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令和元年6月23日(日)「チャイナドレス」日野可恋

 人生最大のピンチかもしれない。


「これ、本当に着るの?」


「大丈夫、絶対に似合うから」


 ひぃなが満面の笑みを浮かべている。

 私が着ることを信じ切っている顔だ。


「そういう問題じゃないんだけど……」


 私は手の中にある青いチャイナドレスに視線を落とした。




 今日はこれから横浜の中華街に行く。

 ひぃなの家族と私の家族、それぞれ車で向かうと聞いていたのに、お姉さんの華菜さんを伴ってひぃながやって来た。

 ひぃなは慣れた様子でうちに上がるとリビングでそそくさと着替え始めた。

 ほとんど紐という下着の上にピンク色の派手なチャイナドレスを着る。

 横のスリットは腰骨のあたりまである。

 子どもっぽいひぃなだからセクシーとは言い難いが、それでも目のやり場に困るほどだ。

 胸元はカップがついているので、パッドを入れて調整した。

 複雑に結い上げた髪とチャイナドレスがよく似合っていた。


 着替え終わったひぃなが差し出したのが青いチャイナドレスだった。

 思わず受け取ってしまったが、どう反応していいか分からない。

 華菜さんはこめかみを押さえて呆れている感じだけど、私はそれでは済まされない。

 何とかこの場を乗り切るアイディアを考えようとするのに、頭がまったく働かない。


「こんなの着たら目立ちすぎない?」


「大丈夫」


 ひぃなはニコニコしている。

 以前、横浜でフレンチを食べた時もひぃなはかなり目立つパーティドレスを着て注目を浴びた。

 母を待つ間、多くの人が足を止めてこちらに見ていたのに、ひぃなは気にした様子がなかった。

 横に立っていただけの私でさえいたたまれなくなるほどだったのに。


 緊張の感じ方が他の子と違うんだろう。

 自分が失敗することは恐れて緊張するのに、他人から見られることは全然平気。

 自分自身や他人に対する認識に、私とは少し差違があると感じることはこれまでもあった。

 まあ、いまそんな分析をしていたところで何も解決しないのだけど。


 仕方なく私も着替えることにする。

 こんな恥ずかしい下着は持ってないと言うと、ひぃなは嬉々として持参した鞄から取り出した。

 準備万端で私の逃げ道を封じている。

 ひぃなの着替えを阻止できなかった時点で私の負けだったのだろう。

 ひぃなひとりを目立たせる訳にはいかないのだし。


 私は自分の部屋で着替えた。

 レンタルという話だが、布地は安っぽい感じはしなかった。

 胸元がわずかにキツいが、ひぃなに申告するほどではない。

 横のスリットはひぃなほどではないが、それでもとても大胆だ。


「凄い! 似合ってるよ!」


「……ありがとう」


 リビングに戻ると、ひぃなが褒めてくれた。


「スタイル良いなあ」という華菜さんの呟きにかぶせるように「これなら回し蹴りできるでしょ!」とひぃなが大声で言った。


 私の服選びの基準としてそんなことを言ったことがあった。

 よく覚えていたものだ。

 でも、この服で回し蹴りは絶対にやりたくない。


「ただいまあ。……あら、凄いじゃない」


 タイミング悪く母が帰ってきた。


「可愛いわねえ。陽稲ちゃんも可恋も」


 母は明らかに面白がっている。


「本当は陽子さんの分も用意しようと思ったんですが……」


 ひぃなが恐縮して言うが、そんなことになったら私はドレスをビリビリに引き裂いていただろう。

 私は一縷の望みに期待して華菜さんに視線を送った。


「前に家族で中華街に行った時に、次は一緒にチャイナドレス着ようねってヒナに約束させられたんだけど、私じゃ似合わないから困ってたの。日野さんが友だちになってくれて助かったわ」


 私はがっくりとうなだれた。

 人間諦めが肝心という言葉を噛み締める。


 その後、母と華菜さんに大量の写真を撮られ、私たちは母の車で横浜へ向かった。

明日は2本立てで、この続きも書く予定です。

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