令和2年11月17日(火)「めんどくさいヤツら」水島朋子
明日から期末テストだというのに、うちら3人は通常運転のままだ。
くっきーは相変わらずどうでもいいお喋りをしているし、上野は今日も一心不乱に絵を描いている。
「どうせうちらが勉強したところで結果は見えてるしな」
あたしが投げやりに呟くと珍しく上野が反応した。
彼女はわたしを見ると「勉強をしないから結果が出ない」と無表情のまま言い返す。
「あたしだってちょっとは勉強したことあるんだぜ。それでも何も変わらなかったんだ」
「結果が出るまでやり続けて初めてやったって言える」と上野は悟り切ったかのように発言する。
ムッとはするが反論はしない。
なぜならいま上野はそれをやり続けているところだからだ。
彼女の絵はあたしが見たところ下手くそのままだが、彼女はずっと描き続けている。
「上野の絵が上手くなったら、あたしも考えを変えるよ」
あたしがそう言うと彼女は再び自分のノートに視線を落とした。
くっきーは「そんなこと言ったら一生勉強しなくて済むんじゃね?」と笑っている。
だが、あたしは……。
言葉を躊躇っているうちに客が来た。
よそのクラスの沖本と劉のふたりだ。
沖本たちはこちらへ真っ直ぐやって来ると、「ほたるちゃん、ちょっとええ?」と声を掛けた。
普通の女子ならこんな風に優しく声を掛けられたら無視なんてできない。
嫌っている相手ならともかく。
しかし、上野は平気だ。
だから女子に避けられている。
そうなることを待ち構えていると予想に反して上野が顔を上げた。
先ほどもあたしの呟きに反応したように今日はいつものように集中できていないようだった。
「何?」と無愛想に上野が尋ねる。
「ほたるちゃんって1年生で美術部の部長やん。そのことについて話を聞かせて欲しいんよ」
沖本は上野の態度をまったく気にすることなくそう頼んだ。
上野はもう一度「何?」と言って質問を促す。
「1年で部長って大変なんやない?」
「……面倒」
「それって1年やから仕事を押しつけられたりとかされてるん?」
「先輩の話だと、部長の仕事は雑用ばっかりだって。だから、こんなものじゃない」
「ソレデ良イノカ?」と聞いたのは劉だ。
上野は肩をすくめ、「ファッションショーのためだから」と答えた。
このダンス部のふたりとは上野がファッションショーをやりたいと言い出してから知り合った。
1年の女子にはダンス部の部員が多いが、その中でも一目置かれる存在だ。
彼女たちから聞いた情報を元に来年のファッションショーの方向性が決まった。
ダンス部の協力は欠かせないだけに重要なパートナーでもある。
あたしは部活動に入っていないので、くっきーに「手芸部はどう? 部長は大変そう?」と聞いてみた。
彼女は最近手芸部に入ったばかりだ。
「朱雀部長はグングン引っ張って行くタイプかな。部長って言うより社長って感じ」と笑う。
「中小企業のワンマン社長って感じか?」と具体的に聞いてみたが、くっきーは首を傾げるだけだった。
ドラマとかであるだろ……と言い掛けたが止めた。
同じグループだが3人は趣味が違いすぎて、こういう時に共感を得られた例しがなかったからだ。
「でも、まあ、大所帯のところだと中間管理職みたいになりそうだよな」とあたしが感想を述べても、ほかの連中はポカンとしたままだった。
この気まずい空気を変えるために、咳払いをしてから「ダンス部で何かあったのか?」とあたしは聞いた。
別にどうでもいいことだったが、くっきーや上野に話の流れを任せられない。
「それがね……」と沖本が語った内容は本当にどうでもいいことだった。
「その程度でキレたのか? そんなんだからいまどきの若者はって言われるんじゃね?」と呆れた気持ちを隠せない。
「えー、でも……」という沖本の言葉を遮り、「大問題ジャナイカ。話ヲ聞カナイナンテ」と劉が憤る。
「先輩つっても、うちらと1歳しか違わねえじゃん。学校の教師だってまともに生徒の話を聞こうとしないのに求めすぎだろ」
あたしの発言にダンス部のふたりが驚いた顔になった。
その反応にあたしも驚いてしまう。
「それってどういうこと?」と血相を変えた沖本に「あたしは不良じゃねえって何度言っても先公は聞きやがりもしねえ」とあたしは不満を口にした。
「そりゃ無理だ」とくっきーはケラケラ笑っているが、沖本は「ひどいやん、それ」と憤慨し、劉に至っては「訴エルベキダ」と訳の分からないことを言い出した。
あたしは「落ち着けよ」と宥めるが、ふたりは「どこに訴えるのがええかな」とか「Governor? President?」とかふたりだけで盛り上がっていく。
こちらの話を聞こうともせずにどんどん話を進めていこうとするふたりにイラついたあたしは「もうやめろ」と突き放す。
それに対して劉が「朋子ノ問題ジャナイカ」とあたしの名前を口に出した。
その瞬間、あたしは我を忘れて「いい加減にしろ!」と怒声を上げる。
あまりに激しく立ち上がったので椅子が倒れてガシャンと大きな音がした。
ようやく静かになった。
ただし、それはあたしの周りだけではなく教室全体がだ。
クラスメイトたちの視線は恐怖に怯えている。
沖本は「ごめん。ちょっと熱くなってしもて」と謝り、劉を連れて自分の教室へ戻っていった。
……あとはほったらかしかよ。
そう思ったが、あのふたりに変に間に入られてもどんな面倒事が待っているか分かったものじゃない。
くっきーが楽しそうに笑う横で、いつの間にか上野は絵を描く作業に戻っている。
あたしは頭をガシガシかくとポツリと呟いた。
「あたしの周りってめんどくさいヤツばっかじゃん」
††††† 登場人物紹介 †††††
水島朋子・・・中学1年生。名前で呼ばれることを極度に嫌っている。本人は不良ではないと力説するがほとんど誰も信じていない。
上野ほたる・・・中学1年生。美術部部長。マイペースな天才肌。だが、絵は下手。
朽木陽咲・・・中学1年生。くっきーと呼ばれている。空気を読めないタイプ。
沖本さつき・・・中学1年生。ダンス部。コミュニケーション能力が高く、他人への思いやりも非常にあるが、最近議論の楽しさに目覚めた。
劉可馨・・・中学1年生。ダンス部。アメリカ育ちの中国人。正義に反することは許せないタイプ。




