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令和2年1月5日(日)「陽稲お姉ちゃん」里中香波

 小学3年生としてはかなり大柄な妹の桂夏が軽々と持ち上げられ、赤ん坊のように高い高いと振り回されている。

 桂夏も幼子のようにキャッキャと喜んでいる。


 ここは陽稲お姉ちゃんのお友だちのお家。

 とっても広くて、とっても暖かい。

 天井も高くて普通のお家ではないみたい。


 初めはそのお友だちがキャシーさんを連れて陽稲お姉ちゃんのお家に来ることになっていた。

 でも、風邪気味ということで来られなくなった。

 夏にうちに来てくれたキャシーさんと会えないのかと残念に思っていたら、わたしたちが陽稲お姉ちゃんのお友だちの家に行くことになった。


「風邪、うつったりしない?」と尋ねると、「可恋は自分の部屋に籠もっているし、空調や除菌が徹底されているから大丈夫だよ」と陽稲お姉ちゃんが教えてくれた。


 わたしと桂夏、陽稲お姉ちゃんと華菜お姉さんの4人は伯父さんにお友だちの家まで送ってもらい、わたしたちが着いてすぐにキャシーさんも到着した。

 伯父さんはすぐに帰ったけど、華菜お姉さんのお友だちがふたりやって来た。


「ゆえ、ハツミ、来てくれてありがとう」と華菜お姉さんが両手を合わせて感謝している。


 華菜お姉さんは冬休みの宿題がピンチなのだそうだ。

 わたしたちに気を遣わず勉強に専念してくださいと言ったけど、キャシーが暴走しなければ隅で勉強しているからと笑っていた。


「香波ちゃんは小6かあ。確かアケミの妹も小6だったよね。連れて来れば良かったのにね」と華菜お姉さんのお友だちのゆえさんがわたしの頭を撫でながら話した。


「そう言ったんだけどね。お留守番だって」と華菜お姉さん。


 その時、陽稲お姉ちゃんの大きな声が聞こえた。

 英語なので何を話しているかは分からないが、そちらを見るとキャシーさんに抱え上げられていた桂夏がぐったりしている。


「桂夏!」とわたしは慌てて立ち上がった。


 床に下ろされた桂夏は「目が回ったの……」とフラフラしている。

 わたしはホッと息を吐き、「もう、調子に乗るからでしょ」と叱る。

 桂夏は「だって……」と口籠もる。

 更に言葉を続けようとしたわたしは、ひょいと身体を持ち上げられた。

 キャシーさんが何か話し掛けながら、わたしを高々と上にあげる。

 このリビングの天井はかなり高いのに、それでも頭がぶつかりそうに感じた。


「えっ、あっ、キャー!」


 グルグルと回されて、わたしは大声で悲鳴を上げた。

 そのまま上に放り投げられ、一瞬身体が宙に浮く。


「……」


 恐怖で声が出ない。

 顔が強張り、目が回りそうになってギュッと目をつぶる。

 すぐに受け止められたが、生きた心地がしなかった。


 やっと床に下ろしてもらったが、フラフラしてすぐに崩れ落ちる。

 華菜お姉さんやゆえさんが慌ててわたしの身体を支えてくれた。

 陽稲お姉ちゃんは左手を腰に当てて、鋭い口調でキャシーさんに話し掛けている。

 しかし、キャシーさんは無邪気な顔で陽稲お姉ちゃんを持ち上げようとした。


 その時、「キャシー!」と地の底から響くような声が聞こえた。

 陽稲お姉ちゃんのお友だちがいる部屋の扉の横に玄関のチャイムのようなものが付いていて、そこからまくし立てるように言葉が投げつけられた。

 わたしには何を言っているのか分からなかったけど、キャシーさんの動きがピタッと止まり、持ち上げられようとしていた陽稲お姉ちゃんはその手を振りほどいて距離を取った。


 それからしばらくキャシーさんと陽稲お姉ちゃんが怒鳴り合うように言葉をぶつけ合った。

 あんな陽稲お姉ちゃんは見たことがない。

 いつもニコニコしているのに、いまは毅然として大人のように見える。

 華菜お姉さんたちもわたしと同じように唖然としてふたりの激しいやり取りを見守っていた。


 180 cmを越えるキャシーさんが母親に叱られた子どものように肩をすくめた。

 すると、陽稲お姉ちゃんはニッコリと微笑み、お母さんのような優しい表情になった。


「キャシーが謝るって」とわたしと桂夏に向かって陽稲お姉ちゃんが言う。


「そんな、別に謝ってもらわなくても……」とわたしは恐縮するが、「ダメだよ。こういうことはキッチリしないと」と陽稲お姉ちゃんはキッパリ言った。


 陽稲お姉ちゃんは透き通るような白い肌に完璧な美少女って感じの目鼻立ちで、女のわたしでさえ見とれてしまうような人だ。

 それでいていつも優しい笑みを浮かべ、親切でとても親しみやすい。

 それだけじゃなく、こんな格好いい一面もあっただなんて。

 あまりに凄すぎて、憧れる存在ですらない。

 テレビの中のアイドルや、ドラマやアニメの中の登場人物みたい。

 本当に雲の上の人のようだ。


 そのあと、わたしと桂夏は謝ってくれたキャシーさんから空手を習った。

 陽稲お姉ちゃんから、適度に身体を動かすことは健康だけでなく勉強でもプラスになると言われたからだ。

 学校がある時は体育の授業があるけど、冬休み中はどうしても身体を動かすことがない。

 早寝早起き、適度な運動、適切な食事といった当たり前のことが大切なのよと陽稲お姉ちゃんは念を押した。


 キャシーさんは空手の手本を見せてくれた。

 ものすごく強そうで、とても真似できそうにない。

 パンチは凄い音を立てるし、キックは天井に届きそうなくらい高く高く足が上がった。

 わたしが無理だと言うと、キャシーさんは笑って、「楽しむことがすべて」だと陽稲お姉ちゃんが通訳してくれた。


「別に空手じゃなくてもいいの。キャシーが言う通り楽しいと思えるものをたくさん見つけられたらいいね」と陽稲お姉ちゃんが言葉を続けた。


「はぁ、この姉妹は人間ができてるねえ」とゆえさんが笑う。


「でも、自分が楽しいと思えるもの、打ち込めるものを見つけることは大切だよね」とゆえさんは頷きながら言った。


「私はそういうのをダサいと思っていたこともあったんだけどね。ゆえやカナやヒナちゃんや可恋ちゃんを見ていると、そうやって斜に構えている方がダサいって気付いたよ」と初美さんが同意した。


「たぶん一生懸命やって失敗したら恥ずかしいとかみっともないとか思うから、一生懸命やることから逃げちゃうんだよね」


「ゆえ、よく分かっているねー」と初美さんがからかうと、「わたしもそうだし、たいていの子がそうなんじゃない?」とゆえさんが苦笑を浮かべた。


「可恋ちゃんやヒナちゃんの真っ直ぐさは眩しかったもの」とゆえさんが言うと、初美さんがうんうんと頷いた。


「キャシーがワタシも真っ直ぐだぞ、だって」とふたりの会話を通訳していた陽稲お姉ちゃんが笑いながら口を挟んだ。


「キャシーは猪並に真っ直ぐだよね」とゆえさんは両手を両目の幅に合わせて、視野の狭さを表した。


 それを通訳してもらって聞いたキャシーさんは笑いながらゆえさんに近付いた。


「通訳しないでもキャシーが怒ったのは分かる! ストップ! ストップ! ストップ!」とゆえさんが慌てて逃げ出す。


 リビングが笑いで満たされる。

 その中で、わたしも笑顔を浮かべながら、自分がこれから先そういうものを見つけられるのか不安だった。

 ふと気付くと、わたしのそばに陽稲お姉ちゃんが来ていて、わたしに「大丈夫だよ」と微笑みかけた。




††††† 登場人物紹介 †††††


里中香波・・・小学6年生。札幌から遊びに来た陽稲の従妹。中学受験が控えているが、親が望んでいるから勉強している感じが強い。


里中桂夏・・・小学3年生。香波の妹。身体は大きいが、まだまだ子どもだと香波から思われている。


日々木陽稲・・・中学2年生。将来の夢はファッションデザイナー。可恋がいない中でキャシーを止められるのは自分だけだと頑張った。


日々木華菜・・・高校1年生。香波ちゃんたちとキャシーの相手を陽稲ひとりに任せられないとゆえたちを応援に呼んだ。


野上(ゆえ)・・・高校1年生。体力でも英語力でもキャシーに太刀打ちできず、あまり役に立てなかったと反省。


久保初美・・・高校1年生。歳下の子の相手は苦手意識があったが、海外で暮らした時の話が受けたので少し払拭できた。


キャシー・フランクリン・・・14歳。G8。『昨日ハワイから帰ってきたのに、明日からもう学校なんだぜ。信じられるか?』


日野可恋・・・中学2年生。高熱ではなく、大事をとって安静にすることに。キャシーがいると熱が上がるから……。

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