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平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
【おまけの物語】

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集中!

 レグルス王太子殿下との婚約式。

 それは……いろいろな意味で精神力が試された。


 神力のせいで殿下の心が読めてしまう。


 それは便利なようで、不便だった。


 特に今日の殿下は……。


《アンジェリカの姿が見たい。なぜ一緒の馬車で大聖堂へ向かうのがダメなんだ? どうしてスコットと一緒の馬車なんだ……。わたしはアンジェリカと一緒がいいのに》


 大聖堂へ向かう馬車は伝統に則り、殿下と私は別々になる。そのことに事前に同意していたはずなのに。いざエントランスに到着し、馬車に乗り込む間際にレグルス王太子殿下が小学生みたいな我が儘を心の中でぼやく。しかし表向きはあくまで完璧王太子。


「分かりました。では大聖堂に到着しても、アンジェリカをエスコートせず、先に中へ入るのですね。未婚の男女は行動を別々にする。それが王家の伝統です。異論などありません。ではわたしは馬車に乗ります」


 侍従長に素直にそう告げて、馬車に乗り込む。

 でも心の声は……。


《絶対に法律を変えよう。未婚の男女でも馬車に同乗するぐらい許すべきだ。例えばオペラを観劇し、気持ちが盛り上がっている時。別々の馬車で帰り、感想すら話し合えない。そんなの理不尽だ。多くの貴族が同意するはず》


 もうこんな感じでわちゃわちゃと私と一緒の馬車ではないこと、控え室が別々なことに、可愛い文句を並べている。


 でもそれもこれも距離ができると聞こえなくなってしまう。


 普通にそばにいないと、レグルス王太子殿下の言葉は聞こえてこないのだ。


(聞こえないと聞こえないで、何だか寂しいわ。だって控え室で今も『アンジェリカのそばにいたい。なぜ別室で各自待機なのだ』と拗ねているはずよ)


 レグルス王太子殿下は頭脳明晰、容姿端麗、運動神経抜群で、剣術の腕はソードマスターと変わらないと言われている。そして私以外の前では無表情であり、不正を許さず、ズバズバ指摘することから氷の王太子と評されているのだ。


 そんな彼から漏れ出る愛らしい心の声。それはもう聞いているだけでキュンキュンしてしまう。


 そのキュンキュンがなくなると、なんだか物足りない……。足りない。足りないと言えば。


「テレンス嬢」

「はい、何でしょうか、コルネ伯爵」

「ルベール嬢はどうしたのかしら? ガーベラの花を受け取っていたでしょう? まだ戻らないの?」

「そ、それは」

「それはですね、コルネ伯爵。ルベール嬢は子ども好きだったみたいです!」


 テレンス嬢の代わりのように、モンクレルテ嬢が応える。そしてラベンダーティーをのせたトレイを手に、私が座るソファのそばに立つ。


「子ども好きだった……?」

「そうなんです。あの幼い少女と意気投合し、お腹を空かせていると分かり、今、別室で一緒にお菓子を食べているのです!」


 モンクレルテ嬢はそう言いながら、ソファの前のローテーブルに、ラベンダーティーの入っているカップを置く。


「そうなのね。知らなかったわ、そんな子ども好きだったなんて。……別にここでみんなで一緒にお茶をするのでもいいのに」

「それはダメですわよ、コルネ伯爵」


 テレンス嬢が両手を腰に当て、私を見る。


「婚約式がスタートする前に、コルネ伯爵に挨拶をしたいという方は大勢いたのです。でもそれを受けていたら、いつまで経っても婚約式を始めることができません。そこで all or nothingで決断されましたよね。婚約式が始まる前には誰もお会いにならないと。コルネ伯爵のご家族でさえ、会うことができず、既に聖堂内のお席に着席し、お待ちになっているのです。それなのに平民の少女と会っていたなんて。皆さん、ヤキモチを焼きますわよ」


 これを言われてしまうと「そうね」と諦めるしかない。


 ただ……気になることはある。


「あの幼い少女、とっても必死そうだったのよ。私にあの花を渡せないと、まるでこの世界が終わるみたいな表情に見えて……だからこそ、ルールを破って受け取りたくなってしまったの。……でも大丈夫なのよね? ルベール嬢と笑顔でお菓子を食べているのよね?」

「ええ、安心してください、コルネ伯爵。二人は別室で寛いでいます」


 そこでテレンス嬢は、慈しみのある表情で私を見る。


「コルネ伯爵はいつも下々の者のことを気にかけてくださいます。それはとても有難いこと。ですが今日だけは。ご自身とレグルス王太子殿下のことだけ考え、あとのことは我々に任せてください。この大聖堂にはリーヴィエル侍女長もいらっしゃいます。マルグリット夫人は宮廷晩餐会のために、一足先に宮殿へ戻りましたが、コルネ伯爵を支える万全の体制を組んでいます。よって、ここは大船に乗ったつもりで、ドンと構えてください」


 これまで第二王女殿下、レグルス王太子殿下に仕え、二人の気持ちに先回りするように動いていた。それは王太子の婚約者となっても、なかなか抜けてくれない。どうしてもいろいろと気を配ってしまうし、みなの癖を覚えてしまっている。


 何か心配なことがある時。テレンス嬢は袖口に手で触れることが多い。そうすると気持ちが落ち着くと習慣化されているのだろう。モンクレルテ嬢の場合。不安があるとつけているネックレスに触れる。おそらく宥め行動の一つだと思う。


 二人とも今日は婚約式に同行するので、朝から落ち着かない様子だった。でも今は朝以上に何か気になることがある。でもそれを私に報告しないということは……。


(婚約式に集中して欲しいと思っているのね)


 でも二人がそう思う理由はよく分かってしまう。


 東にはハーン帝国、西にはアトリア王国がある――そう昔から言われている。それだけアトリア王国は大陸で注目されている国だった。


 その国の王太子の婚約式。各国から王侯貴族、大使が参席している。彼らは祭壇に続くレッドカーペットの左右に設けられた階段状の座先に着席し、今日の婚約式を見守るのだ。


(結婚式ではないから、祭壇脇から入場となる。それでも大勢の注目が集まるのよ。ヘマは絶対にできない。だからこそ、余計なことに私が煩わされず、婚約式に集中して欲しいと思っているのよ)


 それはレグルス王太子殿下も同じだと思う。


 なまじ彼の心を読めてしまうから、今日は朝から私のそばにいる時は、クスリと笑える声を聞かせてくれている。


(でもこういう日を狙って悪者は暗躍するはず。レグルス王太子殿下には、いろいろなことが報告されていると思う。彼は幼い頃から公的行事の際に、そういった報告を受けることに慣れている。でも私はこんな大規模な行事は初めて。心配をかけないよう、あえて私といる時は、可愛い心の声を聞かせてくれていると思うの)


 みんながそうやって私を守ろうとしてくれているなら、それに応えるべきだ。


(そう、私は婚約式に集中!)


 私が気合を入れ、ラベンダーティーを飲み終えた時、扉がノックされる。


「コルネ伯爵、お時間です」


 リーヴィエル侍女長が厳かに告げた。


お読みいただき、ありがとうございます!

わちゃわちゃ考える殿下がツボです(笑)

明日からお昼更新です~♪

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