前世で羽根ペンを持っていた私は、ペン先に金属があるのは当たり前であり、この世界では逆にないことにビックリだったのだけど。だからと言って、それでペン先の金属を作ろうとは思わなかった。前世知識を使い、この世界で無双しよう!──そんな考えを持つことはなかったのだ。でも今はレグルス王太子殿下の役に立てるなら、前世知識を役立てようという気持ちになっていた。
「これはすごいです。金属のない羽根ペンでは一度インクをつけて書けて三十文字前後。でもこの金属がつくことで、インクを付け直さずに百二十文字も書けましたよ!」
スコット筆頭補佐官が雄叫びにも近い声をあげ、レグルス王太子殿下は頰が少し赤くなっている。
「この金属のペン先を作ったのは、確かに鍛治職人です。ですがこれを作ろうと言い出したのはコルネ嬢ですよね。君は……実に素晴らしいです! スコット、君も欲しいのでは!?」
「欲しいですよ! 殿下、これを量産出来たら、我が国の事務効率は格段に上がります」
「よし。これは父上にすぐに報告だ。宰相にも同席するよう伝えるんだ」
「かしこまりました!」と、スコット筆頭補佐官はダッシュで執務室を出て行った。
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