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令和2年4月23日(木)「ダンス部」島田琥珀

 ……あかん!


 頬が緩んでまう!

 クールが売りやのに、こんなところ誰かに見られてしもうたら。


 ごめん、嘘ついてしもた。

 クールが売りやなんて、どの口が言うてんねんて話やね。

 でも、そんくらい嬉しかったんや!


 うちは島田琥珀。

 ダンス部に所属する中学2年生。

 非常事態宣言でどこにも出掛けられない中、ダンス部ではソロの創作ダンス動画をLINEグループに投稿することが流行っている。

 とは言っても、わたしのようなBチームのメンバーが錚々たる先輩たちに混じって公開するのはどうやねんって話なんやけど。

 それでも、先輩たちの強い勧めもあって動画を上げてみた。

 そしたら激ヤバなコメントをたくさんもらって、人生でいちばんってくらい喜んでいる訳や。


 習い事や塾に通っていたから、部活に入る気は全然なかった。

 そんな余裕はないと思っていたのに、運動会の先輩たちのダンスを見て感動し、その流れで友だちと一緒に新設されたダンス部の入部説明会に行った。

 生徒中心でやっていく言うから同好会的なぬるい部活やと思った。

 逆に根性論を掲げるようなキツい部活やったら速攻辞めるつもりやった。


 実際のダンス部はどっちでもなかった。

 短時間の練習を高い集中力で行うようによく言われた。

 科学に裏づけられた基礎トレーニングのやり方は教わったもののそれは自主練で各自が行い、部活では技術の習得が中心だった。

 ろくに踊れなかった1年生の大半が部活の練習で見違えるようになった。

 しかし、このやり方だと自主練を頑張る子とそうでない子の差は大きくなる。

 こればっかりは仕方ない。

 わたしはそう割り切っていたものの、辛く感じていた部員もいた。


 ダンス部はできたばかりで、先輩たちは手探りでいろいろ試行錯誤をしていた。

 そんな苦労する姿を見ていると、自分の中でめっちゃ勉強になる感じがした。

 だから、時間的にはキツかったけど部活を続けたいと思ったし、できるだけの協力はしようと考えていた。

 1年生のBチームのまとめ役って役割を与えられ、それを頑張ろうとしていたタイミングで一斉休校になった。


 昔、中学受験をするかどうか親から相談を持ちかけられたことがあった。

 お金の問題は気にせんでええって言われたものの、習い事との両立は難しいと子どもなりに感じていた。

 私立行くんやったら時間的な問題もある。

 たくさんの習い事を習わせてもらい、その当時まで続けていたのはピアノと書道と英会話の三つだった。

 よくバラバラで一貫性がないって言われたけど、ほんまにそうや。

 どれもそんなに才能があった訳やない。

 ただ先生とか一緒に習う子とかそういう繋がりがとても大切やと感じていた。

 受験はせんと、習い事を続けると決めたことに後悔はない。

 でも、いつまで続けるんかという問題を意識するようになった。

 高校以降も続けるのか、中学卒業までなのか、あるいは高校受験に備えて辞めるのか。

 そんなことを考えていた最中に一斉休校となり、習い事や塾も休止やオンライン対応になっていった。


 突然時間ができた。

 学校があって、部活があって、習い事や塾が複数あって、ゆっくり休むヒマなんてない毎日を送っていたのに、急にやることのない時間ができてしまった。

 時間ができたらあれをしたいこれをしたいと考えていたのに、時間ができると意外にできないものだ。

 まあ外出自粛の影響もあったんやけど。


 そして、気づいたことがある。

 たぶん、不安だったんじゃないかと。

 忙しいことが充実していることだと思い込んでいた。

 これだけ頑張っているんやから自分には価値があるみたいに考えていた。

 それに気づくと、なんだか急に肩の荷が下りた気がした。


 空いた時間に取り組んだのがダンスだった。

 まだまだ初心者だから、練習したらしただけ上達が実感できたからだろう。

 いままでは他の子たちの急成長を、ただ指をくわえて見ていただけだった。

 いまは他の子たちがモチベーションを見失っている中で、わたしはやる気に満ちていた。

 その成果が今回の動画だった。


 部長からは『Aチーム合格』というコメントが寄せられ、副部長からは『急成長だね! うかうかしていられないよ』と汗の絵文字が付いていた。

 あかりは『本当に琥珀?』と失礼な言葉を書き込み、ほのかは『↑より実力ある』とそのあかりのコメントの下に記していた。

 そんな中でもっとも感激したのが早也佳先輩から『頑張ったね』と褒められたことだった。


 実はダンス部に入った理由のひとつに早也佳先輩の存在があった。

 同じ小学校出身で、先輩は当時からかなり目立っていた。

 自然と周りに人が集まるタイプで、爽やかで、運動ができて、男女の別なく慕われていた。

 自分が苦労して苦労して人間関係を良い形に整えていくタイプだけに、そういう努力なしに簡単にそれができてしまうことが羨ましかった。


 ダンス部では部長やひかり先輩のファンが多いが、早也佳先輩のファンも少なからず存在する。

 早也佳先輩は2年生(現3年生)部員のまとめ役って感じだったから、下級生が接する機会は少なかった。

 わたしは先輩から「どこかで見た」と言われ、「同じ小学校でした」と告白すると、それ以降よく声を掛けてもらえるようになった。

 隠れファンのつもりでいるが、あかりに言わせるとバレバレらしい。


『ほのかが口を聞いてくれない』


 そのあかりから電話が掛かってきて、開口一番そう泣きつかれた。

 このところ毎晩だ。


『自主練は一緒にしているんやろ? 問題ないやん』


 わたしの返答もいつもと同じ。

 ほのかの悩みをあかりがわたしに相談し、それをわたしがダンス部顧問の岡部先生に伝えた。

 問題が解決した訳ではないが、自主練を続けているのだから悪化はしていないのだろう。


『そんなことより、オンラインホームルームみたいなことダンス部でもできへんやろか?』


『そんなことよりって、琥珀ひどすぎない?』とあかりはショックを受けたように言うが、わたしの動画にひどいコメントをつけたのだからお返しだ。


『早也佳先輩の話を聞くとやってみたいやん』


 ダンス部のLINEグループでもうひとつの大きな話題が早也佳先輩のクラスで行っているオンラインホームルームだ。

 体験者の声は興味深いし、それが早也佳先輩なら尚更だ。


『うちは声が親に丸聞こえだからなあ……』とあかりが零す。


『でも、部長の顔、見たいやろ?』とからかうと、『そりゃあ……』とあかりは殊勝に頷いた。


『次期部長、頑張ってや』とわたしが声を掛けると、『琥珀が部長、やった方がいいんじゃ……』と言い出した。


 あんなに上手く踊れるんならと言われ、顔が見えないのをいいことにわたしは思い切り顔をしかめた。

 ……めんどくさいなあ。


『うちは休校明けたら忙しくなるし、部長って柄やないよ。あかり、頑張ってるやん。笠井部長のあとを継ぐんはあかりしかおらへんって』


 習い事を辞めたらこういう時がなあ。

 せっかくええ気分やったのに、と思いながら、それが声に出ないように心の中だけで溜息をついた。




††††† 登場人物紹介 †††††


島田琥珀・・・2年1組。ダンス部。両親が関西出身で家の中では関西弁がデフォルト。


笠井優奈・・・3年4組。ダンス部部長。現在新潟の親戚宅で暮らしている。


山本早也佳・・・3年1組。ダンス部。1年の時から優奈と仲が良かった。


辻あかり・・・2年5組。ダンス部。優奈を慕ってダンス部に入部した。ほのかと仲が良い。


秋田ほのか・・・2年1組。ダンス部。同学年ではダンスの実力ナンバーワン。家族の問題で意気消沈中。

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