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平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
【おまけの物語】

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とにかく前に進むのみ

 ドクドクという激しい鼓動を感じ、めまいがしそうになる。


(ミノタウロスのような男……かなりがたいもよく、屈強そうな気がする。アスリートタイプのジークとは違い、力任せの敵……)


 そこで男たちが壁のフックからロープを外していることに気がつく。


(なるほど。あそこにロープを結き、奥へ入って行くのね。帰りはそのロープを伝って戻ると。それなら迷わない)


 ロープを解くと用心棒の二人の男たちは階段を登り始めた。二人が移動するにつれ、この場所に闇が広がる。ランプの明かりが遠のいていく。


 その様子を見守りながら考える。


 私がランプとロープを手に入れた物置き。そこに今使ったロープを戻すはず。その時に気づかれるだろうか。ランプやロープ、ロウソクやマッチが減ったことに。


 もし気がつき、追いかけられたら……。


(ジークが動けたら二対ニになる。でもジークが意識のない状態なら……)


 ジークにリクルートされてから、訓練は欠かさず行なっている。それにコルネ伯爵が私のために用意してくれた武器もあるのだ。


(地上の制圧が終われば、諜報員や王都警備隊も、地下に降りてくる。そしてカタコンベに向かうことは話した。応援はそこまで待たずに来るだろうし、彼らにあの用心棒が捕らえられる可能性も高い)


 そこで靴音が聞こえなくなったので、すぐにランプに火をつける。完全に闇だったが短時間でシュミレーションを何度も行い、ロウソクの位置は把握してあった。落ち着いて行動すれば……。


 チュウ、チュウ。


(……!)


 危うくマッチを落とすところだった。


 修道院暮らしをしていなければ、盛大に悲鳴をあげ、マッチもランプも落としていただろう。


 気持ちを立て直し、ランプに火を灯すと、すぐに壁のフックにロープを結きつける。


(よし、行くわよ)


 壁際には無数の髑髏。明かりはたった一つのランプのみ。


(でもこの先のどこかにジークがいるなら……)


『見つけて連れ帰らないと。このまま放置したら化けて出て来そうだもの』


 小さく呟き、私はカタコンベへ足を踏み入れた。



 正直なところ。


 私は暗くじめじめ湿った冷たい場所なんて得意ではない。さらにいえばホラーは苦手。


 それでも。


 私を見出してくれた上官のために進むしかない。


『ここから助け出した暁には、ジークにはディナーを一年は奢ってもらわないと。割が合わないわ!』


 チュッ、チュッ。


『……!』


 突如現れるネズミには何度も悲鳴を呑み込むことになる。それに……。


 カサコソと何かが蠢く気配も感じる。

 それが何であるかは……想像してはいけない。

 とにかく前に進むのみ。


 ロープが唯一の命綱でもある。このロープが尽きない場所に、ジークがいることを願いながら進むことになった。


『っ、これは……!』


 ある程度進むと、そこはカタコンベであるが、カタコンベではないことが判明する。


(地下墓地のはずなのに! 骸骨がなくなったと思ったら、まさかの地下牢が張り巡らされているなんて……!)


 明かりなどない真っ暗闇の地下牢。中には粗末な簡易ベッドがあり、そこに寝そべっている人がいる。その多くが男性に見えたが……。


(あれは……ボロボロだけど、ドレスでは!?)


 私は意を決して地下牢の鉄格子に近づき、声をかける。


『諜報部ミラーのオルリックと申します。助けに来ました』


 ベッドに横たわる背中が見えるが、私の声に反応していない。


(……こんな状況では、生きる気力も削がれているのかもしれない)


 一体なぜ、この地下牢にいるのか。

 いくつかの考えられる理由は……。


(闇カジノで借金を作り過ぎた人では……)


 闇カジノでなくても、普通のカジノでも。

 非公式で信用貸しは行われている。

 手持ちの現金が尽きた客に、カジノが後払いを認めるというもの。


 この信用貸しが闇カジノだと、とんでもなく高額な利子がつく。貴族であっても支払い切れない利子を抱えた結果……。


(もしかするとこの地下牢に囚われ、違法な売春、人身売買、奴隷……そんなことに利用されているのでは……?)


 これは諜報部にきちんと報告した方がいい──そう思い、鉄格子のそばから離れようとした瞬間。


 ガシャンと音がして「助けて」の声に心臓が止まりそうになる。振り返りそこにいるランプで照らされた女性は……。


 眩しそうに眼を細め、手で顔を隠すようにしている。


 その姿を見て、私は息を呑む。


 ランプの乏しい光に照らされているだけでも分かる、腕や鎖骨に見える痣のような痕。


『殺して……あいつらを殺して。お父さんの借金のかたでここへ連れて来られて、娼館に売ると言われて……男慣れしていないだろうから手取り足取り教えてやるって……あいつら、許さない……』


 乱れたドレス。スカートに見える血のような痕。

 この令嬢がどんな目に遭ったのかは、聞くまでもなく、想像できてしまう。


『……わかりました。あなたの無念、はらしましょう。これから仲間がどんどんこの地下に来ます。あと少しの辛抱です』


 私の言葉を聞いた令嬢は虚ろな笑いを浮かべる。


『殺して……あいつらを殺して。お父さんの借金のかたでここへ連れて来られて、娼館に売ると言われて……男慣れしていないだろうから手取り足取り教えてやるって……あいつら、許さない……』


 先程と同じ言葉を口にする令嬢の瞳は……焦点が合っていない。


(ここは……やはりそういう場所なんだ。闇カジノに借金をした本人だけではない。家族まで犠牲に……)


 そもそも私はただの問題児で、正義感が強い人間というわけではない。

 それでも。

 この闇カジノは絶対に潰す――そう誓い、歩き出し、そして。


『ジーク……?』


お読みいただき、ありがとうございます!

今週の更新は明日朝、金曜日までお昼、そして土日は夜でございます~

そして次話、ジークを発見したあの時に戻ります……!

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