令和元年5月23日(木)「日野の頼み」麓たか良
窓から外を眺めていたら、人の近付く気配があった。このクラスでワタシに近付くような奴は限られている。
「ちょっといい?」
「よくない」
外を向いたまま答える。
「キャンプ、来る気ある?」
「どうでも……」と言いかけたが、振り向いて「日野はワタシに来て欲しい? それとも来て欲しくない?」と聞いてみる。その答えの反対を選択する気だったのに、日野は本当にどうでもよさそうな顔で「どっちでもいい」と答えやがった。
「来るなら頼みたいことがある。来ないならクラスが平和になって私の仕事が楽になる」
「頼みって?」
気になって思わず聞いてしまう。
「笠井さんの動きを見ていて欲しい」
「笠井……」
顔くらいしか知らないが、確か以前にダチの恵がこいつの悪口を言っていたはずだ。かなり嫌っていたので覚えている。
「頼みを聞いてやる見返りは?」
「ないわ」
あっさりと否定する。ワタシはカッとなって立ち上がりかけたが、すぐに思いとどまる。こいつにはケンカじゃ勝てない。不用意に手を出して返り討ちにあった時のことが頭をよぎる。あれはケンカにもなっていなかった。
「たぶんね、あなたとは3年でも同じクラスになると思う」
突然話が変わった。
「1年生の時に暴れていたあなたが、これほどおとなしくなったのだから」
ワタシは日野を睨むが、言われてみればその可能性は高い。こいつとあと2年一緒にいるということか。
ワタシは返り討ちにあった後、日野に勝つ方法を考えた。アニキに相談したら、人を大勢集めれば一時の勝利ならできると言われた。でも、それには次の反撃が待っているとも。そして、強い奴に取り入ればいいとアドバイスされた。
日野からはクラスの他の女子に手を出すなとだけ言われた。「他はいいのかよ?」と突っ込むと「学級委員の私の手を煩わさないでくれればね」と返された。
「分かった。恩を売っておく」
「そういうのは言葉にするものじゃないよ」と日野が苦笑する。それでも、否定しなかったので、恩は売れたのだろう。
「それで、何すりゃいいんだ?」
「キャンプ当日に、笠井さんと一部の男子を注意して見ておいて欲しい。男子の方は勝てそうなら手を出してもいい」
「キャンプまで待たないで、とっととやっちゃえばいいじゃん」とワタシは面白がる。
「相手から手を出してきてくれた方が叩きやすいじゃない」
日野がワタシをじっと見て言った。明らかにワタシのことだ。ムッとするが、かなり本心のようにも聞こえた。
「脅しや忠告でやめてくれればいいのに、実際に痛い目に遭わないと分からない人が多くて困るわ」
日野はそう零すとため息をついた。
今日の2本目です。




