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令和3年1月30日(土)「美少年対策」辻あかり

「だいたい男なんて碌なものじゃないわよ」


 この1週間耳にたこができるくらい聞いた言葉をほのかが繰り返す。

 今日は朝からふたりで自主練を続けているが、もう10回は聞いたんじゃないか。


「すぐちょっかいをかけてくるし、からかってくるし、ホント最低な存在なんだから」


 しかめっ面でそう語るほのかは女のあたしから見ても美少女だ。

 小学生の男子が彼女にそういった態度を取ってしまうのは仕方がなかったのだろう。

 高学年になったあたりから口で言い負かすようになり、男子から避けられるようになったと彼女は誇らしげに言葉を続けた。


 あたしは男子にそういう態度を取られたことはほとんどなかった。

 だからか、いまも相手の性別に関わりなく普通に話す。

 クラスの女子が恋バナで盛り上がっているのを見ても、あたしはピンと来なかった。


「だから、新入部員が可愛いからって気を許したらダメよ!」


 このいつもの締めの言葉に「はいはい」とあたしは応じる。

 恋愛に疎いあたしでも、好きな人ができた途端それ以外目に入らなくなる友だちはいて、寂しい思いをしたことがあるからだ。


「あたしのいちばんはほのかだから、大丈夫だよ」と宥めるとしばらくはおとなしくなるが、ものの5分もしないうちに表情を曇らせる。


 昨日の練習にダンス部初となる男子の新入部員が見学にやって来た。

 男子が入部すると発表した時は微妙な反応だったのに、彼の顔を見るやいなや部員の間からは黄色い歓声が上がっていた。

 その気持ちはあたしにも理解できる。

 サラサラな髪は肩まで達し、肌はそこらの女子よりもきめ細かい。

 目もパッチリ二重で、幼さが残る印象だった。

 身長は低く、ダンス部の中でもかなり小柄な方だろう。

 部長として真っ先に挨拶をしたが、彼は声変わりの前で本当に男の子かと思ってしまった。


 ほのかはその時のあたしの顔が赤く染まっていたと言って不安がっている。

 綺麗なものを見て感動した時のような気持ちだと言ったのに分かってもらえなかった。


「だいたいさ、あたしがあんな美少年とつき合うなんて釣り合いが取れてないじゃない。ほのかならありかなって思うけど」


 あたしの発言にほのかは「男には興味がない」と吐き捨てるように言った。

 彼女の男性不信は深刻なようだ。


「でも、彼ならほのかをからかったりはしないと思うよ」と言うと、ほのかは興味がなさそうにそっぽを向いた。


 とはいえ、ほのかに本気で彼とつき合うなんて言い出されても困る。

 それ以上勧めるのを止め、現実の問題に頭を切り替える。


「ほのかが部内での異性恋愛禁止と宣言してくれたけど、いろいろ起きそうだよね」


 昨日は練習中も彼に視線を送る部員が少なからずいた。

 先が思いやられる事態だ。


「色ボケは片っ端から退部させればいいのよ」


 ほのかは相変わらず過激なことを言う。

 言った当人が一時期周囲から色ボケと見られていたことは綺麗さっぱり忘れたようだ。


「禁止だって言われても、そういう感情は自分じゃどうしようもできないって聞くしね」


 そう言ってあたしは自分の頭をポリポリかいた。

 もしかしたらダンス部始まって以来最大の危機かもしれない。

 だが、この手のことには鈍いと自覚があるので、どんな手を打っていいかまったく分からなかった。


「あんなに可愛いんだからつき合っている子とかいないのかな」と思いつきを口に出す。


「いたら噂になっているんじゃない?」


「そうだよね」と答えたあたしは、「つき合っている人がいるってことにしたらどうかな。それも相手は逆らえない人――ほのかみたいな」と言ってほのかの顔を窺う。


 名案を思いついたと思ったのに、ほのかは「嫌よ」と即答する。

 あたしは「フリだけだから」とお願いしても、「死んでも嫌」と相手にされなかった。


「良いアイディアだと思ったのに」


「他の人にお願いしたら? 私は嫌だからね」


 ほかと言ってもこんなことを頼めるとしたら琥珀くらいしか思い浮かばない。

 ダメ元でと思いながら彼女にメッセージを送ってみた。


 午後になり3回くらいほのかを宥めたあと、琥珀から返事が来た。

 いかにも呆れたという顔文字を添えて『うまくいく訳ないやん』と書かれていた。


『なんで?』とひと言送ると、『バレバレやん。異性恋愛を禁止って言ったそばから副部長が新入部員とつき合い始めるとかないわ』と理由が返って来た。


 言われてみればその通りだ。

 事前に手を打っておくべきだったのかもしれない。

 顧問の岡部先生が前もって知らせてくれたのに、その機会をふいにしてしまった。


『でも、何か対策は必要だよね?』


『そうやなあ。本人も交えて考えた方がええかもしれへんな』


 本来はプライベートの問題だ。

 あたしたちだけで勝手に決められることではない。

 しかし、そのためには横であたしのスマホを睨みつけるように覗き込んでいる少女を納得させる必要があった。


「あたしが好きなのはほのかだけだって。信じてよ」


「ドラマでもそんなことを言う人に限って裏切るのよね」


「どうすれば信じてくれる?」


 そう言ってあたしが詰め寄るとほのかは頬に手を当て考え込む。

 もう一押しと思い「あたしにできることなら何でもするから」と迫る。


「何でも?」とほのかは期待を込めた目でこちらを見た。


「何でも」とあたしは力強く頷く。


「分かった。信じる。でも、私がいないところで絶対に会わないこと。もし約束を破ったり裏切ったりしたら、あかりの大事なものをもらうからね」


 あたしが「大事なもの?」と聞き返すと、彼女は顔を赤く染めて「大事なものは大事なものよ!」と要領を得ない回答をした。

 よく分からないが、約束を守りさえすれば問題ないはずだ。


「ほのかを悲しませはしないから」


 ほのかがあたしの胸に飛び込んできた。

 あたしは彼女の背中に手を回してギュッと抱き締める。

 これでほのかの不安は消え去るものだとあたしは信じていた。




††††† 登場人物紹介 †††††


辻あかり・・・中学2年生。ダンス部部長。ほのかとつき合っているが、恋人同士というより親友の延長のような感覚。


秋田ほのか・・・中学2年生。ダンス部副部長。あかりとつき合っているが、恋人以上の特別な関係だと捉えている。


島田琥珀・・・中学2年生。ダンス部副部長。あかりとほのかの友人だが、痴話げんかの仲裁は副部長の仕事ではないと思っている。

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