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令和3年1月15日(金)「生徒会」水島朋子

 昼に「放課後生徒会室に来るように」と呼びつけられた。

 あたしが生徒会に入るという話は生徒会長選挙のゴタゴタでうやむやになったと思っていたのに、忘れられていなかったらしい。


 だいたいあたしが生徒会なんて柄じゃない。

 秋の文化祭で行う予定のファッションショーのために生徒会とのパイプ役が必要だと上野に言われてなんとなく引き受けてしまったが、別にあたしじゃなくてもいいはずだ。


 だから、あたしは断るつもりで生徒会室に向かった。

 非常事態宣言が出た割りにあまり変わった様子のない校内だけど、放課後は早く帰るようにとうるさいほど注意されるようになった。

 そのせいか廊下にはひと気が絶えている。

 あたしが生徒会室に行きたくなくてグズグズしていたせいでもあるのだが。


 生徒会室のドアをノックする。

 どうぞと優しそうな女性の声が聞こえたのでドアを開ける。

 部屋の中は暖かく、あたしは室内に入るとすぐにドアを閉めた。


 生徒会室にはふたりの女子生徒がいた。

 正面に座るのが現在の生徒会長だ。

 その斜め横に座っているのは昼休みにあたしに連絡をして来た生徒会役員である。

 失礼ながら貫禄は彼女の方があった。


「ご足労ありがとうございます」と生徒会長がわざわざ立ち上がって挨拶する。


「生徒会長の田中七海です」と自己紹介した彼女はドアの近くにある折りたたみのパイプ椅子を指差してそれに座るように指示した。


 長居をする気はなかったが、生徒会に入らないとだけ告げてすぐに帰るのは失礼だろう。

 それにこの暖気にもう少し浸ってから帰りたい。

 あたしは言われた通りに椅子を広げてそこに座った。


「補佐役の鈴木真央だ。よろしくな」


 運動部っぽいノリだ。

 マスクをしていなければ口元から白い歯がこぼれるような笑顔を浮かべている。

 フランクな雰囲気があり、生徒会長よりも話しやすそうに感じた。


「現在生徒会はわたしたち2名と2年の久藤さん、1年生ふたりの5名です。久藤さんのことはご存知ですよね?」


 忘れる訳がない。

 初対面の時に彼女は、自分の友人で不良として知られる小西をあたしにけしかけた。

 やり合う気はなかったが、結果的にあたしは小西に突き飛ばされた。

 それでいて自分が生徒会長になったらあたしを生徒会に迎えると断言した人物だ。


 あたしはしかめ面をしながら頷く。

 だが、生徒会長はあたしの表情を酌み取ることなく、1年生役員へと話題を変えた。

 そのふたりのことをわたしはほとんど知らなかった。


「現在は年度末や卒業式に向けた準備を進めています」と会長は生徒会の業務を説明する。


 あたしが興味のなさそうな顔をしていたからか、「ファッションショーについては年度が変わったら準備チームを作ろうって話が出てる」と鈴木さんが口を挟んだ。

 彼女に目を向けると、「早過ぎって気もするんだけどな。前回担当した久藤が早い方が良いって言ったから、まあそうなんだろう。生徒会のほかの仕事とは全然違うみたいだし」と説明した。


 なるほどと思う傍ら、もうあたしが生徒会に入ることが決まったような口振りに戸惑った。

 あたしの意思を確認する場だと思っていたのに違うみたいで焦る。


「あー、あたしは生徒会に入る気がないっていうか……」


 そう声に出すと、目の前のふたりは互いの顔を見合わせた。

 会長は困ったように眉尻を下げただけだが、もうひとりはあからさまに不快感を顔に出した。


「もっと早く言えよ」


 彼女はそう言うが、あたしがここに来てからまだそんなに時間は経っていない。

 あたしが反論する前に「生徒会長選挙から時間はあっただろ」と追い討ちを掛けられた。


「確認されなかったから……」という言い訳を「上野さんだっけ。彼女を中心にもうこの企画は動いているんだろ? 多くの人を巻き込んで。生徒会はそれをサポートするために引き継ぎとかしているし、あなたが入る前提で今後の計画を立てているんだ」と一刀両断された。


 その後も「そっちから入りたいと言い出しておいて確認してくれとか筋が違うだろ」などとぶつぶつ呟いている。

 異例の生徒会長就任となったため新体制作りに苦労したことが彼女の言葉からうかがえた。


「まあまあ」と会長が間に入って宥めてくれたが、あたしは何も言い返せない。


「友だちのために何もする気がないのか? そんな奴は生徒会に必要ない」と鈴木さんはなおも言い募る。


「あたしみたいなのが生徒会に入ったら、生徒会も困るんじゃ……」


「正式なメンバーじゃないが小西が出入りしているんだ。お前が気を使うようなことじゃねえよ」


 あたしは不良ではないが、周りからはそういう目で見られている。

 それにいつも反発していた。

 だが、いまはそれを口実に生徒会という面倒事から逃げようとしている。

 それに気づき、あたしは右手で自分の胸を押さえる。


「もう少しじっくり考えてみたら?」と会長が救いの言葉を掛けてくれた。


 あたしは頷くと「あたしに役員が務まりますか?」と不安を口にする。

 勉強ができないのに生徒会の仕事ができるのかどうか。

 それに答えたのも鈴木さんだった。


「やってもないのに分かる訳ないじゃんか」


「真央」と会長が発言者を窘める。


「前の会長はもの凄く仕事ができる人だったけど、欠点もあった。いまのメンバーはもっと欠点だらけだけど、お互い補い合ってなんとかやってる。あんたひとりで全部やれなんて誰も言わないよ」


「水島さんは、上野さんの美術部やダンス部、手芸部、生徒会などイベントに関わる人たちの連絡や調整の役割を担うと聞いていました。それだってひとりでは難しければ人を増やせばいいし、ほかの仕事については様子を見ながら考えていけばいいと思います」


 ふたりの先輩を前にすると、自分がガキだと痛いほど分かる。

 会長はさらに「上野さんは――あなたのお友だちは1年生で美術部の部長を担い、ショーに向けて絵の練習に打ち込んでいると聞いています。前回のショーもいろいろ準備は大変だったようです。ほかの方法もあるかもしれませんが、生徒会に入ることがお友だちのためになるんじゃないでしょうか」と続けた。


 生徒会への呼び出しのことを上野に告げると、「そう」と素っ気なかった。

 あいつは昼休みもずっとスケッチブックに向かい絵を描き続けていた。

 愛想がないし、何を考えているかも分からない。

 変わり者でマイペース、相手にすると凄く疲れる。

 そんな変人と友だちになろうなんて思うのはあたしくらいのものだろう。


 でも、あいつといるとワクワクする。

 友だちでいることにそれ以上の理由なんていらない。


「生徒会で頑張ります。よろしくお願いします」


 あたしは胸に当てた拳をギュッと握り締めて頭を下げた。

 鈴木さん……鈴木先輩は一転して笑顔になると「しばらく久藤・小西コンビについて仕事を教われ。大変だろうけど、頑張れよ」と親指を立てる。

 あたしはわずか10秒で生徒会に入ったことを後悔するハメになってしまった。




††††† 登場人物紹介 †††††


水島朋子・・・中学1年生。不良ではないが考え方はかなり不良っぽい。上下関係を気にする方。


田中七海・・・中学2年生。生徒会長。立候補者ふたりが辞退するという異例の展開の結果お鉢が回ってきた。真面目が売り。


鈴木真央・・・中学2年生。生徒会役員。七海の親友。ソフトテニス部と兼任だったが、現在は生徒会に専念している。


上野ほたる・・・中学1年生。美術部部長。文化祭でファッションショーを見て、来年自分もやりたいと希望した。周囲を動かし実現に向けて活動している。水島の友人。


久藤亜砂美・・・中学2年生。生徒会役員。優秀だが悪い噂もついて回る。前回ファッションショーでは生徒会代表としてサポートした。


小西遥・・・中学2年生。亜砂美の親友。近隣に名の知れた不良。亜砂美につき合う形で生徒会に出入りしている。

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