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令和元年9月6日(金)「Aチーム」塚本明日香

 最近涼しくなってきていたのに、今日は日差しが照りつけてジリジリと焼けるようだ。

 こんな日にこそ体育館で練習できればいいのに、今日は運動場だった。

 運動会が半月後に迫り、他のクラスのダンスメンバーも運動場のあちこちで練習している。

 3、4人くらいのところが多い。

 その中で、うちのクラスの7人というのはかなり目立っている。


 わたしは部活をしていない。

 理由は彼氏と過ごす時間が減るから。

 身体を動かすことは好きなので、彼氏と一緒にジョギングしたり、サイクリングに行ったりもしている。

 1年生の時も創作ダンスではクラスの主力メンバーに選ばれた。

 クラスには注目を集める日々木さんたちがいたので、わたしはあまり目立たなかった。

 それでも楽しい思い出になった。

 だから、今年も挑戦してみた。

 彼氏に良いところを見せようという気持ちもあった。


 ただ選ばれるかどうかは不安だった。

 去年、別のクラスで活躍していた笠井さんたちがいるし、他にも日野さんなどダンスが上手そうな人がいる。

 オーディションの課題のダンスはかなり難易度が高かった。

 彼氏にも協力してもらい、週末に練習を頑張ったけど、かろうじて踊れるというレベルだった。


 そんなわたしに比べて、軽々と踊っていた生徒が何人もいた。

 無理かなと思っていただけに、選ばれた時は飛び上がるほど嬉しかった。

 折角つかんだAチームの座だから、本番でもしっかりと自分のダンスを披露したい。

 彼氏の応援を励みに頑張ろうとしているが、現実はなかなか甘くない。


 笠井さん、渡瀬さん、日野さん、麓さんの4人のレベルが高すぎる。

 こちらはオーディションの課題のダンスですらまだ完璧だと言えないのに、この4人は本番用にアレンジしたダンスを既にマスターしている。

 それどころか、更に見映えが良くなるように日々振り付けを見直しているところだ。


 笠井さんはクールなイメージが強かった。

 しかし、創作ダンスに関しては熱血の塊だ。

 彼女自身のダンスも上手いけど、それ以上にチームのダンスをより良くしようという熱意がもの凄く伝わって来る。

 自分の事だけでなく、周りにも目を向けている。

 練習中はどこにでも飛んできて、こうした方がいいと教えてくれる。

 日野さんや麓さんにはキツいことを言ったりもするが、友だちには気さくな感じで接している。

 わたしも頑張りを認めてもらい、身内扱いされるようになった。


 渡瀬さんは対称的に周りにはほとんど関心を示さない。

 ひたすら練習しているが、それが楽しそうに見えるのが彼女の特徴だろう。

 笠井さん相手には笑顔を見せるものの、他の人には積極的に関わろうとしない。

 彼女の友だちの泊里が言うには、事件の影響ではなく、もとからそういう性格らしい。

 興味のあるものや人には並外れた熱意を注ぎ込むのに、興味のないものには無関心。

 ただ、それだけに好きなことへの情熱は凄まじく、ダンスへの強い思いが伝わってくる。

 それが渡瀬さんのダンスの魅力となり、見る者の気持ちを惹きつけている。


 日野さんのダンスは迫力がある。

 それに加えて、わたしにとっては日野さんがダンスをマスターする速さが驚きだった。

 振り付けを修正してもすぐに対応できる。

 他の人が何度か練習して身に付けることを、ほとんど一発でやってしまう。

 空手をやっていて、自分の身体をコントロールすることには長けていると言っていたが、プロの高難易度のダンスも完コピできるんじゃないかと思ってしまうほどだ。

 ひとつ問題があるとすれば、淡々とした印象を受けることだが、それを指摘すると「そういうことは本番でやれば十分でしょ」と日野さんは答えた。

 でも、それじゃ、一緒に踊るわたしが見れないじゃない。


 麓さんは他人を寄せ付けない空気を発している。

 これはいつものことで、平然と話し掛けるのは日野さんと笠井さんだけだ。

 視線が合っただけで、身をすくめてしまいそうになる。

 そんな麓さんだが、ダンスは素晴らしい。

 誰よりも軽やかで、誰よりも激しく踊る。

 渡瀬さんがアイドル系のダンスを極めた感じなのに対して、麓さんはストリート系のプロっぽいダンススタイルだ。


 去年のクラスでは、安藤さんや陸上部に所属する都古ちゃんが主力だった。

 安藤さんはわたしより上手くて凄いと思っていたが、今年のこの4人と比べると普通に見えてしまう。

 サイズがあるので迫力はある。

 リズム感が良く、運動能力の高さも素晴らしい。

 それでも全体として見ると普通のダンスに見えるのだから、4人が飛び抜けすぎていると言いたくなる。

 安藤さんは黙々と練習し、それをこなす体力も十分だ。

 4人に見劣りするといっても、問題なく練習にはついて行けている。


 苦戦しているのはわたしと須賀さんだ。

 ふたりともギリギリ合格といった感じだった。

 あれから必死に練習しているのに、ついて行けてるとは言えない状況だ。

 須賀さんは笠井さんから、わたしは日野さんから指導を受けている。


「変更されたところ、うまくできた?」と休憩中に須賀さんから声を掛けられた。


 Aチームの落ちこぼれ同士、話す機会が増えた。

 これまで教室の中では接点がほとんどなかったけど、話してみるとごく普通の女の子という印象だ。


「ステップを気にしすぎて、上体が疎かになってるって日野さんに指摘されてへこんでるところ」とわたしは肩を落とす。


 水分補給をしていた須賀さんが、「あー、わたしもそうかも。優奈はできてるよって言ってくれたけど、ちょっとしっくりこなかったし」と少し焼けた顔をわたしに向けた。


 噴き出る汗をタオルで拭い、「日野さんからはダメ出しばかりだよ」とわたしは愚痴を零した。


「うーん、日野さんからは筋トレを教えてもらっているんだけど、わたしができるようになるにつれ厳しく言われるようになったから、塚本さんもできるから言われるんだと思うよ」


「そうかなあ……。わたし、全然できてないよ」とわたしは顔をしかめた。


「てかさ、もう中学生の創作ダンスのレベル超えてない?」


「あー、そうかも」とわたしの言葉に須賀さんが笑って同意する。


 その笑顔を見て、須賀さんにまだ余裕があるように感じた。

 Aチームの落ちこぼれがわたしひとりだったら、途中で気持ちが折れたかもしれない。

 それほど他のメンバーと実力差がある。

 須賀さんと一緒だからまだまだ前向きに頑張れるとわたしは思った。


「そういえば、ご褒美デートの相手って決めた?」と須賀さんに聞かれた。


 なんでも、日野さんが「女子の中で塚本さんだけ誰を選ぶか推測できない」と言ったらしい。

 わたしはクラス内の人間関係に疎いので、ほとんどの意中の人を推測できる日野さんが凄いと思ってしまう。


「まだ迷ってるところかなあ」と返事をした。


 本当はほぼ決まっている。

 それを悟られないように「彼氏が反対しない相手にしないとね」とわたしは笑って誤魔化す。

 須賀さんは一瞬複雑そうな表情をしたが、すぐに「そうだね」と微笑んだ。




††††† 登場人物紹介 †††††


塚本明日香・・・2年1組。4組に彼氏がいて、休み時間などはよく行っている。彼氏との交際は中学校入学直後から始まり、いまも続いている。


笠井優奈・・・2年1組。彼氏は兄の友人で、優奈が忙しくてほったらかしにしても許してくれる心の広い人。


渡瀬ひかり・・・2年1組。中学生になってからは泊里や優奈から男と付き合うなと厳命され、守らされている。


日野可恋・・・2年1組。男女交際に時間や労力を掛けるくらいなら、他にやることがあると考えている。


麓たか良・・・2年1組。交際経験はあるが、周りの男はバカか色ボケばかりと見下している。アニキのような男がいれば……。


安藤純・・・2年1組。水泳一筋。あとは陽稲を守ること。


須賀彩花・・・2年1組。交際相手とは自然消滅状態だが、ちゃんと別れた方がいいのか悩んでいる。


日々木陽稲・・・2年1組。Cチーム。可恋とのご褒美デートのことで頭の中はいっぱいの状態。


宇野都古・・・2年4組。陸上部。よく告白されるが、恋人と友だちの違いが分かっていない。

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