表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
299/745

令和2年1月17日(金)「頑張れば認めてくれる」辻あかり

「Aチーム最後の一名は特例で本田桃子。最近練習を頑張っていたから、実力はまだAチームのレベルに達していないけど今回はAチームに選抜する。次は実力が足りなければ容赦なく落とすよ」


 笠井部長がそう発表すると部員たちの間にざわめきが起きた。

 両手を頬に当て目を丸くして驚きの表情を見せるももち(・・・)よりも、あたしの視線が向かったのはその側にいるふたりの1年生部員だ。

 トモとミキ。

 ももちといつも一緒にいるふたりも驚きの顔を見せていた。

 しかし、あたしに先入観があるせいか、驚きだけでなく不満な気持ちも混じっているように見えた。




 あたしは昼休みに笠井部長と須賀副部長に呼び出されて事前にももちのAチーム入りを知らされていた。


「頑張れば特例で認めてもらえると前向きに捉える部員もいるだろうけど、当然不満に感じる部員もいると思う」


「二年生はわたしたちでフォローしていく予定だけど、一年生は目が届かないところがあるから、辻さんに協力して欲しいの」


 部長と副部長にそう言われ、あたしは「はい」と頷いた。

 以前から一年生のまとめ役を頼まれ、あたしには荷が重いと思いながらも続けている。

 それでも笠井先輩から頼られれば喜んで引き受けてしまう。


 それにしても、ももちのAチーム入りはかなりの驚きだった。

 確かに最近練習を頑張ってはいるけど、実力的にはまだまだだと思っていた。

 あまりセンスを感じない子で、ろくに練習していないトモやミキと比べても水曜日のソロのダンスは際立って良かったとは思わなかった。


「今後Aチームで本田を支えてくれ」と部長があたしのAチーム合格をそれとなく教えてくれる。


 あたしは1年生の中では実力的に4、5番手くらいで、水曜日は目立ったミスがなかったのでAチーム入りはできると予想していたが、やはり不安な気持ちもあった。

 1年生はほのかと藤谷さんが群を抜き、他はどんぐりの背比べで、その下にあまり練習をしていない何人かがいる。

 真面目に頑張っている”どんぐり軍団”のレベルアップがダンス部の実力の底上げになるとほのかは指摘していた。

 ももちをこのレベルまで引き上げることが当面の課題だろう。


「技術的指導はAチームの二年生が交替でBチームを見ていくんだけど、Bチームのメンタルな部分をどうサポートしていくかが問題だよね。わたしもできる限りフォローはするけど」と副部長が頬に手を当てた。


「これまでは辻さんがやってくれて、とても感謝しているの」と副部長が言葉を続け、あたしは「そんな大したことはしていないです」と返答する。


「2年は和奏わかなに押しつけるとして、1年はどうしたもんかなあ……」


 部長の言葉にあたしは「琥珀がBチームなら彼女が適任だと思います」と提案した。

 島田琥珀は楽しそうに踊ることにかけては1年生の中でいちばんだが、残念ながら技術が追いついていない。

 彼女は習い事などが多く、練習する時間が取れないと零していた。

 いつもニコニコと「みんな頑張ってね。応援しているから」と励ましてくれる優しい性格の持ち主だ。


「琥珀ちゃんかあ。でも、時間とか大丈夫かな?」と副部長が心配する。


「メンタルのケアがメインなら、休み時間などである程度補えるかと。あたしも協力しますし」


 三学期になり、新1年生の入学や2年生への進級が間近に迫ってきた。

 笠井部長の体制はまだまだ続くが、いつかはあたしたちの代に切り替わることになる。

 いまの状況だと、あたしとほのかのどちらかが部長となるだろう。

 そして、もう一方が副部長に。

 最近はそれもいいかと思うようになった。

 大変そうだけど、ほのかとふたりでこのダンス部を盛り上げていきたいと。

 そんな視点で見ると、琥珀はあたしたちに足りないものを持っているように感じた。


「そう? じゃあ、あとで琥珀ちゃんにお願いしましょう」と副部長が微笑んだ。




「おめでとう」とあたしはももちに声を掛けた。


「あ……、アタシなんかでいいのかなあ……」とももちは不安そうにあたしを見た。


 そして、Bチームの方に目をやる。

 おそらくトモやミキを探しているのだろう。

 チーム分け発表後、速やかにそれぞれのチームに分かれたのでふたりとほとんど会話を交わしていないはずだ。


「これから頑張ろう」とあたしはできるだけ安心させるような笑顔を作って励ました。


 うまくできたかは分からない。

 彼女は不安げなまま、うんと頷いた。


 あたしにとってはダンス部発足当初に所属して以来のAチームだ。

 練習は思っていた以上に高度で、ついて行くのに精一杯だった。

 1、2年生であたしと同じくらいの実力の持ち主は非常に多い。

 少しでも油断すると次のチーム分けで降格してもおかしくないという危機感を強く持った。


 久々のAチームの練習に参加したほのかも、Bチームの時とは違い余裕がまったく感じられなかった。

 練習の合間に「どう?」とほのかに声を掛けると、「キツい。ぬるま湯につかり過ぎた」と渋面で答えた。

 Aチームに初参加となった1年生部員のほとんどが練習について行けずに悪戦苦闘している。

 平然と練習をこなしていた1年生はずっとAチームにいる藤谷さんだけだった。


 一方、ももちはひとり別メニューだった。

 副部長がつきっきりで指導している。

 練習中は気にする余裕がないものの、休憩のインターバルが違うので、その時に様子を見るとももちは真剣に取り組んでいた。


「本田さんはすぐに追いつくかもね」とあたしと並んで見ていたほのかが口にした。


「そうなんだ」と相づちを打つと、「部長、副部長、ひかり先輩あたりは教えるのが抜群に上手いよ。私は欠点は見えるけど、それをどうやって改善するのかうまく伝えられないから」と悔しそうにほのかが話す。


 あたしにはダンスの実力も、見抜く能力も、教える技術もない。

 しかし、二年生はいつかはダンス部を引退し、その後はあたしたちが引き継がなければならない。

 ほのかひとりに頼る訳にはいかない。

 頑張れば認めてもらえるのがダンス部だ。

 とにかく頑張ろう、頑張ればなんとかなるとあたしは気合を入れた。


 練習後、あたしはももちに「しばらくはトモやミキとギクシャクするかもしれないけど、いまは練習を頑張ろう」と話した。

 ももちは不安そうに頷いた。

 日曜日のほのかとの自主練にも誘い、ももちは「行けたら行く」と答えた。


 更衣室ではトモやミキは変わった様子がなく、ももちとも普通に接していた。

 心配しすぎだったかとホッとする。

 その安堵感から、あたしは柄にもなくみんなに声を掛けた。


「みんな聞いて! もう少ししたら新入生が来るし、その時にみっともないことにならないようにいま頑張ろう!」




††††† 登場人物紹介 †††††


辻あかり・・・中学1年生。ダンス部。優奈を追ってソフトテニス部からダンス部に加入。1年生部員のまとめ役。


笠井優奈・・・中学2年生。ダンス部部長。ギャル風な外見に反して体育会系の思考の持ち主。


須賀彩花・・・中学2年生。ダンス部副部長。1年生のケアを担っている。最近はポジティブな言動が増えた。


秋田ほのか・・・中学1年生。ダンス部。ダンスの実力は1年生トップ。ただ毒舌で周囲から浮いていた。


本田桃子・・・中学1年生。ダンス部。愛称はももち。トモやミキと仲が良い。


藤谷沙羅・・・中学1年生。ダンス部。発達障害の疑いがあり、ずっとAチームで2年生と混じって練習していた。ほのかに次ぐ実力の持ち主。


三杉朋香・・・中学1年生。ダンス部。愛称はトモ。


国枝美樹・・・中学1年生。ダンス部。愛称はミキ。


島田琥珀・・・中学1年生。ダンス部。


恵藤和奏(わかな)・・・中学2年生。ダンス部。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ