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令和元年6月12日(水)「友だち」高木すみれ

 昨日の放課後の話し合いの後に日野さんから言われた言葉がある。


「辛いなら、千草さんのグループに移る?」


 あたしは返答できなかった。

 日野さんもあたしの返答を待たずに離れて行った。


 キャンプの班分け以降、森尾さんと伊東さんの二人と一緒にいることが苦痛になってきた。

 2年生になり、同じ美術部ということで3人のグループになった。

 二人は1年でも同じクラスで仲が良かったけど、あたしは1年の時は二人とあまり話したことがなかった。

 ひとりになることを恐れて、一緒にいるようになった。


 文化祭でファッションショーをするという話を伝えれば、二人は嫌な顔を見せるだろう。

 キャンプのレクリエーションの出し物を決める時も自分からは提案することなく、あたしが挙げた案には賛同しなかった。

 日野さんから二人に話しておくように頼まれていたが、気が重い。


 あの二人とのグループを抜けても、ぼっちにならずに済むという日野さんの言葉はありがたいものだった。

 千草さんはこれまではクラス内でひとりでいることが多かったものの、キャンプをきっかけに塚本さんと一緒にいることが増えている。

 今後、三島さんも加わる予定になっている。

 かなり特徴がバラバラな面子だけど、千草さんはリーダーシップがあるのできっとうまくまとめるんだろう。


 誘われたのが日野さんのグループだったら、あたしは即答していた。

 日野さんと日々木さんはあたしが描く絵のモデルというだけでなく、憧れと言えるような存在だ。

 でも、あたしなんかが誘われることはないと分かっている。


 文化祭が終われば、美術部の部長に指名されるという話もあって、それも気が重い。

 なんであたしなんかがそんな役割を担えると思うのだろう。


 あたしも調子に乗って「コミュ力のあるオタク」なんて自称していた。

 森尾さんや伊東さんに比べれば、コミュ力があるのは間違いない。

 しかし、本当にコミュ力のある人の前で言える言葉じゃなかった。




 今日も梅雨寒で天気も微妙。

 あたしの心を映しているように思える。

 昼休みになっても、あたしは二人に文化祭のことを話すことができずにいた。

 ため息をつきながら、ぼんやりと教室内を見回す。

 日野さんと目が合った。

 あたしはすがるような目つきをしていたのだろう。

 日野さんはあたしに手招きをしてくれた。


 フラフラと日野さんや日々木さんの座る廊下側の席に行く。

 日々木さんは微笑んで迎えてくれる。

 その眩しい笑顔であたしの心は癒やされる。

 日野さんは単刀直入に「言えない?」と聞いてきた。

 あたしは俯き、「はい」と頷いた。


「高木さんは難しく考えすぎだよ」と日野さんが言った。


「ひぃなが頼んでもあの二人は変わらないから」と続ける。


 あたしは顔を上げて日野さんと日々木さんを見た。

 日々木さんも「そうだねえ」と同意する。


「それに、提案がファッションショーじゃなくっても変わらないよね?」


 日野さんに言われて、その通りだと気付いた。

 合唱や演劇に決まってもあの二人は嫌な顔をするだろう。

 あの二人がやりたいことなら別かもしれないが、あの二人が自分から提案することは考えられない。


「私でも無理だね、あの二人をクラスの行事に積極的に参加させるなんて」と日野さんは苦笑した。


 あたしは自分の力不足だと思っていた。


「悪口に聞こえたなら謝るけど、自分のやりたいことにさえ積極的になれない人を、周りとの共同作業に対して積極的にさせるなんて時間の無駄だと思う」


 言葉を選んでいるけど、やる気のないヤツにやる気を起こさせるなんて無理ということだろう。

 いままであの二人と接してきて、あたしは反論する材料が思い浮かばなかった。


「クラスメイトだから言葉は尽くすよ。だけど、親じゃないんだから手取り足取り面倒見てあげようとは思わないし、イヤイヤでも従ってくれたら十分。従う気がないなら相手にしない」


 日野さんの言葉は苛烈で、あたしまで責められたように感じた。


「わたしはもっとちゃんと話した方が良いと思う。本人に少しでもクラスでやることに加わろうという気持ちがあるんなら、きっと伝わるはずだから」


 怖く感じるほどの日野さんに対して、平然と自分の意見を言える日々木さんを凄いと思った。


 あたしは……。

 そこで気付く。

 さっきまで、あたしは自分に問題があると考えていた。

 でも、日野さんも日々木さんもあたしを責めなかった。

 問題はあたしではなく、森尾さんと伊東さんにあるという認識だ。

 冷静に考えれば、あの二人がクラスの行事に積極的に参加しないという問題があることが分かる。

 今まで頭の中に描いていた景色がまったく違うものに見えた。


 その上で、あたしにできることを考える。

 あたしは日野さんや日々木さんよりあの二人を知っている。

 同じオタクであり、ある程度は何を考えているのか理解できる。

 それでも、良いアイディアは浮かばなかった。

 もどかしい。


「あたしに……、あたしにできることはないでしょうか?」


 日野さんと日々木さんに頼ってばかりだけど、このもどかしい気持ちをなんとかしたかった。


「友だちになってみるのはどうかな?」


 日々木さんが微笑みをたたえたままあたしに言った。


「友だち……ですか」


「相手のことを知って、共感して、一緒に笑い合えるような」と日々木さんは言って、日野さんを見る。


「相手を知ることは大事だね。私は手練手管を使ってしまうから、詳しくはひぃなに聞いて」と日野さんが苦笑する。


「ニコニコ笑って、頷いていれば話してくれるよ」


「それはひぃなだから」


 日野さんにツッコミを入れられて、日々木さんは頬を膨らませる。

 それでも考えながらあたしに話してくれた。


「そうだねえ……とにかく話をよく聞くこと。こっちの意見や考えを押しつけずに、素直に共感しながら、まず相手を受け入れる感じかな。寄り添うように、相手の目の高さまで行くことも大切だね」


「ひぃなは簡単そうに話すけど、難しいことだよ。人は何にでも優劣をつけてしまう。そして、それが態度に出てしまう。みんな、敏感だから、それを感じ取ってしまう」


 日野さんが補足してくれる。

 その顔はとても真剣だった。


 あたしは……。

 あたしは絵を描く能力で優劣をつけていた。

 あたしはコミュ力のあるなしで優劣をつけていた。

 あたしは最初からあの二人を見下していた。


「……あたし、もう少し今のグループで頑張ります」


 あの二人に問題があるのは確かだ。

 でも、やっぱりあたしにも問題があった。

 うまく友だちになれるかどうか分からない。

 友だちになったとしても、彼女たちの問題が解決するのか分からない。

 ただこのまま終わらせたくなかった。

 たとえダメだったとしても、あの二人にぶつかっていくことが前に進むことだとあたしは思った。


「頑張って」「応援してるね」と日野さんと日々木さんが励ましてくれた。

 あたしはその声に背中を押されて、しっかり歩き出した。

明日は新キャラ登場予定です。

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