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平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
【おまけの物語】

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負けない!

(ルイーザ様と子羊のカツレツのお店に行くって決めたのよ! 宮殿のメイドとして、コルネ伯爵に推薦してもらい、まだ働き始めて一カ月も経っていない。私、まだまだこれから頑張る必要があるの! ここでくたばっている場合じゃない!)


 目の前に迫る拳をギリギリで除け、逆に相手の顎に一撃を加える。

 男は一瞬白目をむき、そのまま気絶した。

 敵にダメージはあるが、こちらの拳、腕にも激痛が走る。


「なんなんだ、この女!? ただのメイドではないのか!? もしかしていずれかの国のスパイか!?」

「スパイならアトリア王国と敵対しているはず。なお、スパイのお嬢さん、見逃してくれよ。お前さんがどこの国のスパイかは分からないが、間違いなく、国益になるはずだ」

「おあいにく様! 私は生粋のアトリア王国人で、スパイではなく、ただのメイド! ただね、問題児として知られて、腕に覚えはある。暴れるには自分も強くないとダメだからね!」


 二人の男は「チッ」と舌打ちをする。


 私は……男爵令嬢で問題児であり、両親から修道院に送られた。幼い頃から問題児になるために、傭兵上がりの屋敷の使用人にストリートファイトを習っていたのだ。


 令嬢でストリートファイトを習っている者なんて、そうはいない。そして当然、使用人は戦闘要員ではなかった。私が暴れて敵う者はいなかったのだ。


 よって修道院の最後の大暴れでも私は無双だった。


 だが……。


 大の男を三人、一人は沈めたが、あと二人。

 倒し切ることはできるのか。


「ここでもたついている場合じゃねぇ。仕方ない。やるか」


 男の一人がナイフを取り出した。


 これには心臓がドキッと大きく鼓動する。


 あのシャボン玉での事故以降、私のそばからはナイフが遠ざけられていた。本当は帯剣ができないので、ナイフで戦う術は覚えておきたかったが……。


(結局、私は拳での戦い方しか覚えていない)


「死ね、この(あま)!」


 こうなると迫るナイフを避けるしかない。


「!」


 ナイフを避けていると、もう一人の男はこの場から立ち去ろうとしている。


(このままでは大変なことになる! 今日はレグルス王太子殿下とコルネ伯爵の婚約式。レグルス王太子殿下が乗る馬車が通過する時に、爆弾を爆発させるなんて、絶対にさせてはいけない!)


 ◇


 私はメイド長の指示で、街の食料品店に買い出しに急遽向かうことになった。


 事の発端は一人のメイドの何気ない発言。


「今日はレグルス王太子殿下とコルネ伯爵の婚約式でしょう。大聖堂で行われる式は二時間、完全な締め切りなんだそうよ。出入りは禁止。こういう時は、銀杏のオイル漬けよね。東方では花嫁に銀杏を食べさせるそうよ。銀杏は頻尿にきくのだとか。結婚式は長時間かかるわよね。それに衣装が大変で、レストルームになかなか行けない。そう言った場合に備えるために、花嫁に食べさせると聞いたわ」


 これを使用人が大勢利用する朝の食堂で口にしたことで、聞いていた侍女たちが「銀杏のオイル漬けを食べたい!」となったのだ。


 でも銀杏のオイル漬けは常備しているような食品ではない。でも侍女たちは完全締め切りの婚約式に備え、銀杏のオイル漬けを欲し、厨房に詰めかけた。そこでメイド長が私に「今すぐ、ありったけの銀杏のオイル漬けを買ってくるように!」と命じたのだ。


 宮殿を馬車で出発したが、婚約式に合わせ、通行規制が既に始まっていた。


(こうなると馬車で移動するより、徒歩の方が早いわ!)


 私は馬車を下り、麻袋のザックを肩からかけ、食料品店へ向かう。その時、すれ違った深緑色のフード付きマントを被った男たち。彼らは街中にいる警備兵の目を気にしているように思えた。


(何だか怪しい……)


 婚約式に備え、三週間前から街中の警備レベルは厳重になっている。そのおかげでコソ泥や万引き、密売人から政治犯まで、ありとあらゆる犯罪者が検挙され、街中はとても平和になっていた。


(それなのに、あの男たちは……)


 気になった私は男たちの後をつけることにしたのだ。そして彼らが場末の一軒の居酒屋へと入っていくの確認。裏口に回ると、どうやらまだ営業時間ではなく、厨房には人がいない。しかも裏口の鍵は簡単に開けることができたのだ。


 抜き足差し足、忍び足で建物内に入り、中の様子を窺う。


「本当に、王太子とその婚約者が通るのは、そのルートなんだな?」

「ああ、今朝、最終確認が行われた。そのルートで間違いない。警備兵はあちこちに配備されている。それに皆、正門から二人を乗せたそれぞれの馬車が出てくると思っているが、違う。大聖堂からは一番遠い北門から馬車が出発すると、協力者の     氏から情報提供されている」

「そうか。北のエリアは警備兵も少ない。ゆえにそのルートで向かうとは誰も思わないだろう。王太子は何度も暗殺者に狙われている。裏をかくつもりだろうが、内通者がいたらそれも意味がない」

「その通りだ。爆弾は既にそのルート沿いの廃屋に隠してある。爆破させれば、馬車は巻き込まれるはずだ。第一目標はレグルス王太子。婚約者の馬車も巻き込まれたら、ラッキーぐらいに思おう」


 声を潜めているので、肝心の黒幕の名は聞こえなかったが、どうやらここにいる男たちは、レグルス王太子殿下の暗殺を目論んでいる。


(これは急ぎ宮殿へ戻り、報告しなければならない!)


 私が宮殿でメイドとして働けるようになったのは、ルイーザ様から私のことを聞いたコルネ伯爵のおかげだった。コルネ伯爵には恩もあるし、そのコルネ伯爵の婚約者である殿下もしかり、だ。


 何よりもルイーザ様はコルネ伯爵を大切に思っているのだ。ルイーザ様の大切な方は、私にとっても大事な人であることに、変わりはない。


 急ぎ裏口から出て、宮殿へ戻ろと思ったが……。

 その裏口を出たところで、三人の男と出会う。

 街中で見かけた怪しい男たちと同じ、深緑色のフード付きマントを被った男だった。


「……お前、何者だ?」

「ああ、あたしはこの居酒屋の娘だよ。秘密の会合中なんだろう? あたしは何も知らない。邪魔をしないため、出て行くところだよ」


 そう言って堂々と裏口から出て歩き出す。

 心臓はバクバク言っているが、表向きは実に落ち着いた状態で歩き出すと――。


「おい、ここの居酒屋、娘なんていたか?」

「……いや、息子しかいなかったはずだ」


 背後から聞こえる声に「バレた!」と思い、私は駆け出す。


 外出に備え、ヒールがほとんどない木靴を履いてきたから、問題なく走ることはできている。


 だがすぐに男たちが「待て!」と追って来た。


 こうして男たちから追われることになり――。


「よし! 右に曲がったな。その先は行き止まりだ!」


 慣れていない街中の裏路地。行き止まりに向かってしまい、私は三人の男相手にストリートファイトになった。一人を気絶させたが、残った二人のうちの一人がナイフを取り出し、もう一人は仲間の方へ戻って行く。


「おっと、お嬢ちゃん。綺麗な顔に傷がつくところだったな? それにさっきより動きに切れがない。腕に覚えがあるようだが、所詮は宮殿勤めのメイドだ。一人をノックアウトしたところは褒めてやるよ。だがもうここまでだ」


 男はニヤリと笑い、ナイフを構え直す。


 さっきの応酬でナイフは左腕をかすめ、皮膚が切り裂かれ、血が流れ出していた。


 傷は痛む。でも今はそれよりも――。


(負けない。絶対に! こいつらの悪巧みをコルネ伯爵に知らせないと!)


「ほら、お終いだ!」


 突進してくる男を避ける。そして――。


「なっ!」


 カランと音を立てて、ナイフが路地に転がる。


「お、お前……!」

「足を使っちゃいけないというルールはないでしょう?」


 かかと落としで男の手から武器を奪うことに成功した。


(子どものころから問題児なのよ、こっちは! 大人になり、悪事に加担したあんたらとは違う!)


「くそ、貴様っ!」


 男は武器を奪われ、頭のネジが外れたのか。いきなり私に突進してきた。


 予想外の行動に、そのまま男ともみ合いになり、路地の上に倒れこむ。


 その後は、攻撃を避けつつ、二人で路地を転がる。


(まずい。体格では私の方が劣る。立ち上がらないと!)


 一瞬出来た隙をつき、男に背を向け、起き上がろうとすると――。


「させるか!」


 男が私の襟首を思いっきり後ろから掴む。


「!」


 そのまま私の背中から馬乗りになると、男が首に腕を回す。


「この(あま)、手間をかけやがって!」


 男の腕に力がこもり、首で止まった血流で、頭が爆発しそうになる。


(ダメ、諦めちゃ! ルイーザさ……)


 それから一時間後。

 宮殿の北門から少し離れた場所で爆発が起きる。


 黒煙と白煙が、初夏の青空に不穏に広がった。




お読みいただき、ありがとうございます!

めっちゃ長文回ですがまだ終わらず!

続きます、明日の更新をお待ちください!!!!!

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