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令和元年6月13日(木)「山田小鳩」日野可恋

「風聞はかねがね耳朶に触れております」


 黒縁の眼鏡に手を添えて、不敵に微笑む。

 目の前の、ひぃなと同じくらいの背丈の少女に、私は困った顔を見せた。


「こういう子だから……」


 私の隣りにいたひぃながそれに気付いて苦笑した。


 生徒会室。

 そこにいるのは私たちと、このおかっぱ頭の少女だけだ。

 私の困惑にも我関せずと余裕のある表情を見せている。


「生徒会の協力があればと思い、日々木さんに紹介していただいたのですが」


 こういうキャラなのだろうと割り切って、私は話を始めた。


「如何様な案件でしょう」


「文化祭で2年1組はファッションショーを計画しています」


 目の前の少女の眼光が鋭くなった。

 彼女の名前は山田小鳩。

 ひぃなの1年の時のクラスメイトで、現在生徒会の一員である。


 一昨日、校長室で文化祭の予定を報告した。

 校長および担任の許可は出たが、それで安心できる状況とは思えなかった。

 それをひぃなに問われ、説明すると、生徒会にいる友だちを紹介すると言われた。

 生徒会に期待はしていないが、学年トップの成績を誇る変わり者と聞いて会ってみることにした。


「校長の許可をいただき、担任の小野田先生が他の先生方を説得してくださることになっています」


 山田さんは仁王立ちで腕を組み、しかめ面をしている。

 でも、ひぃな同様に小柄なので、その仕草も可愛らしく見える。


「桑名先生をご存じですか?」


「いえ」


「3年の学年主任で、中立派の筆頭と言える方です」


 私は目を細め、小柄な少女をじっと見る。

 校長派と反校長派の図式すらほとんどの生徒は気付いていないだろう。

 まあ校長派と呼べるほどの勢力がないという事実もあるのだけど。


「よく知っていますね」


「生徒会に権限は存在しないと言っても過言ではありません。教師の言説に唯々諾々と随従するのみです」


 その言葉には悔しさが感じ取れた。


「小鳩ちゃん」


 それに気付いたひぃなが気遣うように名前を呼んだ。

 我に返ったように顎を引いて山田さんが言葉を続けた。


「現在の生徒会は教職員の便利遣いと化しています。されど、我は好機と捉え情報収集に邁進してきました」


 変わってはいるが、頭が良いのはよく分かった。

 このキャラ作りの相手はちょっと疲れるけど。


「田村先生を支持する先生方ってどれくらいいるんですか?」


「ほぼすべての教師が支持しています」


 分かっていた答えだが、ひぃなが「そんなに」と声を出して驚いた。


「教職員の待遇や環境の改善は最近注目されるようになりましたが、田村先生は三十年以上この問題に従事しています。県内はおろか全国で認知される存在です。谷先生の件にしても、男子生徒との問題は明白な証拠がなく不利な立場の教師側を庇護しました。谷先生の為人ひととなりを見誤ったのは事実でしょうが、それだけで霧散するような実績ではありませんし、責任の所在は校長にあります」


 彼女の正論に私は頷く。


「そもそも校長の提唱する生徒の自主性尊重の教育方針は教師からの賛同を得ていません。お題目としての生徒の自主性に反対する教師はいませんが、負荷の増大から現実的ではないと言えるでしょう」


 ひぃなが首を傾げたので、山田さんは更に話を続けた。


「現在、学校が社会の変化から乖離し、非常識な校則や学校文化が蔓延しているのは事実です。一方で、些細な問題でも学校の責任が問われ、苛烈な追及を受けます。生徒の自主性尊重はただでさえ多忙な日常の業務を逼迫し、危機管理の面からも受諾できない方針だと言えるでしょう」


「簡単に言えば、余計な仕事が増えるし、トラブルのリスクも増えるからやりたくないってことね」


「成果に対する報酬のない世界ですから」


「全国テストの点が上がれば評価されるかもしれないけど、生徒の自主性が上がっても教師を評価するシステムがないのよ」と私は補足する。


 ひぃなは哀しげな顔で頷いた。


「ところで、田村先生ってどういう先生?」


 山田さんのクラスの担任が田村先生だ。


「そうですね、生徒から人気のある教師です。極一部の生徒を除いて、優等生から不良まで親身になってもらえるので広範に敬慕されています」


「ごく一部って?」


「貴女のような生徒です」


 私は笑った。


「ファッションショーの企画も真っ向からは反対されないかもしれません」


「そうなの?」


 山田さんの指摘にひぃなが不思議そうな声で尋ねた。


「自由な服装は無理になるけどね」と私が答えると肩を落とした。


 折角なので彼女にも一枚噛んでもらおうと、声を掛ける。


「同じ、ごく一部(・・・・)の山田さんにお願いがあるんだけど」


 私が微笑むと彼女も微笑んだ。

 目は笑ってないけど。


「校長の権力と生徒会の権限を駆使して、今年の文化祭で合唱を禁止にできないかな」


 さすがに予想していなかったのか、しばらく思案してから彼女は口を開いた。


「……それでファッションショー開催が可能になりますか?」


「揺さぶりのひとつかな。これでどうにかなるってことはないけど、打てる手は打っておきたいしね」


「3年はどうします?」


「もちろん3年生も合唱禁止で」


「それは……反発が予想されますが」


「私とひぃなで説得する。影響力がある3年生を今度紹介して」


 受験間近の10月末の文化祭で合唱以外のプランを立てるのも大変だろうが、逆に合唱よりも手間の掛からない提案ができれば解決するだろう。


「ごめん、どういうこと?」


 置いてきぼりになっていたひぃなが声を上げた。


「周りがみんな合唱で、私たちがファッションショーなら浮いて見えるけど、周りがいろいろなことをやってくれれば悪目立ちしないでしょ」と私は笑いながら説明した。


「もしかして可恋って合唱が嫌いなの?」


「よく分かったね。好きな人だけでやる分にはいいけど、無理矢理歌わされるのが嫌いなのよ」


 私とひぃなが話していると、ノートに目を通していた山田さんが私を見上げた。


「6月最終週に文化祭実行委員会を開催します」


 見回したところ生徒会室にパソコンがないので、ノートはスケジュール帳のようだ。

 私は頷く。

 来週は期末テストであまり動けないので、時間の余裕はない。

 それでもユニークな協力者を得られたことは収穫だ。


「山田さんのこと、小鳩さんって呼んでいい?」


「ご随意に」


「ありがとう。私も可恋でいいよ」


 そこにひぃなが割って入った。


「ダメ。小鳩ちゃんはわたしのことを日々木って呼ぶから、わたしのことを陽稲って呼ぶか、可恋のことを日野って呼んで欲しい」


 意外なこだわりに驚いた。


「名字で呼ぶ」と小鳩さんが即答した。


「だってね、小鳩ちゃんにはずっと陽稲って呼んでって言ってるのに、わたしのことは日々木のままで可恋だけ可恋じゃズルいと思わない?」


 私は笑って、熱く語るひぃなの頭をポンと叩いた。

新キャラ登場ですが、書くのが大変なので出番は少ないかもです。

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