銀河連合日本外伝 Age after ― シエの帰郷 ― 第一話
銀河連合日本 外伝。 不定期掲載シリーズです。
第一弾
『シエの帰郷』
全四話ほどを予定しています。
~ 日本が銀河連合加盟を世界に知らしめた後の世界 ~
かの壮大な調印式典に彼の者達のド級な観光滞在。んでもって柏木のティ連プレゼンツな国家結婚式典。
そんな地球の地軸を逆に曲げてしまいそうな日々が過ぎた後の事無しな日々。まま相応の時が経ったある日の事。
特危自衛隊 多川信次一等特佐と、シエ・カモル・ロッショ一等特佐は、双葉基地からは結構離れた山林な感じのところに二人してやってきていた。
彼ら二人には連れがいるようで、背広をキメた営業マンのよう。
「……この場所でしたらこちらのバラックが、以前所有していた方がそのままになさっていった作業小屋でございまして、これを取り壊すなどして家を新築なさるのが妥当ではないかと……」
営業マンはシエの方をチラチラと見る。そりゃそうだろう、噂の有名なキャプテンが男と土地を漁っているのだ。どういう関係か一目瞭然である。
営業マンは、サインをもらいたいところであるが、それは次の機会にと自重した。
もしシエに男がいるとネットで流れたら、その情報を流したのは確実にこの営業マンだ。
当のシエは、この山林を下に降りたり登ったり。木々を撫でてさすり、土地を眺め見る。
目をつむり、大きく深呼吸して大気に含まれる自然の気を感じ取るかのように目を細める。
どちらかというと森というイメージのこの土地。個人で開墾するにはかなりの労力を伴うだろう。家を立てるには、この作業小屋を潰すか、木を切り倒して整地するか。
ただ、土地の面積はとても広い。ちょっとした小山1つ分だ。で、土地代がこれまた異常に安い。
なぜなら、元々使い道があまりない土地の上に、避難地区にあった関係で、地価がダダ下がりに下がってしまったがゆえに、二束三文な土地になってしまっていたのである。
実際はもうパウル達のおかげで放射能など気にする必要もないのだが、そういうところの風評はいかんともしがたい。
おまけに交通機関もまともにない。車がなければ、まず生活できないし、電気ガスも来ていない。かろうじてその作業小屋に水道と下水がなんとか繋がっているだけというそんな場所。そりゃ安いに決まっている。
で、この土地の所有者が固定資産税などの税金等々払うのもしんどいので、相応の金額で買ってくれる人がいないかと買い手を探していたらしいのだが、その話に乗ったのが、多川とシエ夫婦予定者だった。
この場所。所謂里山感覚な土地であり、また森のような地形でもある。この風景がいたく気にいったシエ。理由は、故郷ダストールの、彼女が住んでいた実家近くに風景が似ていたからだという。
『シン。私ハコノ場所ガトテモ気ニイッタ。静カダシ、山ヤ木々。小川ノ水音。土ノ匂イガ心地良イ……ココガイイナ』
「そっか。んじゃ担当さん、ここの土地売ってよ。あの値段でいいからさ」
「はぁ……わかりましたが、本当にお買い上げになるのですか? 何にもないところですよ? 街へ出かけるのにも車で四五分はかかりますし、冬に雪が積もったらその道路すら使えるかどうか……この森みたいな場所へ家を建てるにしても何かと不便ですよ……不動産屋の私が言うのもなんですけど……」
「はは、そこんところは考えあっての事でね。気にしなくていいよ。で、売ってくれるの?」
「そこまで仰るなら。ではこの書類にサインお願いします」
サラサラとペンを走らす多川。価格は本当に安い。今の会話でもわかるように、サラサラとその場でサインして買えるような価格だ。
「ご契約ありがとうございます。では、街までお送りしますよ」
営業マンが言うが
「いや、構わないよ、ここにもう少しいますから、お先にどうぞ。書類はその住所に送付して下さい」
「ええ? いや、こんなとこにお客様お二人を置いていけませんよ。バスもないんですよ?」
「いやいや、友人が迎えに来る予定ですので、お気になさらずに」
「はぁ……そうですか。ではお気をつけて……」
そういうと、心配そうに、かつ訝しがりながら何度も振り返り、営業マンはライトバンに乗って帰っていった。
『帰ッタナ』
「ああ、ハハ……まさか俺たちが転送で富士山のてっぺんからでもカグヤに帰還できるとは、流石に言えないもんなぁ」
『フフフ、ソウネ』
この二人、そんな様子からでもわかるように、この土地を買って新居を建てようという計画を立てているそうな。
で、彼ら二人が考えた作戦が、値段が二束三文な山林みたいな土地をドッカリと買って、そこに家を建てようという話。
そんな事、普通に聞けばどんだけ金がかかる夢物語かという話になる。それどころか現実問題として生活できるのかと。
普通はそうなるのだが、そこはティエルクマスカ脅威の科学力。
まず、シエの私物である簡易転送機の転送地設定を、各都道府県のランドマークに設置してある転送ステーションに設定すれば、街にいくにも正味一秒だ。
簡易転送機は、転送機間同士でしか転送移動できないので、逆にいえばこういう設定も可能なのだ。
更に、シエが私物として持ち込んでいるトランスポーターを使えば、近場へ行くにも便利である。基本無人制御なので、これがあれば年老いても移動には困らないという寸法。
現在、日本においてティ連トランスポーターは、無人制御免許をトランスポーター単位で警察が発行しており、移動高度一メートル以下で走行するなら、サイズによって異なるが、基本自動車扱いとして登録できる。
いかんせん自律制御式システムで稼働する自動制御トランスポーターなので、地球で考えられている無人自動車など比較にならない。つまり一流のドライバーが内蔵されている車のようなものだ。
更に言えば、日本の交通法規も完全にインプットされているので、トランスポーターのシステムが自律的に法規を判断し、走行できる。
なので、そういったティ連技術の担保があってこそで、こういうことには異常に五月蝿い警察も、連合憲章との噛合もあるためにこのような処置をしたというわけである。
このティ連科学の各種トランスポート技術があれば、日本国程度の面積な場所なら、どこに移動するにも、移動時間の相当な短縮が期待できる。
手荷物身一つで移動するだけなら簡易転送機が使えるし、大きな荷物を運ぶなら、このロボットトランスポートビークルとでもいうべき乗り物を使える。そういう使い方が可能なので、こんな「ド」が一〇個ぐらい付きそうなイナカでも普通に都市部にいる感覚で生活が出来る。考えようによっては、とてつもなく贅沢な生活なのである。
実はこの話、今後の少子高齢化の日本を考える上で非常に重要だ。
現在先進各国が力を入れている『無人自動車』の開発競争。これは非常に素晴らしいことである。
例えば、米国や日本で考えられている方式を参考にすると、無人自動車の大きなメリットは、『いつでもどこでもアッシー君を呼べる』ということなのだ。
どこかの大手レンタカー会社や、タクシー会社でもいい。そういった企業が、幾百台もの無人自動車を配車管理する事で、その企業の月極会員なりになっている顧客は、スマートフォンのアイコン一つでその無人車を配車してもらえるのだ。
運行し終わって帰社中の無人車も配車信号で行く先を変えて、顧客の元に向かう。
この光景が、実はどれほど革命的なことか考えてみるも面白い。
もし、個人で無人車を所有できれば、子供であれ、お年寄りであれ、人を選ばずに自由な移動手段を好きな時に利用できる。
多川の今いるバスも通らない場所に住むお年寄りなどは、運転する手間をかけずに無人車が、好きな時に好きな場所へ連れていってくれる。
このような技術は、その社会インフラ構造を革新的に変えるだろう。
まず個人で自動車を所有するという意義が問われる。
日本国のあらゆる場所で、過疎化や限界集落という言葉が、おそらくなくなる。なくなるという言葉が大袈裟だというのであれば、相当に少なくなると言い換えても良い。
日本国の不動産資産が、全ての地域、地方、立地で、相応の価値が出る。つまり無人車が配車できる場所なら、どこでも価値のある不動産が確保できるという事だ。
タクシーの運転手や、輸送業運転手の概念も変わるだろう。この部分で言えば、大きなリストラが発生し、そういった業種の無人化が進み、この仕事に従事する人々のある種の覚悟が必要になるかもしれない。
お年寄りは、無人車のおかげで、もう家に引きこもる必要はなくなる。好きな時に好きな場所へ遠出もできる。少々遠い大型基幹病院へも、好きな時好きな時間に安価で行ける。
どこに行けと言っても文句も言わない無人車は、お年寄りにとってこれほど便利なものはないというところまで行くだろう。
配車型レンタルがいいか、それとも個人で所有するのがいいか。ここも個人の生活スタイルといったところだろうか。
そんな時代がやってくる。これが無人自動車なのだ。
ティエルクマスカでは、柏木が既にそれを経験している。彼らのトランスポーターが、地球世界で研究開発されている無人自動車構想をずっと先の時代に延長させたような存在だからだ。
なので彼らの星には鉄道のような輸送機関がない。鉄道が必要ないのである。
シエと多川は、知ってか知らずか、このような交通の恩恵を受けられる立場にある。
多川はいいとして、シエはフェルと同じく私物の簡易転送装置と、個人所有のトランスポーターを持っている。なので、こんな『クソハイパーど田舎エクスペリメント』な場所でも、普通に生活できてしまうのだ。
ここに家庭用ハイクァーンジェネレータとゼルジェネレータが加われば、もう無敵である。となれば、そんな生活ができて、この里山的な土地が二人の生活テリトリーとなれば、それは夢のようなという奴になるのは間違いない。
……と、ままそんな目論見があっての、この土地の購入であったりする。
「このあたりの木を伐採して、家建てるか。な、シエ」
『アア、イイナ。デハアノアタリニ「ゼルルーム」ヲ作ロウ』
「ゼルルームかぁ。そんなの誰も持ってないだろうなぁ……」
『アマリ外ヘ公ニシタクナイノナラ、コウイウトコロデ使ウノガ一番ダ。ゼルルームガアレバ何カト便利ダゾ。機動兵器ノ訓練モデキルシ、気分転換ナプログラムモ使エル。ソシテナニヨリ子供ガ退屈セズニ済ム』
「え、こ、子供?……」
『アア、私トダーリンノ子ダ。何カオカシイカ?』
照れもせず当たり前のように、将来の子を見据えた話をするシエさん。
「は、はは確かにな。ま、そのためにこの土地も買うんだしな」
そんな事を話しながら購入した土地の、森の中を散策しながら話す二人。
自衛官は通常、土日は休日である。週休二日なのだ。割と贅沢。ただ、ティ連の勤務シフトをカグヤでは導入しているので、カグヤ内ではシフト制で週休二日になっている。恋人同士や、婚約者に夫婦などは、なるべく同じ日に休日をとれるようになっているのが、ティ連課業シフトの特徴である。
と、二人はそう言う事もあって、今日は購入した自分達の山で一泊キャンプをすることにしていた。
ちょっと開けた場所で野営用ゼルシステムを使用し、野戦ハウスを造成するシエ。先の台風災害でも活躍した、ティ連技術なプレハブ住宅だ。キッチンもあり、地球人型のベッドもある。野営と言うには立派なもの。
そんなのを造成して、外で焚火などをしながら、その火を眺めて、薪をくべつつ飯盒でメシを炊き、レトルトカレーを温めてご飯にかけて食べる。ままこれがなかなかにオツなもの。
シエも、そんな野営が大好きで、今日はちょっとしたキャンプ気分だ。
持参したビールをプシュンと開けて、シエへ一つ渡す多川。乾杯したあとゴキュゴキュと一杯。
こんな野営な事もあってか、これがうまい。
で、二人はそんな感じで雑談にふける。
『ダーリン』
「ん?」
『ダストールヘ行ク件ナンダケド……何時頃行ク?』
今日はナノマシン制御を切っているシエさん。アルコールが回って、ちょっと気分が良い。
ほろ酔いで頬が薄紅色。
「俺はいつでもいいけどな。その時は有給使いまくって休ませてもらうよ。で確か、定期便の第一便が来るのって、来週だっけか?」
『ウン。確カ、今後ハ地球時間デ、一週ニ、二回ヤッテクルハズダ。ヤルバーンノ最突端部ニナル軌道ステーションガ、日ヤ共同管轄の宇宙港ニナル』
「だよな。それに乗って行けたらいいなと思ってるよ。ヤルバーンにも申請はしたしな」
コクコク頷くシエ。多川がきちんと考えてくれてたので安心する。
その申請は、ヤルバーンだけではない。部隊にも申請が必要である。
自衛官は、海外旅行に行く際、結構手続きがややこしい。国内海外問わず、部隊から相当離れた旅行を行う際には、申請が必要なのである。多川のような幹部自衛官となれば尚更である。
そういう事もあって、中国やロシア、韓国や、その他、時の時事でめんどくさい地域や国などは事実上、私事での旅行は行けないといった方がいい。これは警察関係者も同じである。
「でもさシエ」
『ナニ?』
「シエって……その、なんだ。そんなにモテるのか?」
多川のその言葉に、シエはキョトンとした顔をして、プっと吹き出し、目を細めてニンマリと笑う。
『ナンダシン。ヤキモチトイウヤツカ?』
「あ、いや、はは……そういうわけじゃないけどな。何ていうかさ。ほれ、この間お義父さんから聞いたあの件……」
多川は、ガッシュの滞在中に、なんだかんだとダストール政界における女性家長という立場の複雑な政治的問題を聞かされていたのだ。
言ってみれば、彼がダストールに行く。即ち相当な恋敵もいるということでもある。
しかもその恋敵が、単純な色恋沙汰というだけではなく、所謂『政略ナントカ』の類な話なもんだから始末が悪い。
「……でさ、俺が向こうに行って、もめたりしないか? ものすごく政治的な話っぽいし」
多川がそういうと、シエはフゥという顔をして吐息をつき、口元に微笑を蓄えると
『ソンナモノ気ニスルナ』
そう言って多川の腕をとって体を近づけてくる。
目をつむり、彼の肩に頭をおいて、焚き火の暖を楽しむ。
煙の匂いが何となく心地よい。
しばし無言な二人だが、相手は縦割れ瞳のラミア美人なシエさんである。普通に考えて無言で心通わせるなんて、そんな青臭い青春恋愛モノみたいな描写で終わるはずがない。
気がつけば、フクロウのなく夜空に多川が絡め取られている構図。
夜空の中、焚き火の炎が照らす二人の情事も、またオツなものである。
………………………………
二〇一云年某月某日。
冥王星軌道にあるディルフィルドゲートが大きく唸りを上げて稼働する。
以前のような小惑星の集合体で出来たみたいな、急造感のあるようなものではなく、立派な素材を使った宇宙ステーション状の建造物に大変身していた。ダル火星開拓艦隊司令旗下の工作艦隊が拡張工事を無事終了させたのだ。
境界面生成面積は、直径約五〇キロメートルにまで拡張され、この大きさなら人工亜惑星を除く、ティ連宇宙艦艇船舶なら、ほぼすべてが利用が可能になる。
今後、火星宙域までこのゲート自体がジャンプして、正式に設置されるだろう。
そうすれば、火星向け物資の運搬も容易になるという寸法だ。
ということで、ゲートは澄み切った湖面のような次元境界面を作ると、毎度おなじみのドーンという巨大な空間衝撃波を伴って、全長二〇〇〇メートル級の宇宙船を排出する。
宇宙船の意匠は、直方体状のデザイン。例えるなら、筆箱を縦にしたようなデザインの宇宙船である。
後部にはお馴染みのスリット状な推進機関部が光を纏って優雅に稼働する。
この船、見た目にやたらと窓のようなイメージの構造物が多い。更にそのイメージもどことなくスタイリッシュだ。
船の横には、デザイン化された惑星と衛星のマークが大きく描かれている。
そう、この船。イゼイラ星間共和国からの、記念すべきヤルバーン州行き定期就航便第一号なのである……船の名は、長距離旅客船『ハルマ』
太陽系方面専用の就航便として開発された船で、万が一の事を考え、武装も巡航艦並みの装備を誇っており、運行管轄はイゼイラ国防省となっている。
これも所謂ガーグ・デーラやそれに限らない海賊行為等々の対策のためである。言ってみれば距離が距離だけにそのぐらい気を使っているというわけだ。
『乗客のミナサマ。只今、当旅客船ハルマは、アマノガワ銀河内、タイヨウ恒星系に到着いたしました。現在、外に見えますは、タイヨウ恒星系外縁天体メイオウセイという亜惑星でございマス。この星の名称由来となった「メイオウ」とは、惑星チキュウにおける創造譚……』
と、そんな解説が船の中で流れたり。
中には、各種娯楽施設に、立派なレストラン。ハイクァーン造成の造成物品ショーウィンド等々。他日本の物産がずらりと並べられている。
日本のおみやげ品も日本円で販売されているようで、地球からの帰りにヤルバーンから支給された日本円の余った人が、この売店で円を使い切る感じで品物を購入してもらおうというアイディアで設置されている。最近のヤルバーン州は、なかなかに商魂逞しくなりつつあったりする。
レストランの食堂では、やはり人気造成品はカレーディナーセット。レシピは、カグヤのカレーレシピがベースになっているようだ。つまり『フェルさんはいぱーすぺしゃる』仕様のカレーということである。
搭乗する乗客は、約一五〇〇〇人。日本・ヤルバーン定期便就航第一便ということもあって、イゼイラやティエルクマスカではチケットが抽選状態となり、ちょっとしたパニックになったという話。
現在、地球時間で週二便の予定だが、もうすでに増便の話も出てきているという。
イゼイラ政府も、まさかこんなに人気の航路になるとは思わなかったらしい。
そのほとんどが『聖地』見学目的の乗客だ。
発達過程文明の物産技術の見学に、ナヨクァラグヤ帝が愛した国の観光。色んな目的があろう。そのあたりは、地球人とさほど感覚の差異はない。
旅客船ハルマは、予定航路上にある天王星や土星などの惑星軌道に向けてディルフィルドジャンプしながら観光周遊しつつ、その進路を地球―日本上空のヤルバーン軌道ステーションに向け、冥王星ゲート到着から三時間後に、目的地へ到着。ステーションのトラクターフィールドに係留された。
この様子は、ヤルバーンで待機していたマスコミにより全世界に放送され、大きな話題を呼ぶ。
なんせこれから週二でこの手の宇宙船が地球へ定期的にやってくるという話。その船には一万人以上の異星人がワンサと乗ってくるというのだから、考えようによっては革命的ともいうべき事態だ。
その人員を収容する分にも特に問題はない。なぜならヤルバーン州は、軌道エレベータというよりは、軌道タワーといったほうがいい建造物だ。
その支柱部はそれだけで直径二キロもの太さがあり、高さ四〇〇キロ以上な超背高ノッポ巨大ビルディングといってもいい。その収容人員も、ちょっとした地域国家レベルの国民数を誇る。なので、このぐらいの旅客船がやってきても、余裕で対応できる。
この旅客船『ハルマ』は、これから地球時間で二四時間停泊し、降りる客と、乗る客を交代させるのだ。
初の旅客ターミナルとして稼働を始めたヤルバーン州軌道ステーション区画。
そこで働くスタッフは、早速お初のお客様お出迎えに、大忙しである。
当然、中には日本人スタッフもいるわけで、なんとこの軌道ステーションのスタッフは、全員日本流の接客態度でご案内だ。女性スタッフはお辞儀して客を迎える。
この対応、これはヴェルデオが日本の航空会社へ接客対応を研修してやってほしいと依頼して実現したものだ。
ヴェルデオとしては、やはりここはチキュウのニホン国租借領でもあるわけなので、そこは個性を出したいということでニホン式のお出迎えをやろうということに相成るわけである。
イゼイラ人スタッフや、他の異星人スタッフもお辞儀し、色々お客様をお出迎えしているようだ。
そしてここから羽田に向かう人々用に航空券発給カウンターもあったり。
帝国航空や、大和航空などの航空会社がカウンターを設ける。特別に、米国アメリカンオールエアーもカウンターを設けていた。まま、サマルカ人さん用である。スタッフは日本人。
無論航空券チケットを入手するにあたって、日本人は有料だが、異星人は基本無料。
異星人向けの航空料金はヤルバーンがすべて支払っており、航空代金の代わりに、件の産廃施設で製造される燃料や、部品。備品などの無償供給でその代金の代わりとしている。
これなら航空会社にかかる経費のかなりの部分をヤルバーンが肩代わりしてくれているわけなので、航空会社もかなり助かり、結構願ったりかなったりなところもあったりする。
施設内では、地球流にピンポンパンポンと音を鳴らし
『ゴ案内申し上げます。チキュウ時間*月*日一五:〇〇発・イゼイラ星間共和国本星サント・イゼイラ中央宇宙港行き星間長距離旅客船「ハルマ」のゴ搭乗手続きを開始いたしまス。ご搭乗予定の方は……』
そんな館内放送が流れたり。
もういやがおうにも旅行気分を向上させる。
「ではお二人共、お気をつけて」
『ケラーは何にもわかんなイんですから、ちゃぁんとエスコートしないとダメですヨ』
軌道ステーション港となった施設へ、誰かを見送りに来た柏木真人とフェルさん。
送られるその二人はというと……
「いやあ、ちょっとの間空けてしまいますが、よろしくお願い致します柏木さん」
「いえいえ、大丈夫ですよ。一応多川さんは、特派大使扱いで行って頂きますから、これもお仕事です。ははは」
『ソウです。キチンと大使のお仕事をお願いしまスよ、ケラー。ウフフフ』
『フェルゥ、職権濫用デハナイノカ? キチント「ゆうきゅう」扱イニシタホウガイイダロウ』
『構わないのでス。丁度ダストールにも親善大使を送らないといけないと思っていたトコロですから、便乗させてもらうデスよ、ウフフフ。ね? マサトサン』
「そういうわけです。そこんとこは効率ということで利用させて下さい。総理や三島先生も、むしろお願いしたいくらいだということですので」
ということで、今日は多川とシエが、以前から言っていた件のダストールに行く日であった。
いわば『シエの帰郷』である。もうシエにとっては、かの日に家出して以降ぶりの里帰りであった。
この日を、定期便就航第一便の日と決めていた二人は、本当は有給使って長期休暇で帰るつもりだったが、二藤部や三島ら政府の依頼で、ついでの話で便乗させて欲しいということで、特派大使として行ってくれないかと要請があったのだ。
多川はこれでも太陽系外縁部の戦いや、はぐれドーラ戦での戦いで、シエとコンビを組むヤルマルティアの名パイロットとして、実はティ連軍事関係者の間で非常に名が知られていたりする。なんせシエの伴侶であるからして、知られていないほうがおかしい。
多川は今上天皇の信任状を持って、ダストールに行くわけだ。これまたなかなかに大役であった。
シエも一応は出向とはいえ自衛官であるので、彼女の取り扱いは、多川の秘書兼護衛という形式を取っている……結局守られてるのは多川だったりする。
とそんな話に興じていると、多川が知った顔を見つけたのか、向こうの方を見て手をふり声をかける。
「おーい! 兄貴、こっちこっち!」
その「兄貴」なる人物。声の主を探そうと、少々キョロとすると、多川を見つけたのか、手を降って小走りでやってきた。
「おう信次! いやはや、広いわ宇宙人さんで一杯だわ、おまけに宇宙空間だわで迷った迷った……」
この男、多川の兄で、『多川一雄(五二)』という。所謂歳の離れた兄だ。多川が四二歳なので十歳違うという事。
「いやはや、これはこれは柏木大臣にフェルフェリア副大臣。初めまして。私、この信次の兄で、君島重工の……」
まま日本人ならではの名刺交換。柏木やフェルさんもペコペコで名刺のやりとりなんぞを。
多川の兄、一雄は、彼もなんだかんだでヤルバーン事案関係者である。
実は彼、君島重工製鉄部門の工場長なのである。件の産廃再生施設の建設にも関わった関係で、彼もヤルバーンにはよく来ていたのだ。そういう関係でヘルゼンやザッシュ。ジェグリとも知り合いだったりする。
「……と、そんな感じで初めてこの軌道ステーション部に来ましたけど、もう宇宙空間で、地球が見えるわで、わくわくして眺めながら歩いてたら道に迷ってしまいまして。いやはや面目ない」
頭をかいてなんともはやと苦笑いな一雄。そしてシエの方を向いて
「初めましてシエさん。こんな飛行機バカと一緒になってくれまして、兄として感謝いたします。こんな弟ですが、よろしくお願い致します」
『私モハジメテオ目にカカル。兄上殿。将来、オマ……ゴホン。アナタトモ家族ニナル 今後共宜シク願イタイ』
一雄がペコリと頭を下げると、シエも淡白な言葉使いながら最上級の敬礼を一雄に贈る。
当たり前の話だが、多川は一雄にシエのことはもう話していた。無論彼女と一緒になるということもだ。で、一雄は面と向かってシエと合うのはこれが初めてである。
なんでも一雄の話では、ヤルバーン内で何回か見かけたことはあるという話。
「……で、信次が『女ができた』って言うので、久々に合って二人で新宿に飲みに行ったんですよ。で、よくよく話を聞くと、お相手が、かのキャプテン・ウィッチさんという愛称でしたか? フェルフェリア副大臣並に有名なシエさんだという話じゃないですか。もうびっっっっっくりしましてね、ははは!」
と、彼も言ってみれば普通の日本人な反応だったようだ。それでも彼はヤルバーン関連の事業に少なくとも関わっているので、柏木の父母、真男や絹代ほどではなかったようである。
「私もヤルバーン関連の事業で、イゼさんや他の種族さんにも知り合いがいますから、今でこそこの程度の驚きで済んでいますけどね。あはは」
多川の兄、一雄。なかなかに兄弟似たもの同士なようである。
なんでも、一雄もハンググライダーライセンスを持った飛行機好きで、少年の頃、多川は兄のハンググライダーによくのせてもらっていたのだそうな。元々多川が飛行機バカになったのも兄の影響が大きいのだという。
「シエさん。こんな弟ですが、仲良くしてやってください」
深々と頭を下げる一雄。
『モチロンダ、兄上殿。私ノホウコソ、オネガイシタイ』
敬礼し、深々と頭下げるシエさん。それでも堂々としたものだ。
するとピンポンと館内放送が音を鳴らし、あと三十分で搭乗手続きを終了すると告げる。
「じゃぁ柏木さん、フェルフェリアさん、兄貴。そろそろ行きます」
「はい、お気をつけて。シエさん、多川さんをよろしくおねがいします」
『そうでスよシエ。ケラーは右も左もわからないのデスから。ちゃんとネ』
『アア、マカセテクレ。大丈夫ダヨ』
フェルとシエ。ハグなんぞして旅の道中安全を祈る。
柏木と一雄も二人と握手。すると旅客宇宙船ハルマのスタッフが二人を呼びに来てくれる。
なんせこの二人は、方やガッシュ総統の娘に、対ダストール特派大使だ。その扱いも一般客とは違うわけで、VIP政府関係者搭乗口からの搭乗となる。
カウンターで手続き済ませ、手を振り船に乗るシエと多川。シエが多川の腕を取り組んで、再度振り返り、手を降って船の中に消えていく。
「ふぅ、行きましたな」
『エエ、これで片道四日ホドの旅になるデスよ』
「四日かあ~……俺がイゼイラに行った時は、六日かかったもんな。イゼイラを中継して一泊し、ダストールに四日ってったら、やっぱ相当に速く到着できるようになったんだなぁ」
『デスね~。やっぱり人工亜惑星基地が来てくれたのが大きいでスヨ』
そんな話をしていると、一雄が
「ああ、その話なんですけど柏木大臣。ちょっと小耳に挟んだのですが、その人工亜惑星基地とかいう宇宙ステーションにも、日本の治外法権区ができるって、本当ですか?」
「ええ、その通りです。どこでその話を?」
「はい。ウチの重役から聞きましてね。なんでもその件で、今度その人工亜惑星基地まで出張で行って欲しいって言われているんです。資材関係の技術交流という話だそうなんですけどね」
すごいものである。これが連合国家故の恩恵というのもあろうか。
かの地球文明領域境界線に浮かぶ人工亜惑星レグノス基地に、日本の治外法権区が設定されている。それは相当大きな面積だそうで、日本領土といえるほどの広さがあるそうなのだ。
現在、この亜惑星は、『基地』という呼称だが、ここもこれまたここに来る人が増えれば、呼称がセルゼントと同じように『州』に変わるそうなのだ。で、そこにある日本の治外法権区も、都道府県なりの呼称で呼ばれるようになるらしい。さしずめ『レグノス県』とでもなるのだろうか。火星に設定される予定の日本領に続いて、第二の日本国地球外領土となる……すごい時代になったものである……
………………………………
さて、ドラの音鳴って、テープ投げて行ってきますというわけにはいかないが、旅客宇宙船ハルマは、一路イゼイラ共和国、サント・イゼイラ中央宇宙港目指して出港する。
イゼイラに着くと、サンサが迎えに来ているというので、フェルのお城で一泊できるらしい。
次の日、フェルの城にダストールからの迎えが来る予定。その後宇宙港へ行き、ダストールが手配したお迎えの宇宙船に乗って、デルベラ・ダストールデルド本星へ向かうという予定である。
船内スタッフに部屋へ案内される多川とシエ。
案内される部屋は立派なもの。ただ、地球世界のように部屋の格付けというものはない。というのも、部屋に格付けがあるというのは、これは貨幣経済国家の概念であり、部屋の格式で付加価値を付けて金銭を儲けようという算段からそうなっているわけで、貨幣経済でないティ連では、部屋のレベルは基本みんな同じなのである。同じといっても言ってみれば、全室スイートルームクラスの立派な部屋なのだ。
ただ、多川は政府要人なのでそこのところはVIPルームが別途あり、そこへ案内される。無論相応の『付加価値』がついた要人用の部屋だ。
「うわぁ……すごいなこの部屋は……俺ん家よりいい部屋じゃないかよ。ははは」
『スタッフモ気ヲ使ッテクレテイルヨウダナ。ニホン人仕様ニナッテイル』
シエは、睡眠カプセルではないダブルベッド仕様の部屋を眺め、ベッドに腰掛けてポンポンと叩く。ってか、なぜにダブルベッドなのかと苦笑いな多川。こんなとこまでバレてんのかと。
と、そんな感じで荷物を部屋に置くと、二人はさっそくこの船の散策とばかりに部屋を出る。
実はシエもこれほどの巨大な旅客船に乗るのは、実は初めてなのだという。なのでウキウキしているという話。
「え? そうなのか。てっきり名門のご息女なシエだったら、こんな船乗りまくってると思ったんだが」
『私ハ、若イ頃ニ家ヲ出テ、防衛総省軍ニ入隊シタカラナ。アマリソウイウ思イ出ハナイノダヨ……ハハ、ワタシノ場合ハ、大型機動母艦ナラ、何回モ乗ッタ事ハアルガナ。アト、ヤルバーンカ』
「ああそっか、ヤルバーンも言い換えれば『良い船』だもんな」
『マアソウダガ、旅客宇宙船ハ楽シム為ノ船ダ。ソコハヤハリ、コウイウ船ノ魅力ナトコロダヨ』
さて、ヤルバーン軌道ステーションからイゼイラへ帰国するこの旅客船だが、現在この帰りの便には、乗客が少なかったりする。なので更に気楽なもので、人がいない分ゆったりできて、気持ちが良い。
乗客のほとんどは、ヤルバーン州から、仕事でティ連加盟国へ向かうヤルバーンスタッフだ。更には、なんと日本人の姿も結構な数見受けられる。
これも言わずもがなで、各官公庁の役人さんが、イゼイラへ行ってのお仕事である。イゼイラスタッフとの会見や会談に視察等々。忙しい話だ。結構なことである。
船は地球軌道から離れると、かのデロニカ・クラージェで行った試験ディルフィルド航行を一回行って木星まで飛ぶ。
さすがにこの超大型旅客船では、ディルフィルドジャンプ時にいちいち着席しなきゃならないような煩わしさはない。そして多川も太陽系外縁部を往復した身だ。ディルフィルドジャンプは経験済みであるので、あの時ほどは驚くこともなかったが……
「うおおおおっ! 木星だ! す、すげぇ! 柏木さんのレポートまんまだ!」
やっぱり木星には感動したそうな。
他の政府役人の方々も同じく。そこらじゅうで日本人の感嘆の声が聞こえる。
『シン。アソコカラ、展望テラスヘ出ラレル。ソコナラ、環境シールドガ張ッテアルカラ、木星ヲ生デミルコトガデキルゾ。カシワギガ送ッテキタ映像ト同ジコトガデキル』
シエは多川の手を引いて展望テラスに行こうと誘う。もちろん行くに決まっている。
他の日本人や、異星人観光客もテラスに出ていた。そこで見るは、ガラス越しではない肉眼の木星。
もう感動の一語。
他の日本人も、涙浮かべて感動している者もいたり、自分の家族や友人へ自分撮り撮影で写真を送っているものもいたり。
もう調印式以降、政府関係各所にティ連関係の所事案に仕事はまんべんなく割り振られており、かなりの部分が秘匿事項ではなく、特定機密も解除されているのだ。
なもんで、こんなトンデモ写メなんかも、地球の知人友人に送ることもできる。
多川もスタッフにスマホの写真を撮ってもらう。もちろんシエとのツーショットだ。
シエは多川に頭寄せて、パシャリと数枚。この写真を兄の一雄と柏木に送った。
柏木からの返信メールは『多川さんも木星見ましたか! すごいでしょ!』
一雄からの返信メールは『俺も近いうちにレグノスに行くから、羨ましくないぞ!』
恐らく、ここにいる日本人連中の写真が、知人のブログなどにアップされ、これまた掲示板などで、やいのやいのとネタになり、話題となるのだろう。
と、ままそんな感じで、柏木が体験した事を追うように多川もティ連技術がもたらす宇宙大パノラマな感動を体験していく。
その横には、ダストールな習慣でシエがピッタリと横につき、色々多川へ丁寧に解説をする。
そんなシエさんが、多川とレストランで飯食っていると、日本でも有名なシエをみつけた日本人の役人に話しかけられ、この旅客船ハルマで、こういった友人の輪が広がっていく。
そんな感じなので、イゼイラに着くまでの三日間は退屈せずに済みそうだ。
と、柏木達がクラージェでイゼイラに行った行程とは違い、正味『旅行』として、楽しく宇宙を行く二人。
冥王星ゲートに到着した旅客船は、ゲート航行シールド装置を装着し、ゲートへ突入する。
冥王星ゲートからレグノスの生成する亜空間回廊を中継してイゼイラへ飛ぶ直通コースだ。
ディルフィルドゲート初体験の多川は、そのうねるような亜空間回廊にちょっとビビリつつも、SF映画でしか見たことないような光景に脅威と、畏怖と、感動を覚えながらイゼイラ到着までの三日間を過ごす。で、同じ部屋でダブルベッドであるからして、そういう感じである。これは一言書き添えて、想像力を逞しくする必要があるかどうかは個人の自由だ。
まま、食事にハイクァーンなウィンドショッピングというのもおかしいが、最新造成データのコマーシャルな見本を見て回ったり。
仮想娯楽施設を利用して、機動兵器の訓練などもやってみたり。
訓練とはいっても、彼ら二人からすれば、この訓練も趣味のようなものだ。なのでタンデムな複座で、そんなVR訓練も、言ってみればデートのようなもの。
そんな感じで、三日間の船を楽しむ二人。時間はあっという間に過ぎて、旅客船ハルマは、イゼイラ本星ゲートを大きく飛び出す。
無論、多川も、当時の柏木と同じく、その都市化された宇宙空間に驚愕する。
宇宙服も着ずに空間建造物での屋外活動の様子には、思わず目をこすってしまうほどであった。
「はあ……柏木さんの見た光景がこれか……そりゃ常識変わるよなぁ」
『ソレハ、オ互イ様ヨ。ダーリン』
「ん? どういうことだ?」
『私達カラスレバ、ニホンノ発達過程文明ニオケル技術ヤ、文化習慣、風俗ニ哲学、ソシテ科学技術。スベテガ我々ノ常識デハナイモノバカリダッタ』
「イゼイラだけじゃなく、ダストールも?」
『アア、ソウダ。ティエルクマスカ連合加盟国ノ文明ハ、トーラルノ遺産デ繋ガッテイルト以前話ヲシタナ?』
「ああ。それはもうみんな知るところだ」
『ウン。ツマリ、コノイゼイラデハ、巨大生物ニアラガエズ、種ノ危機ヲ迎エソウニナッタトコロヘ、トーラルを発見シタ』
コクコクと頷く多川。
『ダストールモ、パーミラモ、カイラスモ、ソノ他、全テノティエルクマスカ文明ハ、ソノ種族ノ歴史ニオイテ文明ノ危機ガアッタノダガ、トーラル技術ヲ発見シタオカゲデ、ソレヲ回避シテキテイル』
シエの解説に、真剣な眼差しで、更に頷く多川。
『各個別国家ノソウイッタ歴史ハ、マア、オイオイ詳シク知ル機会モアロウカラ省略スルケド、今ヤ、ヤハリ歪ナ進化ヲ遂ゲタト、我々ハ自分達デモ理解デキテシマッタ。ダカラ、ダーリン達ニホン人ガ私達ノ科学ニ驚クノト同ジク、我々モ本来、長イ長イ時間ヲカケナケレバ持テナイモノ。ソノ道筋ヲ見ツケタワケダカラナ。我々ハ、ソウイウ物ヲ持ッタチキュウジンヲ羨マシク思ウシ、眩シク映ルノダ。ナノデ、オ互イサマナノダヨ。フフフ、解ルカ?』
シエのその解説に、良い話を聞いたと思う多川。コクコクと頷いて、なるほどと返す。
と同時に、今や予備知識として、そういうものがあるという概要は知っているから、シエからかような解説を受けても真剣に頷けるからいいものも、思うに初めてこの話をフェルから聞かされた柏木は、一体どんな思いでフェルの話を聞いたのか……そう考えると、やはり柏木真人という男は普通ではないと感じ入る多川。かの『突撃バカ』の二つ名も、伊達ではないと思ってしまう。
シエと多川も、かつての柏木とフェルの如く、そのような話をしながら港への到着を待つ。
船は大気圏内へ入り、加圧現象を生じさせることもなくサント・イゼイラ宇宙港上空一〇〇〇メートルで停止し、乗客を転送で宇宙港施設へ降ろしていく。
多川はこれでも特派大使として来ているので、シエと共に政府高官扱いの降り口から出る。
すると、サイヴァル夫妻に、田辺とターシャ、そしてサンサが迎えにやってきていた。
「これはサイヴァル議長閣下! それにニルファさん。わざわざのお出迎え痛み入ります」
ピシっとお辞儀敬礼する多川。シエも自衛隊敬礼で同じく。
いやいやいやと両の手を振って、気楽にと語るサイヴァル。
今回、多川はダストールへの特派大使なので、イゼイラは関係ないのだが、そこは大使云々よりも、友として多川を出迎えに来たサイヴァル。
『ようこそイゼイラへ、ケラー・タガワ』とサイヴァル。
『お久しぶりですわ、ケラー』とニルファ。懐かしい仲間の到来に顔もほころぶ。
「はい。とはいえ、今日一日だけの滞在ですが、よろしくお願いいたします」
『モチロンです。詳細は、ケラー・カシワギと、ファーダ・ガッシュからお聞きしています。今日は船でのお疲れをとるのがよろしいでしょう』
するとサンサも
『ソウですよ、ケラー。フリンゼからもよろしくと仰せつかっております。ケラー・シエも、久々ですね。フリンゼのお城へいらっしゃるのは』
『ソウダナァ。チイサイ頃、ターリィトイッショニ遊ビニキタノハ、今デモヨク覚エテイルヨ』
そんな話をしながら、諸氏和気藹々。今日の多川。イゼイラ的には、国賓ではなく、純粋な友人の来訪なので、かしこまった事はナシな感じだ。
というところで会話に花を咲かせていると、シエはターシャの抱えるものに目が留まる。
『オオ、ターシャ。ソレガオマエノ……』
「ダー。そうヨ、シエサン。私とマモルの子。響ヨ」
田辺とターシャの間に生まれた子。日本人とロシア人のハーフらしい東洋人と白人のいいとこどりな感じの面立ちは、なかなかに男前。そう。男の子だそうな。
『アア……ワタシニモ抱カセテクレナイカ?』
シエ、実はこういうのに結構弱い。
もちろんとターシャはシエに響君を渡す。
『フフフフフ、ヤハリ胎生型知的生命体ノ幼生体ハ、小サクテ可愛イイナ』
ヨシヨシと響を優しくゆするシエ。ただ……多川も、田辺も、ターシャも。何気にシエの言った超大事な言葉は聞き逃してしまっていた。
ターシャは、シエが抱いた途端、さっきまでグズっていた響君が途端に大人しくなったと、シエを褒めめていたり。
「田辺さん。響君はやはりイゼイラで教育を受けさせるのですか?」
多川が興味深そうにそんなことを尋ねる。
「いえ、たぶん地球の学校ですよ。私の任期は三年でお願いしていますのでね……確かにこのイゼイラへ定住するのもいいですが、やはり子供の成長過程を考えると、それもどうかなという感じでして」
確かに田辺やターシャの懸念も、もっともだ。言うなればこちらでは地球人は早熟種族ということになってしまっている。ティ連社会でも、人工寿命調整をしない限り、自然寿命では、その一生が短い部類になるのが人類だ。
そんな話をしながら、サンサの都合したトランスポーターに乗って、フェルの城へ向かう多川達。
今日はサイヴァル夫妻に田辺夫妻。そして多川とシエ、サンサで小さな晩餐会という予定になっている。
無論、多川はフェルの城を見てびっくり仰天。リアルで城などに住む人物が身近にいることを思い知る。
資料では、柏木のレポート等々でわかっちゃいるが、実際に体験させられると、その感想はまた違ったものになるものだ。
その後、諸氏で楽しく晩餐。献立はカレーもいいが、イゼイラにせっかく来てまでカレーもなんなので、ここはサンサ達侍従軍団が腕によりをかけたイゼイラ料理に舌鼓をうつ。
但し、酒は地球のワインなんぞをご用意。地球人はイゼイラ酒を飲めないので、そういった感じで。
料理は、柏木も大好きなパガムという羊ぐらいの大きさはある兎に容姿がよく似た動物の肉。
もちろんハイクァーン品だが、基本本物と全く同じ組成なので、旨いという点では間違いなく旨い。
食事の後、しばし雑談をした後、サイヴァル夫妻に、田辺夫妻は帰宅していった。
シエと多川に当てられた部屋は、貴賓客室。そりゃ立派な部屋である。
でもってここでもサンサが気を利かせて、置いてあるベッドはダブルベッド。もう遠慮なしに二人の仲は知れ渡っている。
ということで、今日はもうお疲れで、明日はさっそくまた宇宙船に乗って旅をする事になるので、早く床に入ることにする。
まー、……床に入ってもすぐに寝るとは限らないわけで、そこのところはいやはやな感じ。
ターシャのお子様に当てられた方の積極性が目立ってしまったりと、ままそんな感じ。
最近絡め取られる機会が多い多川さん。ご苦労なことである。
ということで、明日はボダール輝く淡い光の朝である……おやすみなさい。
………………………………
多川の朝は早い。そりゃもう体に染み付いた起床ラッパの音という奴である。
自衛官の起床時間は朝の六時。その前にはもう起きているので、多川は朝五時には起床している。ここで軽く運動器具などを使って体をほぐすところなのだが、今日はベッドでまだシエが寝ているので、そこは抑えた。
多川はカーテンを少しまくり。外を見る……そしてその幻想的な風景に圧巻となる。そこは柏木が感じたそれと同じような感じ。
「ウ……ン……ア、シン。起キテイタノカ」
シエがネイティブな日本語で多川に語りかける。
目をこすって手を口に当てて小さくあくびをしたり。彼女も軍隊生活が長いので早起きである。
シエは、フェル同様に今やネイティブ並に会話できるほど日本語を習得していた。そのレベルはフェルより上かもしれない。ただ、そこんところは他の種族との会話もあるので、普段はPVMCGの翻訳機能を使っているが。
それと日本語でネイティブ会話できても、ままダストール人会話の淡白さ加減は同じような感じではある。
「シエ、おはよう。よく眠れたか?」
「ウン、久々ニネ」
シエはベッドから起き上がると、一糸まとわぬ姿で、美しい体側面に栄える鱗状の模様を光らせて多川の元へ手をかけピタリと肌を合わす。
「ドウダ、チキュウニハナイ風景ダロウ?」
「ああ……幻想的だよな……これが柏木さんの言っていた主星の朝かあ」
「ダストールニイケバ、マタ違ッタ風景ヲミルコトガデキル。ソウダナァ。地球ト決定的ニ違ウ風景トイエバ、恒星ガフタツアル。即チ、『オ日様』ガ二ツアルトイウトコロダナ」
「え!? 太陽が二つもあるのか! ダストールってメチャクチャ暑いかとか……」
「イヤ? タシカニ地球ノ平均気温ト比ベタラ、若干温度ハ高イミタイダガ、地球人ガ生活する上デ特ニ支障トナル気温デハナイゾ」
「え? でも太陽が二個っつーことは、二連恒星かなんかみたいな感じなんだろ?……あ、そうか、距離が離れてるのか」
「ゴ明答ダ。ナノデ、『オヒサマ』ノ見タ目ノ大キサモ、比較的小サイノダ」
「へぇ~。よく出来てるな、自然ってやつは」
「マッタクダナ。地球ト太陽ノ距離デ、太陽ガ二連恒星ダッタナラバ、地球ニハ生命ナド誕生シナカッタダロウ」
「そりゃそうだな」
と、そんな朝のなんてことない会話を楽しむ二人。
多川はガウン着ているが、シエはマッパ。多川は慣れたとはいえ、まだちょっと目のやり場に困るが、シエは自然体。愛する伴侶の前でマッパになって何が悪い? ってなもんである。
するとドアをノックする音。サンサだ。
シエは傍にあったPVMCGを手に取り服を着る。
「アラアラ、やはりお二人は軍人さんだけあって朝はお早いですわネ」
そんな言葉とともに、サンサがニコニコして朝食なんぞを運んできた。
流石はサンサ侍従長とでもいうべきか。下調べは完璧で、今日の朝食は白米、生卵に味噌汁、野菜のおひたしに焼き塩鮭。完璧な日本の典型的な朝食である。多川とシエが大好きな朝飯だそうな。
『オ、生ノ、ニワトリノ「クア」デハナイカ。「タマゴカケゴハン」ガデキルナ』
シエさん。この卵かけごはんが大好物だったりする。シエが生卵好きといわれると、誰もがバッチリ納得してしまいそうな感じ。
ということでサンサも交えて朝食。朝の雑談に花が咲く。
あの柏木が来た時のようで楽しい朝だと。先日の地球来訪時の思い出話などにも花を咲かせる。
しばしそんな感じで、また出かける準備も万端で時間を潰していると、ダストール大使館から迎えのトランスポーターがやってきたようだ。
ダストールの在イゼイラ大使が同乗しているようで、サンサに付き添われて多川達の前へ。
『初メテオ目ニカカル。私ハ、デルベラ・ダストールデルド・在イゼイラ大使ノ『ディン・ヘルト・バッサム』ト、申ス者。多川特派大使ガ、ダストールヘ来訪シテモラエルコト、心ヨリカンゲイスル』
そう言うと多川に笑顔で地球式の握手を求めてくるディン大使。
『ディン大使。久シブリダ』
『シエ嬢モ壮健ソウデナニヨリ。変ワリハナイカ……ト、イヤ、変ワリガアルカラ帰郷スルノダナ。ハハハ』
『ソウイウコトダ。デ、道中デハ、オマエガツイテクレルノカ?』
『ウム。大使職ハ副大使ニマカセテ、タガワ大使ト、シエ嬢ノ滞在期間中ハ、私ガオマエタチニ付く。ナノデ委細心配ハイランヨ』
『ナルホド、ソレナラ安心ダ』
多川は呆気にとられて二人の会話を聞く。どっちが立場上か下か全然わからない。まるで旧知の知り合いとでも話しているかのよう。
聞くところではこのディン大使。シエパパなガッシュ総統の親友だそうで、腹心中の腹心ということだそうな。なのでガッシュもそういう人物を付けてくれたということ。
ということで、出立の用意ができたら、表玄関まで来てほしいということに。
「な、なぁシエ……俺、良くわかんないんだけど、あのディンという大使さんに、あんな偉そうに話してもいいのか?」
『ン? 偉ソウニナド話シテイナイゾ? アレホドノ人物ダ。最大級ノ敬意ヲハラッテイルガ』
きょとんとした顔で、「何を言ってるの? ダーリン」という感じで話すシエ。
「あ、そ、そうなのか? は、ハハ……よくわからないが、ダストールの感情表現って理解するの難しいいな」
『フフフ、マアミンナソウ言ウナ。シャルリナドハ、ダストールノ船ニ乗ッタラ、一兵卒ニモ敬語ヲ使ッテシマイソウダト、イツモボヤイテイルゾ』
すぐ慣れるから気にするなと多川の肩に両手を回して、軽くチューするシエ。
これが所謂ダストール人の感情表現である。
サンサとは、一日という短い時間だったが、帰りにまた一泊させてもらうので、その日までということで軽めの別れの挨拶。
ディン大使は二人をダストール製の高級トランスポーターに乗せ、そのまま宇宙港へ直行する。
ダストールへは、宇宙港に待機させている総統専用デロニカ・クラージェで行くらしい。実際宇宙港では税関検査のようなものもなく、トランスポーターはクラージェへ直接乗り込んでいく。
シエ達三人を降ろすと、トランスポーターは自律走行で大使館へ戻っていった。
間もなく、クラージェは出航し、デルベラ・ダストールデルド星系連邦総国へ進路を取る。
到着時間はそんなに長くはない。ゲートを利用して、地球時間で三時間ほどだ。
多川もこっちへ来る前に、ダストールについてそれなりに予備知識を勉強してはいた。
国民性は、非常に保守的で義理堅い……確かに火星開拓艦隊のダル司令を見ていたら、そんな感じであるし、シエ自身もそんな感じだ。あとシエパパのガッシュもそんな雰囲気がある。
実は日本の世論調査でも、このダストール人という種族。こんな喋りの偏屈に映る種族なのに、日本人の好感度が割と高いと出ているのである。
多川自身もシエと話していて、そんな感じで淡白に会話するシエだが、なんとなく彼女と会話していると気分がいい。
かの田中さん家の主人もシエが大のお気に入りだ。
多川はなぜかな? と色々考えたところ、ある時、テレビを見ていてふと気づく。そう、NHKの大河ドラマを見ていて気づいた。
彼女らダストール人の種族性格は、日本の武士、武家のような雰囲気があるのだ。
その時多川は「ああなるほど」と感じたのを覚えている。そんな雰囲気のダストール人に日本人の潜在的な何かが、好感を生んでいるのだろう。
特にシエの場合は、武家的雰囲気に、モデルウォークでエロさ爆裂なので、そのギャップがまた良いという事なのだろうか。そんなところである。
ダストール人は、互いに心通わせた者同士となると、それはもういつもくっついている。
ご多分に漏れず、シエはクラージェで多川と行動を共にするときも、腕くんで多川にいつもひっついてて離れない。それを他のダストール人クルーがいる前でもそんな感じで、多川は何とも照れてしまうのだが、ダストール人は、そんな多川とシエのカップルを見ても、何とも思っていないのか、普通に敬礼はすれど、目をへの字にするわけでもなくさも当たり前のような感じで挨拶して通り過ぎて行く。
これが文化の違いかと思う多川。なるほどなと。
クラージェ船内で、多川は人気が高かった。
まず第一にシエというダストール人的に超高嶺の花を射落としたデルンだという興味と、彼が、太陽系外縁部での戦いで、見事な旭光Ⅱの操縦技量を見せたこと。かの日本―ヤルバーン製新型機『キョクリュウ』初のパイロットであり、シエとのコンビで恐るべきドーラ・ヴァズラーを仕留めたことが話題になっており、柏木ほどではないにしろ、相当に有名な日本人となっていた。
特に、あの調印艦隊日本来訪以降、『試製15式多目的機動兵器・旭龍』の名称は、ティ連防衛総省軍。イゼイラ国防軍。特危自衛隊。航空自衛隊。陸上自衛隊。海上自衛隊の制式採用を機に、その名称を『15式多目的機動兵器・旭龍』とし、ティ連やイゼイラ国防省では『ヤルマルティア15型・マージェン・ツァーレ』という名称で、正式採用される事になり、さっそく正規モデルが量産されている。
で、この旭龍。ダストール国防軍でも正式採用しようという動きが出てきており、数機が試作造成されて、テストが開始されているという話。
そこで、この旭龍を知り尽くしたスペシャリストのシエと多川に、滞在中、ダストールパイロットへ特別教官として教育してやて欲しいと、そんなスケジュールにもなっているという。
無論、飛行機バカの多川は、その要請を快諾。ってか、他星の空を機動兵器で飛ぶのを楽しみにしていたりする。
そんな感じで会話を弾ませていると、すぐに時間は経つもので、クラージェはほどなくゲートを通過。
空間波動を放ってゲートを飛び出すと……
デルベラ・ダストールデルド星系連邦総国本星。デルベラ・ダストールデルドに到着した。
柏木や多川がイゼイラに到着した時の風景。
都市化された宇宙空間の情景は、やはりここでも同じように存在した。
但し、今回はイゼイラのような惑星の軌道を回る巨大な衛星ではない。地球と同じような恒星を回る惑星である。
その恒星の方を見ると、なるほどシエの言う通り、白黄色に眩く輝く二つの星。
相当に距離があるのか、見た目の光点は小さい。
そして、本星、デルベラ・ダストールデルド。略してダストール星。
シエの解説では、星の大きさは地球とさほど変わらないという。ただ、本星に随伴する衛星が二つあるそうで、一番大きな衛星は『エイドス』という月ぐらいの大きさの衛星。後一つは、人工亜惑星とほぼ同じ大きさの『レンド』という衛星。
その二つの衛星を見て、多川を大きく驚かせたのが……
「こ、こりゃぁ……あの二つの衛星。青い星になってるな……」
そう、テラフォーミング化がなされていたのだ。
衛星にも生活環境が整った自然あふれる場所があり、その本星も……
『シン、アレガ私ノ故郷。「デルベラ・ダストールデルド」ダ。美シイ星ダロ?』
「ああ、美しい星だな。地球と違って、見た感じ緑の多いイメージのある星みたいだけど」
『アアソノ通リダ。ダストールハ、ティ連有数ノ緑ガ多イ星デアリ、陸地ト海洋ノ割合ガ、六対四トイウ、陸地面積ガ海洋ヨリモ広イ星ダ』
そして、気候も温暖な場所が多いそうで、寒冷地というものは、極北地帯と、南極部のごく一部の場所だけなのだそうだ。
ダストール星のその他大きな特徴として、先の通り陸地面積が多く、所謂地球規模の『大洋』というものが存在しない星で、海洋面積が狭い代わりに、海洋の深度が非常に深い海が多いという、そんな星なのだという。
言って見れば、海洋面積が狭い代わりに、深い海が多いというイメージなのだそうだ。
シエは、久々の帰郷に、外の風景を見て、目にうっすらと何かを潤ませている。
やはり家を出て、日本に永住することを決めた身とはいえ、故郷は懐かしいものだ。おまけにシエとしては、地球時間的に言えば、何十年ぶりかの帰郷になる。
多川に腕をからませて、手を取り、頭を肩へくっつけるシエ。
多川も、シエの頭を撫でてやったり。
キャプテン・ウィッチなシエさんも、ままこんなシチュエーションではしおらしくもなる。
多川は、シエの首筋へ手をやる。
すると、ツルっとした心地よい手触りの、鱗模様の肌に触れる……その模様を見つめる多川。そして、ダストール星に目をやる。
ダストール人は、二足歩行の原始恐竜のような意匠の動物から進化した知的生命体だという。
その緑色が多いイメージの青い大気を持つ美しい惑星を見ると、なんとなくシエ達祖先のイメージと、星の雰囲気はマッチするように思えてしまうから不思議なものだ。
で、かような情景とは、これまた情緒も活性化させるもので、こんな状況だと、多川もシエの肩を取り、自分の方へ寄せる。
ダストールのクラージェは、そんな二人を歓迎するかのように、星へと吸い込まれていく。
シエさん……ダストールへの里帰りである……




