確保!
カジノが行われているフロアに戻ると、私は派手に受け取ったワインを床にぶちまける。
何事かと皆が私に注目した瞬間。
一斉に諜報部のメンバーが動き、外で待機していた王都警備隊も闇カジノに踏み込む。
そうなると客、諜報員、警備隊の隊員、用心棒、カジノのスタッフが入り乱れての、大乱闘状態になる。
逃げようとする貴族やカジノのスタッフたちを押さえ、用心棒との戦闘を行う。それは延々と続き、果てが見えないと思ったが……。
『あのシルクハットを被った男、あれが支配人です!』
私の声に、支配人のそばにいた諜報員たちが一斉に動く。
『くそっ、離せ!』
『確保! 支配人を確保!』
諜報員の怒号が飛び交う中、そばにいるスーツ姿のロイドに尋ねる。
『ひとまず作戦は完了ですか?』
『はい! 上客リストは見つけられましたか?』
『ええ、見つけられました』
『やりましたね! 新人とは思えない大活躍ぶりですよ。……ところでオルリック嬢、ジーク副長官は?』
『……イカサマなんてしていなのに、イカサマを疑われ、なぜかジークもイカサマの証拠になるようなものを持っていたようで……さらに地下へ連れて行かれたと思います』
『ええっ、そうなんですか!? 実はこのカジノの地下は、カタコンベとつながっていることが判明しました』
『……つまり地下迷宮だと?』
『はい』
カタコンベは地下に広がる共同墓地で、何百年も昔から存在している。長きに渡る利用で、縦へ横へと掘り進められた結果。もはやその規模がどれほどのものなのか。正確に把握出来ていない。通路は多方向に分岐しており、視界も狭く、薄暗く、迷いやすい。まさに地下迷宮なのだ。
『目隠しされ、放置されただけで死につながりかねません!』
ロイドの言葉にグッと奥歯を噛み締めることになる。
(あの時、ジークがどこに連行されるのか。後をつけていたら……。ちゃんと見届けていたら……)
だがそうしていたら、摘発のための突入の合図を送ることは出来なかった。
『ジーク副長官のこと、心配ですが、その前に。上客リストの場所は?』
ロイドに問われ、私はフロントにあった紙に簡易ではあるが地図を書き、それを渡すと……。
『金庫とリストはロイドさんに任せます』
『えっ! その二つが肝なんですよ。オルリック嬢も立ち会い、発見者になれば手柄は』
『手柄なんていらないです。私は……ジークを探します』
『え、まさかカタコンベに向かうんですか!?』
背後にロイドが何か言っている声を聞きながら、私はすでに走り出している。
(ジークは焼いても煮ても食えないような男。大丈夫よ。問題ない)
『あっ、オルリック嬢!』
『オルリック嬢、ジーク副長官は?』
何人もの諜報員とすれ違いながら、私はジークがカタコンベに連れて行かれた可能性を伝えながら走り抜けて行く。
そして遂に支配人室のある地下に到達し、最後にジークが連行された方へと至ることができた。
(やっぱりさらに地下につながっている……)
そこがカタコンベなら、考えなしでは向かえない。
『あれは……』
地下に向かう階段の手前に物置きのようなものがある。中を確認すると……。
『ロープに、ランプにロウソクにマッチ。カタコンベに向かうための必需品では?』
地下に降りて行くのに必要な物がちゃんと用意されていた。つまり日常的に地下へ降りているのだろう。
手早くランプにロウソクをセットしてマッチで火をつけると、ロープを肩に担ぐ。そのまま階段を降りて行くと……。
(カビ臭い。それに何というか、外の寒さとは違う、まとわりつくような冷たさがある)
そこで絨毯の敷かれた階段から、剥き出しの岩肌のような地面に到達、カツーンと靴音が響き……。
女性の悲鳴のような声が聞こえ、凍りつく。
(ち、違う。奥の方からこっちに向かってきている人間がいる!)
その話し声が岩肌に反響し、不気味な悲鳴のように聞こえただけだった。
(というか出会い頭の遭遇になるわ! 隠れてやり過ごさないと!)
そこで人一人が隠れることが出来そうな隙間を見つけ、身を寄せ、一度ランプを消すことになったが……。
叫びそうだった。
何とか呑み込んだが、目の前に薄汚れた頭蓋骨が……無数に見えたのだ。
(カタコンベは地下の共同墓地。遺骨があって当然よ。落ち着くの、私!)
込み上げる感情に目をつむり、ランプを消す。
グッと堪えていると声が聞こえてくる。
『ったく何なんだ、あの男爵は!』
『酔っ払っているし、戦闘力なんてゼロだろうに。フラフラしながらこっちの攻撃を全て避けたぞ』
『何だか掴みどころのない気味の悪い男だった』
これはジークを連行した用心棒の二人に違いない。
(こんな状況ではあるが、掴みどころのない男、これには同意できる。気味が悪いというには、ジークはハンサム過ぎると思うけど)
そんなことを考えていると、さらに男たちの声が近づく。
『まったく。奴が来なかったから、牢屋にぶち込めなかった』
『……だが、大丈夫だろうか?』
『奴に殴られ、吹き飛ばされて、派手に頭蓋骨の並ぶ壁に激突していただろう? あの後、意識を失ったままだ』
これには心臓がギクリと反応している。
(ジークが殴られ、吹き飛ばされた?)
にわかには信じられない。本当に酔っていたならわからなくもないが、ジークは酔ったふりをしていただけだ。
(用心棒が語る男は、よほど強い……?)
『まあ、奴は力の加減がきかないからな。まさにミノタウロスみたいな男だ。尋問するために捕らえた諜報員たちも、奴が誤ってやっちまったことは、一度や二度じゃないからな……』
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