令和2年11月30日(月)「変わり者の友人」黒松藤花
朝、登校するとすぐに朱雀ちゃんがわたしの前にやって来た。
このところめっきり寒くなってきたので登下校時には薄手のコートを羽織るようになった。
妹ほどではないが、わたしも病弱なので気をつけないと大変だ。
それを脱ぐ間、彼女はじっとわたしを見つめていた。
席に着いて聞く体勢を取る。
わたしの正面に朱雀ちゃん、その隣りに千種ちゃんが立っていた。
「お見合い、しない?」
朱雀ちゃんは開口一番そう言った。
突拍子もない発言をすることはよく知っているが、それでも反応できずに固まってしまう。
千種ちゃんが「断ってもいいから話だけでも聞いてあげて」とフォローを入れ、わたしはなんとか小さく頷くことができた。
「親友が欲しいって子を集めてお見合いパーティーをしようと思っているのよ。オンラインになっちゃうけど」
朱雀ちゃんの言葉に機械的に相づちを打つ。
すんなりと頭に入ってくる話ではない。
「そこで、藤花ちゃんには参加者の視点でいろいろアドバイスをして欲しいの」
「アドバイス?」と問い返すと、「うん。あ、もちろんこれだって子がいたら親友を作ってくれていいんだよ。初めてやることだからいろんな視点の意見が欲しいのよ」と彼女は答えた。
「サクラみたいな感じ」と千種ちゃんが言葉を挟む。
朱雀ちゃんは「それは人聞きが悪いよ」と抗議するが、千種ちゃんは「それぐらいの気持ちで参加してくれればいいから」と真面目な顔でわたしに言った。
そう言われても簡単に承諾できる話ではない。
わたしは曖昧な表情を浮かべてふたりにどう答えるか考え込んだ。
親友が欲しくないと言えば嘘になる。
朱雀ちゃんと千種ちゃんの仲の良い様子を見ていたら羨ましく感じることはある。
しかし、自分がそういう存在を持つことができるというイメージは湧かなかった。
わたしはひとりで過ごすことを好み、他人と関わることは苦手だ。
それなのに都合が良い時だけ親友が欲しいというのは何か違う気がした。
わたしが断る方向へ気持ちが傾きつつあることを察したのか、朱雀ちゃんはこちらに手を合わせて頼み込んできた。
誠意を見せようと「絶対に嫌な想いはさせないから」とか「何が起きても私が責任を取る」とかいった言葉を並べている。
ファッションショーの時も最後まで無理強いはしないという約束を守ってくれた。
だから断るのも悪い気がしてしまう。
そこにまつりちゃんとももちゃんが仲良く登校してきた。
このふたりは互いに助け合っている印象で、朱雀ちゃんたちとはまた違ったコンビに見える。
挨拶を交わしてから朱雀ちゃんはふたりに「お見合いパーティーをするの。女の子だけで」と説明した。
まつりちゃんは「え、え、えー!」と大げさに驚き、ももちゃんは興味深そうに朱雀ちゃんを眺めていた。
遅れて光月ちゃんも登校してきた。
眠そうに目をこすりながら「おはよう」とわたしたちに挨拶する。
「朱雀ちゃんがまた変なことを計画しているよ」とももちゃんが声を掛けたものの、光月ちゃんはあくびを噛み殺しながら「ごめん、眠くて」と興味なさそうに自分の席に着いた。
朱雀ちゃんはそれを見たあとわたしの方へ向き直り、「参加資格があるのは藤花ちゃんだけなの。お願い!」と再び手を合わせる。
親友なら別に複数人いてもいいはずだ。
そう思って「親友だよね? 恋人じゃなくて」と確認すると、「そうだよ。でも、同じようなものでしょ」と朱雀ちゃんは答えた。
わたしがその横にいる千種ちゃんの顔を見ると、親友はひとりだけだと視線で訴え掛けてきた。
そういうもの? と思わないでもないが、親友でも三角関係は収まりが悪いような気もする。
3人寄れば派閥ができると聞いたこともある。
もっと大人になれば違うのかもしれないが、独占欲や嫉妬心といったものは友だち同士でも避けられないものだ。
「ほかの参加者の当てはあるの?」というまつりちゃんの質問に朱雀ちゃんは「気合で集める」と自信満々に答えた。
わたしもまつりちゃん同様に大丈夫かという顔になるが、朱雀ちゃんと千種ちゃんはなんとかなると考えているようで表情に不安はなかった。
こういうところが行動を起こす前に諦めてしまう人とそうでない人との違いなのかもしれない。
彼女は無謀とも言える試みを類い希な行動力で達成してきた。
それによってさらに自信を増し、人を惹きつける魅力を放っている気がする。
「本当に嫌ならほかを当たるから気にしないで」と千種ちゃんがこっそりわたしに耳打ちした。
朱雀ちゃんは押しが強い。
その強引さは時に周囲を不快にさせるが、彼女の手綱をうまく握っているのが千種ちゃんだ。
このふたりの関係は千種ちゃんがサポート役に徹することで成り立っている。
互いに信頼しているからこれまでうまくやって来たのだろう。
わたしは顔を上げ、まつりちゃんと話をしている朱雀ちゃんに呼び掛けた。
ずるずると判断を引き延ばすのではなく、承諾するにせよ辞退するにせよ早く伝えた方が良いんじゃないか。
その判断材料を得るためにわたしはひとつ質問をした。
「どうして朱雀ちゃんはこのお見合いを開催しようと思ったの?」
彼女には千種ちゃんがいるから直接的なメリットはないはずだ。
誰かに頼まれたとしても、どうしてここまで積極的になれるのかわたしには分からなかった。
腕を組んでしばらく天井を見上げた朱雀ちゃんはこちらに視線を戻すと「楽しそうだなって思ったの」と微笑んだ。
さらに「人間同士だからうまくいかないことはあるよ。わたしもあった。でも、こんな風に楽しく笑い合えるような関係だって作れるよね。親友や恋人、友だちの線引きはよく分かんないけど、人の輪っかが増えていくのは面白いんじゃないかって最近思うようになったの」と彼女は語った。
手芸部のマスク作りで売名行為だなんて陰口を叩く人もいた。
しかし、この朱雀ちゃんの顔を見れば、それだけではなかったとすぐに分かるはずだ。
彼女の根っこはとても純粋で、他人が喜んでいる顔を見ると自分も嬉しくなるという人だ。
ファッションショーの時も他人をこき使うと非難されたが、その何倍も彼女は仕事を引き受けていた。
「新しい輪っかが作れるかは自信がないけど、それでも良ければ……」
わたしの決断に朱雀ちゃんは文字通り小躍りして喜んでくれた。
一歩を踏み出すことはとても怖いことだ。
ただ、いまなら支えてくれる仲間がいる。
千種ちゃんもまつりちゃんもももちゃんも温かい目でわたしを見てくれている。
その視線はわたしは勇気を与えるものだった。
††††† 登場人物紹介 †††††
黒松藤花・・・2年2組。おとなしい本好きの少女。妹のために物語を作って聞かせるのが趣味。
原田朱雀・・・2年2組。手芸部部長。1年の時に手芸部を創部するなど行動力がある。今年の文化祭のファッションショーでも中心メンバーとして活躍した。
鳥居千種・・・2年2組。手芸部副部長。朱雀の幼なじみ。美少女だが中二病的発言が多く残念な子だと見られている。
矢口まつり・・・2年2組。手芸部。朱雀に強引に部員にされた少女。いつも振り回されているが、それでも朱雀への憧れは消えていない。
本田桃子・・・2年2組。ダンス部。まつりの親友。自尊感情が低かったが、部活動を通して成長した。
山口光月・・・2年2組。美術部。1年生の美術部部長である上野ほたるとつき合っている。別に疚しいことをして寝不足な訳ではない。たぶん。




