この国の未来
「……最終的にお前さんを助けることには成功したが、合図を送るタイミングが遅れた」
まさか、それで馬車が爆破されてしまったのでは……?
心配で顔色が変わったのだろう。すぐにホワイティア医師が教えてくれる。
「居酒屋への踏み込みは計画より遅れてしまったが、無事、遂行され、一味を捕えることに成功した。だが爆弾は爆破している」
これには「……!」と凍り付く。
(この国の未来である王太子が失われた。ルイーザ様が敬愛するコルネ伯爵が、私の恩人でもある伯爵が、巻き込まれた可能性がある……)
ぶわっと瞳から涙が溢れ、こぼれ落ちて行く。声は出ないが嗚咽することになる。
「なんじゃ、なんじゃ、落ち着くんじゃ!」
ホワイティア医師がハンカチを渡してくれる。さっき目覚めた瞬間に、頬を伝う涙を押さえてくれたのは、この医師だと理解するが……。
(それよりも何よりも、自分が余計なことをしたからこんなことになったのだ!)
ホワイティア医師はむせび泣く私の背中を撫でながら、「話は最後まで聞くものじゃ」と告げる。
「爆弾は敢えて爆破させたのだ。敵の目的は、爆弾を爆破させ、馬車の中にいるはずの殿下、あわよくばその婚約者を害することだった。それが成功したと思えば、隙ができる。実際、爆破の瞬間に雄叫びを上げたり、口笛を鳴らしたり。自分たちが犯人であると明かすような行動をとっている。ゆえに現場にいた悪党も全員捕らえることに成功した。内通者の局長も捕らえられ、全員、宮殿の地下牢に連行済みじゃ」
つまりは悪党は一網打尽にできたことになる。
(それは喜ばしいこと。でもその陰で、殿下と伯爵が犠牲になったと思うと……)
犯人の局長を殺す。
私はベッドから起き上がり、室内に何か武器がないかと探す。
「これ! 怪我人が、勝手にうろうろするでない」
お爺さん医師であると侮ってしまうが、やはり力があり、私は担ぎ上げられ、あっという間にベッドへ戻されてしまう。
そこで理解する。
(このホワイティア医師は武術に覚えがあり――だと。私に訓練をつけてくれた傭兵と同じような筋肉の付き方をしている!)
私と目が合うと、ホワイティア医師はニコッと笑う。
「若い頃は衛生兵として従軍していたこともある。それに医者というのは自分が健康ではないと、患者の示しにならん。よって今も鍛えているのじゃ」
そこでホワイティア医師は、ベッドの脇のサイドテーブルに置かれたカラフェを手に取り、グラスに水を注ぐとと、私に渡してくれる。口をパクパクさせ「ありがとうございます」と声にならない声で伝え、水を一口を飲む。
(水は味がしない。でもこれが水だと分かる。……生きているんだ)
私は生き残ってしまった。でもお二人は……。
「爆弾は鉱山の採掘で使うような、非常に威力のあるものじゃった」
「!」
「その衝撃で大地が揺れ、驚いて脚立から落ちた人。転倒したり、尻餅をついたり。軽傷ではあるが、数名の怪我人が出ている。だがそれだけじゃ。死者はいない。悪巧みは成功しなかったのじゃよ」
これにはホワイティア医師を尋ねるようにガン見してしまう。
しばし見つめ合う形になり、ホワイティア医師は「……何じゃ?」と首を傾げる。
そこでダメ元で「殿下と伯爵は無事ですか!?」と口をパクパクさせ尋ねると……。
「ああ、レグルス王太子殿下とコルネ伯爵じゃな。二人とも無事じゃ。そもそも北門から出た馬車は、敵の目を欺くためのもの。馬車の中は無人、御者も訓練された騎士で、怪我もない。そして殿下と伯爵は既に東門から別の馬車で大聖堂に向かった後じゃった」
ようやく聞きたかった言葉を耳にして、今度の私は嬉し泣きとなる。
「泣くので大忙しじゃのう。まさに今、婚約式の最中じゃろう。そんなに婚約式へ顔を出したかったのか? じゃが国賓も多く、大聖堂はそこまで席数がない。護衛の騎士も大勢配備されるからな。わしもそうじゃが、多くの使用人が留守番じゃ。そこは仕方あるまい」
ホワイティア医師は、私が婚約式を見れないので泣いていると思ったようだ。
(そもそもメイドは全員お留守番だ。メイド長だってしかり。ゆえに参列できないからと、泣くわけがないのに! しっかりしているけれど、どこか抜けていて、憎めないお爺さん医師ね……)
そんなことを思いつつ、婚約式がつつがなく進行しているなら、今頃きっとルイーザ様は号泣しているに違いない。
「さて。お前さんが目覚めたなら、メイド長に報告する必要がある。報告すればメイド長がすっ飛んでくるだろう。心配している他のメイドもやってくるじゃろうな。他にも宮殿では留守番している者が大勢いる。もうみんなを呼んでいいか? それとも散々泣いたんじゃ。ひと眠りするか?」
ホワイティア医師の言葉を聞いた瞬間。
全身から力が抜ける。
問題児でストリートファイトが出来ても、所詮は男爵令嬢。体力がそうあるわけではない。
「……休んでもいいのでしょうか」と目でホワイティア医師に問い掛ける。
「うん。休め、休め。コルネ伯爵にはまだお前さんが倒れたことは伝わっていない。心優しい伯爵のこと。お前さんが悪事に気づき、何とかしようと奮闘し、倒れたと知ったら……。婚約式を延期すると言い出しかねない。つまり今、一休みし、目覚めたら……いろいろと大変じゃ。休めるうちに休むがいい」
(コルネ伯爵が私のために婚約式を延期をする!?)
まさかと思う反面、もしかしたらと思えてしまう。
(ルイーザ様がコルネ伯爵に惚れ込んでしまった理由。よく分かった気がする)
そこで私はベッドに身を横たえる。
すると瞼は自然に閉じ――。
安堵を感じ、眠りに落ちて行った。
お読みいただき、ありがとうございます!
問題児だったオルリック嬢でしたが、この話を読んで彼女を応援したくなった方は……指のリアクションでお知らせくださいませ☆彡
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