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銀河連合日本  作者: 柗本保羽
銀河連合日本外伝 Age after
97/119

銀河連合日本外伝 Age after ― 悠遠の王国 ―  第六話

今回、色々と書きたいこともあって、少々長めの外伝になっております。

次話ぐらいで終話ですかな?(笑


よろしくお楽しみ下さい。

 ――日本国東京都大島町沖、イゼイラ星間共和国領ヤルバーン特別自治州・日本国治外法権区・通称リトル・ヤルマルティア――


 その場所、一時は政府職員しか往来できない区画であったが、今や日本とヤルバーンの観光中核地として栄えており、現在は審査を合格した外国人、即ちLNIF陣営加盟国の往来も可能な場所になっていた。

 かつてこの治外法権区ができた時、当時の政府職員達が仕事を終えた後、ヤルバーンティ連人やらを飲みに誘っていた定番の官営居酒屋「ぼだ~る」も、今や民営化して日本国内に店舗を展開していたり。

 その「ぼだ~る」民営化の影響を受けて一番困った連中が日本最強のメカヲタ軍だ……日本最高峰の技術頭脳集団、防衛省防衛装備庁・ヤルバーン・ティエルクマスカ技術・装備応用研究所。通称『ヤル研』だった。


 「ぼだ~る」が民営化されてしまうと、規制緩和のリスクという奴で、この店にも世界各国の間諜共がウヨウヨ流入してくるだろうという話になって、ヤル研のみなさんは所謂『会議』にぼだ~るが使えなくなってしまった。それでどこか良い会議場所がないかと探していたわけだが、今から二年ほど前にシエからの紹介という事で、新たな会議場所として彼らに選定されたのが、このヤルバーンに店を移転してきたということで飲食雑誌でも大きな話題になった、かの新宿で名を馳せた有名店『瀬戸かつ』であった。


 ということでその『瀬戸かつ』

 ガラと戸を開けて入ってくるその人物、現ヤル研開発統括部長の沢渡耕平であった。彼は今も君島重工から出向の身でありながら、この部署において三佐待遇で活躍していた。


「らっしゃい! って、あ、沢渡さん。もうみなさん二階でお待ちですよ」


 威勢のいい掛け声は、この店の大将『瀬戸譲治』である。ちなみに彼の一人娘は今、イゼイラ留学制度試験に合格してイゼイラへ留学中。


「どもども大将。って、おっと電話だ……」


 店に入るなり懐がバイブレーションで震える。

 カウンター席をちょっと借りて、懐からスマホをまさぐり出す。

 画面を見ると、発信者に『オルカス』と書かれていた。


「はい、あ、オルカス? ああ、今から会議。うん、今日はこっちで食べていくよ、ごめんね……うんそう、その件でね。忙しくなりそうだ……はい、わかりました。場所は例の場所。何か買って帰ろうか? あ、あれね、ハイハイ了解。……んじゃね」


 プっとスマホを切る沢渡。


「新婚早々忙しそうで大変だね、先生」

「いやはや、でも今回の『会議』はちょっとね……」

「みたいだねぇ。よくわかんねーけど、いつも明るいみなさんが、今日はちょっと深刻顔みたいだからね」

「ええ、っと、んじゃ上がらせてもらいます。今日は酒ナシで」

「はいよ、わかってまさ」

「あそれと、帰りに持ち帰りでカツカレー丼弁当、えっと、二つお願いします。はは」


 と、いつもはまるで新しいオモチ……日本国の誇りを具現化するような新装備を考える彼らも、普段通り仕事の延長で、本日はこの『会議室』にやってきている。

 なので今日は、どうも脳天気モードナシのようだ。


「やぁみんな、ご苦労さん。もう全員集まったかな?」


 「ウス」という感じで諸氏本日は真剣顔。卓には熱い日本茶が置かれている。


「早速で悪いけど、四日前に各方面に配った資料、検討お願いしていた件、何かアイディア出た?」


 するとヤル研研究者の一人が、


「いや部長、柏木さん達がまさかこんな状況になってるなんて」

「ええ、そうですよ。私もニュースで『イゼイラ訪問が延期になった』って聞いて、あれ? イゼイラに行ったのになんでイゼイラ訪問が延期なのか? って首を傾げましたが、まさかこんな……」


 研究員諸氏、いつもの軽口もなく、真剣な表情だ。


「まあ今はそれを論じても仕方ないさ。どっちにしても柏木さんとニーラ副局長の依頼。これ、俺達の存在価値を試されるような課題だからな」

「ええ……『17世紀レベルの文明人が、自然に使えるような量産し易いティ連型機動兵器を何か考えてくれ』……って、ええええっ? って思いましたけどね」

「フっ、ここまで言われて『できません』とは言えんわな。で、何か考えてきたんだろ?」

「ええ。ま、これを見てく下さい……これは『日光建機』の派遣グループ連中が考えたアイディアなんですがね、はじめ見た時は笑いましたが、でも滅茶苦茶画期的ですよ。もしこの装備が一九三九年のポーランドにあったら、第二次大戦は起きなかったかもしれませんな、はは」


 その図面をVMCモニターで見る沢渡。他の研究員も一緒に覗きこんだり。


「こりゃ……はは、なるほど、こういう発想かぁ……伊達にツーハンドのユンボ作ってないな」

「確かに、この発想はなかったぜ」

「これなら、その……ハイラ人っていうのか? その文明人も使えるだろ」

「んじゃ、この方針でハイクァーンデータ作成ということで」


 さて、ヤル研も今回の事件、何か一枚噛んできたみたいだが……何をやらかすのだろうか……


    *    *


 ハイラの城下町バルベラ。ここは海と山に挟まれた豊かな町である。山側には現在、作戦参謀本部が置かれているガイデルの居城、バルベラ城がある。居城とはいえ、今は民主共和制に近い形態の選挙君主制国家。立憲君主国家にはまだちと遠いハイラ王国であるからして、見た目は城だが、現在はどちらかというと『国王公邸兼、官邸』といったイメージが強い。ちなみにこの城の次期城主になるはずだったサスアも、ガイデル達の政策方針に賛同して城を公に明け渡し、今は城から少し離れた場所にある、前国王がよく使っていた国王専用の保養施設、兼別荘を自宅としていた。


 さて、そんな城下町であり、港町の沖にドッカリと浮かぶは航宙護衛艦「ふそう」。

 その格納庫に招待されているのは、フェルの実妹メルフェリア。


「うっひゃぁぁぁぁぁ!」


 こんなデッカイ船になんざ乗ったことないメルちゃん。大声あげて格納庫を行ったり来たりうろつきまくる。

 

 大きく足を広げて、ビシと指差し、「こここ、こ、これがキョクリュウっていうキドーヘイキ?」

 大きく足を広げて、ビシと指差し、「こここ、こ、これが、ばずらーっていう、キドーヘイキ?」

「これなに? あれなに?」と目をギラつかせ、


《ポチ》【ブー!】「あ」「だれじゃぁ! ウィンチ勝手に作動させたやつぁ!」《ピュン!》


 珍しいもの見ては質問浴びせまくり、目の前にあるものは反射的にポチり……怒られる。

 だが、流石にメルは先にこちらへ招待されたサスアほどティ連技術音痴ではないようで、ヴァズラーやトランスポーターの存在は、知識だけでいえば知っているようだ。ただ、現物は始めてみるわけなので、相当はしゃいでいるようだったが。

 

「もうメルちゃん! そんなとこ触っちゃダメでしょ! 爆発したりするものもあるのですから」

「ふぁい。ごめんなしゃい……」


 メルフェリア、初の「お姉ちゃんに怒られたの図」である。

 こういう時の姉妹というものは、初めて姉妹とわかった間柄でも、感性が合えば自然に姉妹してしまうものなのだろうか。


『はは、フェル、そこらへんで許してやれよ。初めて見るものばかりじゃ、仕方ないさ』

「ム~……まー、マサトサンのお顔に免じて、今日は許してあげます」


 ちょっと姉貴目線のフェル。まんざらでもない様子。

 ……ということで、メルにふそうへ来てもらった理由。それは先のヤル研連中が柏木の注文に応じたハイラ人用の機動兵器を緊急で製作してくれたという話。その試作品を使用してみて欲しいということで、ここはハイラ人ではないが、この世界の武に秀でたメルを呼んだという次第。


「でさ、マサトのおっちゃん。なんでパイラも一緒なの?」


 「パイラ」とは、メルの愛馬のことである。「愛馬」つまり「馬」と体裁上表現しているが、この動物の正式な名称はハイラ語で『ボルダ』というらしい。その通り地球人視点でいう『馬』に準じた性質の動物だ。大きさもサラブレッド程はある四足動物である。

 力強くしなやかな体を持つ美しい動物だ。地球人がこの動物を一目見れば、欲しがる人もいるかもしれない。

 地球原産の馬に比べても性格は従順で、犬のように人へよく懐き、動物学的には、地球人視点で見れば、馬よりは『鹿』に近い動物らしく、角もある。そこに器具をひっかけて操るのだそうだ。ちなみに『馬鹿』にかけているわけではないので、誤解なきよう。


 愛ボルダと呼称するのも何なので、便宜上「ふそう」クルーは、このボルダという動物を代名詞として『馬』と呼んでいるが、そのメルの愛馬であるパイラ号は、彼女の世話が良いのだろう、非常に良く人に懐いていて、柏木が餌をやると顔を舐めてくる。彼もちょっとタハハ顔。


『メルちゃん、このパイラ号だけど、体に色々くっつけても嫌がらないか?』

「え? 大丈夫だと思うよ。式典なんかでボルダ用の鎧も付けるしね。こないだのヂラール戦でも鎧付けさせたよ」

『なるほど、んじゃ大丈夫だな。了解了解……ではニヨッタ副長、このボルダという生物の生態データは?』

「はい、取得しております。ヤル研のデータも届いていますよ」

『そうですか、では、お願いできますか?』


 柏木がそう言うと、パイラ号の体に、ボルダ用の特性ゼルクォート。即ちPVMCGが装着される。


「おっちゃ~ん、パイラをどうするの?」


 可愛がっているパイラ号を少し不安げに見つめるメル。

 横ではその内容を知るフェルが、メルの背後から両肩を持ってこちらもニヤニヤ。


『まあみてなよメルちゃん……よし、お願いします!』


 柏木の掛け声でハイクァーンの仮想造成粒子光がパイラを包み込む。

 

「うわわわ、パイラぁ~」


 手をばたつかせてパイラ号に近寄ろうとするメル。


「ウフフ、大丈夫ですよメルチャン」


 まぁまぁとメルを宥めるお姉さん。

 とそんな情けない声をあげるメルだが、パイラ号を包み込む仮想造成光は、その体に何かを装着するように物体を形作っていく。

 しばし待つと……


『うおっ! こりゃ!……想像以上にカッコいいな! すごいすごい!』

「はりゃ! これは本当に想像していたよりもスゴイですね!」


 手をたたき思わずガッツポーズする柏木。フェルもピョンピョンして手を叩く。

 周りのスタッフからも「おおー!」と声が上がる。他、「流石ヤル研のヲタパワー」と禁句を言ってる奴もいたり。


「はれれれれ! なにこれなにこれ! すごいいいい!!!」


 メルもスゴイ姿に変わったパイラ号に大興奮だ。

 さて、ヤル研の趣味と実え……柏木連合議員のオーダーを忠実かつその上をいく完成度で達成したそれは、一体何かというと……


『これはね、通称【ホース・ローダー】っていうんだよ』

「ほーすろーだー?」


 そう、柏木のヤル研への注文『一七世紀レベルの文明人でもすぐに扱える機動兵器』『可能な限り早期に普及させられるもの』という発注に対し、彼らが返してきた回答は、所謂この世界の乗用動物、つまり『馬』に装着するロボットスーツ、いや、パワードスーツだった!

 所謂馬用コマンドローダーだ。今、パイラ号はパカパカという足音にウォンウォンという音をまとい、体についたその器具を何かとても気に入っているようである。

 それもそのはず、まずロボットスーツなので、装着するストレスがほぼ無く、パイラ号は今、とても体が軽い感覚になっているはずである。恐らくその感覚が気持ちいいのだろう。


『で、メルちゃんもこれ着て……』

「へ?」


 メルにも現在装着してもらっているハイラ様式の鎧に合体させる形で、コマンドローダーユニットをPVMCG造成装着してもらう。光に包まれるメルフェリア。

 ただのハイラ様式の鎧をコマンドローダー化させた『ハイラ鎧型コマンドローダー』を装着したメル。


「うわわわわ、なにこれなにこれ! 体が軽いよ! 鎧の重さ全然感じないよ! うははは!」

『おおおおい! 落ち着け落ち着け!』


 そのコマンドローダーを装着してウィンウィン音させ踊り出すメル。そんな彼女をどうどうと諌め、この装備についてニヨッタがメルに説明していた。

 とはいえ、んな難しい理屈をメルに教えても「ナンジャラホイ」となるのはわかりきっているので、とにかく実地訓練でということで、ハイラ騎士団の所有する、だだっ広い軍事教練場にやってきて、騎士団諸氏集めてデモンストレーション。メルにはとにかく自由に、すきなように動き回ってくれと言ってある。

 メルはパイラ号の鞍に腰を落とすと、股間から尾てい骨、背中にかけて何やらカキョンと固定されるに感覚に気づく。


(あり? お尻が固定されちゃったよ)


 フンとあぶみに力を入れて立ち上がると、固定具がカコっと外れ、また座るとカキョンと固定される。


(な~るほど、一定の力で外れるようになってるのかぁ)


 即ち、馬からそう簡単に落馬しないよう臀部が半固定される仕組みになっているのだ。これがこの兵装、正式登録名称『試製18式自動甲騎』と呼ばれる物。

 「はあっ!」っとメルがパイラ号に拍車をかけて走りだすと、彼女はその強烈な加速に体を置いて行かれそうになる……(うわわわ!)と思った瞬間、メルのコマンドローダーが彼女の体勢を感知し、クンと自動で体の安定をアシストする。


(あわわわ、す、すごーい!)


 即ち、10式戦車などで使用されている砲制御スタビライザーシステム的な原理を応用し、乗馬するものは常に完璧な体制で、静止した馬上にいるかのごとく制御されるので、両手を手綱から外しても意に反して落馬することは決してなく、また騎手の体の動きを馬のロボットスーツへ伝達し、体の動きで操馬することも可能なので、武器使用の自由度も高く……


(よし、これでっ!)


 メルはブラスターライフルを全速力のパイラ号から的へ浴びせかける。すると、まるで一流の武士がやぶさめで弓を的へ射掛けるが如く次々にメルは標的を吹き飛ばしていく。

 広い騎士団訓練施設を駆け抜けるパイラ号とメル。大見がスピードガンでパイラ号の速度を計ると、なんと最大瞬間速度、時速一二〇キロメートルにも達していた。

 「おおー!」と、その素早さと安定性に驚くハイラ人騎士達。

 次にメルはブラスターライフルに装着された銃剣を展開する。

 銃剣はただの銃剣ではなく、剣の刃がそっくり欠けたような部分の両端端子からエネルギー状の刃が形成され、切っ先の物理的刺突と、エネルギー刃の溶断が行えるようになっている。メルはブンブンと槍のようにブラスターライフルをぶん回すと、

 ズラっと列にして並べられた木製ポールをズバスバと切断していく。


(なるほど、この武器はボルダ騎乗戦でも扱いやすいな)


 メルのデモンストレーション訓練はまだ続く。

 彼女はとにかく天賦の才か、サスアの教えが良かったのか。センスがいい。このパワード化されたパイラ号やコマンドローダーにもすぐに慣れた。いや、慣れたというか、小難しい操縦方法がいらないため、すぐにローダーの使い方が把握できたといったほうがいいだろう。

 さて最後は、メルの要望で造られた特注武器だ。T字状の剣の柄と鍔だけのようなものを背中から抜き出す。その大きさは両手持ちの大きさで、かなり大きめのものだ。

 その柄を両手で構えると……仮想造成された剣の刃がギラと輝いてズァっと伸び、形成される。

 その長さ、メルの胴と足の長さを足したぐらいの幅広く斬馬刀クラスの長いロングソードだ。

 流石にどっかの黒い剣士が持つような大雑把で鉄塊のような剣ではないが、メルはコマンドローダーのパワーに任せて普通なら両手でも扱いにくいその剣を片手で軽々振り回し、宙にぶら下げたヂラール状の板切れをズバズバとたたっ斬って行く。

 更には空いたもう片方の手で、柏木からもらったM9拳銃を的めがけてバンバンとぶっ放す。

 ……と、そんな感じで広場をさんざん走り回ったあと、スタート地点に戻ってきた。


『おおー、スゲー! メルちゃんすごいな! 見事な演舞じゃないか』

 

 柏木が感動してパンパンと手を叩く。


「ほぇー、メルちゃん、それでシエに負けたのですか!?」とフェル。

『いや全くだ。特危にスカウトしたいぐらいだな。一騎で機動戦闘車並の戦力だ』と大見。


 サスアも騎士団を統括する司令官としてその様子を見に来ていたようで、彼も相当驚いたような顔で観覧席のような場所から多川やシエと何やら話をしているようだった。

 そして、彼はメルの方を見てニッコリ笑う。メルもサスアの方へロングソードを振っていた。

 パイラ号から颯爽と降りるメル。そこに集まる騎士団員。

 このデータをヤル研から受け取ったニヨッタは、


「他、この装備では、携帯型のブラスターキャノンや、携帯型重力子兵器、ヤルマルティアの武器で『ムハンドウホウ』というものや、『タイブツライフル』に『ケイキカンジュウ』というものを扱えます。そういった装備用のアタッチメントもありますから、後ほどその使い方も訓練していただきます……」


 ニヨッタはその他騎士団員に『パーソナルシールド』も使用可能だと告げる。特に今回の場合、軍用のパーソナルシールドを展開するわけで、相当強化されたものである。ヤルバーン乗務員が、かつて使用していた政府職員用のものとは格段に防御力が違うものだ。


 さて、そんな感じでヤル研諸氏も面目躍如……かどうかは知らないが、今回の件、即ちメルの協力で、ティ連科学を知らない彼らでも扱える機動兵器の開発にはどうやら成功したみたいではあるので、なんとかあの化物にも対抗する手段は確保できた。藤堂はヤル研の開発したその仮想造成データ装備一式を記録したPVMCGの量産を急ぐよう指示する。

 とりあえずはメルの騎士団とサスアの部隊分は生産できたので、早速支給して訓練に入ってもらったのだった……


    *    *


 サスアやメル達騎士団が訓練をする最中、テントでミーティングをする柏木達。 

 色々と現状を話し合うが、結論として、とりあえずこの世界への機動兵器普及も目処はついたが、それでもまだまだ準備は足りない。

 次の攻撃で、ヂラールが惑星サルカス全域で展開すると、犠牲者はかなりの数になるだろうと予想できた。

 この『ホースローダー試製18式自動甲騎』のPVMCG一式をこの世界へ普及させるにはあまりに数も足りないし時間も足りない。

 しかも仮に18式自動甲騎が全国家に行き渡ったとしても、もし敵が旭龍や旭光Ⅱクラスの機動兵器を擁して来た場合、流石に18式で抗いきれるものではない。


「やっぱり抵抗する以上のことは出来ないか、現状は……」


 そう漏らす柏木。シエも、


「ソウダナ。現状デハ『防衛総省軍ノ到着マデ持タセルコトガデキル戦力』ダ。アトハ軍ガドウイウ動キヲシテクレルカ、早ク把握シナケレバ……」

『その点は今、香坂さんにお願いしていますよシエさん。もうすぐ報告が来る頃だと思うんだけど……』


 と、そんな話をしていると、何かテントの中に、良い香りが漂ってくる。日本人にはお馴染みの匂い。そしてティ連人が大好きな匂いだ。


『クンクン……オ? コノ匂イハ』とシエ。

「おう、この匂いといえば……」と多川。

「あ、もうそんな時間ですか。はは」と柏木。


 テントを出ると、案の定フェルが大きなズンドウで、神聖なる食事、カレーライス『フェルさんネオ・はいぱーすぺしゃる』を作っていた……一体何が『ネオ』なのかというと、サルカス世界の食材を使っているからだそうだ。


「みなさん、そろそろ一息ついてお食事にするですよ~」


 フェルがエプロン姿で食器をカンカンと叩く。

 大見達特危隊員がサポートに回る。カレーの支度をするは、航空自衛隊の誇る炊事車である。ちなみに陸自の所有する野外炊具1号は牽引式車両だが、この航空自衛隊の炊事車は自走式車両である。

 騎士団諸氏、嗅いだことのない匂いもあって、一体何を食わせてくれるんだと興味津々。サスアは先にレトルトを喫飯していたので、この食事の旨さは身にしみて知っている。とてもご機嫌な顔だ。


 ということで、メルにも白い米飯の上から、ルーがてんこ盛りで盛られ、お姉ちゃんからハイと渡される。


「どうぞメルちゃん。食べてみて」


 クンクンと匂いをかぐメル。


「とても良い匂い~。だけどこんな匂い初めてだよ……おいしいのかな?」


 するとサスアが


「メル、この食事は想像を超えたおいしさだ。とにかく食べて見ればいい」

「うん。じゃあ……」

 

 スプーンですくって口にパクリと入れるメル……すると途端に眼が星になり


「おほ…………う…………うまぁ~~…………でも辛い~~」


 パクパクとスプーンを進めて、ものの数分で大盛り一杯目を平らげるメル。


「お、お姉ちゃん。おかわり!」

「はいはい、ウフフ」

「おいおいメル、まだこれから訓練もあるんだぞ、ほどほどにしとけよ」


 サスアもメルの食いっぷりを微笑ましく見ていたり。


「この世界でもカレーが受け入れられるか……フフ、面白いもんだ」


 柏木もフェルの新作に舌鼓打ちながらそんな感想を一言。横で一緒に飯食う多川は、


「柏木さん、あの炊事車や、陸自の野外炊具もハイクァーンで量産しておいたほうがいいな」

「ええそうですね。戦闘になったら、ハイラ国民の為にも必ず必要になる装備です。空自さんの炊事車は軍では使いやすいですが……」

「そうだな、空自の自走式はハイラ人が使えない。ならハイラに供給するのは陸自の野外炊具の方か」

「ええ、アレなら、あの18式ホースローダーのボルダ使えば余裕で引っ張れます」


 この炊事車や野外炊具はもし激戦になった場合、そして戦いが終わった戦後、必ず人々が必要とする装備になる。この手の所謂『生活装備』も充実させないとと思う柏木だった。


*    *


 柏木達はこの別宇宙空間、そして惑星サルカスに来て、もうかれこれなんだかんだで三週間になろうとしていた。もうすぐ一ヶ月だ。

 先日、柏木と多川、フェルにシエは、柏木の実家にも連絡を入れた。娘や息子をほったらかしにするのもいけないと思ったからだ。二藤部達が、真男夫妻と柏木夫妻、多川夫妻の娘息子を官邸に招待して、VMC会談を設定してくれたようだ。

 とはいえ、ままそのあたりは真男と絹代がベテランの親の経験でうまい具合にやってくれているようであった。

 惠美やリビリィにポル、そしてなんとヴェルデオの妻、エルディラも助太刀を買って出てくれて、総出で柏木や多川の子供を世話してくれている。有り難い話だと、感謝しきりの両夫婦。

 そんなこともあって、子供たちはVMCに映る親を見て「はよ帰って来い」というような顔をするが、とりあえずは機嫌よくやっているようだ。

 そして、そのVMCの前にはガイデルとサルファも。

 初めてのリアルタイムで、孫との面談だ。真男や絹代にも紹介した。娘の姫ちゃんは「だれこのおじいさん」ってな顔できょとん顔。これはまぁそんなものだ。これからの話で仕方がない。

 そんな訳で、もう恐れ多いやらなんやらでヘコヘコしていた真男達だったが、いやいやと逆に恐縮するガイデル夫妻。

 ま、でもフェルのストーリーは真男達も今では知っているので、良かった良かったと涙する真男夫妻。

 これからも宜しくとそんなところ。


 と、そんな出来事もあったその間……

 ふそうスタッフは全力でバーデル級宇宙船のハイクァーンジェネレータやゼルシステム関連の装置を修理し、来るべきヂラールの襲撃に備えていた。

 柏木達の視点から見れば、『再襲撃』という言葉になるのだろうが、ガイデル達の視点から見れば、もうこれで『第云次』という言葉になる戦闘になる。それもそうだ。彼らがこの宇宙に来てしまった原因があやつらであり、その時からの事件になるわけであるからして。


 ガイデルもよくよく考えれば、今までよくもったと思う。だが、犠牲も多く出た。家族を失い泣いた国民も多い。しかもかの忌まわしき牢獣の目的が、大見達が目撃したアレであれば、それは正に地獄絵図だ。想像するのもおぞましい。

 そしてあの時、あの戦いでいよいよ最期が近づいたかと思い、ハイラの技術者というにはまだまだ未熟な若者達が放った救難信号が、『ふそう』をこの世界へ呼び寄せた。

 そして彼らにも明日が見える希望ができた。ただ、その希望を手にするには、忌まわしき魔物どもを再起不能にするぐらいの決着をつけなければならないわけで……


「総力戦になりますか……」


 柏木がつぶやく。


「ええ。ハイラ側からの資料と、ニーラ教授の見解。これは『生物災害を防ぐ』という観点で言えば、殲滅戦にならざるを得ません」


 藤堂もそう話す。


「連合防衛総省の方は?」と柏木。

「地球時間で一二時間前に本部人工星系に集結。こちらの宇宙空間座標を確認し、特殊跳躍に入ったそうです」と香坂。

「白木、日本政府は?」

「おう、防衛総省の要請ということでカグヤを出撃させたそうだ。到着時間はこっちの宇宙空間で同時集結できる時間に合わせているそうだ」

「そうか……藤堂さん」

「ええ。良い感じですが、あとは被害をどこまで抑えきれるか……『時間との戦い』になりますな……」




 ~『ふそう』がこの世界へ到来した時から三週間後のある日~


 ふそうブリッジVMCモニターに大きく映るは、監視偵察用ヴァルメが映す、天に鎮座するワームホール。


「連中、来やがったな……」とそう漏らすは多川。「格納庫で待機する。シエ、行こうか」


 コクと頷くシエ。搭乗する機体、多川はFー2HMへ、シエは旭龍機動戦形態へ。

 

「多川一佐」


 藤堂がブリッジを出ていこうとする多川を呼び止める。


「は、何でしょう艦長」

「ふそうは離水後、対探知偽装をかけて軌道上へ展開する。F-2HMは大気圏外での活動ができないわけだが……」

「ええ、わかっています。離陸後、ふそうはそのまま宇宙へ行って下さい。二機ほどヴァズラーを借りて、こっちは出来る限り大気圏内で連中の相手をします。残りの中隊連中ですが、宇宙に回して指揮はシエに任せます。帰還場所は、バルベラ城の中庭に臨時VTOL発着場を作ってもらっていますので」

「了解した。くれぐれも無理はするなよ」


 多川はピっと挙手敬礼でブリッジを出る。


「では艦長、私達もバルベラ城の臨時参謀本部へ行きます。ご武運を」と柏木。

『艦長、味方が来るまで無茶は禁物ですヨ』とフェル。

「俺達外務省スタッフはマスコミの真似事ですよ。やれやれだぜ」と市販のデジタルビデオカメラでこの状況を撮影する白木。二藤部達政府から、可能な限りの映像情報を送って欲しいと要請が来ているためだ。


 実際、バルベラ城の臨時参謀本部は現在日本国首相官邸の情報集約センターに、イゼイラ国防軍参謀本部とリアルタイムで随時接続状態にある。話では日本、いや、世界でも今回の事態、マスコミ全局特番状態だそうで、NHKでも超大型台風情報並の体制で望んでいる。

 つまり、会見も随時定期で行われているわけで、地球のマスコミも映像情報がほしいとウルサイわけである。

 なんせ政府はニーラの調査結果を全面的に前へ出して、今回の特危の活動を人道的見地から強調してプロパガンダしている。

 集団的自衛権ではなく、その『半知性体』という特殊な生物による『生物災害』であると。

 実際その通りなのだが、現在の地球人はこの『半知性体』なるものの理解度に乏しいため、その説明に往生しているそうで、地球側では、ニーラの祖父であるジルマやヴェルデ知事にジェグリ副知事がその解説に大忙しだそうだ。

 そこでまず一発目にマスコミへ公開した『ヂラール』の姿。

 白木が調子に乗って、「ほらよ」と大見達の壮絶な救出戦闘記録映像も混ぜて、アカデミー賞ノンフィクション映画賞でも狙ってるのかと言いたくなるような、SFホラー映画並みの編集でマスコミ向けの映像作って送りつけてやったら、そら大反響だったという話。

 NHKのアナウンサーも『これはフィクションではありません、遠い宇宙世界で現実に起こっている映像です』と何回も注釈を入れていたという。

 これには流石に新見も白木に、


「白木君、ドノバン大使がハリウッドに知り合いがいるから紹介しようかと言っているぞ」


 と言われたとか。白木の隠れた才能が開花した瞬間だったりする。

 とはいえ、古今東西どこでもこういう危急な事態では、外務省的な仕事と、白木さんの隠れた才能なスキルはイコールとなるもので、この映像が功を奏し、今では日本国内はもとより、世界中がこのサルカス世界の存亡を、固唾を呑んで見守っているという次第である。


   *   *


 バルベラ城臨時参謀本部に転送移動してきた柏木達。

 すぐさま大型VMCモニターを眺める。

 ワームホールに映るは所謂ディルフィルドアウト反応だ。光点がパシパシと光り、その数をどんどんと増やしていく。

 バーデル級宇宙船のハイクァーンが正常可動し、大型空間センサーも製造可能になってヂラール連中の動きも手に取るようにわかるようにはなった。

 従ってハイラ王国以外の各国にも現状況を正確に伝えることができるようになったので、各国も今現在、一般市民の避難行動を開始しているだろう。

 実際、このハイラ王国も城下の街で、そこいらからカランカランと鐘のなる音が聞こえる。無論これは警報の鐘だ。

 国民が今、列をなして指定避難場へ手荷物持って歩いて行くのが見える。

 沖では「ふそう」が準備完了で、豪快に離水し、上昇していくのが城から見えた。

 城のみんなが手を振りふそうを見送ってくれている。ふそうも発光信号で応えているのがわかる。

 白木は早速カメラを回して、そんな情景を撮影していた。但しスクープ狙いといったくだらないものではなく、純粋に、この事件の記録を残すためだ。


『お義父さん……いえ、今は陛下とお呼びしたほうが良いですか』


 ハイラの国王でもあり、軍総司令官でもあるガイデルにそう語る柏木。

 ガイデルはこれまでのヂラール戦でも、指揮官として辣腕を振るって戦闘指揮を取っていた。

 彼は意外にこういうことに向いている人物であることは、イゼイラ時代からよく知られていた。


「フフ、義父でいいではないか、婿殿。で、これからは先の会議で取り決めたスケジュールで動く訳だな?」

『はい。まずは「ふそう」が軌道上の敵を可能な限り迎撃します。と同時に、最高レベルの対探知偽装を施した無人機をワームホールへ突っ込ませ、敵の出現場所を探らせます』

「ふむ、だが、やはり予想通り今回の敵は尋常無く数が多いぞ。それはどう対処する?」

『そこはもう可能な限り、機動兵器やふそうの火器を駆使して叩き潰していくしかありませんね。そこが時間との戦いです。連合から防衛総省軍が出港してくれたのはもうお聞きになっていると思いますが?』

「うむ、聞いている。本当にありがたい決定をしてくれた」

『ええ。実は現在の連合議長であるマリヘイル・ティラ・ズーサ閣下が、今作戦、防衛総省軍の指揮をとって下さっているのですが……私も良くはわかりませんが、その兼ね合いもあって、ワームホールの向こう側も探って欲しいという指示がありまして』

「なるほど……」


 さて、ここでこういった作戦方針になるまで、色々スッタモンダと議論があったわけだが、どうも一部日本人スタッフが誤解している点があるとして指摘されたのが……


「ハイクァーンがまともに稼働するなら、『核兵器』を大量造成して吹っ飛ばしてしまえばいいではないか」


 というところである。

 実はこの核兵器。宇宙空間ではあまり地上ほどの威力が期待できない兵器なのだ。

 宇宙で核兵器を使用する描写といえば思いつくのが、かつて隕石災害を扱った一九七九年公開の映画『メテオ』や、『私は帰ってきた』とか吠えながら、核バズーカぶっ放すオッサンで有名な、白い機動兵器アニメの描写が見られるが、核兵器のあの猛烈な破壊力は、実は核の大気中における衝撃波で発生する破壊力がすさまじいのであって、これを宇宙空間で炸裂させても、高熱の熱球が一瞬発生し、せいぜい爆発時における猛烈な速度で飛び散る破片か、発生する放射線と、瞬間的な熱線の影響がある程度で、宇宙空間には大気がないために、とてもではないが大気中ほどの広域破壊能力は「期待できない」のである。

 従って、映画『メテオ』の描写や、『私は帰ってきたオッサン』の描写は少々誇張しているのであって、あそこまでのことにはならないのだ。


 ということで、宇宙空間戦闘において核兵器は「広域破壊兵器」としてはあまり役に立たないのである。

 では、重力子兵器の広域型を使えばいいではないかという事になるのだが、ふそうは通常型の重力子兵器は造成可能で搭載しているが、広域破壊型の搭載はまだ認可されていない艦艇なのだ。というか、本来今回の防衛総省へのお披露目で、防衛総省艦艇に対応するかの検査を受ける予定だったので、造成搭載許可をまだ受けていないでのである。


「……ということは、広範囲破壊兵器は現在ないということか……」

『はい。広域重力子兵器を使いたいところですが、現在のあの機動巡洋艦は使えるシステムがないので、現状は榴散弾兵器や、フェイザー掃射、ディスラプター掃射に頼るしかないですね』


 腕くんでどうするか思案するガイデル。と、その時、参謀本部のスタッフが柏木達のいる会議室に飛び込んでくる。


「陛下! ファーダ! 巡洋艦フソウが会敵しました! 戦闘態勢に入ります!」


    *   *


「敵生体兵器反応。構成、戦闘艦型五〇〇、母艦型三〇〇、強襲揚陸艦型五〇、護衛機……」


 現在の敵生体兵器の数を読み上げていくクルー。その数に憂鬱になるブリッジ。

 やはり予想通り、生半可な兵力構成ではないようである。


「やっぱ正直このフネ一艦でどうにかなる相手じゃないな」


 渋い顔の藤堂。


「はい。とにかく時間稼ぎですね……よし! この距離でとにかく牽制をかける。全砲、全エネルギー兵器発動用意! 目標、生体兵器ヂラール艦隊。あの数だ。とりあえずぶっ放せば何かに当たるだろう! 主砲には16式榴散弾を装填してぶっ放せ!」


 香坂の命令に宜候と復唱され、戦闘準備が整う艦。「敵、こちらの戦闘態勢を感知した模様。接近する!」「展開するシエ中隊、迎撃体制に入る!」


「主砲16式榴散弾装填。発射準備よし!」「目標、接敵部隊!」「主砲発射、てーっ!」


 空間波紋を大きく発し、16式榴散弾をぶっ放すふそう。この16式榴散弾は、砲弾の中に、それは無数の高質量弾子が詰まっており、任意の位置で爆破散布して敵機動兵器群を一気に消滅させることを目論んだ兵器である。

 現在ふそうに接近する敵母艦から出撃した機動兵器型ヂラール。その数は羽虫の大群のようで、16式の爆破破裂に巻き込まれ、まずは先手の一発をお見舞いすることに成功したふそう。


「16式で逃した連中はCIWSと速射砲、フェイザーで叩き落とせ!」


 香坂の激が飛ぶ。その命令と当時に、唸る20ミリバルカン砲塔群に、艦底機関部エネルギー兵装スリットから一直線に照射され、真一文字に光線を振り、敵をなぎ倒すフェイザー砲。

 その射線上にあったヂラール生体機動兵器は体液を撒き散らしながら散華していく。


『格納庫、連合本部から指示のあったワームホール偵察はどうなった!』


 ニヨッタが格納庫にVMCモニターを開けて詰め寄ると、


「はい! 対探知偽装処理と、センサー類を満載した無人制御の旭光Ⅱ・アウルドタイプを発進させました!」

『了解した……しっかし連合本部も何考えてるんだか。こんな状況で敵の本拠を探れだなんて……』

 

 ニヨッタが愚痴るが、そこは藤堂が、


「副長、まあ本部も考えあっての事だ。無駄な作業ではないと信じよう」

『はい、そうですね……』


 と、そんな話をしていると、ブリッジがグワン! と大きな衝撃に揺さぶられる。


「報告!」藤堂が叫ぶと、「敵戦闘艦型のエネルギー砲弾着弾! シールド干渉、被害軽微! 但し、長時間の被弾は危険!」とブリッジクルーが声を跳ね返す。


 モニターを拡大すると、こっちに砲撃を加えてくる敵の戦闘艦型生体兵器の画が映る。

 何やら船体側面にびっしりついた昆虫の腹のような機関が大きく膨らんだ後、口から種でも飛ばすように光弾をバシバシと発射してくる。なんかその動きを見ていると、さむイボ立ってきそうになるが、そんな事言ってる場合ではなく、


「おっち、マズイな! 香坂、こちらも対探知偽装展開。流石のふそうでも、あの数相手は無理だ。距離開けて再攻撃。前後部VLS、いつでも使用できるように」

「了解。対探知偽装展開! VLS艦対艦誘導弾、機対機誘導弾発射体制」『対探知偽装展開宜候! VLS発射体制』


 ここで突っ込んで敵軌道上部隊を可能な限りぶっ潰し、地上部隊の負担をなるべく減らしてやりたい藤堂。幸いな事に、対探知偽装はヂラールも見破る術を持っていないので、そこが唯一の救いだが、対探知偽装をかけたままの攻撃はできない為、逆にそこが泣き所だ。それもアタリマエの話で、隠れてるのに攻撃しちゃったら隠れてる意味が無い。「私はここですよ」と姿晒すようなものだ。おまけにここまで敵が多いからと、ちょっと撃ってプイっと隠れて、という悠長な事やってたら地上部隊に怒られる。

 可能な限り牽制をかけるが、いくら「ふそう」といえど、敵は一〇〇〇に近い艦艇だ。今でもやっと数隻沈めることができたが、現状多勢に無勢、ここでかの宇宙戦艦アニメみたいな、強烈な広域破壊型波動兵器がありゃ文句なしなのだが、世の中そんなにうまい具合には行かない。これが現実である。


『敵母艦、防衛態勢に入りマス』

 

 さすがに敵も先のふそう奇襲に学んだのだろう。母艦を防衛するような隊形に群体を動かし始めた。


「母艦を護るか……白木さんじゃないが、まるっきりバカというわけでもないようだな」


 モニターを前かがみで眺める藤堂。


「あの密集隊形なら、核兵器をぶちこんでも熱波と放射線でいくつかは葬れるのでしょうが……」


 香坂が、艦長席に手をかけて、藤堂と話す。地上ほどの威力はないにせよ、何隻かは瞬殺できるだろうと。


「それができないのが『自衛隊』の悲しさよ……連合防衛総省の特危でも、それやったらやっぱ、現政権吹き飛ぶわな」

「ハァ、やはりそうですか。VLS用のミサイル造成データを用意させましたが……ニヨッタ副長、やっぱアレはナシで」

『了解でス。では通常重力子弾頭を「みさいる」全弾頭に搭載して、集中発射ですネ』

「はい、それで」


 香坂は、VLS装填用のミサイルに通常重力子弾頭を搭載させ、一点に集中発射させて、広域重力子兵器のように使えないかと思いついた。

 確かに正規の広域重力子兵器ほどの広範囲圧壊破壊力は期待できないが、個々のミサイルとして使用するよりは確かに広域破壊力はある戦法だ。


「よし、ではVLS各セルの誘導弾をすべて通常重力子弾頭に変更、一斉発射用意! シエ一佐達の小隊はそのまま大気圏を突破して、多川一佐らと合流。地上部隊を援護。ふそうは可能な限り軌道上に留まり、敵艦隊を牽制する。とにかく連合艦隊が来るまでの時間を稼げ! 無理な戦いをするなよ!」


 藤堂らふそうクルーは、大型戦闘艦型生体兵器に護られた母艦型から降下していく艦載型の生体兵器や、強襲揚陸型の生体兵器を眺め見る。

 今の彼らには対探知偽装を駆使して、遠距離からとにかく牽制し、少しでも敵艦を減殺させることしかできない。

 VMCモニターには、惑星サルカス全域に降下していく敵機動兵器型の姿が映る。

 今は苦虫噛み潰して、とにかく時間を稼ぐ事に徹するふそうであった。


    *    *


 ヴァァ……っとJM61A1 20mmバルカン砲が火を噴くと、HUDに収まった非現実に過ぎる悪魔のような敵機動兵器型の生体兵器が、不気味な色の体液を撒き散らして四散する。


『よし! これで25匹だ! 流石ゼル給弾システムだな、弾数気にする必要がない分助かるぜ。こちらアルファ多川だ、他はどうだ!』

『こちらぶらぼー。降下したヂラールを引き続き掃討中!』

『ちゃーりー、ぶらぼーに同じだ!』


 多川のマスクを通したような篭った声に、旭光Ⅱパイロットの遭難者イゼイラ人。即ち使徒イゼイラ人が応答する。

 ヴァズラータイプとはいえ、機動戦形態になったら、ちょっとティ連ヴァズラーとは違ったデザインになるのが日本版ヴァズラーの『旭光Ⅱ』だ。その点、遭難者イゼイラ人達は、まだ少々慣れない機体であるのは無理は無い。なので多川は地上に降下した敵を片っ端から葬れと指示をした。

 従って空戦で踏ん張っているのは、今は多川のF-2HMと、ハイラの斥力物質型の機動兵器だ。

 とはいえ、この斥力物質機動兵器も、機動兵器とはいってはいるが、流石にF-2HM、ましてやヴァズラーほどの機動力があるわけがなく、かろじてティ連火器や、特危火器搭載で対抗できている程度で、かなりの数がこれまたヂラールに落とされているのも実際のところ。

 ハイラ王国首都上空は、実際のところ現状多川一人の技量に頼っているところ大なのである。


『よし、これでまた一匹…………って、うぉあぁっ!!』


 ガキン!っと鈍い音が聞こえたかと思うと、機動兵器型ヂラール一匹が、F-2HMに取り付いた。

 現状F-2HMは空戦用大気整流シールドを防御シールドとともに張り巡らせている。なので敵はそのシールドにしがみついているような状態である。

 

『チッ! くそっ、マズった! やっぱ数が多いかっ!』


 多川はそのヂラールを振り落とそうと、キリモミに急旋回と色々やるが、ヂラールもしぶとく、これがなかなかふり落とせない。

 F-2戦闘機の魔改造したようなデザインの機体にこれがへばりついているからまだ見れるものの、これが普通のF-2戦闘機なら瞬殺である。それこそどっかの特撮で、真っ先に犠牲になる空自にようになってしまう。

 部下の旭光Ⅱパイロットには助けを求められない。流石に現状の多川をフォローできるほどの技量はない。 


『だぁぁぁっ! 畜生! 離れろボケェ!』


 しぶといヂラールにキレる多川。ヂラールはシールドを侵食しはじめる。このままでは揚力を維持する整流シールドが崩壊して失速の恐れも出てきた。ピーピーピーと警報響くコクピット。

 脱出するにも、丁度コクピットキャノピーの真上に、ヂラールの尾っぽのような部分が被る。


(チッ! ……あの浮いてる岩山にぶつけて引きはがすか?)


 シールドを一瞬解いて、ヂラールをひきはがせばいいではないかという話もあるが、それをやって、ちょっとでも機体に敵が接触してしまうと、一瞬で機体が引き裂かれ、そのまま撃墜ということもありえるのが地球の航空機だ。従ってこのシールドシステムが如何に地球の兵器にとって画期的なものかわかろうというもの。

 多川は、下方に見える斥力物質でできた小さな浮遊島のような場所に目を向けるが……


『ダーリン! ソノママノ高度ヲ維持シロ!』

『シエか!』


 刹那、グワンと再度機体を揺さぶられるF-2HM。


『コノヤロウ! ダーリンカラ離レロ!』


 シエがF-2HMの背後から接近し、取り付いたヂラールを旭龍の鋭い鍵爪でえぐるようにはぎ取る。

 そのままヂラールを投げ飛ばし、頭口部パルスレーザーを発射してズタズタに引き裂き、腕部ブラスターキャノンをぶっ放して爆散させる……ダーリンを襲う不逞の輩は、シエからこういう制裁を受けるのである。


 シエの旭龍は、体液が返り血のようにシールドで弾かれ、飛沫となって空を散華する。


『大丈夫カ、シン!』


 シエにしては珍しい、動揺するような呼びかけに、


『大丈夫大丈夫、助かったよシエ。俺も岩にぶつけて引きはがそうとしてたとこだ』


 と気楽に多川は言うが、フィブニー効果の機体。つまり地球製の航空機でそれをやることがどれだけ危険かは理解できるシエ。


『モウ! マタソンナ無茶ヲスル。ヤハリ、シンハ、私ノ前ヘ座ッテ、私ガ見張ッテナイトダメダ』


 とそんな説教も出てくるシエ。だが、現戦況を考えればそれも致し方ないのが現実だ。


『シエ、で、どうして降りてきた? 宇宙は?』

『トウドウノ指示ダ。軌道上ニハ一〇〇〇ハ艦艇型ヂラールガイル。アレヲふそうダケデ、ドウコウスルノハ流石ニ無理ダ』


 なるほどなと頷く多川。なるべく母艦型や揚陸艦型を目標にして攻撃しているが、敵も相応にこちらの戦法へ順応しているとシエは話す。


『となれば、水際の防衛が重要になるか。こっちも敵をなるべく減らすことに尽力するしかないな』

『救イハ、ハイクァーンガ使エルコトダ。弾薬兵糧ノ心配ダケハイラン。アト十数時間耐エラレレバイイ』

『そうだな。よし、では中隊全機合流して、体制を立て直すぞ』

『了解ダ、ダーリン』


    *    *


 ふそうや多川達が、ザルでふるい落とすように何とか敵を減殺し、地上部隊の負担を軽くしようと奮闘するが、やはり彼奴らは惑星全域での行動を行っている訳なので、やはり現状、良くない情報が参謀本部にも次々と入ってくる。


「サレル公国、通信途絶えました!」「ジェルバ大公領から増援要請!」

「サレル公国に使者を送れ! 近づけないようなら引き返してもかまわん、ジェルバ大公には我軍の二個中隊を送ると連絡しろ!」


 この星全土の戦力を流石にリカバリーするわけにはいかないので、せめて近隣諸国には可能な限り増援の対応をするガイデル。


「ヂラールどもの展開が早いな。やはり半知性体とはいえ、知性はある。こちらの動きに学んだか?」


 すると王妃サルファが本部に軽食を伴ってやってきた。


「お腹がすいては頭も回りません。みなさん少しでも何かお食べになられてはどうですか?」


 スタッフみな頷き、サルファに敬礼して、軽食の乗ったトレイに群がる。そして適当な量の食事を頬張る。

 ガイデルもサンドイッチのようなハイラの軽食を片手に地図とにらめっこだ。


「どうですか? あなた」

「うむ、正直良い状況とはいえんが、逆にいえば予想通りの展開とも言えるな。予想の範囲を許容範囲とするなら、悪い状況とはいえんが……」

「牢獣ですか……」

「ああ、やはりサルカス中で展開している。幸い各国各々国民を地下や洞窟、山岳に避難させているので、大きな犠牲の報告は入っていないが、現場の兵士たちが少なからず犠牲になっている。ふぅ」


 するとカンカンと鐘を鳴らす音が外から大きく響き、同時に地球でお馴染みの空襲警報音が響き渡る。

 すると、途端にブラスターキャノンの発射音に、CIWSやオートメラーラ砲の対空砲火の音が響き渡る。

 これら装備は、カグヤやふそうに装備されている仮想造成砲台と同じものである。街の要所に配置されたその砲台に各兵装が造成され、空に向かって火を吹いている。


「この街にもとうとう来たか……サルファ、お前は避難しなさい」

「そんな訳にはいかないでしょう。メルや貴方、それにサスアが前線で戦って、フェルや婿殿も今、ヤルマルティアとイゼイラ、そして連合との連絡を密にしてくれています。私だけが避難などできはしませんよ」

「そうか、そうだな」


 ガイデルはサルファの肩に手を当て頷く。


「私とてヤーマ家の一員。科学者として少しは名を知られております。お役に立つこともありましょう」


 そういうと、なんとサルファは奥に引っ込み、PVMCGをチカと光らせると、イゼイラの戦闘服姿で出てきた。そして雑用司令官として、侍従たちに何やらいろいろと指示をしていたり。

 ガイデルはそんな妻を見て、笑みを漏らす。


 すると、柏木とフェルが本部内に入ってきた。


『お義父さん、朗報です。連合の艦隊が予定より早くこちらの宙域へ到着するようです』

「おお! で婿殿、あとどのぐらいで?」

『ええ、当初は四八時間という話でしたが、私はちょっとよくわからないのですが、本部人工星系? のデンザ? とかいうシステムを使って、亜空間航行速度最大でこちらへ向かってくれているということです』

「デンザ? デンザ004を使うのか! おお……」


 デンザ004。ティ連本部人工星系に鎮座する亜空間交通システムを管理する人工惑星だ。それが擁するディルフィルドゲート亜空間移送出力のパワーは、ティ連最大を誇る。

 だが、ガイデルは地球時間の単位なんてわからないので、その四八時間という数字がなんぼのもんかサッパリである。そこで傍にいる柏木より5千万光年程オツムの良いフェルがチョチョっと計算して、サルカス時間で教えてやる。


「あと、二四時間をなんとか凌げば、事態が好転するかもですね、マサトサン」

『ああ、流石マリヘイル議長だ。あの方は何するにしても手回しが早いな、俺達の式にしてもさ』


 その話を聞いてガイデルが、


「式? フェル達のミィアール式か? なぜそんなものに連合議長が関わってくるのだ?」


 と疑問を持つと、フェルが件のほとんどプロパガンダに近い連合規模の挙式を教えてやると、口をあんぐり開けて「ほぉ~」と唸るガイデル。是非出てみたかったと唸ったり。

 結局その件も、長~い目で見れば、この事件に繋がっていたりする。


 と、それはともかく、一応に希望は見えそうだが、先ほどあまり良くない情報が入ってきた。

 ヂラール艦隊の数が、増えたという話だ。


『チッ、やはり敵の本拠地はワームホールの向こう側の……』

「ああ、婿殿。恐らく近い場所にあるな。ワームホールの向こうを探れという、マリヘイル議長の判断、間違っていないな」


 サルカス世界の地図と、VMCに映る惑星軌道域の作戦図を睨みつける。柏木達三人。あと二四時間耐えてみせなければと……


    *    *


 パパパパー……と、ラッパのような音色が森や平原に響き渡る。

 騎士団駐屯地の兵士達が、支給されたPVMCGのスイッチを入れて、鎧の上から造成される不思議な機械を身にまとう。途端に体が軽くなり、何かとんでもない力持ちにでもなったような感覚に囚われる。

 それはボルダも同じで、ボルダ用のホースローダーを着用させた途端、そこいらからボルダ達の嘶きが聞こえ、何か気分が高揚しているような、そんな雰囲気に包まれる。


「メル、準備は出来たか?」

「うん。サスアも大丈夫?」

「うむ……メル、くれぐれも無茶な戦いはするなよ。お前はすぐに……」

「もう、わかってるよ……サスアも、多分この国の次の王様なんだから、無茶したらだめだよ」

「お前にいわれるとはな、はは……ああ、わかっている」


 するとサスアは、キョロと左右を見渡すと……メルの頭を取って自分の顔に引き寄せて、フェイス・トゥ・フェイス。

 メルも眼を瞑り抵抗しない。このサルカス世界でも、地球と同じような習慣があるようだ。

 メルはサスアの首に手を回し、自分から更に体を接近させる。


 しばしの儀式の後、二人は体を離し、


「じゃ、サスア、行くね」

「うむ、カシワギ殿の連絡で、なんとか二六デルマ持たせてくれという話だ。やるしかないぞ」

「うん」


 メルにサスア。眦鋭くし、愛馬にまたがる。

 臀部と背中、股間伝わるガコッという固定音も心地よく、愛馬と一体になった二人は、兵士というよりは、戦士の姿になる。

 各々各部署に別れ、指揮を取る……今、ヂラールの兵隊型、俊足型、マルチ型が無人の街を襲ったようだが、市民はみんな避難しているので誰もいない。当然連中は人のいそうな城を目指す。

 バルベラ城方面へ行くためには、その間にある森と、平原を通過しなければならない。そこで連中を迎え討とうという寸法だ。

 普通ならもっと複雑な戦術で戦闘しなければならないのがこういった戦争だが、なんせヂラールは動きが単純だ。だが、あまりに単純でわかりやすいのではあるが、タフで諦めるということを知らず、数で襲ってくるので始末が悪い。

 下手に頭を使って、複雑に立てた戦術よりも、『数』という絶対的なアドバンテージが有る場合、怒涛の単純パワー押しで責め立てられる方が敵わないものなのだ。しかも敵は倫理観がない凶暴で獰猛な『動物』である。それ故の『生体兵器』であり、所謂知的生命体ではない。そこが更へと面倒くささに拍車をかける。


 平原の小高い丘の上に、ホースローダーに跨った勇敢な騎士団が、青空を背に受け集結する。

 この場所の部隊構成は、大規模な連隊クラスだ。

 指揮官は、サスア団長にメルフェリア団長。そして……


「シャルリ殿。ボルダにはもう慣れましたかな?」

『ああ、サスアの旦那。ま、あたしもこういう乗用動物は初めてじゃないからね』

「しかし、貴殿のその体、改めて驚かされますなぁ、はは」

『あはは、ま、今のアンタらが着用してるローダーをいっつも体に付けてるようなもんだからね。っと、さて、そろそろ時間だ。かの御大の部隊も来たようだし……心配ない、勝てるよ、サスアの旦那』


 騎士団の集結地点後方から、キュラキュラブォーンというエンジン音にクローラー音。

 そしてフイフイという浮遊音。


 なんと! 後方から10式戦車に、14式浮動砲、コブラHGSが大量に出現した。

 更にはその後方から、ドカドカと豪快な砲声が戦闘の始まりを告げるかのように木霊する。

 自衛隊の擁する陸上科部隊の榴弾砲砲撃である。

 

 「弾ちゃぁ~く……今!」


 大見の部下が後方の指揮所から観測機を覗いて大きく叫ぶ。

 すると、平原の彼方でボカボカと大きな着弾煙が立ち上り、小さくヂラール共が吹き飛ぶのが見えた。


「よし、良い感じだ……榴弾砲の砲撃後、コマンドローダー部隊は、H型を先頭に、サスア、メル、シャルリ騎兵部隊を援護。『18式自動甲騎』は想像以上に高速高機動だからな、置いて行かれるなよ!」


 激を飛ばす大見二佐。特危陸上科部隊も、サスア達騎士団に同行し、共同で作戦を展開。城方向へ進撃してくるヂラールの群れを迎撃する。

 

「よし。ではお前の小隊は、ナヨ閣下をお護りしろ。今の閣下は無防備だ。あれだけの制御、大変だぞ」

「はっ!」


 部下に命令する大見。そして彼はとある大型プレハブの中へ入る。するとそこには……


「ナヨ閣下、お疲れになりませんか?」


 なんと、ナヨが薄目を開けて、何やら体中からゼル端子を這わし、大型のシステムと通信機器へ連結し、制御しているようだ。

 そう、なんと彼女は今展開している特危の兵器にゼル端子を打ち込み、全て彼女が無人で制御しているのである。トーラルシステムを自我にした、ナヨならではの戦法だ。

 この方法は彼女が提案して、こういう形で実現した。従って先の榴弾砲砲撃も、サスアやメル、シャルリ達と行動を共にする10式戦車や14式浮動砲にコブラHGSも、全部彼女一人で制御しているのである。


『あい、この程度の制御、大したことはありませぬ。心配は無用ですオオミ』

「流石ですね閣下。おかげでヂラールの大型機動兵器が出てきても対抗できます」

『フフフ、なんの。ただ、ヴァズラーは数の関係で一機しか制御できませぬ。大事に使わないと』

「はい。なんとか時間まで耐えられればという奴ですね」


 今展開している特危自衛隊兵器は、敵の機動兵器型ヂラールに対抗するために、急遽ハイクァーンを動員して生産されたものだ。

 地球製の兵器ぐらいなら、バーデル級のハイクァーンを使えば、さほど苦もなくかなりの数を量産できるのでこの戦法が可能になった。

 ただ、やはり旭光Ⅱとなると、この準備期間では造成出来る数が限られる。こちらに回せるのは一機が限界だった。


「敵生体兵器群、防衛線突破。平原、及び森に入りました!」


 指揮所スタッフが叫ぶ。


「よし……では閣下、私も行きます。あとはよろしくお願い致します」

『ウム、あい任せよ。オオミも武運をな』

「は、感謝いたします。閣下も」


    *    *


「よし! 各隊……突撃!」


 迫り来るヂラールの群れ。迎え撃つサスアにメル、そしてシャルリに特危ローダー部隊。まるでそれはファンタジー世界の、魔物と知的種族との戦いのようである。

 敵が数で攻めてくる、それこそ生物災害レベルの単純な戦いを仕掛けてくるが故に、力と力、ガチでぶつかり合うしか手段のない戦いになる。

 

 先行するホースローダー。所謂試製18式自動甲騎隊。その安定した騎乗からの高速機動戦。

 そこにナヨが操る機動兵器部隊が援護攻撃をかける。


 騎士達は二騎一組で、一人はブラスターを射かけ、逃した敵を銃剣やソードで接近戦を挑み、たたっ斬る。

 大見達が先の母艦内の戦闘で出くわした、所謂【戦車型】が見えると、無反動砲や重力子兵器、ブラスターキャノンを装備した甲騎が前へ出て迎撃をかける。


 ただ……二人ほど、その連携攻撃から外れた、異質の戦いをする連中もいたり。

 

 騎乗では自慢の御御足が使えないと、馬から飛び降りてお得意のサイボーグ体術をジラールに披露するシャルリ姉。いつもの豪快な戦い方は健在。

 足をブレードに変形させては兵士型やマルチ型、俊足型を斬り倒し、ブラスター砲に変形させると、敵戦車型を撃ちぬいて倒す。

 ただ、流石に懐へ飛び込んでくる俊敏型はうっとおしい。これが群なしてかかってきた日にゃシャルリ自身も血まみれになって肉弾戦だ。まるで『生物災害映画』のような戦いになるのは必定。


 するとそこへ駆けつけるのはサスア。ブラスターライフルぶっ放してシャルリを援護。


「シャルリ殿! ご無事か!」

『アア! この程度まだまだ問題ないよ! サスアの旦那。こっちゃあたし一人でなんとかなる。旦那はあたしの部隊と合流して、城へ向かう街道を守ってくんな!』

「一人でって……」

『だぁいじょうぶだから!』というと、通信機能を立ち上げ『ナヨ閣下、コブラとセンシャ、ちょっと借りていいかい!』

『あいわかりました』


 ピーと口笛を鳴らすと、シャルリのボルタが飛んでくる。ボルタも向こうでヂラールを蹴飛ばしていたようだ。

 シャルリは馬にまたがる。と同時に、ゼル端子制御されたコブラ一機と10式二両がやってくる。

 

『んじゃ、頼んだよ!』


 そう言うと、コブラと10式を従えて、颯爽と次の戦地へ飛んで行くシャル姉。唖然とした顔で見送るサスアであった。

 


 所変わってもう一人の豪傑。

 見た目はアスリート系体格の形容年齢一八歳フリュだが、剣を持たせたらハイラ随一の元気フリュ。メルフェリアであった。


「だらぁあああああああああっ!」


 ブラスターに銃剣を展開させて撃つわ斬るわで暴れまわるメルフェリア。

 ブラスター一挺じゃ足りないと、左手に柏木からもらったM9を握りしめ、左からくる敵、右から来る敵に対応する。


「メル団長! 敵が迂回して城の方へ向かったと!」


 部下が、良い調子で暴れるメルに報告すると、メルは少し考える目をして、


「わかった! みんなは城の防衛に回って!」


 と言った途端にまた報告。


「団長! 前方から牢獣とセンシャ型が来ます!」

「くそっ! わかった。私はそっちを相手するから……何騎か私についてきて!」


 はいや! とパイラ号に拍車をかけると、メルは報告のあった方角へ馬を飛ばす。

 途中に比較的幅の広い川があるが、ホースローダーの空間障壁造成踏破機能が働き、川の上を飛ぶように走破する。この機能は、かつてフェルが渋谷で半グレ連中に襲われた時、袋小路で使った機能と同じものだ。メルはこの『試製18式自動甲騎』を最高に気に入っていた。まったくスゴイ機械だと思う。

 

 しばし疾走すると、戦車型に牢獣が見えた。どうやら牢獣は、まだ中に捕獲したハイラ人を満タンにしていないのか、獲物を求めて城の方へ向かっているようだ。

 だが、やはり囚われた兵たちはいるようで、透明の腹からドンドンと内側を叩く姿が見える。


「みんなはセンシャ型を攻撃して! 私は牢獣の中にいる仲間を助ける!」

「どうやって! まさかお一人でですか団長!」

「方法はあるよっ! パイラ、あの牢獣めがけて突っ込め!」

「だ、団長っ! くそっ、おい、団長を援護だ!」


 メルはコマンドローダーの、臀部固定を外し、なんと、パイラ号の鞍の上にしゃがむ。

 そのまま疾走し、巨大な牢獣に接近すると、フェルに教えてもらったPVMCG機能の一つ、トラクターフィールドを牢獣に浴びせかけ、まるで蜘蛛を題材にしたアメリカンヒーローの如く、牢獣の頭頂部捕縛部分へ飛び移る。

 パイラはメルの意を察しているかのように、メルが牢獣に飛び移ると、すぐにその場を離れて待避した。 するとメルは何を思ったのか!


「う、うわっ、団長!? な、何を!!」


 部下がメルの行為に何をするんだと叫び声を上げる。

 メルは何を思ったのか、自分から牢獣の捕縛部分、要するに口をこじ開け、中に入っていった。


「チッ! 全員牢獣の足を止めろ! って、団長一体なにをやらかすんだよっ!」


 だが、戦車型やそれに伴う他のヂラールの猛攻も激しく、援護に入るのも困難だ。


 だが……


「!? お、おい、牢獣の動きが止まったぞ!」


 どうしたんだと状況を訝しがる諸氏。 

 すると…… 


 牢獣の頭頂近くからその中を突き破って、仮想造成粒子の生成光がズバっと突き抜ける。

 するとその光は超ロングソード、所謂斬馬刀の切っ先になり、そのまま中から上下へ裂くようにその切っ先が降ろされていく。

 無論牢獣は、そんな事された日にゃぁ、もう無条件で昇天するしかない。そのまま体を痙攣させながら横へ大きな音を立ててぶっ倒れる。

 すると、割かれた腹から、牢獣の体液にまみれた味方がぞろぞろと姿現す……みんなヘロヘロだ。

 だが、お互い助け合いながら歩けない味方に肩を貸し、引っ張りあげて脱出する。

 無論、その腹の中から、超ロングソードを持ったメルも飛び出してきた。


「なんと、そんな方法が!」「おお!」と騎士団員、メルの奇想天外な戦法に驚愕する。


「驚くのは後だ! 脱出してくる同胞を守れ! 今彼らは丸腰だぞ!」


 メルの副官が叫ぶ。実際その通りだ。助けたのに、脱出した途端にやられてしまっては意味が無い。

 その状況に気づいた本陣のナヨが、その場所にゼル端子制御下の『96式装輪装甲車』を数台送り込み、脱出者の回収にあたる。

 パイラ号もメルの無事を確認すると、主人の元にすぐさま戻ってきて、メルをその背に乗せ、彼女と一体化する。


「お見事です団長!」「素晴らしい! あんな方法があったとは!」


 団員がメルを褒めちぎると、


「えへへ~。でもサスアやお姉ちゃんに見られたら、また怒られちゃうよ」

「いや、ですが団長。あなたのあの方法を使えば、牢獣恐れるに足らずです」

「でも、このゼルクォートがないと、意味ないからね。これが使えるから、カシワギのおっちゃんに、あの剣のデータを作ってくれって言ったんだ」

「なるほど。了解いたしました……おい、団長が取った手法、ぜるくぉーとを持っている部隊に通達しろ。最悪の場合、牢獣を確実に倒す手法として使えとな!」

 

 とりあえずヂラールの猛攻第一波を防いだメル達部隊。ちょっと進出しすぎたということで、後退を行う。あと少し踏ん張ればと今を耐え忍ぶのであった。


    *    *


 惑星サルカスで激戦をくりひろげるハイラ連合王国軍に諸各国。

 ただ現状、所謂天穴の使徒、即ちティ連科学の恩恵を受けられているのは、ハイラ王国と周辺の諸国に所領のみである。

 やはりこの世界全体で言えば戦況は苦しい。しかも今回、ヂラール側も今までにない大規模な攻勢を行ってきている。これもふそうが到着した影響だろう。


 だが……


 惑星サルカスから、約五光年ほどの空間。

 特に何もない漆黒……とはいえない、不思議に何かの化学物質で彩られた宇宙空間。

 そこに希望の光が顕現する!


 大きな空間歪曲が一つ発生し、その数が二つ、三つ、四つ……乗数的にどんどんと増えていき、

 いつもの見慣れた静寂から、怒涛の空間波紋を纏って、巨大な宇宙艦艇が姿を現す!


 ……ダストール超大型機動戦艦及び任務艦隊、カイラス超大型機動巡航艦及び任務艦隊、イゼイラ超大型機動母艦及び任務艦隊、パーミラ超大型機動母艦及び中型高速駆逐艦隊、ディスカール機動戦闘任務艦隊、ドゥランテ機動高速巡洋戦闘艦隊、ユーン連邦強襲上陸機動艦隊、ヴィスパー強行補給輸送艦隊、サマルカ機動降下強襲艦隊、ザムル強行偵察艦隊、サムゼイラ特殊作戦艦隊、ハムール機動戦闘艦隊、他諸々……


 それは錚々たる陣容の大艦隊であった。

 これほどの大艦隊、かの日本国加盟調印艦隊以来の各国集結大ティエルクマスカ連合艦隊だった。

 そして遅ればせながら空間波紋をまとって合流するは……


 日本国特危自衛隊、宇宙空母「カグヤ」であった!


『ティラス艦長! 当該別宇宙空間、到達しました!』

『よし、リアッサ二佐、いつでも降下できるよう、機動兵器部隊の編成を確認してくれ』

『了解シタ、アキノリ、行コウ』

「ああ、では艦長」


 ブリッジに敬礼して出て行くリアッサと樫本。


『パウル艦長……あ、今は副長でよろしいですかな?』

『ええどうぞ。ティラス艦長の副長なんて名誉なことだわ』

『はは、それはどうも。で、サルカス到着後は』

『ハイクァーンプラントをドッカリ作ってやるわ。国が一つ出来るぐらいの奴をね! 任せて!』


 異様に張り切るパウル御大。笹穂耳のピコピコも冴え渡る。

 ティラスのサポートは、ニヨッタに負けてはいない。


「艦長、連合艦隊司令の、セドル・ファゼ・ズーサ提督閣下より入電です」

『お繋ぎしてくれ』


 しばし後、セドルなるパーミラ人デルンの容姿がVMCに映しだされる。

 このセドル・ファゼ・ズーサ提督。階級は大将で、名前から察せる通り、マリヘイルの旦那である。


『やぁジェルダー・ティラス。はるばるアマノガワギンガよりご苦労だ』

『いえ、ファーダ・セドル。初めてお目にかかります。奥方様には色々と』

『はは、その件な。先の調印艦隊でヤルマルティアに行った時も、いやはや相当振り回されたからな』


 まずはそんな話で、全艦隊無事集結を喜び合う。特に地球からのカグヤは、距離が距離なので、艦隊関係者は結構心配してたりしていた。


『ではティラス艦長、カグヤの武勇は我々も聞き及んでいる。特に先の『カグヤの帰還作戦』や『ドーラ・ヴァズラー事件』の件ではな』


 頷くティラス。

 地球世界ではその大きさで有名なカグヤだが、ティ連レベルだと、カグヤクラスの艦艇など木っ端のような大きさである。

 そのカグヤがここまで有名なのは、他の艦艇にはないその功績と戦歴故に他ならない。


『……ということで、カグヤには我が艦隊の、中型高速駆逐艦隊と、ドゥランテの巡洋戦闘艦隊、他、各国中型艦艇を預ける。それら部隊の艦隊旗艦になってもらいたい』

『了解ですファーダ』


 何と、カグヤは今作戦で、各国中型艦艇の連合艦隊旗艦となるのだ。各国の中型艦艇がカグヤの周囲に集結し、艦隊陣形を取る。


『よし、全艦隊集結したな。とにかく時間がない、事は過去のイゼイラエルバイラ遭難事件の流れという展開だけでは収まらなくなっている。今時作戦の戦後処理はイゼイラに行ってもらうが、作戦自体は連合防衛総省事案となった。なので全艦隊、これはティ連同胞全体の事件として全力で事にあたってくれ、以上だ』


 セドルの激に艦隊クルーの士気は高い。

 ティ連同胞とそれを護ってくれた未知の種族を、異様なバケモノ達から救うのだ。

 事が一つの惑星規模の問題にまで発展したこの事件。



 ……決戦である。

 各艦艇、集結を最終確認すると、即座に惑星サルカスへ向けて、ディルフィルドジャンプを敢行した……



 






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