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絶海の孤島! 猿の群れに遺体を食べさせる葬儀島【猿噛み島】  作者: 尾妻 和宥


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16.「某九州大学の民俗学の教授が、ここの風習を嗅ぎつけてな」

「おまえたちはここまででけっこうだ」と、平泉は若い漁師二人に言いつけた。「ご苦労だったな。船んなかで待機しててくれ。小一時間ばかりかかる。さっき、みすずさんから謝礼をいただいた。ほれ、もらっとけ」平泉はポケットから封筒を出し、漁師に押しつけた。

 二人は友之の遺族たちに頭をさげると、船にもどった。彼らはあくまで棺を運搬するだけの男手にすぎなかったようだ。


 平泉はモノレールを始動させようとした。

 リコイルスターターロープを勢いよく引っ張る動作をくり返した。五度目でエンジンがせきこみ、しぶしぶかかった。


「……やれやれ、今日は機嫌がいいようだ。たまに駄々こねて、階段を行く羽目になることもあるんでね。そんなときは当たり日だ。えてして上でもロクなことがない」

「上、か……。さぞかし愉快な場所ではないんだろうな」


「へいちゃらなんだね、兄さん」と、平泉が目尻をさげて言った。「度胸あるよ。ふつう、はじめての人間はビビってしまい、ここでグズグズするっていうのに」

 交野は肩をすくめた。「虚勢ですよ、虚勢。そうでも思わないと」


「まえに、某九州大学の民俗学の教授が、ここの風習を嗅ぎつけてな。いくら口外はゆるされないことになってても、戸板のすき間から水が漏れてしまうこともあるもんだ。どうしても取材させてほしいと頼みこんできた。こっちも禁忌の場所を暴かれるわけにはいかないと突っぱねたんだが、しつこく食いさがってきた男でな。しまいには大枚を積んできた。たいした額だったよ。それで折れたわけじゃないが、熱意に根負けして、同行することをゆるした。特別にね。で、やっこさんを上まで招待したはいいが」


「平泉さん」と、清彦が苛立たしげにさえぎった。「まだ葬儀の途中じゃないか。油売ってないで、先を急ぐべきじゃないかな。親父だって喜ばないと思うんだ」

「だな……。そうしますか」平泉は悪戯いたずらっぽく舌を出した。「この話の続きはいずれ」後半のフレーズは、交野の耳もとでささやいた。

「気持ちのいい話じゃなかったら、次は遠慮しますよ」


 咲希が思い出したように手を叩いた。

「そういえば、上で水をまく必要があるんだったわね。火事になるといけないから。わたしがんできます」


「そのとおり。バケツは小屋んなかだ。入って真正面」と、平泉は示した。小屋の引き戸は施錠されていないらしく、勝手知ったる様子で咲希はバケツをつかむと、海水を汲みに波止場へ走っていった。

 平泉はその間、モノレール上に固定した棺がずれ落ちないか、入念にチェックした。咲希が水を張ったバケツを手に戻ってくると、それを棺のわきに置き、モノレールを発進させた。そろそろと、白木の棺が慎重に運ばれていく。

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