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令和3年2月18日(木)「次代の魔王」島田琥珀

「この時期、仲が良いアピールが大事やって先輩に言われたんよ」


 ここ数日休み時間のたびに隣りの2組の教室に顔を出している。

 ほのかはそんなわたしをからかうが、いつももっと遠い5組まで通う彼女に言われる筋合いはない。

 部活中はマシになったが、彼女は相変わらず忠犬のようにあかりにべったりだ。


「そういうのってあるんだろうね」と自分の席に座る藤花ちゃんは朱雀ちゃんたちの方を見ながら頷いた。


 彼女と同じグループである朱雀ちゃんとその幼なじみの千種ちゃんや、ももちとその親友は1年2年と同じクラスだ。

 クラス替えの際はそういう友人関係も考慮されるだろうと須賀先輩から教えてもらったが、先輩自身その恩恵を受けた身だ。


「3年生は修学旅行もあるし、仲の良い子と同じクラスがええよね」


 そう言って笑顔を向けると、藤花ちゃんも微笑んでくれた。

 顔の作りはわたしとは大違いで、小顔だし鼻筋はスッとしているし目元もパッチリしている。

 言っても仕方がないとはいえ、どうしてこうも差があるのか。

 ほのかを見てもそれを感じるが、藤花ちゃんはそこに儚げな雰囲気が加わり、守ってあげないとと思わせるものがあった。

 顔をほころばせた彼女の姿は稀少なので光り輝いて見える。


「娘を嫁に出す父親の感じ?」とニヤニヤしながら朱雀ちゃんが近づいてきた。


「必ず幸せにします」と笑って答えると、「だってさ」と彼女は藤花ちゃんに声を掛けた。


 照れたように顔を赤らめる藤花ちゃんも貴重だ。

 目の保養と思いながら観察していると、わたしの視線に気づいた彼女がわずかに眉を寄せた。


「ごめん、ごめん。別にからかっている訳やないんやで」とすぐに謝る。


「これじゃあ可愛い女の子にちょっかいを出す男子みたいだな」と朱雀ちゃんも素直に詫びた。


「ところで、何か用なん?」とわたしは話題を切り換える。


 からかうためだけにうちらの至福の時間の邪魔はしないだろう。

 わたしの発言に朱雀ちゃんは真顔に戻り「もうすぐ卒業式じゃない」と話を切り出した。


「ダンス部はイベントがあるけど、手芸部も何かできないかなあって思って」


 卒業生の中には元部員やお世話になった先輩がいる。

 そういう人たちにはちゃんとお礼を伝える予定だそうだが、部として卒業生全体にエールを送るようなことができないか考えているらしい。


「去年は卒業生のみで卒業式が行われたけど、当時の3年生とは接点がほとんどなかったから特に気にならなかったんだよね。今年は知っている人が結構いるから、下級生も参加できて本当に良かったよ」


 朱雀ちゃんの言葉にわたしも同感だ。

 ダンス部の先輩たちには多くのものを与えてもらった。

 その旅立ちの場である卒業式にはわたしも思い入れが募っていた。

 ダンス部は在校生の代表として、ダンスを踊って卒業を祝う機会が与えられている。

 とても光栄なことだ。

 そして、そこまでメインでなくても何らかの形でそこに参加したいという朱雀ちゃんの思いは共感できた。


「ほんまやね。でも、何をするん? いまからでも間に合うん?」


 わたしがそう尋ねると朱雀ちゃんは胸を張って「実は準備はしているんだ」と答えた。

 生徒会から予算を分捕って、布製のマスクケースを自作して卒業生に配るそうだ。

 最近生徒会長の七海ちゃんが忙しそうだったのはこのせいだったかもしれない。

 朱雀ちゃんの行動力と周囲を巻き込む力はたいしたものだが、巻き込まれる方は大変だ。


「作る方は問題ないんだけど、どう渡すかで悩んでいるんだよね」


「普通に渡すんやとあかんの?」


「マスクの時の教訓で、単に配るだけだと有り難みを感じてもらえないんだよ」


 そう言うと朱雀ちゃんは難しい顔をして腕を組んだ。

 手芸部は昨年の一斉休校時に全校生徒に自作したマスクを配布した。

 最初に手渡ししたものは非常に喜んでもらえたのに、先生を通じて配ったものはそういう手応えがなかったようだ。

 1年生の新入部員が入らなかったのもそれが敗因だと分析していた。


「確かに作った人の顔が見えないと粗品をもらったみたいやんなあ」


「ほんと、それ。マスクにメイド・イン・手芸部ってデカデカと描いておけば良かったよ」


「いや、そんなダサいマスクやと誰も使わへんやろ」


 朱雀ちゃんのボケにわたしがツッコむと、彼女は「そこで」と指を立てた。

 考えているところと言いつつ、すでにアイディアがあるようだ。


「ダンス部に協力して欲しいかなって」


「うちらに配れって?」と聞くと「配る人が少ないと密になるし時間も掛かるよね。ダンス部の可愛い子たちに応援されながら配られたら印象に残るかなって」と朱雀ちゃんは答えた。


「ダンスの練習もあるからなあ……」と渋ると、「ももちゃんに聞いたよ。卒業式で踊るのは半数程度だって」と彼女は抜かりがない。


 さらに「いまのままだと、ちーちゃんや藤花ちゃんに前面に立ってもらうことになるから……」とわたしの弱点まで突いてきた。

 藤花ちゃんは手芸部員ではないが朱雀ちゃんたちにはお世話になっているので手伝ってくれと頼まれたら断れない。

 わたしは藤花ちゃんの顔を見てから「前向きに考えるわ」と答えた。


「ごめんね」とわたしと朱雀ちゃんとの会話を聞いていた藤花ちゃんが謝った。


「藤花ちゃんが謝ることやあらへん」


「そう、そう」とわたしの尻馬に乗った朱雀ちゃんは「生徒会、手芸部、ダンス部プラス有志による正式なお仕事だから、藤花ちゃんは大手を振って琥珀ちゃんとイチャイチャしていいからね」と付け足した。


 どうやらダンス部と手芸部のパイプ役を担うことになるようだ。

 藤花ちゃんは初めて知らされたようで目を白黒させつつも「頑張るね」と気合を込めている。

 わたしは完全に朱雀ちゃんの掌の上で踊らされた感じだが、こうなれば藤花ちゃんを支えるだけだ。


「朱雀ちゃんって勇者より魔王の方が似合っているんやない?」


 わたしの発言に突如現れた千種ちゃんが「すーちゃんは勇者にして魔王の弟子。いつか真の魔王になるために力を貯めているの」と呟いた。

 藤花ちゃんが「女神様を救い出すために魔王を倒すのではないの?」と尋ねると、「すーちゃんは魔王と女神様が築いた世界に新たに君臨するの」と即座に答える。


「つまり、日野先輩卒業後は朱雀ちゃんがこの学校の裏ボスってことやね?」


 千種ちゃんがコクリと頷いた。

 朱雀ちゃんは呆れた顔をして立っている。

 見た目はごく普通で、風格も貫禄もまったくないが、彼女の行動力がずば抜けていることは間違いない。

 ファッションショーを成功させたのは彼女の力だ。


 ……久藤さんに支配されるよりはずっと良いし、ダンス部も朱雀ちゃんとは友好的な関係を保っている。


 それもいいかとわたしはニッコリ笑った。




††††† 登場人物紹介 †††††


島田琥珀・・・2年1組。学級委員。ダンス部副部長。藤花との距離を接近中。


黒松藤花・・・2年2組。妹のことがいちばんという美少女。趣味は妹に聞かせるためのお話作り。


原田朱雀・・・2年2組。手芸部部長。部室である家庭科室で日夜アイディアを練っているイメージ。たいていはくだらないことを考えているだけだが……。


鳥居千種・・・2年2組。手芸部副部長。朱雀の幼なじみでブレーキ役。しかし、ブレーキを掛けるより背中を押すことが多いという噂も。


本田桃子・・・2年2組。ダンス部ではももちと呼ばれている。クラスでは朱雀グループの一員。千種によると、四天王のひとりで、ほかは藤花、光月、まつり。


秋田ほのか・・・2年1組。ダンス部副部長。可愛い顔立ちだがいつも怒った顔をしているので人気はあまりない。休み時間はいつも5組にいる。


田中七海・・・2年1組。生徒会長。もしかすると不幸属性を持っているかもしれない。


久藤亜砂美・・・2年1組。生徒会役員。琥珀の天敵。藤花とも繋がりがある。

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