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令和2年12月9日(水)「変わり者たち」矢口まつり

「諸君! 我々手芸部はクリスマスに向けて攻勢に打って出るぞ!」


 手芸部の部室となっている家庭科室で、部長の朱雀ちゃんが握り拳を自分の胸に当てて高らかに宣言した。

 彼女の話を聞いているのはわたしひとりで、千種ちゃんは手元のスマホに視線を落としたままだ。

 もうひとり手芸部には1年生が所属しているが、彼女は今日三者面談があってここには来ていない。


「何かほかにもするの?」とわたしが尋ねると、「いま考えているところ」と朱雀ちゃんは拳を自分の額に当てた。


 手芸部は文化祭でのファッションショーが終わったあと、新入部員に手芸の手ほどきをしながらクリスマス用の衣装作りをしている。

 ダンス部のクリスマスイベントで使ってもらうことになっているが、サンタ帽を三つか四つ完成できればいいところだろう。

 手芸部のアピールとしてそれだけではもの足りないと部長が考えているのは分かるが、残り日数も少ない中でいったい何ができるのか。


「何かない?」とひとりで考えつくことを諦めた朱雀ちゃんがわたしたちに尋ねた。


 わたしは思いつくはずもないので首を横に振る。

 千種ちゃんは話を聞いていないのかまったく顔を上げようとしない。


「ちーちゃんはわたしとスマホ、どっちが大事なの?」


 朱雀ちゃんの苛立ったような問い掛けに「スマホ」と千種ちゃんが即答した。

 話を聞いていない訳ではないらしい。


 朱雀ちゃんは両手を頬に当てると、「愛していると言ったじゃない」と大げさに声を張り上げる。

 千種ちゃんは一瞥もせずに「どっちも愛しているから問題ない」と問題発言で返した。

 一触即発というほどの緊迫感はないが、ここでわたしが「まあ、まあ、まあ」と割って入るまでがお約束だ。

 新入部員からは「これってネタですか?」と呆れられたほどだ。

 それくらい息が合っていると朱雀ちゃんは誇らしげな顔をしていたけど、全然褒めてはいないと思う。


 ノックの音がした。

 ドアからいちばん近くに座っているわたしが立ち上がる。

 新入部員の1年生はノックなんてせずに入って来るので来客だろう。


「はーい」と言ってドアを開けると、ふたりの女子が立っていた。


 残念ながら入部希望者ではない。

 話した記憶はないが、顔と名前は知っている存在だ。


「あ、中へどうぞ。生徒会長」


 わたしがそう言うと、恐縮した顔つきで「お邪魔します」と挨拶して彼女は家庭科室に入って来た。

 彼女といつも一緒にいる役員の子はごく普通に入ってくるので、余計に生徒会長の腰の低さが目についた。


「いらっしゃい。七海ちゃん、真央ちゃん。どうかしたの?」と部長は気さくにふたりに挨拶した。


 一方、副部長は顔を上げるとほんのわずかに会釈をした。

 就任したばかりの生徒会長は「ごめんね、部活中に」と謝ってから「時間、いいかな?」と部長に聞いた。


「ノープロブレム! どうぞ座って」と朱雀ちゃんはさっきまでわたしが座っていた席を生徒会長に勧める。


 わたしは机の上の作りかけの帽子を手早く回収し、隣りの机へと運んだ。

 わたしの手の遅さでは終業式までに間に合いそうにない。

 持って帰って自宅で頑張ろうと思いつつ、生徒会長の話に集中することにした。


 生徒会長が何から話したらいいかという顔で言葉を探していると、後ろに立つ女子が先に口を開いた。

 その堂々とした態度はどちらが生徒会長なのか分からないほどだ。


「昨日、上野って1年生が押しかけてきたんだよ。来年のファッションショーはどうなるのかって」


 その言葉を受けて生徒会長が「久藤さんからも来年に向けての準備が進んでいることは聞いているんだけど、原田さんからも聞いておきたいなって思って……」とここへ来た理由を説明した。

 ちゃんと話を聞こうとしたり、自分から出向いたりする姿勢には好感が持てる。

 なんとなく応援したくなる生徒会長だ。


「何でも聞いて!」と気安く請け負った朱雀ちゃんは、質問される前に「七海ちゃんはファッションショーに協力してくれるの?」と確認を取った。


「そのつもりだけど……。学校側の態度がどう変わるかで、どこまで力になれるかは分からないかも……」


 歯切れは悪いが、先生たちが禁止と言えば生徒会長といえども覆すことは難しい。

 朱雀ちゃんを始めそれができるんじゃないかと期待してしまう人が何人かいるが、普通の中学生にそれを求めるのは酷というものだ。


「その時は一緒に頑張ろう!」と朱雀ちゃんは至って前向きだ。


 その後生徒会長は久藤さんや上野さんから聞いたであろう内容を朱雀ちゃんの口からも丹念に聞いた。

 丁寧に相づちを打ち、疑問点はしっかり確認する。

 真面目な人となりが伝わってくるようだった。


 話が一段落したところで、ずっと生徒会長の背後に立っていた子が部長に声を掛けた。

 眉間に皺を寄せながら「あの上野ってヤツは信用できるのか?」と。


「アイツ、こっちを見るなり『おっぱい見せて』って叫んだんだ。すぐに周りの子に止められていたけど」


「大丈夫、大丈夫」と笑った朱雀ちゃんは「それで、見せてあげたの?」と興味津々な顔で尋ねた。


「なんで見せなきゃなんねーんだよ!」


「ちょっと変わっているけど、悪い子じゃないから」と宥める朱雀ちゃんに、「あれでちょっとかよ!」と彼女は納得いかない顔をする。


 部長以上の変わり者はいないと思っていたけど、世の中は広いものだ。

 光月みつきちゃんから話を聞くと、上野さんは想像を超えた変わり者だと思ってしまう。

 振り回される者同士、最近光月ちゃんと「お互い大変だね」と励まし合うことが増えてきた。


「ほたるちゃん、そういう時はうちに来ればいいのに」と言った朱雀ちゃんに「見せるのか?」と彼女は目を丸くした。


「違う、違う。怪しまれずに見る方法を伝授するだけ」


 疑わしそうな視線が彼女から投げ掛けられる。

 朱雀ちゃんは余裕の笑みを浮かべたまま言葉を続けた。


「採寸ってことにすれば簡単簡単」




††††† 登場人物紹介 †††††


矢口まつり・・・2年2組。手芸部。朱雀によって強引に入部させられたが、いまではそれをありがたく感じている。


原田朱雀・・・2年2組。手芸部部長。「わたしは普通だよ」と主張するが、それで納得する人はごくわずか。


鳥居千種・・・2年2組。手芸部副部長。あとで「勇者がそんな姑息な手を得意げに喋らない」と朱雀を窘めた。


山口光月(みつき)・・・2年2組。美術部。隠れ巨乳。


田中七海・・・2年1組。新生徒会長。前生徒会長の山田小鳩からほだされて引き受けることにした。


鈴木真央・・・2年4組。生徒会役員。七海の親友。貧乏くじを引いた七海につき合う所存。


久藤亜砂美・・・2年1組。生徒会役員。生徒会長選挙に立候補したが落選。当選者が辞退したが、彼女も繰り上げ当選を辞退した。


上野ほたる・・・中学1年生。美術部部長。水島朋子の説得によって母親の胸を観察することに納得していたが、真央の胸を見て思わず口から出た。すぐに水島に止められた。

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