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平凡な侍女の私、なぜか完璧王太子のとっておき!  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中
【おまけの物語】

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殿下と僕とボルチモア先生(2)

(まさか監視対象であるテレンス嬢のことを好きになってしまうなんて……!)


 不覚、というしかない。


 だがテレンス嬢はとても魅力的な人間だった。

 リーヴィエル侍女長から聞いたルベール嬢とテレンス嬢の事の顛末。なんというか男気があるというか、潔いというか……。


 ルベール嬢は自身の持つ不満を八つ当たりする相手にテレンス嬢を選んだ。そんな我が儘自己中女など、無視すればいいのに。テレンス嬢はその寛容さで、ルベール嬢から不満をすべて吐き出させ、改心させてしまったのだ。


 テレンス嬢は元公爵令嬢。


 他人の心の機微より、自らが第一でもおかしくない。八つ当たりするルベール嬢のことを徹底的に舌戦で追い詰めることも、テレンス嬢なら出来たと思う。


(だが、そうはしなかったんだ、テレンス嬢は)


 もうこの時点で僕はハートを鷲掴みにされてしまい、以後は彼女の一挙手一投足が愛おしくてならない。監視を続けても僕が思うのは……。


(今日の昼休憩は十分しかなかったではないか! リーヴィエル侍女長も容赦ない。昼ぐらい休ませてあげればいいものを……。あれではいつまで経っても体型は戻らないぞ)


 テレンス嬢が痩せていること。


 そこが気になってしまった僕は、匿名で彼女に差し入れを届けさせるようになった。


「スコット筆頭補佐官、お任せください! テレンス嬢はコルネ伯爵付きの侍女です。それにテレンス嬢は立派ですよ。元公爵令嬢なのに、料理人にもパティシエにも敬意を払って下さるんですよ。顔を合わせる度に『いつも美味しいお料理、ありがとうござますわ』って。父親が父親だった。娘も高慢ちきかと思ったら……。彼女が痩せていることは、自分も気になっていました。夜食に丁度いい物を毎晩用意しますよ!」


 料理人からこの言葉を聞いた時、我がことのように誇らしくなっていた。


 罪人の娘が、特に元公爵令嬢が、こんなふうに平民から評価されるなんて……。


(過去にコルネ嬢のことを工場に呼び出すなんてこともしたが、冷静に分析すると、それは二人きりでゆっくり話すためだった。そこに運悪く、ハンス一家の雇った傭兵が登場することになったが……。コルネ嬢とテレンス嬢。この二人だったら邪魔が入らずじっくり話すことができたら、その場で意気投合していたかもしれないのだ)


 それにHate the sin, love the sinner.(罪を憎み、人を愛せ)という教えもある。


 こうして差し入れを始め、テレンス嬢が少しずつ、かつての体型を取り戻す姿を見るにつけ、僕の想いは募るばかり。


「はぁ……」

「スコット筆頭補佐官、どうされましたか? どこか体調に問題でも?」


 深酒はしないが、一杯なら飲むようになったボルチモア医師につきあってもらい、僕の部屋でワインを飲んでいた。そこで漏れたのは僕のため息だ。


 テレンス嬢に片想いをしていること。


 それは僕の胸に秘めておくつもりだった。だがボルチモア医師はレグルス王太子殿下を共に支える戦友であり、コルネ嬢を尊敬する仲間のようなもの。つい、赤裸々に気持ちを打ち明けてしまった。


(ワインの酔いで、気持ちが大きくなっていたというのもあった)


「……なるほど。スコット筆頭補佐官のテレンス嬢への気持ち、否定するつもりはありません。なぜなら使用人たちのテレンス嬢の評判はとてもいいんですよ」


 これを言われるとやはり嬉しくなる。


「彼女は元公爵令嬢なだけあり、とても礼儀正しい。ちょっとした挨拶一つとっても洗練されている。貴族令嬢から心のこもった『ありがとう』なんてそうは出ない。でもテレンス嬢は当たり前のように『ありがとうございます』が言えるんです。みんなそれだけで、彼女に一目置くようになる。元は貴族の頂点にいた。そこから父親の悪事で転落し、修道院送りになった。今は侍女として懸命に頑張っている。逆境にめげない彼女を自然と応援したくなります」


 この賞賛の言葉に僕は一瞬不安になる。


(まさか、ボルチモア先生はテレンス嬢のことが……)


 そこで白ワインを一口飲み、ボルチモア医師は付け加える。


「僕にはダイアンという婚約者がいますからね。心から愛する相手はダイアンだけです。ただテレンス嬢は、人として好ましく感じています。恋愛感情抜きで」

「そうですか」

「それでスコット筆頭補佐官とテレンス嬢が結ばれることを考えてみたのですが」

「ぼ、僕とテレンス嬢が、む、む、むす、むすっ」

「落ち着いてください、スコット筆頭補佐官」


 ボルチモア医師はそう言うと僕のグラスにワインを注いでくれる。


「スコット筆頭補佐官は子爵家の次男で、テレンス嬢は元公爵令嬢で平民ですよね」

「……あ」


 最も初歩的なことを忘れていた。


 この国では、というか、この大陸の多くの国が、貴族の婚姻には国王や皇帝の許可を必要としていた。有力貴族同士の婚姻は国内のパワーバランスを崩す可能性があるし、勝手に他国の力のある貴族と結婚されては困る。


「基本的に貴族が貴族であるために、平民との結婚は……回避されますよね。許可もおりないと」


 ボルチモア医師の言葉に僕は愕然とすることになる。

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