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令和元年7月26日(金)「彩花」笠井優奈

 夏らしい日差しが突然襲ってきた。

 蒸し蒸しして暑さに慣れていない身体に堪える。

 アタシたちを呼び出した美咲は、最初近くの公園に集合と言ってたが、この照りつける太陽の下にいることは耐えられそうになかったので、急遽美咲の家に集合場所を変更した。


「今日、来てもらったのは彩花のことよ」


 深刻そうな顔で美咲が言った。

 集まっているのは彩花を除くグループのメンバー。

 美咲、アタシ、綾乃、ひかりの4人だ。


「何かあったの?」


 思い当たる節がなかったアタシが美咲に尋ねる。


「昨日の夜、彩花から電話があって、明日のファッションショーの見学に行けないかもって……」


 美咲の言葉にアタシと綾乃が眉をひそめる。


「どうやら昨日、付き合っている人から何か言われたようで落ち込んでいるみたいなのよ」


「何かって?」と尋ねるが、「そこまでは言ってくれなくて」と美咲が答えた。


 明日は文化祭の参考にするため東京までファッションショーの見学に行く。

 ほぼクラス全員が参加と聞いている。

 当然、彩花と付き合い出した男子も参加予定だ。

 今はまだ顔を合わせづらいということだろう。


「やっぱり、みんなで行きたいよね」と美咲がアタシを見る。


 彩花もファッションショーを楽しみにしていた。

 アタシだって、みんなで行けた方がいいと思う。

 それに、彩花が付き合い出したのはアタシが背中を押したせいでもある。

 本当は少し時間を置いてからの方がいいと思うが、今はそう言ってられない。

 アタシはスマホを取り出し、その男子に電話する。


「……出ない」


 メッセージアプリでかなりきつめの言葉を送りつけておく。

 仕方がない。

 この男子と仲の良かった男子にも連絡してみる。

 こちらとは連絡が取れた。


「彩花と付き合ってるのは知ってるよね?」


「うん」


「ケンカしたとか何か聞いてない?」


「うーん、特には……」


「今どこにいるか知らない?」


「聞いてない」


 役に立たないなと思い、「アイツと仲の良い男子って他に誰がいるの?」と尋ねる。

 返って来た言葉は別のクラスの男子の名前だった。


「ありがと。聞いてみる」


 電話を切って、すぐにその男子に連絡する。

 彼は彩花の彼氏がどこにいるか知っていた。


「今日は釣りに行くって言ってたけど」


「釣り? 趣味なの?」


「アイツ含めて何人かでよく行くよ。今日俺は用事があって行けなかったけどね」


「付き合ってる子のこと、何か話してなかった?」


「ああ、彼女連れて来るとかなんとか自慢げに言ってたなあ。何かあったの?」


「ちょっとね。いろいろ教えてくれてありがとう」


 退屈そうなひかりとは違い、美咲と綾乃はアタシを食い入るように見ていた。


「彼氏から釣りに誘われて、断ったら文句言われたってのが正解みたいね」とアタシは推論を述べる。


「ひどいわね」と美咲が眉をつり上げると、綾乃もコクンと頷いた。


「ガキだから仕方ないよ」とアタシは嗤った。


「それで、どうするの?」と綾乃が尋ねる。


「彩花と会って話すしかないね」とアタシは言って美咲と綾乃を見る。


 ふたりは頷いた。

 そして、アタシはふたりに策を授けた。




 彩花の家は普通の二階建ての住宅だ。

 美咲の家はちょっとした豪邸って感じだが、アタシとしては彩花の家の方が落ち着く気がした。

 こぢんまりとした家の造りが彩花らしいと言えば怒られるだろうか。

 チャイムを鳴らすと、しばらくしてから彩花の声がした。


「美咲です。話がしたいのだけど、いいかしら?」


 ためらっているような時間のあと、「ちょっと待ってね」と彩花は返事をした。

 少しして玄関の扉が開き、彩花が顔を出す。

 やや元気がなさそうだが、やつれたというほどではない。


「わたしの部屋は狭いから、ここでいいかな」と食卓に案内された。


 4人掛けのテーブルに、5人目の席として他と違った椅子がひとつ置かれていた。

 アタシは近くのコンビニで買って来たお菓子をテーブルに出し、ペットボトルを並べた。


「彩花、好きなの選んで」とアタシが言うと、「ありがとう」と言ってミルクティーを手に取った。


 彩花と美咲が対面で座り、彩花の横に綾乃、美咲の横にアタシが座る。

 お誕生日席のようになった場所にはひかりが座った。

 全員が席に着くと、一瞬気まずい空気が流れた。


「ほら、食べて」とその空気を追い払うようにアタシがスナック菓子の封を切る。


 ひかりだけが「これ、おいしいね」といつものテンションで話している。

 アタシはひとつ息を吐き、単刀直入に切り出した。


「釣りが原因?」


「え? あ、うん……」と彩花は口籠もった。


「アイツとはまだ連絡取れてないんだけど、アイツの友だちから釣りに行ってるって聞いて、そうじゃないかって思ったんだ」


 アタシの言葉に彩花は俯く。


「釣りに誘われて断ったんだよね? 何か言われたの?」


「急な話だったし、釣りなんてやったことないし、他は知らない男子ばかりだし、行けないって言ったら……」


 彩花は辛そうに話す。

 ひとつだけでも断って当然の理由がこれだけあるのに、断って文句を言うとかありえないだろう。


「舌打ちされて、最悪とかもういいとか言われて……」


「別れちゃえば」


 彩花の言葉を遮るようにアタシが言った。

 彩花は「え?」と驚いて顔を上げた。


「付き合えばって言ったのはアタシだけど、こんな風に彩花が悲しむのなら付き合う意味がないもの。お試しのようなものなんだし、彩花ならもっと良い相手が見つかるよ」


 アタシの言葉に彩花はまた俯いて黙り込んだ。

 アタシはテーブルの下で美咲の足を小突く。


「まだ付き合い始めたばかりなのに、別れるなんて早過ぎない?」


「彩花を傷付けただけでなく、彩花を放り出して遊びに行くようなヤツはさっさと振ればいいのよ」


 美咲の言葉をアタシがバッサリと斬る。


「彩花は彼に自分の気持ちをちゃんと伝えたの?」と美咲は優しく彩花に尋ねる。


 彩花は俯いたまま首を横に振った。


「責めているわけじゃないの。ただ、ちゃんと伝えないまま別れていいのかなってわたしは思うの」


 美咲の言葉に続いて、綾乃が手を伸ばし、彩花の腕を掴む。


「私はいつも彩花の味方だよ」と綾乃が珍しく感情を高ぶらせて伝えた。


「うん、ありがとう」と彩花が顔を上げ、綾乃を見つめる。


 彩花の気持ちが浮上してきたように見える。

 少なくとも、くよくよと悩んでいた雰囲気は消え去っていた。


「みんな、ありがとう」とひとりひとりの目を見てそう言った彩花からは決意が感じられた。


「彩花、強くなったね」とアタシが言うと、「そうかな」と彩花は首を傾げた。


 しかし、美咲も綾乃も「強くなったよ」と彩花に言うと、「そうかな」と彩花は小さく笑った。


 タイミング良く、彩花のスマホに着信が入る。

 彩花は画面を見て、「彼から」と言った。

 心配そうに見るアタシたちに「話してくる」と言って席を立つ。

 おそらく自分の部屋に行ったのだろう。


「呼び出して、全員で吊し上げようと思ってたのに、残念だわ」とアタシが言うと、美咲は苦笑し、綾乃は頷き、ひかりはキョトンとしていた。




††††† 登場人物紹介 †††††


笠井優奈・・・男子の友だちがやたらと多い。一方で、歳上の彼氏とは意外と長く続いている。


須賀彩花・・・夏休み直前に告白されて付き合い始めた。お互いにとって初めての男女交際。


松田美咲・・・告白されることは多いが、男女交際には奥手。憧れはあるが、優奈からは焦る必要はないと言われている。


田辺綾乃・・・交際経験はあるが、いずれも長続きしなかった。


渡瀬ひかり・・・中学生になってからは三島泊里や笠井優奈にガードされて男子との付き合いはない。このふたりからは「悪い男に引っかかるタイプ」と思われている。

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