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令和3年1月18日(月)「生徒会初日」水島朋子

 窓から見える空は晴れ渡っているが、あたしの心はどんよりと曇っていた。

 自分で決めたことだ。

 生徒会に入るというのは。

 それなのにどこか釈然としない思いで廊下を歩いていた。


 生徒会室でほかの役員に紹介された。

 初顔合わせとなる1年生役員のふたりはどこか怯えた目であたしを見ていた。

 ウザいこと、この上ない。


「水島だ。間違っても名前で呼ばないように」


 あたしがガンを飛ばしながら自己紹介すると、小西から頭をはたかれた。

 やり返す訳にもいかず、舌打ちするだけで我慢する。

 そのあと久藤さんと小西について別室に向かう。

 生徒会室のすぐ近くの小部屋に入るとふたりは着席した。


「いつまで立っているつもり?」と久藤さんに咎められ、あたしはふたりから少し離れたところに腰掛けた。


「別に取って食ったりしないわよ」


 久藤さんは不快そうに眉根を寄せた。

 仕方なくあたしはひとつふたりに近い席に移る。


「とりあえず貴女がどれくらい仕事ができるか確認したいからこれを見て」


 彼女はプリントした紙を自分の机の上に置いた。

 座ったあたしの位置からでは届かない場所だ。

 ふたりはこちらに渡す気はないようで、受け取るために座ったばかりの席を立つ。


 会釈しながら紙を手に取り、自分の席に戻る。

 紙は小さな文字で埋め尽くされていた。

 思わず顔をしかめる。


「よく読んで問題点を指摘してもらえるかしら」


 彼女はあたしにそう言うと自分の鞄から取り出したノートを真剣な表情で見つめ始めた。

 その隣りに座る小西は久藤さんに話し掛けている。

 小声ではあるが狭く静かな室内なのでその内容は筒抜けだ。

 雰囲気は他愛のない雑談といった感じだが、かなり物騒な話題も含まれていた。

 誰が誰にヤキを入れただの、彼女の姉が男を変えただの、この界隈の不良の動向を面白おかしく語ったものだった。

 久藤さんはノートに視線を落としながら時折それに相づちを打っていた。


 あたしは言われた通りプリントに目を通す。

 スマートフォンの中学校への持ち込みについて、そのメリット・デメリットが事細かに表記されていた。

 分量が多く言葉が硬くて読むのに骨が折れる。

 ただ内容はすっきりとまとまっている感じで、分かりにくいということはなかった。


 なんとか読み通したところで「どう?」と声が掛かる。

 あたしは「持ち込み賛成派が書いたものですよね?」と回答した。


「それで?」と目を細める久藤さんに、「あー、どうなんですかね。反対派を説得するならこんな感じになるんですかね」と感想を述べた。


「見掛けの割りに仕事はできそうね」


 見掛けは余分だと思いながらもあたしは久藤さんに頭を下げる。

 一応は評価してもらえたようだ。


「ハルカは見た瞬間に読むのを止めちゃったけど」と久藤さんは小西を見て苦笑し、「読むことはできても書き手の意図まで考察できる子は少ないわ」と言葉を続けた。


 ディスられた小西はまったく気にした様子がない。

 頭を使うことは最初から放棄しているような顔だ。

 ちなみにほかの1年生役員ふたりの反応は、持ち込み賛成の立場から持論を展開するというものだったらしい。

 確かに賛成派だったらこのペーパーは心強い援軍に思えただろう。

 あたしは別にどちらでもいいと思っていたので冷静に読むことができた。


「それで成績が地を這うレベルというのはサボっているだけよね。生徒会役員は生徒の模範とならなくてはいけないそうだから、当然それなりの成績を残してもらわないと」


 突然のやぶ蛇だ。

 言葉を失ったあたしは小西に目を向けた。


「ハルカは役員じゃないから問題ないわよ」


 生徒会の仕事というとデスクワークばかりだと思っていたが、説明を聞くと力仕事などもあるらしい。

 現在の生徒会は女子偏重となっているため、そのサポート要員として彼女は生徒会に協力している形なのだそうだ。

 どうせならあたしもその立場が良かった。


「1年には男子と不良っぽいのが入ったからハルカもお役御免になるわ。4月には私ともども生徒会を去るから」


 不良じゃないと訴えたいところだが、あたしがそれを気にしているから「ぽい」とつけ加えたのだろう。

 まったく嬉しくない配慮だ。


「そんな訳で、ファッションショーに関する引き継ぎは3学期のうちに済ませるわ」


 久藤さんの言葉にあたしは「はい」と頷く。

 上野が目指すファッションショーは過去のものとはかなり様変わりする予定だが、それだけに引き継げる部分はしっかり引き継いでおきたい。

 あたしも覚悟を決めた。

 ファッションショーはなんとしてでもやり遂げる。


「ハルカ、あれを渡してあげて」


 小西が手提げの紙袋を持ってあたしのところに来る。

 あたしは立ち上がり「ありがとうございます」と言って受け取った。

 ズシリと重い。


「過去2年分のファッションショーの資料よ。そうね、1週間もあれば読めるでしょ。よろしく」


 中にはぎっしりとコピー用紙が詰まっていた。

 さっきのプリントほどではないが、どれもびっしりと文字が書かれているようだ。

 とても1週間で読める量ではない。


「それと、これは今日からやってもらう生徒会の仕事ね」


 渡されたのは市内のほかの公立中学の生徒会とオンラインで連携して何かやろうという漠然とした趣旨が書かれたプリントだった。

 ざっと読んで顔を上げると、「これは1年生役員に担当してもらうことが決まったの。どう進めるかは1年生同士で決めて」と久藤さんが言った。


 あたしが呆然と立ち尽くしていると「引き継ぎはその資料を頭に叩き込んでからよ」と言われ、視線で出て行くように促された。

 お喋りの邪魔だとその目は語っている。

 小西に至ってはいまにもあたしを叩き出そうという雰囲気だ。


 あたしは「失礼します」と頭を下げ、鞄と紙袋を抱えて部屋を出る。

 寒々とした廊下で、あたしの頭の中に「前途多難」の文字が浮かんだ。


 ……上野のファッションショーに比べたらマシか。


 あたしは頭を振ると顔を上げた。

 この重い荷物の中身を彼女に届けなくては。

 他校との連携は脅しておけば自分たちでやってくれるだろう。

 あたしはこちらに集中しよう。

 生徒会室に向かうあたしの足取りは思いのほか軽かった。




††††† 登場人物紹介 †††††


水島朋子・・・中学1年生。本人は不良ではないと主張しているが周りは誰も信じていない。友人である上野が水島に生徒会に入るように勧めた。


久藤亜砂美・・・中学2年生。生徒会役員。会長選挙で落選したが現会長の要請により役員を続けている。


小西遥・・・中学2年生。亜砂美の親友。不良として有名。男子と変わらぬ体格があり、暴れ出したら男子が束になっても敵わないと言われている。


上野ほたる・・・中学1年生。美術部部長。昨秋に文化祭のファッションショーを見て来年は自分の手で開催したいと思い行動に移した。その行動力は賞賛に値するがかなりの変わり者。

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