本能と欲望とお酒の話
店内の明かりは抑えられ、オリエンタルな香が焚かれている。そして踊るように給仕している店員の衣装は……。
シャラン、シャランと鈴の音がするのは、店員の足首や手首についているアンクレットやブレスレットに銀製の鈴がついているから。動く度に美しい音が響く。しかも彼女たちが着ている衣装は、目が釘付けになるもの。
すでに晩秋で寒さが厳しいが、この砂漠の民族料理を出すレストランは、建物の地下にボイラー室を持ち、そこで発生した熱を配管を通じ、レストラン内を循環させていた。そのためレストランの中は温室のように温かい。
だからなのか、店員の女性は上半身は胸当てのようなものをつけ、薄いベールをまとっているだけなのだ。しかもスカートは腰の低い位置からのロングスカートなので、お腹周りに布はなく、おへそが見ている状態。胸の谷間もしっかり見えるし、体のラインが浮き彫りで、同性なのにその姿を見るとドキドキしてしまう。
「リエット! 勘違いするな。これは……もう男にとっての本能なんだ。普段見えないはずの場所に見える素肌。本能で『何事!?』と思い、見てしまうだけだ! 決して欲望と共に見ているわけではない」
着席してから、濃紺のスーツ姿のジークはそう何度も弁明するが……。
「別にジークがこのレストランの店員さんの美しさに見とれても構いません。衣装も華やかですし、思わず目がいってしまうのは仕方ないと思いますよ」
「! 違う。僕は誰かの身体がどうこうじゃなくて、ワイン色のドレスで隠れているリエットの姿を想像するだけで十分なんだ」
「……はいはい。あんまり大声で言うと誤解されますよ?」
私はスパイシーな羊肉の肉団子をジークの口に押し込み、喋りすぎを止めた。ジークは嬉しそうにそれを噛みしめ、こんなことを言う。
「嬉しいなぁ。リエットに食べさせてもらえた。今度は僕の番だ。さあ、リエット『あーん』し、うぐっ」
肉団子と一緒に登場した平焼きパンを、ジークの口に放り込む。
(ジークはいつも異国の珍しい料理のお店に連れて来てくれる。そこで出される料理はどれも初めて食べるものばかりで、美味しくて、感動してしまう。しかもとても高いが全額、ジークが出してくれるのだ。本来、文句を言える立場ではないが……。ジークの口を縫い付けておきたくなる)
そこで「あっ!」と思う。
このお店ではスパイシーな肉料理に合うと、香り爽やかな白っぽいお酒が食前酒で出されたのだ。お店のサービスで出されたもの。私はお酒を飲める年齢ではないので辞退するしかないが、せっかくなのでと一口飲んだジークは「うん。これはかなり強いな。アルコール度数は六十近くあると思う。水割りにして飲むのが正解だろうが……。僕はリエットとの食事を楽しみに来たから、お酒は飲まないよ」と言っていた。
私と食事を楽しむ。
私は別に一人で食事を楽しむでもいい。
強いて言うなら、ルイーザ様と楽しむ食事ならウエルカムだが、ジークとは……。
(飲ませよう。アルコール度数六十なら、すぐいに酔いつぶれるだろう)
そこでさりげなくこんなことを口にする。
「諜報部の一員ですと、お酒も余裕で飲めないとダメですよね。強いお酒も平気な顔でいただく。スパイが登場する演劇だとそんな演出もありますが……。実際はどうなのでしょう? ミラーの副長官は、お酒、飲めるのでしょうか?」
これを聞いたジークは「そりゃあ、そうだ。諜報部のメンバーは毒にしろ酒にしろ、耐性をつける訓練を受けている者もいる。全員がそうではないが。まあ、僕もね。副長官だから。そこはね、しっかり訓練を受けているから、問題なく飲めるよ」と余裕で応じる。
「……なるほど。ではサービスでいただいたこのお酒なんて、水のように飲み干せるわけですね」
「おっ、もしかしてリエット。僕を酔わせたいのかな? 酔った僕を押し倒したい……とか思っているのか!?」
「……! 何言ってやがるんですかね、ジーク! もしジークが酔ったらチャンス到来で、寝首を掻きますよ!」
「そうか! ということはリエットと僕は寝室にいるわけか。それは意味深だなぁ。でも婚姻前はダメだぞ、リエット。一緒の寝室が許されるのは、結婚してからだ。そこまでは我慢だ」
そう言って、あたかも恋人をたしなめるかのように、私のおでこをツンと指で押したジークに、怒り心頭の私は……。
「こら、リエット! これは僕の指だ! 骨付きチキンはこっち、噛みつくんじゃない!」
お読みいただき、ありがとうございます!
ジークとリエットのエピソードは、漫画で見たいという方はリアクション連打で(笑)















