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令和元年12月20日(金)「解決策」秋田ほのか

「そこ、ぼーっとしない!」


 部長の叱責が飛ぶ。

 その横で睨むように見ていた日野先輩が部長に耳打ちし、笠井部長は手を叩いて私たちのダンスを止めた。


「ダンスは悪くないよ! ただ、入るタイミングがつかめていない子がいるから、前の終盤からもう1回やろう」


 イベントが二日後に迫っている。

 今日の部活では通しの練習が行われていた。

 私たちBチームが踊るダンスの難易度は高くない。

 Bチームはほとんどが1年生だし、その中でも下手な子が少し頑張れば踊れるというレベルに設定されていた。


 これまでの練習ではスタートの合図で曲が始まり、それに合わせて集中し踊り始めた。

 しかし、本番の予行演習となる今日の練習では曲は流れ続け、他のメンバーが踊ったあとに私たちのダンスが始まる。

 マネージャーの田辺先輩が合図してくれるとはいえ、普段とは違う入りに戸惑う部員が何人もいた。


 何度か入りの練習を繰り返したあと、休憩になった。

 ダンス部では集中力を重視し、リフレッシュする時間を多めに取る。

 特にここ数日はその意識が強いように感じた。


「ほのか、眉間に皺ができてるよ」


 あかりにそう言われ、私は左手の指先で自分の眉間を押さえた。

 普段の私は仏頂面だが、ダンスにそれを出してはいけないことくらい当然理解している。


「イライラする?」とあかりに小声で問われ、私はひとつ息を吐いた。


 イライラしないと言えば嘘になる。

 自分が団体競技に向いていないことも自覚している。

 それでもダンス部を続ける選択をしたのは私だ。


「まあね。でも、平気」


 そう答えると、あかりが微笑んだ。

 入部したての頃の私なら毒を吐きまくっていただろうから、私が成長したと喜んでいる顔付きだ。

 私は他人の考えを読み取る能力が乏しい。

 あまり他人に興味がないからだろう。

 しかし、あかりは――あかりが私に向ける表情は読み取ることができた。


「残念だね、ほのかならソロだってできたのに」


 あかりが慰めるように言った。

 いまでも自分の実力はAチームのメンバーの平均点くらいはあると自負している。

 ソロメンバー入りは難しいとしても、Aチームに残っていれば2、3人の少人数でのダンスが割り当てられただろう。

 それがセンターとはいえBチームの大勢で踊ることになった。


「いいよ。今回は納得しているし」


 部長からは実力は評価していると言われた。

 更に、「アタシは性格よりも実力優先で良いと思っているんだ。今回は例外的な措置で、イベント後は実力でチームを分けるから」と部長は明言した。


「ほのか、ホントに成長したね」とついにあかりが思っていたことを口にした。


「それ、止めろ」と言っても、からかうように「いいじゃん」とあかりは笑う。


 私が憤然としていると、副部長が声を掛けてきた。


「みんな、練習ではできていたんだよね?」


 Bチームのダンスの入りのことだろう。

 副部長は最近Aチームの練習に参加していたので、Bチームの練習を見ていなかった。


「そうですね、特に問題はなかったと思います」とあかりが答える。


「曲のどこでスタートするかなんて別に変わっていないのだから、できない理由が分かりません」と思ったことを口にすると、横であかりが顔をしかめるのが見えた。


 Bチームメンバーに聞かれていないのだからいいじゃないと思ったが、「言い過ぎでした」と謝っておく。

 副部長はニッコリと微笑んで、「もしあなたたちが指導する立場だったらどうする?」と言った。


「できるまでやらせる?」と真っ先に思い付いたことを言葉にする。


「でも、時間はあまりないわよ?」と副部長に言われてしまう。


 自分でも口にしてから非効率だと思ったくらいだ。

 切羽詰まった状況なら尚更焦ってできない可能性はある。

 できない人は参加させないが解決策にならないことは私でも理解している。

 それならBチームを初めから参加させないだろう。

 ダンス部にとって初めてのイベントで、全員に経験させたいという意図が込められていることくらいは分かっている。


 あかりは腕を組んで真剣に考えていた。

 私は無理だと半分匙を投げていたが、彼女は必死だった。


「あたしたちがAチームになったらBチームを指導するんですよね? それに、来年には後輩が入ってくるし……」


 あかりが苦しげにそう呟く。

 私はその言葉に衝撃を受けた。


 私だってあかりが呟いたことは理解していた。

 でも、指導なんて簡単だと軽く考えていた。

 ダンスの実力には自信がある。

 それを教えればいいだけだと。


 しかし、いま目の前に具体的な問題があるのに、私は何も解決の手立てを持っていないと気付いた。

 私は焦ったように目の前の先輩に尋ねる。


「副部長はどうすればいいか分かるんですか?」


「うーん、わたしもいくつか思い付いたけど、先輩たちがバラバラに指導しちゃダメだから部長と日野さんがそういう意見を集めてどう指導するか考えているところなの」


 そう言って、副部長は話し合いをしている部長たちの方を見た。

 問題が発覚したのはついさっきなのに、もう解決策がいくつも思い浮かぶんだ。

 あかりの言葉以上の衝撃が私を襲った。


 先輩だからの一言では片付けられない。

 ダンス部ができたのは10月でまだ2ヶ月足らずだし、副部長はダンスを本格的に始めたのは運動会のために2学期に入ってからだと話していた。

 ダンス歴なら私の方が長いし、2ヶ月の指導経験だけでこんなに差がつくのかと思ってしまう。


「Bチーム、集合して!」と部長が声を掛けた。


 打ちのめされた私はトボトボと部長の下へ向かう。

 私たちは自分たちのパートの時の並びになって部長の話を聞く。


「前のメンバーのダンスの終盤、……ここからカウントを開始するよ」


 私たちの前に踊る三人のAチームメンバーも加わり、そのダンスの終盤の特徴的な動きを私たちに覚えさせた。

 そこから曲に合わせていくつかの動きが決められた。

 しゃがむ、マネージャーを見るなど単純な動きだが、それを入れるだけでスムーズにダンスに繋げることができた。


 何度か練習しただけで見違えるように良くなったようだ。

 部長たちが満足そうな表情を浮かべている。


 練習後、私は副部長を捕まえ、疑問をぶつけた。


「どうしてあんな解決策が思い付くのですか?」


「わたしの場合は、自分のやり方を言っただけだから。マネージャーを見るとか、前の人との流れを意識するとかね」


 私は少しホッとする。

 私は音楽だけでタイミングを計れるが、それができない人の工夫にまで考えが及ばなくても仕方がないと思ったからだ。

 だが、先輩の次の一言で奈落に突き落とされた。


「あそこまで分かりやすくしたのは日野さんだね。彼女はなんでもできるのに、できない人のことがよく分かるのよ」


 私が険しい顔をしていたからだろう。

 須賀先輩は気遣うように私に言葉を掛けた。


「……まだ、日野さんのこと……」


「そういうんじゃありません!」と思わず声が大きくなった。


 泣かされたという噂が流れて、迷惑しているのは私の方だ。


「別になんとも思っていませんし、誰があんな噂を流したんだか……」と言うと、副部長は慌てたように「わたしじゃないわよ」とかぶりを振った。


 私が涙を浮かべたことを知っているのは、私と日野先輩と副部長の三人だけだ。

 私と副部長じゃないとすれば……。


 私は文句を言わねばと心に誓った。




††††† 登場人物紹介 †††††


秋田ほのか・・・中学1年生。ダンス部。実力はあるが口が悪く他の1年生部員から嫌われていた。


辻あかり・・・中学1年生。ダンス部。優奈を慕いソフトテニス部を辞めダンス部に。1年生部員のまとめ役。


笠井優奈・・・中学2年生。ダンス部部長。ぬるま湯体質のソフトテニス部に嫌気がさしてダンス部を創部した。


須賀彩花・・・中学2年生。ダンス部副部長。飛び抜けたものはなくごく普通だが、急成長を遂げている。


日野可恋・・・中学2年生。トレーニング面でダンス部をサポートしている。

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