令和元年6月19日(水)「期末テスト1日目」日々木陽稲
今日から1学期の期末テストが始まる。
水木金の3日間、計9科目。
その初日、いつもより遅く登校した可恋はマスク姿だった。
「可恋、大丈夫?」
昨夜は特に調子が悪いようには見えなかった。
夕食をうちで一緒に摂り、元気そうに帰って行ったのに。
「起きたら少し熱があったから」
顔がほんのりと赤く、わずかだが気怠そうに見える。
わたしの心配を気遣うように「3科目だけだし、大丈夫だよ」と可恋が言った。
「無理しないでね。何かあったらすぐに言ってね」
「うん。ひぃなもテスト頑張るようにね」
いつものように淡々とした言葉遣いだけど、声に張りはない。
見るからに苦しそうとまでは言えないが、明らかにダルそうではある。
本当にキツかったら可恋ならちゃんと言ってくれるはず。
わたしはそう信じて気持ちを落ち着かせる。
試験の時は男女別に出席番号順の席になる。
だから、わたしは可恋の後ろで、その背中を見ることになる。
普段同様に背筋をピンと伸ばしたまま試験を受けている。
わたしは可恋のその姿勢のお蔭でテストに集中できた。
しかし、試験の時間が半ばを過ぎたあたりで可恋は机に突っ伏した。
おそらく解答し終えたからだろう。
1時間目の科目は国語で、わたしは長文を読むのに時間が掛かっている。
可恋と比べても仕方がないと思い、残りを頑張った。
答案を集める時も、休み時間も可恋はぐったりと机に伏したままだった。
心配で声を掛けたいけど、休ませてあげないとという気持ちも強い。
次の科目のおさらいをしようと思っていたのに、悩んでいるうちに時間が過ぎてしまった。
試験が始まると再び可恋は背筋を伸ばして、わたしはホッとすることができた。
3教科目の音楽のテストが終わるとすぐに可恋は帰宅した。
わたしは短いホームルームが終わるのを待って純ちゃんと帰る。
校門を出てすぐのところにある可恋のマンションを見上げる。
立ち寄っても可恋に負担をかけるだけだと分かっている。
それでも純ちゃんに促されるまでわたしは足を止めていた。
今日はお母さんの仕事が休みなので、わたしと純ちゃんのお昼ご飯を作ってもらう。
その間、わたしは延々と可恋のことを話していた。
その可恋からメッセージが届いた。
『今日は先に帰ってごめんね。
食事は買い置きがあるから大丈夫。
明日もこの調子だとひぃなの手を借りるかも。
勉強はサボらないように』
わたしは伝えたいことが山ほどあったけど、あまり長文になっても良くないと思い、次のようなメッセージを返した。
『力が必要な時はなんでも言ってね。
早く良くなるように祈ってます。
お大事に』
「相変わらずしっかりしてるわね。いまは静かに休ませてあげなさい」
お母さんにもわたしのお見舞いに行きたい気持ちに釘を刺された。
「分かってるよ」
「だいたい陽稲が看病って言ってもね……」
痛いところを突かれた。
掃除洗濯裁縫など得意な家事はあるのに、こういう時にもっとも大事な料理の腕がさっぱりだ。
「料理教えて。お粥だけでもいいから」
「勉強サボらないようにって書いてあるじゃない」
付け焼き刃でもいいから料理を覚えたいというわたしの願いはあっさりと却下された。
勉強をサボって料理を覚えても可恋にはバレそうだし、喜ばないだろう。
それが分かっていても、もどかしい気持ちはある。
「テストが終わったらヒマになるでしょ。すぐに夏休みになるんだし、その間にしっかり覚えなさい」
お母さんの正論に頷くことしかできない。
「あと、明日は私も仕事だから、華菜に頼んでお昼用に三人分のお弁当を作ってもらったら?」
「うん!」
素敵なアイディアにわたしは飛びついた。
お姉ちゃんには手間を掛けてもらうことになるけど、お願いしよう。
わたしはお姉ちゃんと可恋にメッセージを送っておいた。
いまのわたしに可恋のためにできることはほとんどない。
だからこそ、わたしはちゃんと食べて、ちゃんと勉強して、可恋の回復を祈ろう。
……可恋が早く元気になりますように。
今日は2本立てです。




