はい、隙あり
「もう、二人とも! 無茶をしてはいけないわ!」
婚約式を終え、無事、宮殿に戻って来たコルネ伯爵。この後行われる公式行事は宮廷晩餐会となる。その開催までの時間は、着替えとわずかな休憩時間だ。
そこに顔を出したのが、私とルベール嬢だった。
既に馬車の中で私とルベール嬢に起きた出来事を聞いていたコルネ伯爵。部屋を訪ねた私とルベール嬢を見ると……。
ソファから立ち上がって駆け寄るなり、コルネ伯爵が、私とルベール嬢のことを抱きしめたのだ!
「さっきまで玉ねぎを刻んでいたので、匂いますよ?」
「オルリック嬢、今は匂いなんて考える必要はないです。本当に体は大丈夫なのですか!? 首を絞められたのですよね!?」
「そこは本当に不覚でした。師匠からは、いざという時、急所を狙えと言われていたのに。甘かったです」
正直、私に大きな怪我はない。首に扼痕が残っているが、寝て起きたら声は出るようになった。
腕の切り傷や全身の打ち身なんて、問題児の私にはよくあること。よってひと眠りした後は、メイド長にも長時間の休憩をお詫びして、仕事に復帰させてもらっていた。
(無茶というほどのことをしたつもりはない。無茶をしたと言えば、それはルーベル嬢だと思う!)
そこで私は尋ねる。
「ナイフで刺されたのですよね!? 今、ここにいて大丈夫なのですか?」
私が問うと、ルーベル嬢は「刺さるというほど、刺さったわけではないですから、大丈夫ですよ」と笑う。
「もうっ、二人とも笑いごとじゃないわ! ルーベル嬢は絶対安静にしてください! 今すぐ部屋に戻って休むのよ。そしてオルリック嬢も今日は早めにあがるようにして。メイド長には話をつけておきます!」
コルネ伯爵は、いつものほんわかな優しさは封印。私とルーベル嬢から、反論を受け付けるつもりはないようだ。ここは素直に従うしかないだろう。
「分かりました、コルネ伯爵」と私。
「でもこの後の宮廷晩餐会の支度は……」とルーベル嬢は食い下がる。
すると……。
「ルーベル嬢!」
「は、はいっ、テレンス嬢!」
「コルネ伯爵は、あなたに休むようにと言っているのよ。それが理解できないのかしら? これは相談ではなく、『命令』です。主の命令には?」
「絶対に従うであります、テレンス嬢!」
「よろしいですわ。ではコルネ伯爵に挨拶し、退出なさい」
「イエス、サー!」
ルーベル嬢はコルネ伯爵に深々と挨拶をし、退出する。
この様子を見た私は……。
「やっぱり私、もっと働きたいです!」
ルイーザ様に叱られたい!
「絶対に従うであります、ルイーザ様!」と私も言いたい!
その一心で前言撤回をしてみた。すると……。
「どうしてわかってくれないのかしら? 私はみんなのことを心配しているのよ。使用人のコントロールもちゃんとできないなんて。私、主失格ね……」
コルネ伯爵が大変悲しそうな顔をした瞬間。
ものすごい殺気を感じる。
ハッとしてルイーザ様を見ると、ストロベリーブロンドが逆立ち、蛇の髪を持つ古の怪物メデューサのように見えてしまう。
(し、しまった! ルイーザ様が本気で怒っている……!)
「コルネ伯爵、私、今日はもう休むことにします。部屋に戻って大人しくしていますね。絶対に無茶はしません!」
もうここは脱兎のごとく勢いで退出。
ルイーザ様にかまってほしい気持ちはある。
(でも本気で怒られるのはいや!)
ということで部屋を飛び出し、そこでまさに出会い頭で誰かとぶつかってしまう。
「ふわぁ、申し訳ありません!」
ぶつかった相手はかなり体躯がいい人間のようだ。思わず吹き飛ばされそうになるが、すぐに足に力を込め、踏ん張る。
(やはり師匠に鍛えてもらって良かった!)
「なるほど。これなら敵の一人を倒してもおかしくない。素晴らしい体幹だ」
声の主を見て、ドキッとする。
髪はバターブロンドだが、きっとかつらを外したのか、つけたのか。でも瞳は赤銅色。そしてこの瞳を私は知っている。
(私を追いかけてきた爆破事件の悪党三人のうちの一人! 私を残し、逃げ去り、まさか宮殿内に侵入したの!? そうか。死人に口なしにするつもりね!)
そうはさせない。こんなところまで侵入したのはスパイとして優秀なのだろう。だがスパイとは諜報活動に長けていても、武力優れているとは限らない。それに私は失敗から学習した。武器を常に携帯する必要性を学んだのだ。
そこで私はまずキックを繰り出す。
メイド服はスカートがふんわりと広がっているため、可動域が広い。
「おい、君!」
男は咄嗟に両腕を顔の前でクロスして、私のキックを見事に避ける。
(避けられても構わない。このキックは目くらまし。なぜなら……)
キックで足を振り上げ、スカートがはだけたその時。太腿のガーターにつけていたナイフを手に取ったのだ。
「うん!? いつの間にナイフを!?」
「ここで会ったが運の尽き! あの場で逃げたくせに、こんなところまで忍ぶなんて! 逃げられるなんて思うんじゃないわよ!」
ナイフの扱いに慣れているわけではない。それでも戦闘本能があったのか、私はビュン、ビュンとナイフを振り回し、男と間合いを詰める。
「お、おい、何事だ!?」
警備兵はビックリして遠巻きで見ているだけで、私に加勢してはくれない。
(もしかして周囲は全員、敵なの!?)
驚愕した瞬間。
「はい、隙あり」
男の腕の中に抱き寄せられ、ナイフを持った手首を掴みあげられている。
「ジークフリート卿、申し訳ありません! 彼女は宮殿付きのメイドで、本日の爆破事件で奮闘した者です。決して悪人ではないことを、私が保証します!」
顔面蒼白のメイド長がこちらへと駆けて来る。
(ジークフリート卿……? ということは騎士?)
そこでハッとして彼の服を見る。
(……うん? 見慣れない隊服ね)
「勇敢なメイドさん。君の活躍を僕はよ~く知っている。挨拶がまだだったね。僕はエドワード・ジークフリート。皆、ジークと呼んでいる。レグルス王太子殿下直属の諜報部ミラーの副長官だ。爆破犯の潜入捜査中に、君とは遭遇したね。見事な戦いぶりだった。以後、お見知りおきを」
美しいバターブロンドを揺らし、赤銅色の瞳を細め、白い歯を見せてジークが微笑んだ。
お読みいただき、ありがとうございます!
戦えるメイドのオルリック嬢が再び帰ってきました☆彡
明日は夜更新、20時頃公開予定です!
そして!
なんと!
明日から新作がスタートします~
悪役令嬢もの、コメディです!
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