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令和元年5月27日(月)「班長会議」日野可恋

 週が明けて、教室内では暑さの話だけではなく、来週行われるキャンプのことが話題にのぼった。

 来週の火曜日から2泊3日の予定だ。

 ひぃなのお姉さんから聞いたところによると、キャンプファイヤーや夜のレクリエーションは盛り上がるそうだ。


 今日のホームルームでしおりが配られ、詳しい説明があった。

 その後、班長が残って会議。

 5つの班から男女1名ずつの10人が参加する。

 私は班長ではないが、学級委員の肩書きを使ってオブザーバーとして参加した。


 副担任の藤原先生の仕切りで、まずは班長の中のリーダーを決める。

 男女1名ずつを決め、女子は松田さんが選ばれた。

 女子の班長は、他にひぃな、高木さん、千草さん、渡瀬さんだ。


 松田さんは前に買い物中に会った時も感じたけど、良いところのお嬢さんといった雰囲気がある。

 ひぃなもそうだが、大切に真っ直ぐ育てられ、ひねたところがほとんどない。

 ひぃなよりも視野の狭さは感じるものの、中学生だからこんなものだろう。

 少なくとも自分の目の届く範囲では公正に真摯に向き合っているように見える。

 周りのサポートをうまく受けることができれば、私よりも良い学級委員に育ちそうだ。


 ひぃなは昨日よりも元気そうだし、具合の悪さを見せないように振る舞っている。

 しかし、高木さんが必要以上に気遣うせいで、その振る舞いは成功しているとは言い難い。

 高木さんは善意で気遣ってくれているから、それをやめろと言う訳にもいかない。

 こればかりは仕方がないと私は成り行きに任せている。


 千草さんは積極的に発言している。

 塾を理由に班長会議への参加を断るかと思ったが、やる気を見せている。

 元々、千草さんも松田さんやひぃなと同じ優等生タイプだ。

 仕事を振られれば真面目にやるのが当然と思っていそう。

 彼女の場合、クラス内に親しい友だちがいないために孤立しがちだが、クラスの中心に立ってまとめていく能力はある。

 秋から冬になって、私が休みがちになれば、松田さんか千草さんに学級委員を引き継いでもらうのもありだと考えている。


 女子の中でただひとり、渡瀬さんだけが会議そっちのけでよそ見をしている。

 彼女はいつも三島さんと一緒にいる。

 彼女がひとりでいるのを見るのは、このクラスになって初めてじゃないかと思うほどだ。

 登下校も一緒だし、所属するクラブも同じ合唱部だ。

 他のクラスメイトと関わろうとせず、ほとんどの時間をふたりきりで過ごしている。


 集めた情報では、中学に入学した当初は同じクラスの松田さんや笠井さんと張り合うような存在だったらしい。

 小顔で、すらっとしていて、正統派の美少女という印象だ。

 笠井さんが松田さんの側についてクラスの中心になり、渡瀬さんは三島さん以外とは距離を置くようになったと聞いた。

 クラスのことよりも部活メインという人は結構いるので珍しい話ではないが、ぼーっと窓の外を見ている渡瀬さんに誰も注意しない状況はあまり良いとは思えなかった。


「では、水曜日の班長会議までに各班のレクリエーションの出し物を決めておいてください」


 松田さんの言葉で班長会議が終わった。

 その途端、渡瀬さんが駆け足で教室を出て行った。

 何人かが苦笑いを浮かべて彼女の姿を見送った。


「ねえ、うちの班、何する?」とひぃながワクワクした顔で近付いてくる。

 ひぃなとの楽しい会話は魅力的だが、グッと我慢して私は立ち上がる。

 ひぃなに「後でね」と目配せしてから、他の女子に声を掛ける。


「良かったら、一緒に帰らない?」


 一緒に帰ると言っても、私の家は正門前なのでほんのわずかな距離でしかないが、親密度を上げる貴重な機会だ。


 美術部に行かなければならないという高木さんには断られたけど、松田さんと千草さんは了承してくれた。

 廊下で待っていた安藤さんを加え、5人で廊下を歩く。

 先頭にニコニコと微笑むひぃな。

 その後ろを松田さん、私、千草さんが並んで歩く。

 最後尾の安藤さんは黙って付いてくる。


「嫌だったら答えなくていいんだけど、ひとつ聞いていいかな?」と私が話を切り出す。


「なんで私立に行かなかったのかなって?」とふたりの反応を見ずに言葉を続けた。


 さっとふたりの様子を見る。

 千草さんは険しい表情になった。

 一方、松田さんは毅然とした態度で答えてくれた。


「両親の方針です。いろんな人のいる公立の方が見聞を広めることができると言われました」


「そうなんだ。素敵なご両親だね」と私が言うと、当然という顔で松田さんが頷いた。


「私は……私立を受けるべきだったと後悔してる」


 眉間に皺を寄せ、絞り出すように千草さんが語る。


「家は教育熱心って感じじゃなかったし、友だちもみんな公立に行くって言ってたから、それでいいかと思ってた。私立に行けば何が変わるのか分かってなかった」


 千草さんは一度唇を噛み締めてから、言葉を続ける。


「でも、友だちの何人かは私立に受かってから教えてくれた。取り残された気がしたけど、公立でも普通に過ごせると思ってた。それなのに1年の間は本当に地獄みたいで、毎日びくびくと怯えながら学校に来てた」


「そっか」


「だから、高校受験は失敗したくない。何を言われたっていい。私は勉強するから」


 横で松田さんが息を呑むのが分かった。

 私はただ「頑張ってね」と声を掛けた。

 ひぃなが重い空気を振り払うように、自分の中学受験の失敗談を語り、なんとか場が和んだ頃に正門にたどり着いた。


 ひぃなは私の家に寄り道したそうだったけど、「後で行くから」とこっそり言って帰らせる。


「日野さんはどうして私立に行かなかったの?」と別れ際に千草さんに問われた。


「体質とかいろいろあって」と誤魔化す。

 話せば長くなるし、言う気もない。

 体質と言えばそれ以上追求されることはない。

 卑怯な手だが、私は便利に使っている。




「ひぃながちゃんと食べるか監視に来ました」と挨拶すると、ひぃなのお姉さんが笑ってくれた。

 ひぃなは頬を膨らませているが、目は笑っている。


 夕食では、お姉さんのキャンプの思い出を聞いたり、レクリエーションの出し物は何がいいか話したりして盛り上がった。


 帰り際に玄関でひぃなとふたりきりで話す。

 雑談よりも連絡事項が多い。

 その最後に私は言った。


「文化祭のことだけど、ひとつアイディアがあるの。聞いてくれる?」


 ひぃなが頷くのを見て、耳元で囁く。

 ひぃなが驚きの表情を見せた。


「できるの?」


「分からない。可能性はゼロじゃないとは思うけど」


 私の厳しい言葉とは裏腹にひぃなの顔には満面の笑みがあった。


「ひぃなの協力が絶対に必要なんだけど、協力してくれる?」


「もちろんだよ!」


「さっきも言ったようにできるかどうかは分からない。文化祭は10月下旬だけど、やれるのなら夏休みの前には準備を始めたい」


 ひぃなが頷く。


「そのためにはキャンプが終わったら根回しして、6月中旬の期末テストの後にでもクラスの合意を作っておきたい」


「わたしにできることなら何でもするよ!」


 私はひぃなの力強い言葉に後押しされて家路についた。

明日の内容はまだ決まっていません。

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