令和元年8月14日(水)「いとこ」日々木華菜
台風の直接の影響ではないみたいだけど、今日もどんよりと曇っている。
朝から小雨が降ったりやんだりなので、ジョギング代わりの朝の散歩は軽めにして、祖父の家の一室を借りて軽く運動を行うことになった。
「よくこんな朝早くからやるわね」と初参加の従姉妹が呆れ顔で言った。
日々木愛花、わたしと同じ高校1年生。
顔は良いし、スタイルも良いし、家は裕福だし、クラスの女子ではボス格だろうなという雰囲気を漂わせている。
小学生の頃まではお兄さんにべったりで男子と一緒に山を駆け回っていたが、中学生以降はわたしたちといる時間が長くなった。
スマホなどで友だちと連絡は取れるとはいえ、この山奥でひとりは退屈だしね。
ヒナを目の敵にしていたのが、態度を180度ガラッと変え、祖父の家では親しげに接してくるようになった。
それを悪いことだとは思わない。
内心はともかく、敵対的な態度を示されるよりはずっとマシだ。
ヒナは「愛花さん」と呼んで普通に相手をしている。
わたしは……実は彼女をどう呼ぶかで悩んでいた。
昨夜の縁日からの帰り道で、可恋ちゃんが口説きに口説いて今日の朝のジョギングに参加してもらった。
まだ眠そうだが、可恋ちゃんの言葉に従って身体を動かしている。
可恋ちゃんの身体は理想のプロポーションって感じだ。
強いのにゴツゴツした感じはまったくなく、シャープに引き締まった健康的な身体は多くの女子がこうなりたいと憧れるだろう。
ふたりのやり取りを見ながら身体を動かしていたら、「華菜さんは腰回りがスッキリしましたね」と可恋ちゃんに突然褒められた。
わたしがジョギングを始めたのは1ヶ月ほど前からで、他にも可恋ちゃんから教わった筋トレを続けている。
可恋ちゃんは他人の身体をよく観察していて、これまでにも褒められたり注意されたりした。
「そう? 指一本分くらい余裕できたかなって思っていたけど……」
「しっかりカロリーを摂取しつつスマートになっているんですから、理想の身体に近付いているんですよ」
可恋ちゃんは無理せず継続することを繰り返し繰り返し話す。
リラックスして楽しむこと、体調が悪ければ休んでいいことを徹底させ、成果が表れたらこうして褒めてくれるので、わたしにも続けられた。
「確かに冬に会った時よりスラッとしたように見えるよね」と従姉妹が感心する。
「冬は受験直前だし、高校生になったら少しは垢抜けるものだから……」と謙遜した後、「あなたも高校生になって凄く綺麗になったじゃない」と褒め返した。
以前は「愛花ちゃん」とちゃん付けで呼んでいたがもう互いに高校生だ。
呼び捨てるほど仲良くないし、さん付けは他人行儀すぎる気がする。
向こうはわたしほど意識している様子はなく、いまだに「華菜ちゃん」と呼んでくる。
彼女は「これでも苦労してるのよ」と眉を寄せ、「昨夜は食べ過ぎちゃったけど、結構ダイエットしたり……」と言ったところで可恋ちゃんが「ダイエットは辞めた方がいいですよ」と話を遮った。
「でも……」という反論を許さず、「極端に太った方なら別ですが、標準体型の方のダイエットはメリットはほぼなく、デメリットばかりが生じます。脂肪より先に筋肉が落ち、基礎代謝が低下するので太りやすくなります。肌荒れや便秘など体調面の悪化も著しいです。狙った部分の脂肪を落とすなんて都合の良いことはできませんし、百害あって一利なしです」と可恋ちゃんがまくし立てた。
こういう話になると可恋ちゃんは熱くなる。
「わたしは可恋ちゃんに教えてもらって栄養の勉強を始めたけど、食事を減らすよりもバランスを考え、適切なタイミングで摂取すれば、副作用なく体型を維持向上できるって分かったよ。その上で適度な運動をすればより効果的だね」とわたしは可恋ちゃんをフォローする。
「人間にとって諸悪の根源と言えるものがストレスです。肉体的にも精神的にも病気を引き起こしますし、人間関係など他の方面にもマイナスの効果を与えます。もちろん、社会的に生活している以上ストレスをゼロにはできません。しかし、無駄なストレスを減らすことは可能です。痩せたいという欲求を放置することもストレスですが、食事制限は非常に大きなストレスになりますし、その副作用の肌荒れなどもストレスに直結します。しかも、ゴールの設定のない食事制限はストレスが溜まる一方で必ずどこかで破綻します。先程も言いましたが筋肉量が減少すれば基礎代謝も下がり、リバウンドしやすくなります。太れば当然ストレスですよね。こうして心身のバランスを崩す女性が大量にいるそうです」
受験の時、ストレスを強く感じてイライラした。
わたしにとってストレス発散の場になったのが料理で、受験前でもほぼ毎日台所に立っていた。
「ダイエットの代わりが筋トレな訳?」と疑わしげに従姉妹が言った。
「筋トレにも欠点はありますし、筋トレだけで理想の体型が作れる訳ではありません。例えば、正しいトレーニングをしなければかえって身体を痛めてしまうことがあります。稀には大きな怪我に繋がることもあります。しかし、その点にさえ注意すれば少ないリスクで成果を上げられます」
可恋ちゃんはそう言ってニッコリ笑うと「ですので、いまここで正しいトレーニングの基本を身に付けてしまいましょう」と言葉を続けた。
「有酸素運動は高校生なら普通に生活していればそれほど気にしなくてもいいと思います。むしろ食事の見直しが理想の体型作りに効果的です。その辺りは華菜さんに聞いてみてはどうですか?」と可恋ちゃんが話を振ってくれた。
「わたしでよければ教えるよ」とわたしは従姉妹に声を掛ける。
彼女が頷くのを見て、これをきっかけにもう少し仲良くなれればいいなと思った。
お昼を少し過ぎた頃に可恋ちゃんのお母さんが車で迎えに来た。
「長々とお世話になりました」と恐縮する可恋ちゃんのお母さんに、「彼女のお蔭で本当に助かりました」と祖父やわたしの両親が何度も頭を下げた。
夜も仕事があるという可恋ちゃんのお母さんを長く引き留めることはできず、たくさんのお土産を持たせてお別れした。
「キャシーの機嫌を取ってくる」と可恋ちゃんは笑って帰って行った。
ヒナに寂しくなるねと言うと、なにか企むような表情をしている。
そして、わたしを見上げると、「お願いがあるの」と切り出した。
††††† 登場人物紹介 †††††
日々木華菜・・・高校1年生。午前中は夏休みの宿題をしている。難関の英語を可恋ちゃんに教えてもらう禁断の手に出た。
日々木陽稲・・・中学2年生。午前中は夏休みの宿題をしている。計画通りに実行中。
日々木愛花・・・高校1年生。夏休みの宿題はそろそろエンジンをかけないとヤバい状況に。流れで今日は華菜たちの勉強に参加し、華菜が可恋に教えてもらう姿を見て驚いた。(華菜の高校の英語のレベルの高さにも驚いた)
日野可恋・・・中学2年生。夏休みの宿題はすべて終わっている。読書の予定だったが華菜さんと英語の勉強をすることに。
今日で本編開始から100日目となりました。




