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令和2年11月7日(土)「半端者たち」水島朋子

「うちらに本当にできるのか?」


 それはあたしが一昨日から口癖のように呟いている言葉だ。

 最近休日は3人でうちに集まりゴロゴロしているか、街中をブラブラしていることが多い。

 今日は前者で、昼頃からあたしの部屋に上野とくっきーが来ていた。


「それにしてもほたるって全然絵が上手くならないよね」


 そう言って笑ったのはくっきーこと朽木陽咲(ひなた)だ。

 彼女とは同じ小学校で顔見知りだったが仲良くなったのは中学で同じクラスになってからだった。

 他人の粗探しばかりするのでクラス内で浮いていた。

 ここにいるのは彼女に限らずそんなヤツばかりだ。


 上野ほたるは一心不乱に鉛筆でスケッチブックに絵を描いている。

 人物ということは分かるが、素人目には幼稚園児の絵かと思うくらいひどい。

 時々こちらを見ているのであたしをモデルにしているのだろう。

 だが、この絵を見てそれが分かる人がいたら会ってみたいものだ。

 きっと超能力の持ち主だろうから。


 上野は一度スイッチが入るとこんな風に周囲の雑音が入らなくなる。

 話し掛けても無視するから友だちになろうという奇特な人間はあたしたちくらいだ。

 あたしの場合は見た目が不良っぽくて、それを一々弁解しないので避けられているというのが友だちがいない原因だったりする。

 クラスの半端者同士で肩身を寄せ合っているような感じだ。


「くっきーが美術部に入った方が早いんじゃね?」とあたしが言うと、「あそこってオタクの集団じゃん」と美術部部員の上野の横でくっきーは平然と広言した。


「別にいいじゃん。それに手芸部だって似たようなもんじゃん」


「水島は全然分かっていないね」とくっきーは渋い顔をする。


 あたしから見ればどちらも地味な文化部だ。

 その違いが分かる日が来るとは思えない。

 ちなみに、あたしは名前で呼ばれることが嫌で誰にでも名字で呼ばせている。

 こういうところも女子のグループから浮く理由だろう。


「でも、前はあんなのやるヤツの気が知れないとか言ってなかった?」


「あの頃の自分は未熟で何も分かっていなかったんだよ」とくっきーは言い訳する。


 手芸部は一時期毎日のように1年生の教室に来て、まだ部活を決めていない生徒に声を掛けまくっていた。

 あたしやくっきーも声を掛けられた。

 あたしはそういうちまちましたことに向いていないのでまったく話を聞かずに断った。

 くっきーもまったく興味を示さなかった。

 それが文化祭のファッションショーを見て態度を変えた。


 普段斜に構えているうちらですらあのファッションショーには興奮した。

 じっとしていられないほど心が沸き立つのを感じた。

 あたしとくっきーは1分ごとに「ヤバい」を連発した。

 上野に至っては、いつもは無口なのにクラスメイトにファッションショーのことを聞いて回った。

 そして、なんとか自分の手でできないかと考えに考えた。

 下した結論は描いた絵をモデルとして使うというとんでもないアイディアだった。

 そのために彼女は美術部の部長になると宣言した。

 くっきーも乗り気になって、ファッションショーの中心となった手芸部に入ると言い出した。

 ふたりの変化にあたしはポカンと口を開けて呆然とした。


 完全に乗り遅れた。

 自分たちの手であんな凄いことができたら楽しいだろうが、ふたりほど単純にやれるとは思えなかったのだ。

 一昨日過去のショーの映像を見てからは特に。

 去年も今年も大勢の人が関わってショーを作り上げている。

 今年の動画にはメイキングシーンもあって、裏方の大変さも見ることができた。

 うちら3人だけならまだしも周囲の人間と協力してなんて本当にできるのか。

 協調性のないはみ出し者のうちらが本当にそんなことをやり遂げられるのか。

 そこが最大の不安だった。


「水島は心配しすぎ」


 くよくよ悩むあたしにそう言ったのは上野だ。

 どうやら描いていた絵が終わったようだ。

 この下手くそな絵を見ると不安が増す。

 観客からはブーイングの嵐だろうし、それ以前に協力しようと思う人が出て来るのかどうかも怪しい。

 どうして上野は平気な顔をしていられるのか。


「上野は美術部の部長になったけど、本当にまとめられるのか?」


 絵が上手い訳でもコミュ力が高い訳でもないのにその自信はどこから来るのか。

 上野は根拠を示すことなく「なんとかなる」と答えた。

 その態度がますますあたしを不安にさせる。


「水島は考えすぎだって。やってみなきゃ分かんないっしょ」と珍しくくっきーが正論を口にする。


 すぐに「どうせうちらみたいに頭が悪いヤツが考えたって分かんないんだしさ」とつけ加え、彼女らしさを発揮した。

 あたしは自分の髪をかき上げると「まあ、やるしかないか」と呟く。

 文化祭は1年後だが、すでにファッションショーの準備は動き始めている。

 今更放り出す訳にはいかないし、それにこれだけ時間があればなんとかなるかもしれない。


「そうだ。水島に頼みがあるんだけど」と上野がふと思いついたように言った。


 彼女とは中学に入ってから知り合った。

 ぼっちだった彼女をあたしが誘って何となく一緒にいるようになった。

 無口な上に自分のことは話さないので、いまだに彼女のことはよく分からない。

 ただこうして頼み事をされるのは初めてだった。


「珍しいな。何?」とあたしが訊くと、彼女はサラリと言った。


「水島には生徒会に入って欲しい」


「ま、待てよ!」とあたしは慌てた。


「ダンス部の協力は取り付けたし、美術部と手芸部も抑えた。あとは生徒会だけ」


 待てと言うのに上野は言葉を続ける。

 彼女の言いたいことは分かるが、「あたしには生徒会なんて絶対に無理」と明言する。


「どうして?」と上野はキョトンとした顔で尋ねた。


「見りゃ分かるだろ。あたしには無理だ」


「水島は見るからにヤンキーだものね」とくっきーが笑う。


 かなりウェーブした長い髪は全体的に色が薄く、地毛なのにいつも染めていると指摘される。

 ガタイも良く、女子にしてはいかつい風貌だ。

 自分では不良だと思っていないが、こういう外見だから因縁をつけられることも多い。

 そして、売られたケンカは買ってきた。

 人を外見で判断するヤツは相手にしないというのがいつしかあたしの信条となった。

 だが、この外見で生徒会なんて一蹴されて終わりだろう。


「その見た目でも構わないって言われたら生徒会に入ってくれる?」


 上野がじっとあたしを見た。

 面と向かってそう言われたら、「まあな」と認めるしかない。


「月曜日が楽しみだ」と全然楽しくなさそうに上野は話す。


 顔に出さないだけで本当は楽しみなのかもしれないが、彼女はそれで話は終わりと次の絵に取りかかった。

 あたしは肩をすくめてくっきーと目を合わせる。

 互いに苦笑を浮かべている。

 月曜日に上野が凄い交渉術を見せてくれたならあたしも安心してショーの準備に協力できるかもしれない。

 でも、生徒会の壁は越えられないでしょ、きっと。




††††† 登場人物紹介 †††††


水島朋子・・・中学1年生。頭を使うより身体を動かすことを好むタイプ。不良ではないが目つきがキツいため周りからはケンカを売りまくっているように見られている。


上野ほたる・・・中学1年生。美術部部長。先輩の山口光月(みつき)からはしっかり見て描くようにデッサンの指導を受けているが、彼女の前以外では我流を通している。


朽木陽咲(ひなた)・・・中学1年生。つるむのはかっこ悪いと言うくせに水島に拾ってもらって安堵し、彼女といつも一緒にいるようになった。実は可愛いものが好き。

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