銀河連合日本外伝 Age after ― Project Enterprise ― 第三話
アメリカ合衆国のとある場所。時間的には早朝。
その場所は今回、最大級の極秘事項として扱われている。
日本の兵器を扱う米国の演習場としては、三二〇〇〇〇エーカーの広さを誇るワシントン州のヤキマ演習場が有名で、ここで行われる国際的な火力演習における自衛隊戦車の無双ぶりは内外ともに関係者の間で有名な話ではあるが、恐らくそのあたりの演習場。だが場所の詳細は今回秘中の秘としているので……という感じ。
さて、この惑星地球では、一九五三年と、二〇〇五年にH・G・ウエルズ原作の名作古典SF小説『宇宙戦争』が映画として公開された歴史がある。
原作の内容は、舞台は英国。火星人が来襲し、その強力な科学力の兵器で英国を蹂躙するというストーリーが前提としてあるのだが、この作品の注目すべきところは、いろんな種類の登場人物が織りなす人間群像として描かれているところが最大の見所であった。
映画作品になる以前にはCBS放送がラジオドラマで放送し、それがリスナーによってマジモノの事件と勘違いされて米国が火星人の攻撃を受けたと大パニックになり、更に当時の世界情勢でこの放送がナチス・ドイツ軍の米国本土攻撃と更に勘違いされたことでパニックに拍車がかかってしまった騒乱事件、一九三八年の「宇宙戦争事件」という米国の歴史にも名を刻まれた作品として知られている。
この事件は一九七五年に『アメリカを震撼させた夜』としてテレビ映画で制作され、日本でも放映された。現在でも集団心理学の教材として、教育機関ではよく題材にされる事件である。
ということで、一九五三年版の映画の方は、あくまでこの作品を元ネタにした所謂純粋なエンターテイメント作品であったが、二〇〇五年版の方はその人間群像的な内容を踏襲した、米国の一般人視点で描かれた作品であった。
一九五三年版の異星人宇宙船のデザインは今でも有名であるが、二〇〇五年版の方は、原作へ忠実になり、三本足で移動し、地球人を捕獲し、人間を惑星環境改造の素材にしてしまうといった不気味さもこれまたインパクトがあるメカニックであった。
で、ここ米国では、そんな不気味さ……というわけではないが、一年ほど前の自衛隊が北海道で経験した驚愕の体験を今、米軍兵達が体験しようとしていたりする……
「ダッチ・アルファリーダーより各車、そろそろお客さんがやってくるぞ、全車準備はいいか?」
『こちらブラボー。準備よし』
『チャーリー、問題ない』
『デルタ、敵『捕食者』はまだ見えない』
「さぁて、どんなショーを見せてくれるんだか……PTSDにならない程度で頼むぜ」
『ダッチ』とはなんともマニアックな部隊コードだが、これも彼らなりの今イベント用歓迎ジョークだ。
何かあの時の自衛隊と同じような雰囲気だが、ここは米国であり相手は米国陸軍と空軍である。その規模が違う。
陸軍からは、ガスタービンエンジンの音を唸らせて、もうもうと砂塵を巻き上げて登場するは、かの有名な同じみ米国戦車『M1A2』のSEPV2という最新仕様のご登場。
このM1戦車、まあなんともアメリカらしい贅沢な戦車で、『地上を走るジェット戦闘機』というあだ名を皮肉の意味も込めて付けられている。
ガスタービンエンジン。わかりやすく言えば、ジェットエンジン積んで走っているのと同じような感じの戦車なのである。なので滅茶苦茶燃料食いな戦車で有名なのだが、このガスタービンには利点も沢山あり、基本M1戦車は、航空機用の燃料を使うが、ジェットエンジンと同じ構造なので、燃料は燃える液体なら極論なんでもいいのだ。理屈では、軽油であろうがガソリンであろうが、アルコール燃料であろうが燃えりゃどんな揮発性液体燃料でも動く。別の見方をすると、とても燃料効率のいいエンジンでもあるため、かように緊急時は航空燃料にはこだわらない。そして冷却水、つまりラジエータがいらないため、熱環境耐性が非常に強く、更にはディーゼルエンジン等に比して、小型で高出力が得られるなどポテンシャルの高い内燃機関を持った戦車である。
ただ、最大の欠点としては、燃料の種類に拘らない戦車ではあるが、そらもう燃料をホースでまいて走るようなエンジンなので、アイドリングなんざしようものなら駐車中でも燃料がガンガン減っていく。なので、専用の発電機を別途積んでコンピュータ機材の電源を確実に確保維持しないといけないという、ちょっと何となく本末転倒なところがあり、さらにはかように燃料食いで、高速の戦車なので、M1戦車が先行するところ、必ず後方から専用の高速燃料補給車が随伴するという、まあアメリカらしいクソ贅沢な、そんな戦車なのである。
そんなところから『地上を走るジェット戦闘機』『クローラーを付けたジェット戦闘機』などと言われているわけでもある。
そんな感じで、その数もかの北海道演習とは違い、そりゃもう米国さんらしい大規模で準備万端。
AH-64アパッチ攻撃ヘリも後方で待ちかまえ、更には一部で神に祭り上げられている機体、数少ない退役処理がまだのアメリカ空軍『A-10サンダーボルトⅡ攻撃機』も参入し、そんな感じでカグヤ搭載陸戦機動部隊VS米陸空軍という感じの大演習大会である。
もちろん、かの時の、ゼルシミュレーションシステムを使った演習の再現だ。
『隊長ぉ、このエイリアンさんの3Dシミュレーターですか? これ本当にシミュレーターなんですかぁ?』
そんな無線が、隊長車のM1アルファ車に入る。
「ああそうだ。俺がこの目で昨日事前に確認している。俺も最初はビックリして、腰抜かしそうになったがな。確かオキナワの海兵連中も、このシステム使って、トウキョウのドイツでナチと戦ったらしぞ」
『は? な、なんですって? 大丈夫ですか隊長?』
「うるせぇ……まぁでも、お前らも砲弾搬入の時、見ただろあのゼルなんとかとかいうのを……」
『ええ。砲弾も銃弾も本物にしか見えませんよ……ジエイタイの連中、いつもこんな演習してるんですか? 私ならこれで金とれる施設作って一儲け考えますけどね』
ってか、実際その施設は日本にもうあったりする。
「よし! 野郎ども、無駄話は終わりだ。時間が来たぞ、アルファリーダから全車、作戦開始。作戦開始」
司令部から作戦開始の指令無線が入る。
米軍初のゼルシミュレーション演習の開始である。
今回は先の演習のように、カグヤ側はシールド無し設定なんてのはやっていない。但し、対探知偽装設定はナシにしている。でないとコレ使ったら米軍は何も見えずに瞬殺にあってしまうわけで、訓練にならないからだ。
シールド設定も、まともにやったら勝負にならないというのもあって、事前協議で耐久度八割減でやっている。それでもヴァズラーなんかはシールド無しでも砲弾三〇発以上食らわさないと行動不能にできないのだから、米軍はこれでも結構キツイ勝負なのは勝負ではあろう。ただ……あの時の北海道演習と違う点。それは此度の演習。米軍の規模だ。北海道演習ではティ連さんの練度テストの意味もあって、あれでもさほど大規模にはやっていない方なのだが、今回の演習では米軍は連隊規模で参加している。そりゃもう実戦さながらというやつだ。カグヤ側も張り切っているわけであったり。
米軍騎兵部隊視点。さっそく敵さんのお出ましである。
なんと、おあつらえ向きの敵、フォーラ・ベルクⅢ型の登場だ。フヨフヨと空飛んでやってきたUFOさん。
『ふははは! マジかよ……本当に宇宙戦争だ。どっかにトム・クルーズが紛れ込んでねーか?』
「おっし、根性入れていけよ!」
砲弾装填手がラックから砲弾取り出してガショと装填。
M1戦車はムキムキマッチョな兵士が手動で砲弾を装填するのである。この時代遅れとも思われがちな方法ではあるが、機械自動装填と違い、故障がない確実な方法なので信頼性は抜群であったりする。但し、現在開発中の最新仕様M1戦車は、自動装填になるらしいが。
『どぉわっ! 隊長、隊長! アレアレっ!』
「は? って、WoW! ヒュ~!」
フォーラ・ベルクは、空中に停止したかと思うと、シュンシュンとその場で三本の脚部と多関節なマニピュレータを造成させ……トライポッドになった!
丸みを帯びた三角形の先端下部にセンサーらしきものをせり出させ、一つ目が光ってレーザーのような可視光線を周囲に投射し、辺りを探りにかかる。
三本の足を器用に使って、前進を開始するフォーラ・ベルク。
暗視装置でよく見ると、その足元に何やら高い赤外線反応が……
「おいおいおい、宇宙戦争の次はスターシップトルーパーかよ! ロサンゼルスでやってくれ……ったく!」
ハインラインの名作に例えられる連中は誰かというと、特危自衛隊陸上科の皆様。
陸上科直協兵器、重装甲ロボットスーツ・デルゲードに稼働繊維インナースーツを着込んだ一般陸上科隊員諸氏が、フォーラ・ベルクⅢ型の援護につく。
これがもし陸上自衛隊なら、普通科隊員には89式装甲戦闘車がつくところであろう。特危陸上科の戦術は、この歩兵戦闘車を随伴させた普通科戦術を更に発展させたような感じのものだ。
この装甲ロボットスーツや、一般陸上科隊員の着込む稼働繊維インナースーツにパーソナルシールドは、所謂歩兵部隊に装甲と機械的機動力。そして高火力を与えるための兵器であって、それを元来の歩兵戦闘車という車両でやっているか、パワードスーツまがいな機動兵器でやっているかだけの違いなのである。
特危の場合は、陸自普通科が使うこの歩兵戦闘車の防御力と高火力を、個々の歩兵装備で実現している。
第二次世界大戦開戦時、ドイツが行った画期的な空陸立体戦術『電撃作戦』や、ベトナム戦争でアメリカが開発した画期的な航空歩兵戦術『ヘリボーン』以降の、今回特危が開発した画期的な機甲戦術……特危ではこれを「新機甲戦術」と呼んでいる……のだが……
「大見二佐ぁ~。その新機甲戦術の中核兵装がトライポッドというのもどうかと自分は思いますがぁ~」
「ふはは、文句言うな。今この陸上演習で使えるのは、フォーラ・ベルクとシルヴェルだけだ。フォーラさんには、空の相手もしてもらわんといかんのだしな」
「旭龍や旭光Ⅱ見せびらかしたいっすよね~」
「仕方ないだろ、あっちは海軍機さんと空軍戦闘機さんの演習相手だ」
「でも、なーんか、こっちゃ完全に悪者みたいな感じですよぉ~」
「お前らそんなこと言ってたら、あとでセルカッツさんに怒られるぞ」
そんな感じで、トライポッドを護衛する日本人……「またおまえらか」と言われそうな感じで、両軍交戦開始。もう米軍はなりふり構わず数で圧倒作戦。で特危さんは、連合友情パワーな質で勝負。
「ファイア、ファイア、ファイア、ファイア!!」
米軍戦車部隊の一斉砲火。そりゃもう凄いもので、湾岸でもこの調子でやってたんだろうなぁと思わせる映画のような攻撃。ドカバカボカスカと砲煙に機関銃の曳航が宙を舞う。
『ウオォォッ! コリャ凄マジイナ! フォーラ・ベルク、反撃反撃!』
フォーラに乗って機動兵器部隊を指揮するリアッサ二佐
多関節マニピュレータをクイと持ち上げて、敵の反応へ向ける。
戦車部隊もフォーラの行動へ敏感に感応し、散開行動をとる。だが、かのM1戦車とはいえ、自衛隊の10式に比べれば基本性能はもう旧式だ。10式のスラローム射撃という感じにはいかない。なんせ砲弾の装填は人力であるからして。
キシュシュ! クォンクォン! とエネルギー弾をぶっ放すフォーラ・ベルクⅢ型。
フォーラ本体から緑色の光弾を発射し、マニピュレータからはビーム状の閃光がほとばしる。
緑に光る光弾くらったM1は、青白い電光まとって装甲がはがれ落ちるように瓦解しながら車体を吹き飛ばし、ビーム食らったブラッドレー歩兵戦闘車は、バターのように焼き切られる……というようなゼルシミュレーション演出をカグヤのメインシステムは施す。
少し離れた場所では、四本足の空挺兵器、カグヤの主砲でもあるシルヴェル・ベルクをノーマルシルヴェルに換装したバージョンが、米軍ストライカーMGS装甲車部隊と戦闘に入った。
ストライカーMGSとは、米軍の誇る高機動装甲車ストライカーに、一〇五ミリ砲M68A1E4を搭載した、別名『装輪戦車』と言われる昨今の各国軍隊で流行りの戦闘車両だ。
昔の装甲車という兵科は、戦車に不整地性能で劣り、当時の技術的な車輪構造故の、大型砲が搭載出来なかった構造のため、補助的もしくは歩兵直協車両にしかならないという認識だった。
だが、昨今の目覚ましい自動車技術の発達で、車輪を付けた装甲車でも装軌車両。すなわちクローラー巻いた戦車と比較しても不整地性能で引けをとらない性能となり、トランスミッション技術と砲システム自動化・小型化技術の発達で、装甲車にも主力戦車並みの大型砲が搭載できるようになった。
すなわち不整地機動性で不利と言われた装甲車故の大型装輪構造が、現在では高速性能を生み、側面増加装甲代わりにもなって生存性も高くなるという認識の変化で、非常に有効な主力兵器として見直される傾向にある。
そんな感じで、車輪で高速に動きまわるストライカーMGSタイプと、四足歩行でガシガシ動き回るシルヴェルのバトルは、これはもうテレビゲームか何かの陸上戦闘な世界であった。
フォーラも負けじと三本の御御脚で堂々と、また器用に前進しつつ、一つ目センサーを右に左に動かしてエネルギー弾の曳航を周囲に放つ。
全長四〇メートルの高さから放つ攻撃は、例えるならヘリコプターが低空でホバリング滞空しながら攻撃しているようなものである。おまけに相手の装甲は厚いわ、シールド薄めで張っているわで、米軍から見ればこれがなかなかに始末が悪い相手であったり。
大見達八千矛部隊と合同で行動する一般部隊も交戦開始。特危の恐るべき機甲直協部隊が直に米軍機甲部隊を狙ってきた事に米軍側が戦慄し、急きょ陸軍歩兵部隊を大量に応戦へ差し向ける。
「オイオイオイオイ、マジカマジカマジカマジカ! グレネード! そらいけクソ野郎ども! GOGOGOGOGO!」
もう硝煙弾薬祭りな演習場。こんな歩兵達の叫び声が木霊する。
ウィンウィン機械音鳴らすは、重装甲ロボットスーツ・デルゲード。パイロットはイゼイラ人フリュ兵士さん。
米軍のグレネードにロケットランチャー攻撃から、盾になって特危隊員を守る。
筆書きの勢いある字体な漢字で『士魂』と書かれたデルゲード腕部が勇ましい。
『コッチも負けてんじゃナイヨ! 特危・メルヴェン魂みせてやんナ!』
デルゲートパイロットのフリュ兵士が頭部装甲をガバっと開けて叫ぶ。諸氏「オー!」と米軍に負けじと日頃の訓練成果を発揮する。
両軍機動兵器に歩兵部隊入り乱れて、演習場全域で、かの魚釣島事件の戦闘以上ともいえる壮絶な戦闘演習が始まった!
AH-64アパッチの対戦車ミサイルが火を噴き、A-10の30ミリガトリング砲「アヴェンジャー」がフォーラを襲う。
リアッサのフォーラが脚部を出したまま、空中に浮かび上がり、A-10の迎撃に向かう。あの航空機は流石にちょっとマズイと見たのだろう。リアッサフォーラの蹴りをくらって墜落していくA-10。
カグヤのメインシステムが計算する凄まじい戦闘演出シミュレーションに、米軍兵士も思わす歓声に悲鳴に嗚咽を挙げ、これが超絶VR演出空間であることを忘れてしまう。
「なんだなんだなんだ!? こりゃサーフィン好きな中佐殿の呪いか!!」
いやはや『イッツ、ロックンロール!』である。
………………………………
さて、所変わって汎用護衛母艦かぐやこと『宇宙空母カグヤ』
こちらでは、米国海軍、及び空軍との合同演習が行われていた。
こちゃらでは、あちゃらのような『ロックンロール』のような事はなく、主な訓練として、海軍機と空軍機のカグヤ着艦訓練と、空戦空技演習である。ままさほどワーグナーな黙示録的派手さはない。
カグヤはサンフランシスコ湾から太平洋に出て、米海軍航空母艦ロナルド・レーガン旗下第9空母打撃群と合流する。
通常、現在カグヤのいる海域では、米太平洋艦隊第3艦隊が管轄なのであるが、今回は今後の極東地域の安全保障上の観点からも、第7艦隊旗下船舶との演習が妥当だと米軍は踏んだのだろうか、お隣の海域を担当する第7艦隊から当該空母を呼び寄せたようだ。
とはいえこういうことは、米海軍ではしょっちゅうあることなのだそうで、特段珍しいことではないらしい。
珍し事な方は、当の第9空母打撃群の皆様で……諸氏船から外を見て、ポカンと口をあける。
なんせくどいようだが、カグヤはバカデカイ。おまけに飛ぶ。
更には、何かロボットみたいなのが甲板に立ってるし。どう見てもドラゴンか何かにしか見えないシルエットな機体が立ってるし……打撃群司令はロナルド・レーガンからこう思う
「どーすりゃいいんだ? オイ……」
なんせ陣形組んで航行するのはいいが、当の艦隊旗艦よりも尋常なくでかいカグヤなので、いやはやという感じ。どっちが旗艦なんだよと。
「司令、DDCVSカグヤより入電。艦隊陣形より離れて、該当離着陸訓練地域に移動する。以上」
「了解した。では予定通りにと伝えろ」
「アイ・サー」
とそんな通信を終えると、艦隊司令はフゥと溜息をつき
「あんな船でも『DD』かよ。もうスペースキャリアーでいいじゃないか」
そういうとブリッジスタッフに苦笑する。諸氏、ちょっち笑ったり。
……しばし後、空母ロナルド・レーガンからは、主力戦闘機F/A-18E単座戦闘機や、F/A-18F複座戦闘機が飛び立っていく。F-14はもう退役してしまって、あのロックな迫力がもう見れないのは寂しいところだ。新型機のF-35配備もまだ未定。ということで、実際の話、このF/A-18戦闘機。正直言って場つなぎ感が強い戦闘機なのだが、それでも諸外国の主力機と遜色ない強力なマルチロール機であるのは確かである。
F-18という戦闘機は、元々は件のキャラクター性の強かったF-14戦闘機のサポート戦闘機として開発されたものだったのだが、元々の設計からして伸びしろが非常に大きい機体で、結局色々設計変更した結果、元々のF-18D戦闘機とは別物に近い、若干大型の立派な主力戦闘機になったという海軍機である。
とはいえ、先代主力機のF-14と比較すると、良くも悪くもカッチリまとまった戦闘機で、キャラクター性がイマイチ低いのが難点だが……
……それはともかく合流後、各プログラムをこなすために少々無線で打ち合わせ後、打撃群の隊列を離れ、所定の海域へ向かうカグヤ。
すると、ロナルド・レーガンから飛び立ってきたF/A-18が数機さっそく飛んできて、上空を舞う。
「とりあえずは先方さんご所望の着艦訓練ですな、ティラス艦長」
『ですナ、トウドウ司令……通信士、上空のセントウキに指示を』
上空を舞うF/A-18は、その異様な大きさの空母に着艦するなんざ大したことないとタカをくくっていたが、どうも当初の予定とはちがって、そう簡単にいくかなという、ちょっとした不安を感じていた。
「リプリー・アルファからノストロモ。どうぞ」
『こちらノストロモ。どうした大尉』
「いや、これからムーンライトプリンセスに着艦するんですが、やっぱりなんとなく歪ですね……所謂、我々の知っている空母ってわけじゃさそうな感じですよ」
『どういうことだ? お前達なら、1600フィートも甲板がありゃ目を瞑ってても着艦できるだろ』
「ええ、まあそうなんですが、甲板のクルーが全然少ないですし、どこをどうみても着艦ワイヤーがありません。おまけにこの甲板形状、どうみても強襲揚陸艦か、海上自衛隊の使ってるヘリ空母のデザインをそのままデカくしただけですよ」
そう、これは前々から世界の軍事関係者から指摘されていたところではあったのだ。
正直カグヤは、地球基準の『空母』として見た場合、格好の良い代物ではない。どっちかというと「何考えてこの大きさでこんなデザインにしたんだ?」と思われているほどである。
まずカグヤは、こんだけデカいのに、アングルドデッキになっていない。まずここからだという話。でもこればかりは、カグヤのお手本が「いずも」でそのデザイン形態をイゼさんセンスでパクっただけの話なので、無理を言ってはいけない。そしてカグヤは、アングルドデッキなどというものはいらない。
「ムーンライトプリンセスからリプリー・アルファへ、着艦訓練を開始します」
カグヤ通信士が、F/A-18へ着艦許可を出す。
「リプリー・アルファって……ハリウッド近いからって、そんなコードネーム付けるなよ、ハハハ」
あまりアニメや映画なんて見ない藤堂ですら、その元ネタは知っている。
『リプリーという名称に、何カあるのですか? トウドウ司令』
ティラスも予備自衛官扱いになってからは、藤堂の事を副長と呼ばずに『司令』と呼ぶようになった。そっちの方がしっくりまとまると言う感じなのだそうな。
「え? あ、いや、ははは。地球のね、英雄の名前ですよ、はは。フィクション作品のですけどね」
そんなアホな冗談もそこそこに、F/A-18がカグヤへ着艦体制にはいった。
F/A-18の大尉さんは……
「おいおい、このままカグヤの甲板へ普通に着艦してこいって、ワイヤーもないのにどうするんだ?」
『しのごの言っても始まらんでしょ大尉。ほら、行った行った』
「わぁったよ……リプリー・アルファ。アプローチに入る。海ポチャはいやだぞぉ」
カグヤ甲板へまっすぐアプローチに入るF/A-18リプリー・アルファ。すると、F/A-18は甲板後部に接近するやいなや、急に空中で強制減速し、エンジンがかかったまま、空中で停止してしまった。
そう、カグヤのトラクターフィールドに捕まったのだ。
「オーマイガッ! 空中で停止しただと! どういうこったこりゃ! リプリー・アルファよりムーンライトプリンセス。どういうことだこれは!」
『こちら、むーんらいとぷりんせす。リプリー・アルファ。落ち着いて下さイ。まずはそのままでエンジンカットをお願いしますス』
「り、了解だムーンライトプリンセス」
通信士の英語が、ジャパニーズイングリッシュから、イゼさんイングリッシュに代わると、パイロットもこれまた何かやらかすんだろうとカグヤの指示に従い、エンジンを切る。
狼狽していたパイロットはようやく落ち着きをを取り戻し、彼自身もその状況を冷静に観察する。
どうも自分の機体が、何かの波動に捕まっていると察する彼。
するとエンジンカットし、普通なら失速して墜落していないといけない機体が、ランディングギアを出した状態でゆっくりと、何か大事なものでもテーブルへ供えるように、F/A-18はカグヤの端の方へ綺麗に着艦させられる。隣にはシンシエ専用機と化している試作型旭龍がそびえ立っていた。
僚機の着艦するサマを見せつけられて、目を丸くする他の機体。確かにこんな着艦システム持ってる船なら、アングルドデッキがどーのだとか、ワイヤーがどーのだとか、関係ないわなと察するパイロット達。
ってか、彼らですらそのサマを見て悟る事、それは……
「海軍機、いらねーじゃん」
と、そういうことだ。
しばし後、こりゃ面白そうだと、遠慮なしにカグヤ甲板へ諸氏突っ込んでくる。いやはやなんともだと笑うティラスと藤堂。
ロナルド・レーガンから飛来したF/A-18がすべからずカグヤへ着艦する。
米軍パイロット達はやはり初めての異星人クルーに驚くが、特危の日本人クルーが仲介に入って、親睦を深めていたり。
すると、米兵パイロットの一人が同僚の肩をたたき「あれを見ろ」と指をさす。
そこには、めっぽう別嬪のダストール人と、四〇過ぎのオッサンパイロットが仲良く話しながら、何かに近づいていく。
「おい、あれってキャプテン・ウィッチじゃないのか?」
「あ、ホントだ。サインもらえないかな」
「あの横の男は?」
「あれは……見たことあるぞ……確か、何年か前の演習で、アグレッサー役のイーグルでF-22に撃墜判定食らわした有名な航空自衛隊のパイロットだ。確か名は……タガワとか言ったか?」
多川もヤルバーンが来る前は、結構やんちゃしてたので、存外有名人だったりする。
そのキャプテンと、多川が向かう先はもちろん愛機、マージェン・ツァーレこと旭龍だ。
「おいおい、あのメックドラゴンに乗るのか? あの二人」
「なんてこった。おい、誰かスマートフォン持ってないのか? 動画とれよ」
と、そんなアメちゃんパイロットを横目にシンシエコンビ、愛機で出発である。
せり出したコクピットに、多川が下方前。シエが後部上へ腰を埋める。シエは半マスタースレイブ操縦の関係上、少し半立ちのような格好で乗り込む。
「シエ~、んじゃレーガン大統領んところ行くか。準備いいか?」
『エエ。OKヨ、ダーリン』
「んじゃトラクターポイントまで徒歩でお願いします。ホーネットに尾っぽぶつけるなよ……あ、垂井、尾崎、聞こえるか?」
外にいる垂井と尾崎に外部スピーカーで話す。
垂井と尾崎はPVMCG立ち上げて、通信に切り替える。
『はい、なんでしょ一佐』と垂井。
『右に同じです』と尾崎。
「垂井は旭光Ⅱで大統領んとこ来てくれ。尾崎はヴァズラーでな」
『え~……私F-2HMがいいです~』
ブーたれる尾崎。尾崎は揚力至上主義者であった。
「F-2HMはダメだよ。あれ一応元の機体がアメさん噛んでるからな」
『アアソウダゾ、オザキ。アノ機体ハ、チキュウノ科学力デモ比較的ワカリヤスイ機体ダ。アマリミセビラカサナイホウガイイ。ワカッタナ』
『了解ぃ~ シエ姉が言うならそうします』
「あ、なんだお前、俺が言ったらしねーのかよ!」
『美人妻の命令優先ですよ。んじゃ、そういうことで待機します』
PVMCGを切る尾崎。
「あんの野郎ぉ、なんか最近冷てぇなぁ」
『ソレハ、私ガ罪作リナフリュダカラカ?』
「シエ、わかって言ってるのかぁ? まーいーや、んじゃ行こうか」
『了~解』
米海軍さんは、カグヤめがけて着艦訓練したいとやってきなさったわけであるからして、今度はこちらから、レーガン大統領んとこに行って着艦訓練やろうかというシンシエコンビ。
部下二人従えて、旭龍に旭光Ⅱで乗り込んでやれという話。
空母ロナルド・レーガンにキャプテン・ウィッチがやってきた日にゃどうなるかそして、薬指の指輪を見られた日にゃどうなるか。
「なー、しえー。今回だけ指輪取っていかない?」
『ヤダ』
「どうしても?」
『ダーリン。ソンナ人ノ目ヲ気ニシテドウスルノダ。ソンナコトデハ……クドクドクド……』
離陸前にシエ説教モードのスイッチを押してしまった多川さん。
シエさん。いやはや絶対意地でも指輪を外す気ないらしい。
そんな感じで夫婦らしくなってきた二人の乗る旭龍は、第9空母打撃郡司令艦ロナルド・レーガンへ。
かつてはスターウォーズ計画なんていわれた、壮大な大ボラ大SFスペクタクルブラフをぶちあげて、結果的にソビエト連邦を叩き潰した米国人気トップ5に入る大統領の名を関した空母艦。
そして……3.11東日本大震災の時、何を差し置いても真っ先に駆けつけてくれた、件の『トモダチ作戦』で日本にとっても大恩ある艦、ロナルド・レーガン。
そこに向けて多川とシエは演習という目的もあるが、親善という意味もかねてキャプテン・ウィッチというハリウッドスターも顔負けな有名人連れて、この三機で向かおうという話である。
まま、エンターテイメントなところも無きにしも非ずであったりなかったり。いやはや……
米国原子力空母の甲板に悠然と立つ旭龍の姿、その雄姿はまま、想像に難くない。
………………………………
さて、ここはグレーム・レイク空軍基地。
昨日はパウル艦長が、中古航空機オークション会場のような退役軍用機保管基地 デビスモンサン空軍基地で、何か使えるガラクタはないかと目利きに行っていたわけだが、彼女の目に止まったのが、米軍が誇る『死の鳥』『成層圏の要塞』の異名を持つ巨大戦略爆撃機『B-52ストラトフォートレス』だった。
この機体も、そりゃあと半世紀は余裕で現役続行といわれているのだが、冷戦以降、軍事費削減に対イスラムテロへの戦術・戦略転換などなど、かように米ソ冷戦核戦略を基盤にした兵器が次々に退役していく最中、この機体も御多分に漏れず、金食い虫なので余剰機体はかようにここデビスモンサンに送られてきたりしていた。
その時、たまたま送られてきたモスボール保管処理前の二機に、パウルは目を付けたという寸法。
――ちなみに、モスボール保管というのは何かというと、先に述べたとおり、部品取りや、有事の際の予備兵力として兵器を保管処理することであるが、その際、当然そういった機体というのは、酸化したり劣化するために、経年劣化や、酸化進行を防ぐために、機体の隙間を目張りしてシーリングし、酸化しないように空気(酸素)を抜いて、二酸化炭素を機体内に充満させたりするなどして、機械を保全する方法である――
『コの機体は、頑丈そうでいいわ。うん、フィブニー効果を発生させる翼もタフだし……まあ、あの空気圧搾式噴射推進機構はいらないから撤去するとして、あとは機体の素材変換が重要かしらね……』
と、昨日はB-52の中も見せてもらって、色々分析していたパウル。
なぜにこの機体がいいかと聞けば『頑丈』『大きさが丁度いい』そしてもっとも重要だというのが、『機体デザインに癖がない』という点。ここ大事という話。
このB-52、一般にはとんでもなくデカイ軍用機と思われているが、実はB747ジャンボジェットに比べて全然小さい機体なのである。
ジャンボの全長は、七〇メートル程、でもこのB-52は四八メートル程度の大きさなのだ。全幅もジャンボジェットとそう大差はない。
つまり、全長がジャンボより短く、全幅がジャンボ並なので、翼が異常に大きいデザインに見えてしまう。 そんな感じでとんでもない巨人機に見えてしまうのである。
とはいえ、全長五〇メートル近いその機体は、一応に『デカイ』のはでかいわけで、巡航ミサイルや空対地核ミサイルに通常爆弾をうなるほど積んで、いつでもどこでも死を宅配できる他国に類似した爆撃機の例を見ない、まさしく『成層圏の要塞』の名前に相応しい機体であるのは確かである。
PVMCGで機体内部も非破壊調査したパウルは、ウンと頷いて何かに納得したようで、ダリルに
『ケラー・ダリル。プロジェクトにこのバクゲキキ? が使えそうだから、ここにある二機持って行っていいかしら?』
「えええっ!? ミスパウル。こ、これをプロジェクトに使うのですか!? どど、どうやって……」
『ウフフフ、いからいいから。まー大体頭の中で絵はできたわ。セルカッツにも相談しないとね。サマルカの宇宙船規格との兼ね合いもあるし。んじゃ、よろしくお願いできる?』
なんか勝手に話を進めるパウル。B-52をグレーム・レイクに持って帰るのが規定事項になってしまったようで、流石に困惑するダリル。いかに彼でも、モスボール行きになった爆撃機とはいえ、B-52を二機もどうこうできる権限はない。
『ああ、ダリルさん。そこは私が何とかしますよ』
頭を抱えるダリルに、助け舟を出す柏木。
フェルから連絡を受けた柏木は、
「え、ええ、お願いできますか? ミスター」
『はい。外交ルートでハリソン大統領閣下に話を通します。ハハ。パウルさんが、これあったら良いというのなら、まず間違いないですし、彼女に任せておけば大丈夫ですって』
柏木は、カグヤ常駐のスーザンとグレーム・レイクの白木へ連絡し、事の詳細を話した。
この退役B-52をプロジェクトで使いたいと、パウル艦長が言っていると。
スーザンの方は早速の初仕事に張り切ってハリソンに連絡を取り、白木は外務省ルートで銀河連合日本国として要請を出す。
まま、ここまでやれば間をおかずにハリソンからも大統領権限で簡単にOKが出た。
そりゃ予算削減でモスボール保管行きということは、つまりいずれは廃棄ということだ。こんな爆撃機、米国以外に持ってなんかいないので、部品取り用にもならない。
逆にこのプロジェクトで、何に使うのか知らないが有効活用できるならそっちの方が良いに決まっている。
……ということで、ハリソンは急きょそのB-52をグレーㇺ・レイク基地へ移動させるスタッフを調達してくれたようで、次の日。短い距離なれど、その怪鳥爆撃機二機は、グレーム・レイク基地に飛来した。
早朝からドゴォアァァァァアアア! キイイィィィィと、擬音でしか表現しようのない轟音たなびかせて、もうそりゃ不気味としか言いようのない恐るべき機体が、グレーム・レイクにやってくる。
機体を斜めにして、車輪を前へ倣えで揃わせて着陸するする姿は、この爆撃機のデカさを印象づけるセールスポイントのような画であったり。
『うはははははは! わーっはっはっはっはっは!』
何が爽快なのか、頭上を超えて着陸体勢に入るB-52を見上げて、高笑いするパウル艦長。
腰に手を当てて仁王立ち。『妖精魂』の文字が一際栄える。
『うほほほほ!! フィブニー航空機はこの音がいいわねっ! 爽快爽快。目覚めの爆音。スカッとするわ!』
でかい声あげてご機嫌なパウル艦長。
『何を言ってるデスか! こんなのウルサイだけじゃないですか~! うひゃ~!』
反フィブニー航空機派のフェルさんは、どうもパウル艦長に異議があるようだ。
『あ、ファーダ。そのお言葉はいくらイゼイラのフリンゼでも捨て置けませんわね。このフィブニー機関の素晴らしさは、あの忌まわしき歴史を乗り越えた、飛行生物種を祖とするイゼイラ人だからこそ誇りとすべきなのに!』
『でも止まったら落ちちゃうデスよっ! やっぱりここは空間振動波機関を広めないとデスネ……』
『嗚呼嘆かわしいっ! ファーダ、一度貴女にはじっくりとフィブニー機動機械のですね……』
なんか向こうで熱い討論を交わしている笹穂耳な技官艦長と、鳥人種な女帝で科学者な衆議院議員で副大臣。
B-52は無事着陸して、爆撃機としては最後の飛行を終え、その任を全うする。
「……で、向こうで熱い議論交わしているエルフさんと、私のヨメはとりあえずほっといて……お疲れ様でしたダリルさん。それとパイロットの皆さん」
此度、ハリソンの命を受けて、B-52をここまで持ってきてくれた爆撃機パイロットに労いの言葉をかける。
「いやはや、私もパイロット出身ですが、さすがにコイツは乗ったことないですからね。大迫力でしたよ」
ダリルは、デビスモンサンに残って、色々段取りを付けてくれていたのだ。で、この機体に同乗して戻ってきたという次第。
まだB-52の、航空燃料の匂いが漂うこの基地。
やはりなんだかんだ言って、こやつのインパクトは強烈だ。
『ダイジン! なんだいなんだいこの機動兵器は? チキュウのスペースクルーザーかい?』
シャルリが何事かと目を丸くしてやってくる。確かにリボルバー式戦術核兵器発射機を搭載できるコイツは、スペースクルーザーだといえなくもない。
「ナシ付けたのはいいが、実際間近にみると、やっぱとんでもねー機体だなぁコイツは」
と、白木も銀ぶち眼鏡をクイクイ動かして、麗子と田中さんともども目をパチクリさせる。
「ところで大臣閣下、こいつを持ってきたのはいいけど、どうするつもりなんですか? なんでもプロジェクト・エンタープライズに使うとかなんとかという話で、私達も大統領直々の命令で、ここまでこのロートルを持ってきましたけど……」
B-52を持ってきてくれたパイロットが、まだスーツも着替えずにそんな質問を柏木へ投げかける。
「いやあ、実はプロジェクトの素材で使うという話しか私も聞いていないんですよ……パウル艦長ぉ~! フェル~! ちょっと!」
まだ向こうでフィブニー機動機械が良いだの、やっぱり空間振動波ですよネ~ とか討議しているパウルとフェルを呼ぶ。
「はは、お二人さんとも有意義な討論の最中すみませんね」
『マサトサンは、フィブニーマシンと、ディメンションシフトマシン、どっちがいいですかっ?』
「は、はあ? って、何の話だよフェル」
お二人の討論に巻き込まれる柏木大臣。って、それはさておいてと、話を進める。
「パウル艦長。この機体をなんでも件のプロジェクトに使うという話ですけど……どーするんです? まさか多川さんとこに送り付けられたF-15HMSCでしたっけ? あんな風に改造しちゃうとか」
するとダリルが
「F-15HMSC? 大臣なんですか? それは」
「ああ、いやいやコッチの話で。またその話はいずれ、ハイ。話すとちょっと長くなりますので」
柏木の問いにパウルは……
『ええ。まー、それに近いわね、ファーダ』
「えええ! マジっすか、パウルさん」
『とはいっても、あれをそのまま宇宙に飛ばすわけじゃないけどね。流石にそんなことはできないわ』
「と、言いますと?」
『まず……ちょっと厳しい現実の話をするけど、アメリカ国さんの計画。流石に二年は無謀ね。ちょっと無理よ』
するとダリルが
「ミス・パウル。こんな事を言うのは私も恥を承知でお尋ねするが……貴女がたの技術を動員しても、ですか?」
『ええ、ケラー・ダリル。残念ながらね。あのアメリカ国軍と、『なさ』という宇宙機関の図面通りにやったとして……私達の技術と、あの金額での貨幣ヨサン。そして地球の、発達過程文明の技術力を総動員しても……そうね……地球時間で四ネンは欲しいところね』
ダリルは手を横にあげて、天を見上げ、首を振る。
横で話を聞く米国側スタッフに、今来たB-52のパイロット達も同じ感じ。
もしそういう事なら、これを大統領に報告するのも、相当つらいところだ。だが……
『デモ、パウル艦長は、それを何とかする妙案があるということでスよネ。ウフフ』
とフェルが余裕の笑みで話すと
「そうだよな。でなきゃあんな怪物爆撃機、二機もくれなんて言わないよな」
と柏木もフォローする。で、そこでダリルも
「そこなんですけど、あの計画案が無理で、なぜにB-52なんですか? ミス・パウル?」
パウルは、ニヤとしながらウンウンと頷いて……
『ええ。私もセルカッツと一緒に色々思案してみたんだけど、当初の計画で予定にあった【実証試験用試作宇宙船】っていうの? あったでしょ? あんなのはっきりいってまどろっこしいから、あのプログラムは素っ飛ばします……地球人さんは、こういった宇宙船作るのは初めてだろうから慎重にいきたかったのだろうけど、私達からすれバ、この程度の宇宙船。みなさんの「ジドウシャ」みたいなものだからね。いきなり本番設計と製造でいくわ』
パウルの男気……いや、フリュ気溢れる語りに引き込まれていく諸氏。
『で、あのF-15ナントカとかいう機体だっけ? ダストールの技術者がやったアレをヒントに、この星にある使えそうなマシンを骨組みにして、素材を元素変換させたり、改造したりして、あとは……私も技官の端くれ。やっぱ当初の図面に近い構造にしたいから……そこらへんは何とかして……こんな感じの宇宙船を造りたいのっ!』
そういうと、パウルは鞄から、どうも昨日製図用紙に書いた手書きのポンチ絵のような図面を取りだして、近くにあった簡易テーブルに、バっと広げる。
正直、あんまりうまいとはいえない絵だが、それが何かはよくわかる図面だった。容姿の端っこに、日本語文字で……ちょっと子供みたいな字だが……「パうル画」とか書いてある。
「うわ……こりゃ……」と白木。
「Ohなるほど……」とB-52パイロット。
「そうきたか……確かにこれなら……」とダリル。
『ハハハ、なんとなく強引だけど、アメリカさんっぽいね』とシャルリ
「あらあらあら、って、すこーしパチモンくさいですが、オホホ」と麗子。
「でも、これなら二年どころか、もっと早くいけるのでは?」と田中さん。
『ウフフフ、流石はパウル艦長デスね。ただでは起きませんですヨ』とフェル。
そして柏木も……
「ははは! こう来ましたか! なるほど、これならいけるかな?」
彼も手を叩いて、パウルを称賛する。
その図面に書かれた、でかいポンチ絵は……かような感じ……
B-52を2機双胴機にして、くっつけて、これでボディの強度を確保。
んでもって、サマルカ規格のフォーラタイプの宇宙船を頭にくっつけて一体化。
あの恐ろしく長い翼は、ハードポイントラックと化し、そこに米国設計図にある磁力空間振動波エンジンを備え付ける。
このハードポイントラックと化した長い翼には、この長さを利用して、他に多目的な使い方ができると有効だったり。
あとは、ハイクァーンでB-52部分の素材変換や、分子コーティング等々を行って、強度を強力に向上させ、ままそこんところは外注費で色々とティ連技術を駆使して良いもの作ってあげるという話。
「なるほど、これはこれで……結構形になっていますね、うはは」
柏木大臣、なぜか心躍る。だがパウルは若干問題もあるという。その問題とは、技術的な問題よりも、ティ連の外交的問題だという。
ちょっとアメリカスタッフに聞かれるのはマズイということで、さりげなく柏木とフェルを少し離れたところに呼んでパウルは話す。
「……ほう、それは何ですか? パウルさん」
『ハイ、ファーダ。それはですね、この宇宙船にシールド装置と、ディフレクターフィールドを取り付けるかどうかという事なのデすよ』
この話、実はティ連の日本国一極集中外交方針を行う上で、結構重要な問題なのだという。
『……それは、軍事転用に関する事ですよ』
このシールド装置と、ディフレクターフィールド装置は、星系内航行宇宙船のような相応の距離を自由に移動する宇宙船を開発する際には、必要不可欠な装備なのだという。
まず、宇宙に漂うデブリ。これを高速で進む宇宙船から物理的に防御するということは、まず不可能である。どんなに強力な装甲板をもってしても、時にデブリと宇宙船の相対速度が亜光速にも達する時があるような状況で、物理的に防御することはまず無理だ。
なので、エネルギー力場として事象可変シールドの類が必要であるし、宇宙船進行方向の障害物を吹きとばす、シールド技術を利用したドーザーのような役目を果たすディフレクターフィールドは必要不可欠な装備なのだと。
この宇宙船、これはもう人工衛星のような大きさではない相応の大きさを持った宇宙船なので、もう偶然の無事故に頼ることはできないわけで、これら装備が欲しいところなのだが……
『ファーダ……空間振動波機関や、船体の素材変換に素材製作は、別段軍事転用されても、今後地球世界の一世紀というスパンの技術を考えた場合、まだ目を瞑れるのですが、このシールド技術はちょっと……というところで……』
そういうと、パウルは柏木の耳元に顔を近づけて……
『(このシールド技術を軍事転用されてしまうと、現在のティ連―ヤルバーンの軍事的アドバンテージとパワーバランスが崩れる恐れがあります)』
と彼女は話す。そりゃそうだ。ティ連シールド技術の完成形は、核兵器も防ぐ事が可能なのだ。
フェルも一緒に顔を近づけて、ウンウンと頷いてもっともだとパウルに同意する。
『で、セルカッツは本来シールド無しで、可能な限り船体素材の強度と空間振動波を利用した方法で、宇宙船の航行防御性能を上げるという方法を考えて、宇宙船技術をアメリカ国に譲渡したようなのですが……個人的な心情としては、シールドを載せてあげたいところなんですけど、どうしますか? ダイジン』
パウルの話を聞いて、フェルと顔を見合わせる柏木。その理由はフェルの見た、かの並行世界を思い出してしまったからだ。
米国とて、もし斯様なシールド技術の片鱗でも入手しようものなら、今後の態度を変化させてくる可能性はある。彼らだって、結局は日本のバックに付いているヤルバーンやティ連の大きな存在があっての前提で、今の日本と付き合っているのだ。
それでもまだ米国だけなら許容範囲なのだが、米国に漏れたら、必ずその情報はロシアと中国へ行く。
あの連中のスパイ網は普通ではない……『え? あんなところから!?』『え? あんな人が!?』というニュースはここ最近多かったものだ。
それに、米国があんなもの作ったら、必ず類似品のような兵器がMAKS航空ショーあたりで登場してくる。さすがにそれはかなわんなという話。
「はぁ~……難しいっすね! どーしよ」
すると白木に田中さん、麗子にシャルリが「どうしたんだ?」とやってくる。
「おう柏木、どしたい。無い知恵絞って何も出ないような顔して」
「うるせー! あーもう、お前らも協力しろ!」
「だから何なんだよって」
諸氏に、パウルとフェルの懸念を話す柏木。
「あっち……確かにそいつはまじーな……といってもそっち関係は俺も専門外だしな……」
すると、麗子常務が流石経営者という感じで、スっとアイディアを出してくる。
「ならば簡単でございますわ。その機能のみブラックボックス化して貸し出せばいいんじゃございませんこと?」
「ああ! そうかブラックボックス化か……」
そう、米国戦闘機メーカーがよくやる手である。
戦闘機を第三国に販売したり、ライセンス生産させたりする際、販売国のアドバンテージを維持させるために、その兵器の売りとなる根幹部分の機密を解析不能なモジュール化した部品にして供給するといった方法や、監視員を置いて解析を厳格に禁止した契約で供給したりすることである。
中国などは、このブラックボックス化された部品のリバースエンジニアリングをすぐに試みて、賄賂を横行させて契約違反で技術をパクろうとするのは有名な話。ロシアの兵器でそれをやりまくって、ロシアがキレたのはこれまた有名な話。
ただ、西側の場合、特に日本などは、航空機の生産開発技術維持のために、米国などへライセンス生産を求める場合、このブラックボックス部分でその取り扱いの攻防戦が商談に外交としてあるわけなのだ。
「柏木さん? ティ連ほど技術なら、そのシールド機能を司る部品を、地球の科学では絶対に解析不可能なほどブラックボックス化させることなんて、造作もないことではなくて? どうかしら、パウルさん」
『ハイ。ケラーの仰るとおりの事は容易に可能ですよ。私もケラー・レイコの言葉に賛成でス、ファーダ』
コクコクと頷く柏木。ならそういう方向で説明して、シールド装置を積ませたほうがいいかと思った。
なんせ、なんだかんだで地球技術が組み込まれた宇宙船だ。米国以外の他国もこの様子を注視していることだろう。それにもしこの宇宙船がうまく稼働してくれれば、この船に乗るクルーには、今後ISS同様にカナダ人や、ヨーロッパ人。それに将来的にはロシア人も参加してくるかもしれない。そんな事になった際、スベースデブリで沈みましたとかなったら、そりゃ大事である。ここは無事故対策に協力したほうがいいと思うのは普通のことである。但し、最新の注意払って、という前提付きだが……
と、そんな感じのことをダリルに話すと、ダリルも理解してくれたようで、NASAや軍に話をしておくと言ってくれた。
ただ、実はNASAでも、まあ当然と言えば当然なのであるが、パウルが言っていた同じことは懸念事項の一つとして上がっていたのだという。で、その対応方法も一応サマルカの技術を利用してのアイディアはあったという話。
その内容を聞くと、空間振動波を発生させ、ディメンションシフトで船を移動させる際、そのシフト空間を大きくとって、主観で空間を移動していない形になる宇宙船のディメンションシフト範囲内前方に、出力の小さい空間振動波パルスを発生させて、前方から飛来するデブリの相対速度を船体に当っても問題ない相対速度まで減少させて、ディフレクターフィールドのような事をしようと考えていたらしい。
その話を聞いて「ほーーー」と感心するパウル。
『な・る・ほ・ど~ そういう方法があったのね~……いやはや、さすがハ発達過程文明人』
「まあ、あるものでなんとかするのは当たり前の話ですよ、ミスパウル」
『フムフム、ならば、その考え方を発展させれば、それはチキュウジンが考えた手法だから、私達が文句言う筋合いのないものネ……では、その方法をもっと効率よくできる手法を一緒に考えましょう。それと、その手法は航行中しか使えないディフレクター代わりの装置だから、やはり軌道周回中や、停船中のシールド装置はいるわね。そこはさっきの方法で、そちらのお偉いさんに話を通してくれるかしら。ケラー・ダリル?』
「了解ですミス・パウル。ではその方針で」
『ヨロシクね。セルカッツには私の方からも言っておくわ』
米国も、まさか今まで多くの国に突きつけてきたブラックボックスを自分たちが食らうとは思ってもみなかっただろう。ある意味、この地球社会で科学先進国であることが誇りだった米国にしてみれば、ちょっと悔しくはある。
ブラックボックスでパーツや機能を貸し与えるなど、本来これは技術レベルで自分たちより下に見た連中に行う行為である。
ダリルも内心は多少なりともそう思っているに違いない。だが、パウルが自分たちの安全のために進言してくれているのだから、ここは感謝するのが筋というものである。
やはり、自力というわけではないにしろ、少なくとも地球流の製造方法も使って造られる宇宙船ではあるので、失敗は許されない。
確かにもう銀河連合加盟国となってしまった日本国の宇宙開発技術はもう別物で『地球製』という括りで話せないところもあるので、そこは置いといてな話にはなるが、米国は少なくとも日本以外で、ロシアや中国、EUをブッチギッたアドバンテージを確保できる立場になったのは確かだ。
日本は、ティ連の技術をどうも世界に公開する気はないみたいなので、そこで米国が世界に対し、諸々宇宙技術の規制を提案して、米国基準の宇宙技術を世界に売り込む。でもってティ連技術は法で抑えこんで……などと、政府はそんなことも将来的に考えるのかもしれないな……と思うダリル。
でも、とりあえずこれでProject Enterpriseの準備は整った。
あとはもうやるだけである。実務開始ということで、まずはパウル。グレーム・レイク基地にでっかい格納庫をハイクァーンで造り始めた。
鼻歌歌いながら、部下に指示を出す。でもって米軍作業員にも指示を出す。NASA職員にも指示を出す。即ち、張り切っている。でもって米国スタッフもパウルさんの指示ならハイハイと言う事を聞きやがる……現金なもんである。さりげなく食事に誘っている奴もいた。無論、あしらわれていたようだが……
『ファーダ、ご苦労様でス』
「ああ、セルカッツさん、お疲れ様です。どうでした? スタッフとの打ち合わせは」
『ハイ、滞りなく。あの黒い肌の方、エット……」
「ジョンですな、ミスセルカッツ」
『アア、そうですそうです、ケラー・ダリル」
「え? ダリルさん。ジョンさんも参加なさってるんですか?」
「はい。って、アイツが来ないわけないでしょう? ミスターカシワギ。ははは」
「はは、確かに。では、リックさんは……」
「彼はフロリダですよ。向こうでプロジェクトの指揮をとっています」
「なるほど」
フロリダ。すなわちケープカナベラルのケネディ宇宙センターの事だ。リック・パーソンは向こうの親分さんなので、そういうこと。
「で、ダリルさん。この宇宙船ですが、いつまでも宇宙船という呼び方も無粋でしょう。名前は、もちろん? フフフ」
あのファイナル・フロンティアな名前。このプロジェクト名をそのまんま命名するのかと思えば、どうもそうではないらしい。
「このプロジェクト・エンタープライズは、今後の我が国における長いスパンでの宇宙開発の総称です」
「あ、そうだったんですか。私はてっきり今回の宇宙船の名前かとばかり」
「ははは、いやいや、そうではないんですよ。これからのかような宇宙船には、必ずこのプロジェクト名がつくという意味です」
「ん? というと、この宇宙船の名前は?」
「はい。『XSS-01マーズ・ホープ・エンタープライズ』という名前になります。
「あ、いいじゃないですか。火星探査機の名前みたいですね」
「はは、そうですな。まあそんな感じですよ」
今後米国で、このサマルカ技術を使った宇宙船はすべて、船名の末尾に「エンタープライズ」の名前がつくそうである。ナントカカントカ・エンタープライズという具合だそうな。
他、エンタープライズだけではなく、今後のプロジェクト予定名として『バイキング』『ボイジャー』『アトランティス』『チャレンジャー』と言う名の宇宙船プロジェクトが待っているのだそうな。
「いやはや、流石はアメリカですな。日本も頑張らないと」
「何を言ってるんですか。日本にはカグヤがあるじゃないですか。あんなの持っててそんなこと言ってたら怒られますよ。それに色々技術知ってるんでしょ?」
「ははは、いやいやいや、それを言われますとね。むはは」
と笑ってごまかす大臣閣下。まま君島さんところの計画もあるのだが、そこは内緒の話。
ということで、柏木とフェルはカグヤへ帰投する。彼ら二人もここにずっといるというわけにもいかないからだ。これでも忙しい身である。
後のことは、パウルとセルカッツにシャルリ。そして白木・麗子・田中さんに任せて、二人は一旦カグヤに戻ることとした。
今回のプロジェクト・エンタープライズに関する目的は、アメリカさんの要求するパーツ生産と供給や、ノウハウの伝授と技術指導が目的である。
まずは、パウルがこのままだと二年でなんか絶対完成しないので、B-52二機を骨組みにして、ドカンと宇宙船をぶち上げるという方針でいくという話で、米軍とNASAを納得させた。
無論、あの『絵』はパウルのポンチ絵なので、そこはもっときちんと設計し直されるわけだが、まぁ概ねあんな感じではあろう。
こういう製造方法がとれるのもティ連技術ならではでもある。なんせフェットーが多川に送りつけてきたF-15HMSCで実証済みであるからして。
………………………………
ということで、カグヤに帰投した大臣に副大臣。
甲板には、なんとかなりの数なF/A-18や、F-22にF-16と、海軍機空軍機まぜこぜで結構な数の機体が駐機していた。
で、その中へ混ざるように旭光Ⅱとヴァズラーが駐機していた。
さらに目立ったのは、かのフォーラ・ベルクⅢ型だ……三本足で突っ立っていた。
柏木がセルカッツから見せびらかされたあの立体映像まんまであった。
「おお~! すげ~! F/A-18だぜ。かっちょえ~ って、あれF-22じゃん! うおー!」
完全に大臣を忘れる柏木さん。ままミリタリー『マニア』なら、この状況は天国か地獄か。どっちにしろついぞ一年前まで一般民間人な方が、こんな状況に出くわせば、そりゃ我も忘れはする。
『ウフフフ。マサトサン、お仕事お仕事デすよ』
夫の背中をポンポンと叩いて、どうどうと諫める妻。
「むはは、そうだなフェル。いやはや、我を忘れてしまいました……って、あれ? 旭龍がいないな」
『キョクリュウナラ、ろなるど・れーがんトカイウ船ニイッタゾ』
「あ、リアッサさん。演習おつかれさまです」
軽く手を挙げて、二人の側に来るリアッサ。だが、なんとなくお疲れ顔。
「ありゃりゃ、リアッサさん、なんかお疲れのようで」
『アア。ナントモ激戦ダッタヨ。ハハハ……アル意味、アノ魚釣島事件ヨリモ凄カッタナ……』
リアッサ先生の話では、いくらカグヤの戦力が魚釣島事件時と同じく、とりあえずはまとまっていたとはいえ、米軍の必死さは尋常じゃなかったというお話。
まま大きいとはいえ、ちょっとデカイ強襲揚陸艦一隻程度のカグヤ戦力に……なんせ連隊規模な戦力全開でぶつかってくるから、そりゃ大変だったと。
おまけにゼルシミュレータで作られる効果演出に弾薬等々なので、そりゃもうここぞロックンロールとばかりに撃ちまくってくるわ突っ込んでくるわ、ガンホーガンホーだわ、そりゃえらいこっちゃったという話。
『アノ、「エーテン」トカイウ機体、蹴リデ落トシタゾ……オッソイクセニ、ヤタラ強力ナ物理兵器ヲ積ンデイタナァ……』
リアッサがおどけて話す土産話にフェルと柏木は大笑いで話を聞いていたり。
で、勝敗の結果はどうだったかというと、60対40でとりあえずは勝ったという話。
「うお! すごいじゃないですか! まあティ連技術の戦力とはいえ、連隊規模でその数字は大善戦ですよ」
まま、シールド設定なども八割減で対探知偽装もナシ設定となれば、確かに善戦ではある。
かの魚釣島でも相手の陸戦戦力は連隊規模とまではいかなかった。
『思ッタヨリ、フォーラ・ベルクガ上手ク稼働シテクレタ。アト、大見達『機動陸戦員』部隊ガ、大健闘シテイタナ』
そりゃ、稼働繊維の戦闘被服装置に、デルゲートのような装甲パワードスーツというか、ロボットスーツだ。演習後の懇親会で、このデルゲードや稼働繊維スーツを何とか売ってくれないか、ヤルバーンに話をしてみてくれと、久留米に大見は、米陸軍の幹部から相当せがまれていたという話。
でもって、シルヴェルとM1戦車部隊、ストライカー装甲車部隊との戦闘は、そりゃ見ものだったぞというリアッサの話。
『アトデ、戦闘記録映像ヲミセテヤルカラ、堪能シロ、カシワギ』
「いやぁ~ すみませんリアッサさん」
ニヤニヤする大臣閣下。フェルさんは横でウフフとそんな旦那を楽しげに眺めたりする。
フェル奥様は、こういうことには大変寛容な性格である。ってか、フェルもテレビゲーム好きだったりで、こういうのも夫婦円満の秘訣だったり。
「で、リアッサさん。樫本さんは?」
『ウム、流石ニブッ倒レタ。ハハハ』
「ありゃりゃ」
いくらあの装備でも、そりゃ米軍の連隊規模相手にすりゃ、ぶっ倒れもするわなと。
ってか、連隊を相手にできただけでも相当すごいと思うが……
実際、米軍も冗談抜きで、此度の演習を相当重要視していた。
確かに60vs40で数値的には負けはしたものの、逆に言えば、60vs40で戦えたということでもある。
確かに、もしここでカグヤなりティ連側が、シールドMAXで、対探知偽装もアリ。ティ連軍事技術フル動員とかいう話でやりあえば、そりゃ瞬殺かもしれないのだが、このハンデアリの状態であれば、なんとか戦えはすると見たわけである。
しかしそれはさすがに調子のいい判断だろうと思うなかれ。確かにヤルバーンやティ連を対象にしたら『調子のいい考え』になるのだろうが、それ以外の地球勢力ならどうだろうかという話である。
即ち、米軍戦力はまだまだ世界で十分警察を張れるということだ。
昨今、民主党政権下で、世界に対する軍事プレゼンスが弱くなったと同盟各国からそういう目で見られるようになった米国だが、まだまだやれるという自信がついたという点では、有意義ではあった。
それに……たったイチ機動部隊で、連隊戦力を潰す能力を持つ戦力が、極東地域で同盟国だ。これ以上の防御壁はあるまい。
米軍としては、それが確認できただけでも有意義だったといえた。
『デ、コレカラ、カシモトノ看病ダ。クククク。ドウイウ看病ヲシテヤロウカ』
無意識にさり気なくボディラインを整えるリアッサ。理知的なお顔故、余計に……
看病なのか、それとも料理なのか、どっちかちょっと想像してしまったりする二人。いやはやと。
まあがんばってくださいねと、口に手を当ててニヒヒ顔でリアッサを見送る柏木夫妻。
すると大見が背後から
「な~にをやってんだ柏木」
「おう、オーちゃん。いやいや、演習組の聞き取り調査をですな」
「そのニヤケヅラで何が聞き取り調査だよ。まあ何をリアッサさんと話してたか、大体想像つくけどな……って、フェルフェリアさんも、柏木と一緒にニヤけててどうするんですか」
『エヘヘ~。でも微笑ましくテいいではないですか。私達と、ケラー・タガワに続くチキュウ人とのアベックサンですから、大事にしないと』
確かにそれは言えてると納得する大見に柏木。実は自衛隊のヨメムコ問題は、結構深刻だったりするのだ。上層部も、もう相手がティ連人なら今後は大歓迎だとそんなふうに見ていたり。
実は『ティエルクマスカ連合人婚姻手当』というものも考えられてたりする。ちなみに五〇〇円。
ということで今日の予定は諸氏終了という感じで、ロナルド・レーガンや、米国本土基地から飛んできた海軍に空軍の方々は。懇親のために今日はカグヤで泊まり。甲板でバーベキューパーティをやったり。
多川達は、逆にロナルド・レーガンで今日一日一泊してくるという。向こうではやはりキャプテン・ウィッチが大人気なのだそうな。
「……で、米空軍がアグレッサー役やって、シンシエコンビの旭龍や、旭光Ⅱにヴァズラーと一戦やったそうだぞ」
柏木、フェル、大見の三人は、バーベキューパーティが準備される間、資材箱に腰掛けて話をする。
大見がそういう報告をさっき受けたと。
無論、そりゃもう米軍アグレッサーは全機シンシエコンビや、垂井、尾崎に叩き落とされたという。
やっぱり普通にやったら、かようにこれら三機種はチートに過ぎるという話。これにまだフォーラ・ベルクが加われば、どうなることやらという感じだ。
ただ米軍側も、どうもかような状況を指くわえて黙ってみているというようなフシではなく、今回のサマルカがもたらした技術を、軍事転用しようと考えているのではないかという話らしい。
これは白木がそういう情報を仕入れてきたと。
仕入れられるような情報だということは、あえて日本側にリークしたという事も言える。今後ともご協力お願い致しますという事だ。
なので、一見チートなメック兵器に負けまくった米軍にも見えるが、この結果は彼らからすれば普通では決して手に入らない貴重なデータとなる。こういう蓄積が彼らは欲しいわけであって、かの連隊規模で負けた陸戦演習の方でも、米軍にとっては宝の山のようなデータが取得できたという訳なのだ。
中国もそういう点では、かようなデータの一端を、かの魚釣事件で得ただろう。ただ中国にはそれを活かせる技術がない。だが米国には今、それが『 ある 』
実は、今回のサマルカ技術の譲渡。ティ連としても、特に軍事転用に関して、何ら規制を設けていない。
仮にそれがヤルバーンヘ牙を向く事になったとしても、ティ連としてはその程度の技術、いくらでも取り上げることができるし、彼らがどういう軍事技術に転用するのか見てみたいというのもあって、規制を設けていないということだ。
そういうことである。ということは既に二藤部達も知っているワケなので、特段話として何ら触れることはなかった。あえてそのあたりは容認しているのだ。
「……まあハナっからそういう事なんだろうな。ってか、米軍としちゃ、もっと演習やって、バトって負けまくりたいってところなんじゃないか? 負ければ負けるほど良いデータが手に入る」
柏木はフフンとした顔で、大見に話す。
「そういうことなんだろうな」
頷く大見。
『ナラ、あまりアメリカ国サンの演習希望にお付き合いするわけにもいきませんネ』
「そうだねフェル。ほどほどにというところかな。でも今後の日米同盟関係を考えたら、演習もしないわけにはいかないから、今回の件を俺たちも研究して、活かさないと」
『ソウですね』
フェルの脳裏をよぎるのは、やはり自分が記録した並行世界である……あんな風になってはダメだと。
日本がティ連に加盟して、日本自体がこの銀河系で唯一の連合主権を構成する立場になった今、イゼイラやティ連の一極集中外交も、転換期を迎えることになるだろう。
今後は日本が主体的に地球の各地域国家に、日本国自身の、そして連合日本としてのプレゼンスを主張していかなければならない。仮に連合の技術が、かように日本以外の国に流れても、日本国自身が能動的にそれらへ対処できれば、何ら問題はないのだ。今、彼女は日本の政治家として、そういう点も考えてかないとと思ったりする……これ、実は今の日本の政治としてみても、結構重要な事だったりするのだが……
さて、柏木とフェルさんも甲板で行われているバーベキューパーティへ適当に顔見せすると、二人も少々お疲れなのか、サロンへ一息入れにやってきた。
「フェル、今日は疲れたろ」
『ウフフ、大丈夫ですヨ、マサトサン。私は体力には自信ある方でス』
よくよく考えたら、フェルも探査艦乗員訓練にパスしてきたわけであるからして、この程度の事はなんてことないのかなと思ったり。
彼は、フェルがいざとなったらメチャクチャ強いのを知っている。白兵戦ではシエとタメ張るという話だそうな……ふざけて追っかけっこよくやる二人を見るが、確かにそんな感じだと思う柏木大臣。
と、そんな話をしながら、米国の情報番組を流し見する。
有難いのが、PVMCGのおかげで英語の意味がわかるところだ。
電卓の登場でそろばんや暗算に筆算が一般から衰退したのと同じで、PVMCGの機能が地球社会でも普及したら、外国語を覚えるという行為が退化していったりするのだろうか? とそんな事を思っていると……
『さぁてマーベル。次の話題だけど』
テレビから流れてくる金髪美人二人のバラエティー番組。内容的にはニュースというよりは、今日の情報をライトなものからヘビーなものまで扱う総合情報番組という感じ。
でもってMCがボンキュボンなアメリカ的に有名な美人アナウンサーがやってるので有名な番組であった。
『アメリカ国のフリュさんは、なぜにみんなしてアンナ胸部がおっきいですかねぇ』
「は?」
『シエやシャルリもおっきいですけど、あのテレビの人みたいなのは驚異デスよ。そういえばケラー・ミサトも相当おっきかったですけどぉ』
「はは、フェルはあんな胸が羨ましいの?」
『今のおっきさで充分デス。おっきけっりゃいいってもんでもないデス。肩こるだけでス……マサトサンは大きいのがいいですか?』
上目づかいでマサトサンを見るフェルさん。やっぱちったぁ気にしてるみたいではある。
「ははは、そんなことはないよ」
『ですよネ~』
ウフフ顔になるフェル。ちょっと安心感。
前々から思ってたが、イゼイラ人フリュにしても、ダストールフリュ人にしても、胸部の大きさはあまり気にしないようである。リアッサに至っては、地球に来てから気にするようになったとか。
フェルにしても、日本の雑誌やテレビ見て気にするようになったので、それまでは完全に無関心だったそうだ。
とまあそれはさておき、その情報番組をそんな話をしながら見ている柏木にフェル。
柏木としては、PVMCGが訳してくれる翻訳で、海外テレビを見れるのが面白い。かつてTES時代、米国に数回ほど来た時などは、基本英語なんてチンプンカンプンだったので、面白そうな番組見つけても何言ってるかわかんないので悔しい思いをしたとか。
『……ええそうね。じゃ、今日のとっておきな話題を紹介するわね……さて、昨日、もう全米の話題をさらった超イケメンエイリアンさん。イゼイラ人の警察官、オフィサー・セマル・ディート・ハルル氏の大活躍ぶりはもう視聴者みなさんの知るところですが、今日、そのミスター・セマル氏は、この地球にやってきてから大ファンになったという大物俳優兼、映画監督の表敬訪問を受けました。その人物とは、なんとク……』
「ブーーーーー」と飲んでた茶を吹く柏木大臣にフェルフェリア副大臣。今回は本作初、フェルさんもリアルで夫婦揃って茶を吹いた。
「ゲ、ゲホ……な、なんじゃこらぁ! セ、セマルさん何やってるんっすか!」
『ケホケホ! セマル君、なな、なんか悪者退治してますよ。どういうことですカ?』
思わずフェルさんもそんな風に声を上ずらせたり。
今チラっと映った事件映像。なんかの映画で見たような見ないような、そんなセマル。
柏木は、セマルが昇天確実な人物であるという大物俳優と面会している現実を羨ましく思う以前に……その事件映像を見て
「な、なにそのテロ事件解決って……」
柏木はグレーム・レイクのプロジェクト関係で詰めてたので、初めてこの情報を知った。ってか、報告を……
「フンフンフンフン♪……あ、ミスターカシワギ。今ミスターのところに行こうと思ってたの。ちょうどいいですわ。はいこれ、昨日と今日の報告書、どうぞ。」
スーザンが書類持って鼻歌歌いながらサロンへやってくる。
「へ?」
渡された書類をパラパラ読む大臣閣下。
「スーザンさぁぁぁん、この書類、昨日のじゃないっすかぁ~」
テレビを指さしながらトホホ声になるカシワギ
「あら、そうそうこの事件ですわね。いやぁ、あのセマルってイゼイランさん、カッコイイですよね~ 私も惚れちゃいそうですわ」
絶対謝らないアメリカ人。
「い、いやこの報告書、昨日中に……一応あなた連絡員なんだし……」
「それは無理ですよ大臣閣下。グレーム・レイク基地にそうそうファックスやメールなんて送れないです」
ああ、そうか……と思う柏木。お気楽にホイホイあの基地に行っていたが、よくよく考えたらグレームレイクは米軍でも最高クラスの極秘基地だった。情報統制も本来特級なところだ。
『マサトサン、どうするデスか? 多分、日本にもこのニュース、確実に流れてるですヨ』
「ああ、セマルさん外事だしなぁ……あんな人気者になって大丈夫なのかよ……山本さんに一応連絡とってみるか?」
外事課で諜報員みたいな仕事をやってる人間が、まるで米国ヒーローな『鋼鉄人間』やら『超人』ばりの活躍して、人気者になって、米国女性のハート掴んでどうするんだと。
なんでもWAC西田が行けと許可出したとか。
「状況的には仕方ないんだろうけどなぁ……」
半径数十メートルの正義は、柏木も肯定はしているけど……と。
テレビには、助けたあの母娘の表敬訪問を受け、感謝の言葉を送られるセマルが映る。小さな娘さんからセマルの似顔絵をもらって、チューされているところが映されている。
後ろで西田もニコニコ顔だ。まるでマネージャーのよう。
……という事で山本に連絡を入れると、当然山本も、もう承知の上であった。さすがに情報が早い……
『……というか、柏木さん。昨日、サンフランシスコ市警から警視庁に連絡がありましてね、ヤルバーンのリビリィ局長の方にも連絡行ってるはずなんですけど、そっち経由でカグヤに報告いってないですか?』
「いや、山本さん。私ゃ、こっちのバラエティー番組で知りましたよ」
『ありゃりゃ、そうですか。そりゃ驚いたでしょ』
「ええ、もう……普通に事件解決ならまだしも……ペイルライダーじゃないですか、あれ……」
『ふははは! ごもっともで。セマルの奴、あの監督さんに会えたそうで、気絶しなきゃいいけど』
「って、山本さんもえらくお気楽ですが……いいんですか? 外事関係者があんな顔晒しまくって……」
なんでも、山本がいうには、全く問題ないらしい。別に構わないと。
なぜなら、セマルは日本で仕事するとき、一〇〇パーセント、キグルミで日本人モードなのだそうな。
プライベートでも、日本人モードであるという。そこのところはやっぱり元シエの部下だけあって、セマルもプロだという。
イゼイラ人のセマルを印象付けとけば、日本人モードのセマルは、もっと秘匿性が高くなる。そういう話らしい。
実は、似た話が、尾行をする探偵や警官、諜報員などにもあるそうで、人間というのは、人の顔を覚えるとき、素の顔に眼帯一つ付けただけで、その人との見分けがつかなくなるという心理現象が働くそうだ。
なので、そういう任務に付く職業の人は、小道具で眼帯やマスク伊達眼鏡に帽子といったものを持ち歩いているらしい。あまりにあからさまにやると、かえって怪しくなって目立つので、さり気なくワンポイントで施すのがコツなのだそうな。
『ということで、まー大目にみてやりますよ、ははは。どっちにしても警視庁じゃ、セマルは今や重要な戦力ですからね。そんな程度のことではね』
「ははは、なるほどね、そうですか。ま、山本さんがそういうならいいんですけど……」
『セマルに、土産何か買ってこいと言っといてください』
スマートフォンを切る柏木。
『どうでしたか? マサトサン』
「ああ、別にかまわないって。ってか、向こうでも、もう話題沸騰だってさ」
『ありゃりゃデス』
「さすがに職が職だからね。一般警察官なら警視総監賞ものだって」
『そうデすか。フゥ、それなら良かったですけど……』
「報告書で状況を読んだけど……あの状況を見ちゃったら、イゼイラ人なら飛んで行くよなぁ」
『そうデすね……多分、いてもたってもいられないと思います。イゼイラ人なら……』
コクリと頷く柏木。まあこれも交流かと、そう思う事にした。
だがセマルの功績は大きい物があった。それは米国人が直接好感を持つことができるティ連人が一人できたことである。
キャプテンな詩愛さんにしても、エルフなパウル艦長にしても、実は米国人や外国人が勝手に好きになっているだけの話であって、直接二人は外国とは何ら接点がない。
しいえていえば、フランスとポーランドが、シエと関連性あるぐらいだろうか。それでもその関係は薄い。
だがセマルは、完全に米国で事をなしたヒーローになってしまった。
実際、世のフリークの反応は早いもので、かっちょいいスリーピース・スーツ来て、リボン・ネクタイに革のテンガロンかぶり、手に持つは二挺拳銃で持つレミントンM1858……セマルは二挺拳銃で持ってたか?
革の拍車付きブーツを履いて、陰影のある太い線に、カットポーズ多めなイラストで描かれるは、ニューアメリカンヒーロー「イゼイラン・シェリフ」やら「イゼイラン・カウボーイ」やら。
そんなファンアートがネットで早くも出回っていたり。
【セマルはアメリカがもらった】
【セルカッティーにセマル。最強だな】
【セマルは出国禁止な】
【セマルとセルカッティーをアメリカから奪ったら日米開戦ね】
【これでパウルさんとキャプテンを奪えば……】
など、そんな言葉が乱れ飛ぶ米国のネット。いやはやである。
ということで、セマルからも柏木にPVMCGで連絡が入った。
『ファーダ、申し訳ないでス! なんかこんな風になってしまって!』
ペコペコ頭を下げるセマル。
「ははは! 大変ですねセマルさん。ご苦労さまです。私もびっくりしましたよ」
まま、別に悪いことして騒がせたわけではないので、柏木も成果を労ってやったり。
「でも、良かったじゃないですか。かの方とも会えたそうで」
『は、はいぃぃぃ……アレは「さぷらいず」でした……気絶しそうになりました』
大笑いする柏木。でもとフェルが一言
『セマル君。でも、あまり皆さんに心配かけてはダメですヨ』
『は、申し訳ありませんフリンゼ。確かに、ちょっと感情的になったところもありましタ』
セマルはちゃんと自戒していたようだ。あの時でも結果的にSWATが到着すれば、解決した問題ではある。ただ、セマルによって救われた命も必ずあっただろう。
『ウフフ、ですから、ご迷惑かけた方々に、ちゃぁんとお土産を買っていかないとネ』
「はは、山本さんも言ってましたよ。土産忘れんなよって」
そういうとセマルも頭かいて
『ハ、それはもう。ナハハ……』
ということで、今日のセマル君。件の件もあって、サンフランシスコ市と市警から、ものすごいプレゼントを貰ったそうな。
その内容は……
サンフランシスコ市・名誉市民権。そして
『インスペクター・ナンバー2211』の警察官バッジを貰ったそうな。
市警署長から胸にそのバッジを付けられる画がテレビに流れる。
ちなみに、かの44口径な警察官は、サンフランシスコ市警所属だったりする。
柏木も羨ましがるグッズであったりなかったり。
お天道様は、ちゃぁんと見ているのである。
○参考出典
*アメリカを震撼させた夜(英語版)
https://www.awesomestories.com/asset/view/The-Night-that-Panicked-America-Part-1




