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平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
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ド派手マゼンタ女

 バカンスシーズンも間もなく終わりというその日。コルネ伯爵は王宮のテラスで、ティータイムを楽しむことになった。用意されたスイーツは、宮廷付きのパティシエが作ったゼリーや氷菓に加え、私が薦めたパイナップルのケーキも用意されている。


 私が食べ損ねたパイナップルのケーキであるが、「香りと見た目から判断するに、絶対に美味しいと思います!」と強く推薦すると、コルネ伯爵は「オルリック嬢の意見に同意するわ。取り寄せましょう」と言ってくださったのだ。こうしてテーブルに置かれた銀の皿には、そのパイナップルケーキが、美しく盛り付けられている。


「今日の紅茶、とっても楽しみだわ」


 クリーム色のドレスを着たコルネ伯爵が、テラスへとやって来た。


「本日の紅茶は、ルベール嬢が取り寄せた舶来品だそうです。しかも本人が淹れるという念の入り用。何でも蒸らしの時間など、細かくチェックする必要があるそうです」


 コルネ伯爵に続くルイーザ様は、マンダリンオレンジの鮮やかなドレス姿。もうその姿は女王様みたいで私の胸は高鳴る。


「コルネ伯爵、ルベール嬢の紅茶が用意出来るまで、こちらのクランベリーの果実水をどうぞ」


 若草色のドレスを着たモンクレルテ嬢が、ルビー色に輝くクランベリーの果実水をのせたトレイを手に、コルネ伯爵の元へと向かう。


 テラス席は中庭に面している。その中庭には警備兵もいるが、少し距離があった。でもテラスの端には護衛を任されているクライン卿らがいる。そして私も給仕を手伝うメイドとして、この場にいた。


 私はメイドであり、諜報部ミラーの一員。


 もし彼女が武器を使い動くなら、素人である彼女に勝ち目はないと、断言出来る。なぜなら彼女が武器を使うなら、私が即動くつもりだからだ。


 私は直接的に彼女と知り合いというわけではない。よってクライン卿は一瞬怯むかもしれないが、私は躊躇しないだろう。


 即死を狙うなら、心臓を狙い短剣を投擲。この距離、この位置なら、どこにいようが命中させる自信はある。もし生きた状態で捕捉するなら、拳を使い、気絶させる。女性相手だからと、遠慮するつもりはない。


 決意を新たにしたところで、たった一人の招待客が到着する。マチルダ・エルザ・バルヴェルク。バルヴェルク伯爵家の令嬢だ。


 スコット筆頭補佐官経由で何度も「コルネ伯爵とお茶をしたい!」というゴリ押しの申し出でがあり、断り続けることも出来ず、バルヴェルク伯爵令嬢の願いが今回、実現した形だった。


 そのバルヴェル伯爵令嬢は、ティータイムのお誘いなのに、胸元がイブニングドレス並みに大きく開いた、目がチカチカしそうなマゼンタ色のド派手なドレス姿でコルネ伯爵に挨拶。そして何とも失礼な目つきでルイーザ様を見た。


 その瞬間、このド派手マゼンタ女が、ルイーザ様を嫌っていると理解できてしまう。


 諜報部は殺しのライセンスが認められている。任務の遂行で必要に応じ、敵を滅しても許されるのだ。


(敵……敵よね、あのド派手マゼンタ女。あの高慢ちきな鼻をへし折り、喉を掻き切っても許されるわよね? ダメ? ジークに怒られる?)


 私がありとあらゆるパターンの殲滅方法を想像しているとは、露にも思わないド派手マゼンタ女は、コルネ伯爵の斜め横の席に座ると、高笑いをしながらおしゃべりを続ける。


「もう来月からは秋の狩猟が始まりますね。殿下も狩りに行かれるのでしょう。コルネ伯爵も同行されないのですか」

「同行する予定ですよ。王都の北部に離宮があり、毎年そこで王室主催の狩猟大会があります。そちらに殿下と一緒に参加する予定です」


 そこでルベール嬢が、ティーセットを載せたトレンチを手にやって来た。その顔に表情はなく、もしや紅茶の淹れ方を失敗したのかと思ってしまうが……。


「紅茶、無事、淹れることが出来ました」


 ルベール嬢は淡々と報告している。


「そう。ありがとう。ではまず、私のカップに入れてくださる? お客様に出す前に、香りや味をホストの私が確認しないとね」


 コルネ伯爵の言葉に、ルベール嬢の顔は……少し強張ったように思える。


「それでしたら、わたくしが確認いたしますわ」


 ルイーザ様の言葉に、ルベール嬢は激しく首を振る。


「とても高級な茶葉なんです。量もそんなにありません。申し訳ないのですが、テレンス嬢、今回は遠慮くださりませんか?」


 表情がずっとなかったルベール嬢だが、この時ばかりは目が真剣。するとお優しいルイーザ様は……。


「まぁ、そうなんですの。でも……仕方ないですわね。毒見でも茶葉を使っている。確かにそう誰かれ飲ませてしまうと、茶葉がなくなってしまう……わかりました。ではコルネ伯爵、どうぞ」


 ルイーザ様がコルネ伯爵にティーカップを差し出す。


「コルネ伯爵。そんなに珍しい紅茶でしたら、私が味見をします!」


 ド派手マゼンタ女がティーカップがのるソーサーへ手を伸ばす。


 それを見た瞬間、私は隠し持つ短剣に手が向かいかけたが……。


「客人なら客人らしく、おとなしくなさい」


 ルイーザ様がぴしゃりとド派手マゼンタ女の手を叩く。


 これを見た私は心の中でルイーザ様に拍手喝采!


「なっ、侍女のくせに生意気な!」

「ごめんなさいね、バルヴェル伯爵令嬢。でも客人であるあなたに味見をさせることはできないわ」

「! コルネ伯爵……! 私こそ、余計なことを言いました。ど、どうぞ!」


 こうしてコルネ伯爵がソーサーを手に持ち、カップを口へと運ぶ。


 その様子を見るルベール嬢の顔面は蒼白になっている。


「どうしてあちらの侍女の方は、あんなに顔色が悪いのですか……?」


 バルヴェル伯爵令嬢が眉根を潜めた次の瞬間。


「ゴホッゴホッ」


 コルネ伯爵がむせる。


「きゃああああああ」


 バルヴェル伯爵令嬢が絶叫して立ち上がった。


「「「「「コルネ伯爵」」」」」


 ルイーザ様、モンクレルテ嬢、クライン卿ら護衛の騎士、警備兵、そして私が叫ぶ。


「いやああああ、この女、この侍女が犯人よ! コルネ伯爵の紅茶に毒を盛ったのだわ! きゃーーーーっ!」


 バルヴェル伯爵令嬢が絶叫してテラスから逃げ出す。


 ルイーザ様、モンクレルテ嬢、クライン卿ら護衛の騎士、警備兵、そして私はコルネ伯爵に駆け寄る。


 コルネ伯爵のクリーム色のドレスが赤く染まった。



お読みいただき、ありがとうございます!


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