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平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
【おまけの物語】

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どうも食べ物の話には

 ずっとずっと食べたかったネクタリンを食べることができた。


 あの香り、あの甘さ。

 あれは二週間分の頑張りに値するものだった。

 これでしばらくは朝の特訓がなくなる……なんて思ったら、そんなことはなかったのだ。


 ネクタリンをジークから奪った翌朝。

 実に爽やかな笑顔で、隊服姿のジークはメイド服を着た私に尋ねる。


「では希望通りで短剣での訓練だ。まず、長剣ではなく、短剣を武器にする理由は分かるか?」

「長剣の長さ、重量は女性には扱いにくい。訓練すれば扱えないことはないけれど、そうなるとあちこちの筋肉をつける必要がある。しかも女性が普段身に着けている衣装では、長剣の動きに適していない。振り上げ、大きく踏み込むなど、実行不可能。長剣を扱える体、服装にしたら、ただのメイドには見えなくなってしまう」

「おっ、偉いぞ、リエット。ちゃんと事前に渡した剣術書を読んだのか」


 ニコニコと満足げなジークは、私の頭に手をのせ、くっしゃっと撫でるが……。


 剣術書を渡す時、ジークはこう言ったのだ。


『これ、明日の訓練までに読んでくるように』

『えええええっ!』

『読んで内容を頭に叩き込んでおけ、リエット』


 とんでもない無茶ぶりだった。


『そんな無理ですよ……』

『そうか。ちゃんと覚えてきたら、ネクタリンを木箱いっぱいに届けるぞ』

『!』

『そのまま食べても美味しいよな。パティシエに頼んで、タルトやコンポートやジャムにしてもいい』

『……分かりましたっ! 読みます! 覚えます!』


 その結果の今だった。


「確かに剣術書を読んでいるようだが、甘いな。抜けていることがあるぞ」

「えっ……」

「長剣というのは、そもそも重装備の相手に使う武器だ。ようは甲冑や防具を身に着けている相手を突き刺し、打撃を与えるもの。だがリエットは戦場に赴くわけではない。普段の生活の中で忍び寄る敵からコルネ伯爵を護衛するんだ。諜報活動で、長剣である必要性は限りなく低い」


 これを聞いた瞬間、「あ、それは確かに三十五ページに書いてありましたね……」と唸ることになる。かつ尋ねてしまう。


「もしかしてネクタリンは……」

「問題はまだ終わっていない。この後、正解だったら約束は守る。ネクタリンはリエットのものだ」


 まだチャンスはあると分かり、私は俄然やる気になる。


「では短剣での戦い方は?」

「長剣と変わりません。刺す、突くが攻撃の基本……でも近接戦ですよね? それだったら拳の戦い(ストリートファイト)と変わらない気も……。既に私はストリートファイトは得意なので、そちらを磨いた方がいいのでは……?」

「いい質問だ。そしてそれは正解だ」

「……?」

「リエットが得意とするストリートファイトと短剣を組合わせる」


 これには「あっ!」と思わず声が出る。


「短剣のみで、ストリートファイトのみで戦う――というルールはない。いいとこどりで戦えばいい」

「なるほど」

「あとは少し難易度は上がるが、短剣での投擲も身につけろ」

「!」

「命中率の難しさ、失敗すれば武器を失う、投げたら回収できない……などの理由で短剣の投擲は向かないと思われている。だがいざという時、繰り出せる戦い方はいくつもある方がいい。敵も油断するからな」


 このジークの言葉に「なるほど」と思ってしまった私は、彼が言うことに素直に従ってしまったが……。


 この後の訓練はまさに地獄。


 ネクタリンの比ではない難易度だったのだ。


 世の中はバカンスシーズンに突入している。夜が長くなり、社交が盛んになるこの季節を、まさにみんなが謳歌していたと思う。使用人たちでさえ、仕事の後にサマーフェスティバルに繰り出しているのに。


 私は早朝と夜にひたすら……。


「あの的に短剣を命中させる。命中できたら、舶来品の珍しいスイーツを食べさせよう」

「舶来品のスイーツ……?」

「そうだ。パイナップルという南国の珍しいフルーツがある。温室でも栽培が難しいそうだ。このパイナップルが自生している国がある。そこから輸入したシロップ漬けのパイナップルを使い作られたケーキ。甘酸っぱくて大変美味だそうだ。このケーキを食べられるお店が最近王都に出来た」


 これを聞いた私は、つい訓練の手を止めてしまう。


「そうなんですか!? 侍女たちは、それぞれが仕えるあるじのために、最新スイーツ情報を手に入れるようしています。でも初めて聞きました。パイナップルなるフルーツを使ったケーキなんて」


(最新のスイーツ情報をいち早く得ることも、諜報活動の一環ということなの?)


「リエット。動きを止めるんじゃない」


 背後に回ったジークが、私の手の甲に自分の手を重ねる。そして腰に手を添えると、ぐっと手に力を入れ、私の手を後ろへと引く。


(あ……いい香り)


 ミントの爽やかな香りは、ジークがつけている香水なのだろう。


「角度はこうだ。こうすればズブリと的に刺さりやすい」

「!」


 すぐ耳元でジークの声が聞こえ、彼の息が首筋にかかる。


 その瞬間、ジークを異性として猛烈に意識してしまい……。


「こら、リエット! 勝手に短剣を投げるな」

「というかジーク、近いっ!」

「パイナップルのケーキを食べたくないのか?」

「!」


 どうも私は食べ物をちらつかされると、俄然やる気がでてしまうようで……。


 ガータから三本目の短剣を取り外すと――。


 ビュンという風を切る音に続き、短くズサッという音が響く。


「やったぁ! 刺さった!」


 私は飛び上がって喜び、ジークは「……まさか本当にやり遂げるとは」と目を大きく見開き、「よくやった、リエット!」と、盛大なハグをした。


お読みいただき、ありがとうございます!

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