令和元年9月5日(木)「私の前に立ちはだかる生徒」藤原みどり
「学校にはリーダーシップを育む教育って、ないじゃないですか。委員や長のつく役職はただの調整役であり、そういった人材しか育てていませんよね」
日野さんが棘のある視線を私に送る。
「しかも、その調整役も本当に多様な人材を生かすためのものではなく、同調圧力の下で画一化させる方向ばかり要求されます。出る杭を打ち、足を引っ張り合うのが目的のような」
昼休みの職員室に日野さんの冷たい声が響く。
今日も秋の気配が漂っているが、私の周りだけもう冬のようだ。
「えーっとですね、日野さん」
目の前に立ち、私を見下ろす日野さんに私はそう言うのが精一杯だ。
何か反論しようものなら、百倍くらいの言葉が返ってきそうだった。
日々木さんがいると自分のペースを崩されると思い、日野さんだけを呼び出したのだがそれが完全に裏目に出た。
二学期になり、クラス運営の大部分を任されるようになった。
来年度担任となる布石だ。
そこで、班を中心としたクラス運営を行うことにした。
担任の小野田先生は一学期にクラスでは班分けをしなかった。
私のやり方を示すには手っ取り早い方法だと考え、それを今日のホームルームで取り上げようと学級委員の日野さんを呼んだ。
それだけのことなのに、日野さんの反応はこれらの学校批判の言葉だった。
班単位のクラス運営なんてどこの学校でもやっていることじゃないと心の中で思いながら、「もう、決めたことですから……」となんとか自分の意思を示した。
日野さんの睨みつけるような視線は怖いが、私だってもう教職3年目だ。
生徒を恐れていてはいけない。
「小野田先生もちゃんと了承してくださいました」
胸を張ってそう言ったのに日野さんの表情は変わらない。
彼女は更に目に力を込めて「条件があります」と言い放った。
生徒の要求に屈しないと思いつつ、私は日野さんに続きを促した。
「班の人数を固定しないこと。班長を一定期間での交代制にすること。以上の二点です」
こんな風に条件を出されるなんて予想もしていなかったので、私は焦った。
日野さんの鋭い視線を浴びながら必死に考える。
班の人数は切りの良い5人ずつを考えていた。
理由を問い詰められたとしても、男女15人ずつのクラスだから切りが良いよねとしか答えようがない。
絶対に譲れないというものではない。
班長の交代制にしても、いろいろな生徒に班長の経験を積ませたいと正論を言われると反論しづらい。
交代させない理由が、そういう役割に長けている生徒の方が私にとって楽だというものでは日野さんは納得してくれないだろう。
あー、それにしても、今時の中学生はなんで素直にはいと言えないのか。
私は憤りつつ、「条件を認めなければどうするつもりですか?」と尋ねる。
日野さんの出した条件を唯々諾々と受け入れるのが癪で、あえてそう口にした。
「何もしませんよ」と日野さんは平然と答えた。
……信じられるわけがない。
そもそも彼女は担任の小野田先生や校長先生からの信頼が厚い。
他の先生方からも一目置かれている。
私に非があれば、誰も味方になってくれそうにない。
日野さんの担任なんか無理だと言えば、小野田先生からネチネチと苦言を呈されるだろう。
でも、彼女の担任を一年間も続けたら胃に穴が開いちゃいそうだよ。
生徒の自主性を尊ぶなんて言うから、こんな面倒な生徒がのさばるのよと心の中で罵りながら、「日野さんに任せます」と私は告げた。
††††† 登場人物紹介 †††††
藤原みどり・・・2年1組副担任。20代。私のクラスは、教師を尊敬し素直に従う可愛い生徒だけにして欲しい。
日野可恋・・・2年1組学級委員。この忙しい時期に余計な仕事を増やさないで欲しい。
小野田真由美・・・2年1組担任。50代。担任が主役になってはいけないのだけれど、まだまだ経験が必要ね……。




