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令和元年6月18日(火)「勉強」須賀彩花

 さすがに試験前日となると、休み時間に昨日見たテレビ番組のことで騒ぐことはない。


「面白かったのに、みんな見てないの?」


「ひかりは勉強しないで大丈夫なの?」


 美咲が他の3人の気持ちを代弁して、ひかりに尋ねた。


「勉強はしたよ! 少しだけど。だって、すぐに疲れちゃうから、やっぱり息抜きも大事じゃない?」


「勉強と息抜き、どっちが長いの?」とひかりの言葉に優奈がツッコむ。


「三島さんは真面目に勉強してるみたいよ」と美咲が千草さんに教えてもらっている三島さんに目を向ける。

 ひかりは振り返ってそれを見ると、複雑そうな表情を見せた。


 微妙な空気が流れたので、「優奈は勉強どう?」とわたしが話を振る。

 美咲や綾乃はしっかり勉強しているだろうから聞く相手が優奈しかいなかった。


「アタシは一夜漬けだから、今日から頑張る」


「優奈も……受験になれば、一夜漬けなんて通用しないわよ」


 ドヤ顔の優奈に心配そうな顔で美咲が案じた。


「受験かぁ……」


 まだまだ先のことのような気がしてピンと来ない。

 優奈もわたしと同じ気持ちなのか、困った顔でやり過ごした。


「来年の今頃はみんな必死になってるんだろうなあ……」


 わたしの呟きに、「だからこそ、早くから始めておいた方がいいのよ」と美咲が力説する。


「特に彩花はコツコツ勉強できるのだから」と美咲に言ってもらい、わたしは嬉しくなかった。


「美咲は志望校決まってるの?」


 中間テストでは、わたしや優奈は平均点くらいの成績で、美咲はそこから+10点、綾乃は美咲から+10点といった感じだった。

 美咲は日野さんのノートを使っていなかったので、本来の力はもう少し上位かもしれない。


「まだ決まってないわ。両親とも相談はしているのだけど……」


「臨玲は?」と優奈が尋ねた。

 臨玲はお嬢様学校として有名な高校だ。


「最近はあまり良い話を聞かないってパパが反対なの」


「そうなんだ」


 あそこの制服は美咲に似合いそうなのにもったいない。


「綾乃はどう?」と美咲が訊く。


 綾乃の口からはこの辺の進学校の名前がずらずらと挙がった。

 美咲は興味深そうにそれを聞いているが、わたしにには遠い世界のように感じてしまう。


「彩花は?」と綾乃がわたしに話を振ってくれた。


「わたしは……西高かな」


 自転車で行ける距離にある公立高校で、平均より少し上というレベル。

 この中学から進学する生徒が多く、人気も高い。


「アタシも西高かなあ」と意外と真剣な顔で優奈が言った。


「西高は結構校則厳しいよ。優奈、大丈夫?」とわたしが聞くと、「でも、西高より下ってロクなとこないじゃん」と優奈が答えた。


 西高は荒れた感じがない。

 その下となるとこの辺の高校はガクッとランクが落ちて、良い言われ方をしないところが多い。

 最低でも西高にとは親からもよく言われる。


「ひかりは高校のこと考えてる?」


 会話に参加していないひかりに優奈が聞いた。

 ひかりは小首を傾げてあいまいに笑うだけだ。

 美咲がそれを見てため息をつく。


 ひかりがグループに入って1週間ほど経った。

 わたしは色々と心配していたけど、あまり大きな変化は起きなかった。

 たぶん、美咲がわたしや綾乃に気を遣ってくれているからだろう。

 優奈がひかりをイジって笑いを取ることが多い。

 ひかりもそれを喜んでいる様子で、すっかり馴染んでいる。


 次の休み時間に美咲が日野さんからプリントをもらって来た。

 中間テストの時のようなノートのコピーではなく、試験範囲のキーワードが書かれた紙だった。

 見せてもらうと、かなり難易度が低めで、ほぼすべての単語が理解できている。

 いくつか怪しいものがあって、自分のノートに写させてもらった。


 美咲はひかりに覚えさせようと躍起になっているが、ひかりにやる気が感じられない。


「綾乃も美咲に協力したら?」とわたしが言うと、綾乃は嫌そうに首を横に振った。

 綾乃が感情を顔に出すのは珍しいので驚いた。

 しかし、わたしが何か言うよりも前に、綾乃は自分の勉強に戻ってしまった。


「来年になれば、こんな風に友だちに助けてもらえるか分からないのよ」


 美咲の言葉はひかりには届かないようだ。

 このクラスは日野さんが率先して他の子に教えているせいか、休み時間に教え合う生徒が多い。

 1年の時は試験前でもあまり目立って勉強する生徒はいなかった。

 それが1年だったからか、そういうクラスだったからかは分からない。

 空気に流されやすいわたしとしては、今の雰囲気にとても助かっている。


「ひかりも勉強頑張ろう」


 わたしが教えられることなんてたいしてないと思うけど、少しは美咲の手伝いになればと思って話し掛けた。

 二人がかりでひかりを宥めすかしてなんとか単語を覚えさせる。

 やっとやる気になったひかりを見て、わたしは美咲と微笑み会った。

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