表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/745

令和元年9月13日(金)「秘密の計画」日々木陽稲

「ひぃな、これはいったい何かな?」


 わたしは可恋から一枚の手紙を目の前に突きつけられた。

 学校からの帰り際に立ち寄った可恋のマンション。

 彼女の整った顔立ちは、口角が上がり表面上は笑顔なのにちっとも笑っているように見えない。

 わずかに細められた目から射すくめるような光が出ているからだろう。


「あー、誰よ、裏切ったのは!」


 わたしは大きな声を上げて、必死に話題を逸らそうとした。

 可恋がそんな手に乗ってくれるはずもなかったが。

 その手紙は可恋に内緒でクラスメイトに送ったものだった。


 明日から三連休。

 運動会前の最後の週末ということもあり、うちのクラスの女子は創作ダンスの練習を予定している。

 土日は学校で練習をする。

 土曜は練習のあとに、親睦を深めるために夕食会とお泊まりが予定されている。

 宿泊はチーム別に二ヶ所に分散するが、夕食会は一堂に会して行われる。


 会場を提供してくれる松田さんがホストを務め、わたしはそのサポートを可恋からお願いされた。

 わたしはダンスはまったく期待されていないので、こういうところで頑張ろうと思った。

 そこで思い付いたのが、夕食会を正装して行うというものだ。

 松田さんの家は資産家で、内装が凄いと聞いているし、パーティとまではいかなくても晩餐会って感じで盛り上がろうと考えた。

 可恋は何かと忙しそうだったので、邪魔しちゃいけないと思い、こっそり準備を始めた。


 いちばんの問題はクラスメイトとの連絡手段だ。

 学校ではほとんどの時間、わたしは可恋と一緒にいる。

 彼女に気付かれずに行動するのは至難の業だ。

 放課後のダンスの練習の時はAチームの可恋は別の場所に行くので、Aチームのメンバー以外には伝えることができた。

 しかし、Aチームには普段あまり話したことのない子もいて、困ってしまった。

 わたしの計画だから誰かを頼るのも悪いし、メールなどもちゃんと読んでくれるか分からない。

 手紙なら目を通してくれるかなと思い、せっせと書いて渡すことにした。

 可恋にバレないように手紙を渡すというゲーム感覚で励み、うまくミッションコンプリートしたはずだった。


「うー、せっかくの機会なんだから、特別な思い出にしたいじゃない」


 誤魔化せないなら、正攻法で説得するしかない。


「私服姿を見たことのない子もいるし、単なる普段着じゃなくてバッチリ決めた服を見せてもらって、ファッションショーの時の参考にしたいのよ」


「始めからそう言えばいいじゃない」と可恋は呆れたように言った。


 可恋の怒りの気配が消えたことにホッとして、「可恋が忙しそうだったし」と言い訳すると、「違うでしょ。私を驚かしたかったんでしょ」とわたしの意図を見抜いていた。

 さすが可恋。


「えーっと、それで、誰から聞いたのかな?」とわたしは確かめる。


 可恋ははぐらかすかと思ったら、「松田さん、千草さん、高木さん、笠井さん、麓さん、須賀さん、塚本さん」と指を折りながらずらずらと名前を挙げていく。


 ……連絡したうちの半数以上がバラしてるんじゃない!


「ひぃながご褒美デートを思い付いて広めたあとに、今後同じようなことがあったら教えてくれるように言っておいたのよ」と可恋は明かした。


 それにしたって、みんな、わたしより可恋の方を選ぶのか!

 わたしが逆の立場なら可恋に相談しそうだと思ったことは棚に上げて、クラスメイトに憤った。


「それで、その思い付きは達成できそうなの?」


「そうね、半分くらいの人が乗り気だったかな」と可恋の質問にわたしは答えた。


 可恋に隠れて連絡することに気を取られて、計画の成功失敗は二の次になっていた。

 わたしが軽い気持ちで発した言葉に、可恋は再び険しい表情となった。


「ひぃなは気にしないかもしれないけど、私服で他の子に会うのは気を使うのよ。自分だけ場違いな感じだったり、浮いたりするんじゃないかって」


 わたしはどんな服装でも周囲からジロジロ見られるので気にならなくなったが、他の子が周囲の視線を気にすることは分かっているつもりだ。

 ファッションは人を勇気づけることもあるが、絶望的な気分にしたり、落ち込ませたりすることもある。

 わたしにとって夕食会は着飾っていくハレの場だが、そういう経験をしたことがあまりない子がいるかもしれないとようやく思い至った。


「やるなら徹底しないと。安藤さんの分はどうするつもりだったの?」と可恋に問われ、「正装しない子もいるから平気かなって……」と言葉を濁す。


 純ちゃんはファッションには無頓着だから平気だって思っていたけど、本来ならわたしが率先して彼女を着飾らせてあげなきゃいけなかった。


「ごめんなさい。わたし……」


 自分の愚かさにようやく気付き、わたしはどうしていいか分からなくなる。


「反省はあとよ。まだ間に合う。行動しましょう」


 可恋は落ち着いた声でそう言った。

 パニックになりかけていたわたしの思考が、可恋の言葉で引き戻される。


「ひぃななら詳しいサイズ分かるよね。安藤さんの分は私が知り合いに借りられないか当たってみるわ」


 わたしは頷く。


「ひぃなは全員に連絡して、正装するかどうかを確認して。できない子の分は松田さんたちに相談しましょう。多少のサイズの違いは目をつぶってもらう」


「分かった」と乾いた声で返答した。


 幸い、うちのクラスの女子には純ちゃんを除くと極端な体型の子はいない。

 小柄な子ならわたしの服を貸せるし、平均くらいなら松田さんに頼めそう。

 それより大柄なら母親など大人に借りる手も使える。


 最初に松田さんに連絡すると、わたしのお願いを快く引き受けてくれた。

 さらに松田さんのグループのメンバーについては任せて欲しいと言われた。

 これであと7人。

 高木さんと千草さんからも喜んで協力してくれると言ってもらい、麓さんには可恋が連絡してくれた。

 正装することを渋る子もいたけど、手持ちの服を写真で送ってもらいアドバイスをすることで参加してくれる子もいた。


 ようやく目処が立ち、わたしはふと気になって「可恋はどうするの?」と聞いた。


「母から借りる」と心の底から嫌そうに可恋が言った。


 いつもであれば、「今度買いに行こうね」と喜び勇んで話し掛けるところだが、まだ反省もしていないのでいまは自粛する。

 それに気付いたのか、「まあ一着は必要だね。そのうち買いに行こう」と可恋は肩をすくめた。

 嬉しい気持ちを必死に抑えて、わたしは「うん」と頷いた。

 きっと、バレバレだったよね。




††††† 登場人物紹介 †††††


日々木陽稲・・・2年1組。将来の夢はファッションデザイナー。ご褒美デートの提案が通ってから浮かれていた。身長は秘密。


日野可恋・・・2年1組。身長160cm台後半。スカートは学校の制服くらいで、回し蹴りができない服は嫌い。


安藤純・・・2年1組。身長170cm台後半。水泳で鍛え上げられた筋肉の鎧を身に纏う。


松田美咲・・・2年1組。身長150cm台後半。女子の平均身長よりわずかに高いくらい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ