表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河連合日本  作者: 柗本保羽
本編
24/119

-12-

 

 ~二ヶ月後のある日~


 大阪 関西国際空港 第一ターミナルビル。

 4階国際線出発ゲート


 カラコロとキャリーバッグを引っ張ってモデルウォークのように歩く女性が一人。

 身の丈170センチ強の美女。

 ブランド物のワンピーススーツにハンドバッグを肩にかけ、出国ゲートに向かう。


 その人、容姿はOGH会長秘書、正体不明の変人美女『田中さん』こと、田中真理子たなかまりこ(26)であった。

 

 搭乗するは、ブルーフランス航空午前7:30関空発・パリ シャルル・ド・ゴール空港行。

 

 手荷物検査をパスし、パスポートを見せる田中。

 出入国管理官は田中の顔とパスポートを見比べ、特に何か疑問を抱くこともなく、出国スタンプをポンと押す。

 田中は海外旅行、初めてなのか?少しキョロキョロして、搭乗口を探す。

 イマイチ要領を得ないのか、手の平を眺めている……手の平からは光が灯る。

 何かに納得したように手の平をスっと握って光を消すと、パリ行きゲートへトコトコと歩き出す。


 出発にはまだ少し時間がある。

 田中は売店で飲み物を買おうとする。

 代金を支払うが、何かぎこちない。

 1000円札を出して、それを裏表眺めながら、ウンと頷いて店員にそれを渡す。

 買った飲料はコーラ。

 ストローでチューと吸いつつ美味そうな笑顔を見せる。

 少し飲むと、手で口を覆い、ゲップをしてしまう。

 カップ片手に近くの椅子へ艶に腰を掛けると、長い髪を後ろへ寄せて、長い足を前に組む。

 田中は空港の様子を楽しむように周りを眺めていた。


 すると、ある外国人の姿が見えた。

 田中は、その外国人が目に入ると、ハンドバッグから写真を取り出し、外国人を眺める。

 手に持つ写真には、その外国人が写っていた。

 

 眺める外国人、ポーランド議会の上院議員である。

 先日、茶髪タレント弁護士な大阪市長と、八尾市出身、元電気施設工事会社代表取締役の大阪府知事との貿易関係会合のため、来日し、大阪の大手企業を視察していた。

 そして彼は大変な親日議員でも有名であった。


 ヤルバーン飛来事件に関しても『異星人が日本に行ったのは賢明だった。他の国なら、彼らを銃とミサイルで歓迎し、メインディッシュに核兵器を撃ち込んだだろう』という少々過激な発言をしたことで物議をかもした人物でもあった。

 実は彼の親が1922年、日本赤十字によって救われたポーランド孤児であり、彼はその息子、二世だったのだ。その事もあり、非常に親日派の議員なのである。

 そしてヤルバーンにも肯定的であり、好意的な論評を持つ人物でもあった。


 田中は彼を確認すると席を立ち、彼の近くの席に腰をかけ直し、その少し小太りの、しかし紳士的な男をチラ目で見つめる。

 彼には秘書とおぼしき数名のポーランド人と、護衛の人物が周辺を固めていたようだ。

 護衛は、ポーランド人と日本人SPのようである。



 出発時間が近づく。今日は平日であるため、日本人よりも外国人客の方が多いようだ。

 人種も様々、白人、黒人、アラブ人、黄色系では日本人がほとんど。中国人、韓国人、台湾人はさほどいない感じであるが、まぁそれは国際色豊かである。


 搭乗案内される前に、議員は先に飛行機へ乗り込む。

 SPは敬礼し、議員を見送る。議員もSPに握手をし、手を振って別れる。

 その後、身体障害者や、子供連れの客がアナウンスされ乗り込む。


 そして一般搭乗。

 田中はコロコロとキャリーバッグを転がしつつ、エアバスA380に搭乗する。

 議員はロイヤルファーストクラス。

 田中はエコノミークラス。

 指定された席へ向かう。


 田中は周りをキョロキョロ見渡し、搭乗客が上部バケットに荷物を押し込んでいるのを見て、見よう見まねで自分のキャリーバッグを押しこみ、席につく。

 田中は通路側の席である。

 隣の席に座ろうとする初老の白人夫婦が「パードン」と声をかけ席につこうとする。フランス人のようだ。

 田中は一度席を立ち、夫婦を奥の席へ通す。


 そして全員が搭乗したのをキャビンアテンダント(CA)が確認に入る。

 そしてベルト装着のサインが出る。

 田中はその意味がわからないのか、CAに注意されていた。


 その後、定刻どおり出発。エアバスは関空を飛び立つ。

 離陸する時のGに田中は少し眉間にしわを寄せる。

 しかし……田中は腕を組んだまま、目線で周りをキョロキョロ見回していた。

 

 エアバスは高度を上げると通常巡航飛行に入る。そしてベルトサインが消える。

 隣の初老の白人女性が、田中にキャンディーを差し出す。

 田中はそれを摘むと、首を傾げ眺める。

 白人女性が口に入れ、それを転がしているのを見ると、見よう見まねで自分もやってみる。

 甘い……田中は目が星になり、笑顔を女性に見せる。

 田中は女性に笑って会釈すると、キャンディーを口の中で転がしながら、また視線を機内に向ける。


 エアバスがちょうど日本領空を抜けた頃だった。


 各座席区画で、アラブ系、白人、黒人など十人ほどの男が席を立ち、バタバタとバケットを開けだす。

 田中は目尻をピクっとさせ、左腕に手をかけた。

 

 男たちの行為に驚いたCAが「なにをするんです」とばかりに注意に走ると、男はCAを思いきり突き飛ばし、鞄からノートパソコンやカメラを取り出す。

 そして、そのノートパソコンとカメラをカキコキと変形。

 銃床のようなもの。銃身のようなもの、グリップのようなものを器用に、そして、みるみる間に変形させ、そして合体させ……銃の形にした。



 そう、ハイジャックだ。



 男たちはその偽装銃を乗客に向け、何か外国語で大声を出して話している。

 機内のあちこちから悲鳴が起こる。


 田中は目をつむり、「やれやれ」という表情で首を左右に振る。


 ハイジャック犯は、数人がロイヤルファーストクラス……議員がいる方向へ向かったようだ。

 そして機の向こうから怒号が聞こえ、鈍い音と同時に、悲鳴が聞こえた。

 どうやら誰かが殴打されたようだ。


 田中はその音を聞いて渋い顔をする。

 何人かは、CAを人質に取り、コクピットを乗っ取ったようだ。


 その様子を注意深く観察する田中。

 目線は機内のいろんな設備を見渡す……機内の広さ、高さ、トイレの位置、踊り場になりそうな場所……


 そして、田中の左腕から、小さくピキピキっと音がする。

 その音を聞いた田中はニヤッと笑う。

 そして左腕を口元に当てて、何かをつぶやく。


 その瞬間、機内の空気全体が一瞬歪んだ。

 各乗客の空気も歪んだ。

 隣の夫婦の空気も歪んだ。

 機内壁面の空気も歪んだ。

 しかしそれに気づいた乗客、ハイジャッカーはいない。


 その歪みを確認すると、田中はよっこらしょとばかりに席を立つ。

 隣の夫婦が田中の服の裾を掴み「ノン!ノン!」と首を横に振り、田中の奇行を抑えようとする。

 しかし、田中は夫婦の手をそっと外し、人差し指を立てて、笑顔で指を左右にふる。


 席を立った田中は、ウ~ンと一つ背伸びをすると、艶なモデルウォーキングで、ハイジャック犯の一人に向かいツカツカと歩いて行く。


 アラブ系のハイジャック犯は「なんだこいつは」という目で田中を見る、そして銃を向け「席につけ!」とでもいうような怒鳴り声とジェスチャーをする。

 しかし田中はそんなもの無視をして男に接近する。少し笑みを浮かべて……

 

 怒ったハイジャック犯は、田中に接近し、銃を突きつける、そしていきり立ったように何か田中へ言っている。

 しかし田中は手を腰に当て、横を向き「フンッ」と相手を小馬鹿にしたような態度を見せると……

 その態度に激昂した男は。銃床を田中めがけて振りかざした……

 銃床は田中の頭部に直撃……したように見えたが、吹っ飛ばされたのは男の方。

 銃も男よりはるか向こうに吹っ飛んでいった。

 

 その状況に焦った男は、へたり込み、目を躍らせながら後ずさりする。しかし田中はツカツカと早足で男に近づき、襟元を片手でグイっと掴みあげて顔をジロジロと眺める。

 その掴み上げる高さは……男の足が地についていない……いくら変人美女田中とはいえ……ちょっと無理がある。


 そして……なんと田中の顔が一瞬歪んだ。

 男はその状況に「アッアッ」と脂汗をかき、恐怖する。

 田中の顔は、まるでデジタルテレビが受信不良したかのような感じになると……田中の高級ブランドワンピーススーツ姿も……そして田中の体全体が、容姿が、そんな受信不良状態の映像のようになり…… 


 その本体が姿を現す。


 その異様なデジタルノイズのような姿から、衣がはがれるように霧散し、別の肢体が姿を現す……


 妖艶な縦割れ瞳に藍色のルージュ。テラテラと光る綺麗な鱗肌に燃えるような真っ赤のロングヘアー。そして引き締まったウエストに美しい曲線を描く見事なヒップと、Dカップバストなナイスバディのリザード美女。

 一瞬、美しい全裸の状態から、光とともに出現する霧状の物体が彼女の体にまとわりつき、瞬間、体にピッタリとフィットする真っ黒なバトルスーツを身にまとう。



 ヤルバーン自治局局長、シエ・カモル・ロッショだった。



「うおえぁあぇあぁ!」


 その見たこともない……外国人的には魔女のような容姿に怯えおののいた男は、恐怖に縮み上がる悲鳴をあげる。

 シエはその情けない悲鳴と、鬱陶しい脂顔なヒゲアラブ人に「うるさいなぁ」というような顔をし、掴みあげた男を、片手で軽々とさらに持ち上げ、男の顔面を天井バケットに叩きつける。

 耳を塞ぎたくなるような鈍い音と共に白目をむいた男を、ゴミでも捨てるかのように後ろに投げ捨てた。


 乗客はその様子と、そして見たこともない、西洋人的に妖艶な魔女のような容姿のシエをポカ~ンと口を開けてながめていた。

 シエはそんな呆け面の乗客の一人、シエを見上げる九歳ぐらいの男の子を見る。

 その子供が手に持っていたフライドポテトを二~三本摘んで、艶やかな格好で口に入れる。

 そして子供に、ニッと笑顔を見せ、頭をなでると、次の獲物に向かってツカツカとモデルウォークで歩き出す。

 

 エアバスの通路を颯爽と歩くシエ。そしてシエが髪をたくし上げるのを合図にするかのように、機内に何本もの光柱が現れる。


 光柱から現れたのは、北海道での演習で見た、ヤルバーン戦闘員だ。

 SF映画のようなバトルスーツに身を包んだ戦闘員は、以前の演習とは打って変わってお互い手信号で合図しつつ、洗練された戦闘スタイルでエアバスの制圧作戦を開始する。

 その様は、おおよそ異星人らしくないどこかで見たものだ。そう、米軍や自衛隊などで使われているCQB戦闘スタイルまんまであった。


 シエは腕を組んで部下達の行動を眺める。

 実に満足そうな顔である。

 部下の一人が手信号でシエに何かの指示を求めている。

 シエはコクンと頷くと、彼らはビジネスクラス区域へ突入。閃光と電撃が交錯するような音が響く。

 かなり大きい音で、悲鳴なども聞こえるが、しばし後、ヤルバーン戦闘員が白目をむいた白人や黒人ハイジャック犯の襟元をつかんで引きずりだし、拘束具をかけてお縄にする。


 次に議員のいる二階ロイヤルファーストクラスだ。

 普通なら、急いで救出に向かうところなのだろうが、シエは優雅にトントンと螺旋階段を登り二階へ。

 

 すると、白人ハイジャック犯数人が、必死で銃を操作し、議員を射殺しようと試みているが、銃が作動しないようである。

 議員は目隠しをされ、手を頭に。そしてひざまずかされているようだが、ハイジャック犯の銃が作動しないために、議員は何が起こっているのかさっぱりわからず、頭だけをキョロキョロさせている。


 シエはその犯人のうろたえる様を見て、ケラケラと笑い、犯人達にツカツカと近づく。

 犯人はその高笑いな笑い声にハっと気付き、いつの間にか二階にあがっていたシエを見る……と、あとずさりして銃を構える……が、何をやっても作動しない。


 それ以前にシエの姿を見て、完全に狼狽している。


 銃を諦めたハイジャック犯は、銃を投げ捨て、ナイフを構えて襲ってくる。

 かなり手練れなナイフの使いようである。

 素早い突きに斬りだったが、シエはヒョイヒョイと躱すと、華麗なステップで二~三歩後退する。

 敵はナイフをゆらゆらと振り、揺らしながらシエの様子を見ていた。


 するとシエは、ニィ~っと笑みを浮かべクックックと笑いながら、両の腕から鉤爪をシャっと出し、舌なめずりをして「かかってきなさい」とばかりに手の平をクイクイと曲げる。

 そのおぞましい鉤爪姿を見たハイジャック犯は、構えたナイフを投げ捨て、手を上げた。

 その様を見たシエは、とてつもなくつまらなさそうな顔をし、そのままひざまずいて手を挙げる数人の犯人の前まで行き、容赦なく鉤爪をブッスリと突き立てる。もちろん肩などに少しぶっ刺す程度だが、刺したあとに、強力な電撃を食らわし、犯人を片っ端から昏倒させていく。

 無論殺してなどいないわけだが……


 最後に残った犯人は、その様を見て恐怖に怯え、仲間が虐殺されているように感じたのか、手を前に組んで、何かを訴え命乞いをする。

 何を言っているのかわからないシエは、とりあえずその犯人の懇願を聞くだけ聞いてやり……顔面ど真ん中に、ヒールのキックを食らわし、気絶させた。


 そして議員の目隠しと、腕に巻かれた拘束具を解いてやる。


 議員は、シエの姿を見て、外国人なら誰もが思うであろう、ギリシャ神話に出てくるような魔女を思い浮かべ、腰を抜かす。

 しかしシエは、議員に、礼儀正しくティエルクマスカ敬礼をし、自分がヤルバーン所属の幹部である事と……


『議員カ、閣下。ワタシハ日本政府ノ要請デ、ア、アナタヲ護衛シテイタ。はいじゃっく犯ハ、ホボ制圧シタ。安心サレタイ』


 と慣れない敬語を使って語る。いかんせんダストール人には敬語の概念がない。国家元首に対しても『オマエ』である。


 シエの部下がシエに駆け寄り、コクピットも制圧完了し、犯人を全員拘束したと伝える。

 シエは、上空に平行して飛行するデロニカの光学迷彩を解除させ、機内に張り巡らせた物理干渉フィールドも解除させる。

 そして、機内が落ち着くまで、デロニカからエアバスを遠隔操縦するように指示した。


 そう、ハイジャック犯達が、『銃を使えなかった』のは、デロニカが発生させていた物理干渉フィールドのせいだったのだ。

 物理干渉フィールドは、特定の指定した域内や特定の物質を指定することで、その物質・物体の物理的動作を制限させてしまうフィールドである。

 このフィールドは、本来ティエルクマスカでは、主に災害、事故などの防止や収束、処理などに使用されるものだ。

 ヴァルメが日本で家屋の火事を消火したのもこの技術によるものである。


 デロニカは、機内で酸化燃焼反応を制限するフィールドを発生させて、銃の弾丸の発射や、手榴弾の爆発などを一時的に制限した。

 なので犯人は銃を使えなかったのだ。


 そういった事を議員や、救出したエアバスの機長、副機長に説明した。

 まったくどんな原理でそういうことができるのか……議員や、機長達は本当に驚いていたようだ。


 シエは部下とともにまだ動揺が続く機内を見まわる。

 犯人に殴打され、怪我をしていた議員ボディガードの治療も確認。どうやら軽傷だったため、ホっとする。


 そしてシエは笑顔を振りまいて機内を見まわる。


 その時、シエは飛行機の窓にうっすらと映り込む自分の姿を見る。

 胸に付けたバッジのような飾り物が歪んでいた。

 窓を鏡にしてクイクイっと位置を整える。そして胸をポンと叩いて満足げな笑みを浮かべる。

 どうやらシエはそのバッジ状の飾りがお気に入りのようだ。


 六角形のメタルな土台に、桜の花。それを斜め十字に囲む土星の輪のようなもの。

 そしてそれを中心に左右に大きく広げる月桂樹の葉。

 何かの徽章のようである。


 乗客は、そのファンタジー作品にでも登場しそうなシエの姿に釘づけである。

 スマートフォンで写真を撮る者もいた。

 記念写真をねだられもした。無論、シエはそれに気前よく応じてやる。

 議員からも記念写真をねだられ、CAからも、機長、副機長からも……もう戦闘員も混じっての 記念撮影祭りである。


 そしてシエの席の隣に座っていた老夫婦に近づくと、老夫婦に敬礼した。

 そして老夫婦から握手を求められる。


 彼女は機内が大丈夫だと確認すると、CAのマイクを借り、機内放送をした。

 無論、その言語は英語である。


『本機ニ搭乗スル乗客の諸君、我々ハ、ティエルクマスカ連合、ヤルバーン所属ノ特務組織『メルヴェン』デアル。我々ハ、ニホン国政府トノ盟約ニ基ヅキ、ニホン国政府ガマークシテイタてろりすとノ犯行情報ヲ入手シタタメ、ニホン国政府ノ要請ニヨリ、はいじゃっく犯逮捕ノタメノ行動ヲ起コシタ。冷静ナル乗客諸君ノ協力ニヨリ、はいじゃっく犯ヲ一網打尽ニスルコトガデキタ。乗客諸君ニ迷惑ヲカケタコトヲ詫ビルトトモニ、諸君の冷静ナ対応ニ敬意ヲ表シタイ。アリガトウ』


 そう言うと、機内からは口笛とともに拍手が巻き起こる。

 ポーランドの議員も手を上にあげて拍手し、親指をあげていた。


『我々ハ、コレニテ撤収スル。はいじゃっく犯ハ地球の国際法ニ則リ、フランス国政府ニ引キ渡ス事ガ妥当ト考エル。然ルベキ対応ヲ要請シタイ。ソシテ、特ニ機体ヘノ損傷ヤ、重篤な怪我人モイナイヨウナノデ、コノママ『ぱり』ニ行カレルガ良イト考エル。ソレデハ、諸君ニオカレテハ良イ旅ヲ楽シマレルヨウ望ム』


 シエは使い慣れない敬語も交えたスピーチを行うと、マイクをCAに返し、通路にヤルバーン戦闘員とともに等間隔に整列する。


 そしてティエルクマスカ敬礼を乗客にすると、その敬礼を合図とするように、光に包まれその場から姿を消した……



 その後、ブルーフランス・エアバスA380は無事、ドゴール空港へ到着。この奇跡のようなハイジャック事件解決を取材するために、マスコミが殺到したという。


 そして、シエや、ヤルバーン戦闘員と撮った乗客との記念写真が、世界の報道トップを飾ることになる……




…………………………………………




 ~時間は二ヶ月前に戻る~



 ドノバン駐日米国大使の深刻な情報提供により、二藤部は急遽、対策会議メンバー、および本ヤルバーン事案に関与した関係者を招集し、この、文字通り『雲をつかむような』暗雲、危機に対応するための会合を行うことにした。


 ……さて、結局その動きが非常に遅かった梁大使の件、あれからどうなったのだろう……


 結局中国からは何ら音沙汰がなく、やはりというか、予想通り米国の方からこの事件は公表された。

 無論、世間には「亡命してきた」という事実情報しか伝えられていない。その詳細な内容は伏せられている。それも当然だ。ヘタに理由を付けて公表すれば、それでなくても昨今政治的に微妙であり、経済的に親密でもある米中関係に決定的な水をさすことになってしまう。


 案の定、それを受けて中国も、例の茶の間でお馴染みな報道官のオバハンが今件について公表した。

 その内容は、やはり予想通り、汚職で指名手配したというもの。逮捕を恐れて逃げたそうだ。

 そして中国国内の報道番組では、証人やら証言やらが色々出てくる。

 まぁそれを真正直に信じる人間は、少なくとも関係者にはいないだろうが、案の定、報道官記者会見でも、色々と質問が出た。


 ……しかし、そこで変わっていたのは、いつもは平然とイヤミや能書きを垂れるオバハンが、今回に限っては、言葉をかみ、沈黙し、最後には「関係機関に聞いてくれ」を連発したことだった。


 こういうことは滅多にない。


 これによって、普通の自由主義諸国的な思考回路を持つ人間であれば、その汚職疑惑に疑問符がつく。

 実際、これだけ待たせて出てきたネタがこの程度だったわけであるから、梁大使という人物が『中国的には』まぁ、クリーンな政治家であったともいえる。

 またそして、今回の汚職疑惑自体が、かなり急いで『作られた疑惑』という事も理解できる。


 中国は当然、梁大使の引き渡しを要求したが、米国的にも明確な証拠の提示が成されていないという理由で、『難民の地位に関する条約』を理由に、コレに応じていない。


 ……結局、この事件は、そのまま現状維持な状態になってしまっている。

 これも、これはこれであまり前例のない状態でもある……


 結局、中国大使が日本で駐日米国大使館へ駆け込んだという前例のないトンデモ事件ではあったが、表向き……すなわち一般人が知るレベルでの話では、単なる珍しい事件という程度で、その後話題にもならなくなる。

 結局、ヤルバーンとの関連性など微塵も出てこない。

 ただの普通の国際問題だ。


 それが政治であり、一般国民が知り得る限界であるのだ。


 日本政府もドノバンを通じて、この件で何らかの新しい情報の提供を求めたが、ドノバンもコレ以上はどうやっても情報を引き出せないと諦め顔だった。

 梁大使がどこにいるのかもわからないそうである。

 ドノバンによると、証人保護プログラム下におかれたのではないかという。

 これは、米国で行われる裁判の法廷証人や、諮問院会証言者、米国に有益な政治亡命者を保護する制度で、この制度を適用されると、身分証明書から名前、国籍まで全てが改ざんされ、書類上は全くの別人になる。

 米国司法省管理下に完全に置かれるので、場合によっては大統領ですらその存在を知ることができなくなる。

 住居も、米国内にあるとは限らないそうで、ヨーロッパ西側諸国領内や、NATO軍管理下の官舎、在外米軍基地の官舎などに住居が置かれる場合もあり、事実上接触も不可能になる。

 そうなると、大使程度の権限では、完全にお手上げだという話だった。


 そうしてこういった事件がうやむやの内に、収束を迎えてしまう。

 そして誰もしらない所で何かの動きが始まる。


 とかく政治とはこういうものなのだろう……





 さて、それから数日後。

 関西名物恵方巻でも頬張りたい時期。

 実際柏木は関西在住経験も長いので、この習慣を毎年やっている。

 今年はフェルがいるので、フェルの分の恵方巻も買ってきて一緒に食べる。


 今年の恵方、つまり福を司る神様がおわす方向は東北東。

 その方向へ向かって、黙々と何も喋らず黙して寿司をかぶりつく。

 柏木はいい。しかしフェルがこれをやると、なんとも異様である。ってか、フェル自身が歳徳神としとくじんみたいなので、思わず噴出しそうになる。


 フェルは、黒く長い棒状の食べ物を両手で支え、東北東を柏木に言われたとおり凝視して、アムアムとそして黙々と食べる。

 ……なんとなくエロくもある……

 

『プハ~、食べ終わりましタデスヨ』

「はい、良くできました。これで今年は健康無病息災です」

『ウ~ン、ケンコウはあまり私達には意味ないでス』

「え?なして?」

『ダって、ナノマシンを体に常駐させていますかラ、そうそう病気にはならないでス』

「……あ~……そういうのは、気分の問題であってですな、まぁ幸運が舞い込むと思えばいいよ」

『ソうなのですか、それならこの儀式も意味がありますネ』


 フェルはそう言って笑う。


「さてフェル、明日は例の会合なんだけど、準備はできてる?」


 柏木は食後のお茶をすすりながらフェルに話す。


『ハイ、大丈夫でス。デモ、明日の会合は……ソノ『対策会議』と呼ばれる人たちが、元々行っていた会議の延長なのですよネ』

「あぁ、そうだよ……メンバー的には、以前、ヤルバーンでやった交渉会議と同じメンバーと思えばいいさ」

『デモ、今回はソレだけではないのでしョ?』

「うん、今回は他に財界の方や、いろんな分野の学者さんなかも出席する予定だよ。なんか重要な案件があるらしいけど……」

『ヤハリ、ケラードノバンの仰っていタ事に関係するのでしょうネ』


 フェルはそう言うと、ズズズっと熱いお茶を湯のみですする。今日はフェルお気に入りの玄米茶である。


「まぁ、そうなるよな。ってかそれしかないし……それに、今回はあそこで会議っつーんだから、機密漏洩にも相当気を使うような内容なんだろうね」

『エエ、そうですネ』

「ヴェルデオ大使も出席するんだろ?何か聞いていないの?」

『ウ~ン、司令は何も仰ってくれませんでしタ。多分、様子からして、相当重要な案件なのだろうト』

「う~ん……って、考えても仕方ないな」

『ソうですネ』


 フェルは、ウンウンと頷くと、『ア』と思い出したようにポンと手を叩き


『ソういえばマサトサン』

「はい?」

『今回、アのような事件があったので、すっかり忘れていましたガ、研修滞在の期間がもうすぐ終わりますヨ』

「あっ!……そういえばそうだったな、すっかり忘れてた……ってか、もう過ぎてるんじゃないのか?その期間……」

『チョっと過ぎてるかもでス。それもこれも、アノ事件があって、ゴタゴタしてましたから……』

「そうだなぁ……この結果で自由入国の可否を決めるんだったなぁ……」

『ソうですよ、マサトサン、担当者なんですかラ……』

「とはいえ、俺はもうとっくに決めてるけどね、結果を」


 柏木はそう言うとニっと笑う


『デハ?』

「うん、それも明日会議で発表するよ」

『ハイ』


 フェルは嬉しそうな顔をする。

 しかし柏木はそういうと、逆に、寂しそうな顔になる。


「でもさ……フェルはこれで一度帰っちゃうんだろ?ヤルバーンに……」

『?』

「フェルもあのプログラムで来てるんだからさ……」

 

 柏木はますます寂しそうな顔になる。

 それもそうだ、フェルとはもうこの二ヶ月、プライベートも、肉体的にも深い関係になってしまった。

 こうなるとはわかっていたとはいえ、なんとかなると思わなかったわけでもないが、フェルとて責任あるヤルバーンの…………


『何ヲ言ってるですか?マサトサン』

「ヘ?」

『ワタシはあのプログラムでここにいるわけではありませんヨ』

「はあ?……いやだって白木に連れられて、研修受け入れの要員って……」

『エェ、アれからまたケラーシラキにご相談して……その……ニホン国にずっと滞在できる方法はないかと……ゴ相談してですネ……』


 

 ウソである。

 あの時、白木と麗子との格闘中に、フェルが連絡をしてきた内容は、ひじょーーーーに遠回しに、柏木といっしょにいたいということだった。

 少なくとも白木はそう聞こえた。

 麗子は完全にそう聞こえた。

 なので、研修要員という事自体がそもそも『建前』なのである。


『デ、ケラーシラキに『これを持っていたら、好きなだけ日本にいることができるからコレを持っておけ』と言われましテ、こんなのを貰いました』


 フェルは、いつものポシェットのようなものから、ポソポソと何かを探しだして柏木に見せた。

 柏木は、そのカード状のものを手に取って見る。


「はぁぁぁ?なんじゃこりゃ!」


 そのカードには…………



【日本国政府  外国人登録証明書】

【氏名:フェルフェリア ヤーマ ナァカァラ】

【NAME:FELFERIEA YAHMA NAHKAHLA】

【生年月日:19**年*月*日 性別:女】

【居住地:東京都**区**○○-○○-○……】

【世帯主:MASATO KASHIWAGI 同居人】

【職業:科学者 政府協力者】

【国籍等:ティエルクマスカ連合イゼイラ星間共和国】

【出生地:イゼイラ星間共和国 ディルナル クァルド】

【上陸許可:20**年12月**日】

【在留の資格:永住者】

【次回切替(確認)申請期間:20**年**月**日から30日間】



 そして、写真写りの悪い、寝起き顔のような写りの、金色目で羽髪水色肌な女性の写真が貼ってあった。


(え、永住者って!!白木!!……おめ~職権乱用じゃねーかぁ……)


『ケ、ケラー白木はぁ、コレを持っていればぁ、ずーっとニホン国に住めるって言っていましたヨ』


 フェルは、上目づかいで、頬を染めながら柏木に訴えるように言った。

 どうやら確信犯的押しかけ女房だったようである。


「い、いやフェルサン、アナタ調査局の局長さんで……」

『転送装置でぇ、スグにヤルバーンへ行けますからぁ、ちゃぁ~んとお仕事ハしてますヨっ』


 語尾の声を少しあげてツンとして訴えるフェル。


「で、でも議員さんとしての立場が……」

『ソれモぉ、ちゃぁ~んとこなしてますヨっ』

 

 柏木は、フェルの立場を心配して色々言うが、確かに、ヤルバーンの仕事はきちんとこなしているようで、行動で先手を打って、頑として訴えるフェル。


 引く気一切なし。


「ハ、ハハハ……なるほど……そうですね……ちゃんとお仕事してますね…ハハ……ワカリマシタ……」


 ……柏木は、嬉しいやら、ホっとするやら、呆れるやら、いじらしいやら……なんか一瞬でも悩んだ自分がアホらしくなった……


 と同時に


(なるほど、白木はこういう手を使った訳か……なるほどなぁ……)


 と思い、何か納得した表情も見せた。




…………………………………………





 次の日、関係者会議当日。

 ヤルバーンにはたくさんのヘリが駐機していた。

 会議はヤルバーン日本治外法権区内の駐ヤルバーン―ティエルクマスカ―イゼイラ日本大使館内で行われるため、ヤルバーンは巨大な船体上部の一区画ゲートを開放させて、日本から飛来するヘリを受け入れていた。

 一部の参加者は、官邸から転送装置で乗艦した者もいたが、やはり高齢者など……まぁ言うなればビビリのみなさんは、イマイチ転送装置に不安感を覚え、ヘリでの乗艦となった。


 今回、かなり緊急かつ秘匿性の強い会議だったので、ヤルバーンからデロニカ運用の申し出もあったが、滅多に見ないデロニカが動いてしまうと、マスコミや各国の諜報機関に無用な情報を与えてしまうということで、ヤルバーン内の日本大使館への物資定期便で使われる自衛隊のヘリで乗艦することになった。


 ヘリには、陸上自衛隊CH-47JA「チヌーク」が使われた。

 ダブルローターの日本人にはお馴染みな往年のヘリコプターである。

 もう古いタイプのヘリだが、積載量にかけては、現在でも一線級を誇る。

 しかしこんな宇宙艦艇への着艦など陸自パイロットは初めてだったので、初めはどうなるかとヒヤヒヤしたそうだが、何のことは無く、ゲートに近づくとヤルバーンからトラクターウェーブが発射され、ヘリを自動操縦のようにハンガーの指定場所へ着艦させてくれるので、楽なものだったという。


 柏木とフェルは転送装置を使って、いつものマンション屋上から、治外法権区へ入る。

 ヤルバーン転送カウンターに転送されると、区内で働くアルバイト扱いの、いつもの転送カウンター担当イゼイラ人に挨拶し、ボディチェックを受けて区内へ入る。

 フェルは一応区内では外国人になるので、体裁的ではあるが、PVMCGを使って身分証明チェックを受けて区内へ入る。まぁこのチェックが、パスポート検査の代わりのようなものである。



 ちなみに転送担当である彼の時給は2000円だそうである。バイトにしては結構良い値段だ。

 治外法権区でサポートを行ってくれているヤルバーン乗務員には、日本政府から時給が支払われている。

 なので、日本で買い物ができる『貨幣』を入手できるため、ヤルバーン乗務員にはこのアルバイト、結構好評であったりする。

 ここで稼いだお金をみんなで出し合って、現在実験滞在な研修名目で日本にいる仲間にお金を託し、いろんなものを買ってきてもらっては、ハイクァーンで複製しているらしい……

 ……著作権やらなんやらと問題もあるのだが、まぁそこんところは現在黙認であるそうな。



 柏木はフェルと色々話しながら大使館へ赴く。

 転送カウンターからは少し離れているため、普通ならトランスポーターで行っても良いのだが、まだ少し時間もあるので、散歩がてら歩いていくことにした……すると……


「おーい、柏木君!」


 知った声が柏木を呼ぶ。

 その声の方向を向くと……


「ん?……あ!……大森社長!」


 大森社長@会長が、柏木に向かって手を振っていた。

 と、隣には例の変人美女、秘書の田中さんがいつものごとく大森に付き添っていた。

 田中さんも柏木に向かってにっこり笑い、深々と礼をしていた。


 大森は柏木達に近づき「やぁやぁ久しぶり」と握手する。フェルとも握手。

 田中さんも右に同じ。

 大森はイゼイラ人滞在者の住居などを世話しているので、もう彼らとも普通に接している。そのため、特にフェルを見ても驚くこともない。田中さんも右に同じ。


『マサトサン、こちらの方ハ?』


 フェルが大森達について尋ねた。


「うん、俺の大恩人の方でね……」


 フェルに柏木と大森の関係を説明した。田中さんはその優秀?な秘書だとも。


『ソれはそれは……マサトサンがいつもお世話になっておりまス』


 フェルがティエルクマスカ敬礼をする。


「え?お世話にって……お、おいおいフェル」

『ナんですか?マサトサン、マサトサンがお世話になっている方にお礼を申し上げるのは当然でしょウ』

「い、いや、その言い方って別の意味に聞こえる……あ~まぁいいや、そういう事です、社長、ハハハ」


 ポリポリと頭をかく柏木。


「ハハハハ、な~にを今更言っとるかね柏木君、話は聞いとるよ、田中君から」

「は?田中さんから?って、なんで田中さんなんっすか?」

「オホン……あ、あ~そうだ、田中君、この書類、五辻常務に渡してきてもらえんかね」

「はい、畏まりました、社長」


 田中さんはそう言うと、大森が鞄の中から出した書類を『五辻常務』とやらに渡しに行った。

 いってみれば人払いである。


「(いや、その田中君の件なんだがさぁ柏木くん、こないだ相談に乗って欲しいっていっただろ?)」

「(あ、はい、あの研修滞在がうまく行き始めた頃の話ですよね)」

「(おう、柏木君になかなかアポとれなかったし、なんかきな臭い話になったそうじゃないか、心配してたんだよ……で、どうかね、今度時間取れるかね?)」

「(は、はぁ、わかりました。んじゃ……)」


 柏木はスマホのスケジュール帳に、大森の会社に行く予定を記した。


「(で、どしたんですか?田中さんが何か?)」

「(気づかんかね?君もイマイチ鈍いな、そういうところは)」

「(え~?……あ、そういえば、ちょっとなんか綺麗になったような……いや、前から美人さんとは思っていましたが……)」

「(よし、そこを掴んでいればOKだ。話はまたその時)」

「(は、はぁ……)」


 フェルもこの会話に聞き耳を立てていた。まぁ直接自分には関係なさそうな会話だったが、一応内容は覚えた。

 すると田中さんが戻ってくる。


「社長、五辻常務にお渡ししてまいりました」

「お、おうご苦労さん」

「あ、で、社長、五辻常務って、もしかしてイツツジグループの?」

「ん?いやそうだが、今更何を言っとる柏木君、君もよく知ってる人じゃないか」

「え?……知ってる?……も、もしかして麗子さん!!?」

「おう、そうだよ……って知らんかったのかね!」

「は、ハイ……いや令嬢っていうから、ご令嬢かと……」


 大森はタハーっという顔をする。


「あ~もう、柏木君、五辻常務は優秀な経営者だぞ……そういうところはホント柏木君らしいなぁ」


 大森は大笑いする。


「え?いやそんじゃ、思いっきり白木ってラッキー……あ、いや、まぁ、そんな感じ?みたいな」

「ハハハ、そういう事になるかのー……っていうか、君もそうじゃないか、異星人さんとはいえ、議員さんの彼氏なんだからさぁ」

『ソうですよぉ、マサトサン。連合議員サンが彼女サンなんですヨぉ』


 妙に得意気になるフェル……最初は連合議員なのを柏木に知られる事をビビって、半泣きにもなったフェルなのに。

 そして柏木も、そういうところイマイチ自覚がない、困ったものだ。



 そんなこんなで雑談しながら、柏木、フェル、大森達は大使館に着く。





 ヤルバーン艦内在ティエルクマスカ―イゼイラ日本大使館、大会議場。

 大きな円卓を囲むは、各界の重鎮、有名人。

 その出席者は、なにがしかの形で、ヤルバーンと関わりを持った人達ばかりである。

 そして、今回は日本政府の要請を受けて、ヤルバーン側のスタッフも出席していた。


 会議開始までまだ数十分ある。

 柏木はいろんな関係者と挨拶をしていた。

 フェルは、別室でヴェルデオと打ち合わせ中のようである。

 

「……あ、どうもその節は……ってうわっ!」


 柏木の目を片手で塞ぎ、抱きつく人物がいた。

 背中には妙にクッション性のある物体が押し付けられている。


「だ、誰ですか!……って、えぇ!?」


 その人物は、塞いだ手を取る。そして後ろから柏木の首に腕をかけて、肩越しに顔を覗かせる。

 背丈は柏木と同じぐらいか、少し高い。


『ヒサシブリダナ、カシワギ、会イタカッタゾ』

「シ……シエさん!」


 柏木に頬ずりするシエ。

 

「シ、シエさん、ち、ちょっと勘弁してくださいよ……こんなとこフェルに見られたら俺、殺されます!」


 それ以前に、会議出席者に十分見られている。


『ナゼダ、久シブリニ会ッタトイウノニ、ツレナイコトイウナヨ~』


 頬を柏木の頬にスリスリさせるシエ。

 シエが発しているとは思えないネコなで声である。どこで覚えたのか……


「い、いや久しぶりはいいですから、とにかく離れて下さいって」


 シエは周りをチョロっと見る……さすがに視線が痛いと思ったのか、離れてやる。

 どうやらフェルに見られずに済んだようだ。


「あ~もう、シエさん、わかっててやってるでしょ……」

『ン?知ランナ。タダノ再会ノスキンシップダ。ソウ焦ルナ』

「あ~もう……でもホント、お久しぶりですね」

『ウム、ツイコノアイダノ事ダガ、随分経ッタ気ガスルナ……トコロデカシワギ、ヤルバーンノ幹部出席者ハ、私トゼルエ、フェル、ヴェルデオダケナノカ?』

「えぇ、どうもそうみたいです。なんでも何か要請をするとかいう話みたいなのですが、俺も詳しくは聞かされていませんので」

『フム、ドウイウ事ダロウナ、ジェグリヤ、ヘルゼンガイテモヨサソウナモノダガ……』


 シエは手を顎に当てて、会議場を見渡す……


「こっちも白木は来ていますが、久留米さんや、オーちゃ……あ、いや、大見が不在なんですよ、何か聞いています?」

『オオミトクルメハ、訓練ダ。ウチノ連中ヲ、テストデ訓練シテモラッテイル。今日ガ仕上ゲノ日ラシイ。急ナ会議トイウコトラシイカラ、日ガ合ワナカッタノダロウ』

「なるほどね、聞いていますよ、あの件ですね、錬度アップの」

『ウム……ア、ソロソロ始マルナ、席ニツコウカ……』



…………………



 そして会議が始まった。

 全員席に着く。その際、言葉は交わさないものの、麗子とも身振りで挨拶を交わす。

 フェルも麗子と挨拶を交わしていた。


 今回、『いつもの対策会議メンバー以外』の『新規会議出席者』は以下の通り。


 *防衛大臣 井ノ崎いのさき修二しゅうじ

 *警察庁長官 本間忠雄ほんまただお

 *文部科学大臣 飯島保いいじまたもつ

 *防衛省技術研究本部 技術開発官 佐川薫さがわかおる陸将


 ――佐川は、今回出席できなかった久留米と大見の代理兼、防衛技術有識者として出席している――


 *OGH会長兼、大森宅地建物株式会社社長 大森諦三

 *君島重工株式会社 防衛装備開発部部長 新橋洋二しんばしようじ

 *株式会社イツツジグループ 常務取締役 五辻麗子


 ――麗子は、フェルと友人であり、フェルと柏木の件の経緯を知る人間でもあり、更に世界的商社の役員ということもあって、いつも世界中を飛び回っているということもあり世界情勢に明るいため、白木の推薦で参加した――


 *内閣官房参与 東京大学教授 宇宙物理学 真壁典秀

 *大阪大学教授 情報工学 松田弘大まつだこうだい

 *京都大学教授 医学部 浜中太一はまなかたいち


 今回は、オブザーバー参加が予定されていたドノバン駐日米国大使は、内容が内容だけに、オブザーバー参加が見送られた。

  


 そして、会議冒頭、二藤部が一声。


「会議出席のみなさん、この度はお忙しいところ、このような特異な場所までお越し頂き、誠にありがとうございます。この度、このような場所で会議を行う事になりましたのも、皆様のお手元にある資料をご覧いただければお分かりになると思いますが……現在、世界、そして日本とヤルバーンを取り巻く状況が、極めて深刻になりつつあるという事で、危急を要する事態であり、当初の予定を繰り上げて、今回皆様にお集まりいただいた次第であります」


 会議出席者は、会議開始少し前に配布されていた資料を読みつつ、二藤部の言葉を聞き、どよめきに湧いていた。

 二藤部は続ける。


「従いまして、今回の会議は当初予定の会議とは趣の異なる、言ってみれば超極秘事項の会議となります。ですので議事録も別件扱いとなります。事実上、この度の会議は、公式には『無かったこと』になりますので、予めその点を重々ご承知の上でお願い申し上げます。そして……」


 二藤部は少し目つきが厳しくなり


「……この『無かったこと』になる会議は、今後も定期的に行っていきたいと思います」


 そういうと、大森が発言する。


「総理、ということはこの会議、あなた方が今まで行っていた『対策会議』とは別の物になるという理解でよろしいのでしょうかな?」

「はい、別の意味で言えばその通りです。大森会長」


 この『会長』という言葉を聞いた時、柏木は『???』となった。


「おいおい、白木、大森社長……会長って言ってたけど、いつのまに会長になったんだ?」


 この質問に白木は「あ~もう」というような顔つきをし、


「あ~……後で説明してやるよ、今は黙って聞いてろ」

「え?……お、おう……」


「……この会議、資料にも記載しておりますが、そちらにいらっしゃる、みなさまももうご存知の、政府特務交渉官・柏木真人さん襲撃事件が契機になっております。その後、オブザーバー参加が予定されていたドノバン大使がもたらした先の梁大使亡命事件、その後のドノバン大使からの情報から得られた世界的に異様な情勢とでも言えばよいのでしょうか、そのような状況に鑑み、我々対策会議の政府関係者メンバーが企画したものであります。そして今回ご出席の方々は、ヤルバーンと関係の深い方々ばかりですので……そこで今回ある事を提案させていただきたく思うわけですが……それに関して皆様の忌憚のないご意見を頂きたく思います……そしてヤルバーンの方々には、その件について、ご協力と、要請をさせて頂きたく思っております」


 二藤部のこの話に、出席者は顔を見合わせて「一体何事なんだ?」とただならぬ雰囲気を感じ取っていた。

 それは柏木やフェル、他、ヤルバーン出席者も同様だった……しかしヴェルデオはどうもその内容を知っているようで、何か二藤部と頷き合っている。そしていつもなら一発笑いでも取る三島も黙して議場を見渡していた。


 更に二藤部は続ける。


「これからお渡しする資料は、完全部外秘の資料になります。ここにお集まりの皆さんは、ヤルバーンに関する秘匿事項を守って頂いている信用のある方と考えております。まぁですからこのメンバーになったとも言えるわけですが……」


 そういうと、二藤部は参加者に新たな資料を渡すようスタッフに目線で指示をした。

 スタッフは、新たな資料を参加者に配る。


 柏木もその資料をスタッフからもらい、手にとった瞬間


「!!!これは!!!」


 とその題名を見て目を見張った。


 その資料に書かれた題名、それは……



【日本・ヤルバーン安全保障委員会設立概要書】



「あ、安全保障委員会って!……え?」


 柏木はバラバラと目次を一瞥して、ページを捲る。

 その中に書かれていた注視すべき点。


【日本国内における日―ティ銀連の関係妨害を目論む事象の排除と、その対応組織の設立】

【同、対外対応組織設立のヤルバーン自治局・自衛局への要請】

【これらの効果的運用法の確立】

【同組織実行要員の養成】

【同組織への装備の開発】

【日―ティ銀連関係妨害の積極的調査と諜報、そのシステムの確立】

【同諜報活動のヤルバーンへの協力要請】


 柏木はその書類をペラペラめくりながら戦慄した。そして鳥肌が立った。


「こ、これって……日本とヤルバーンで、秘密実力組織の設立って事じゃないか……」


 その柏木が漏らした言葉を聞いた三島が話す。


「そうだぜ、柏木先生。先生も俺たちより先に、ドノバン大使の話、聞いたんだろ?」

「えぇ、確かにその通りですが……」

「実はな、先生、この計画は今に始まったこっちゃねーんだ。もう随分前から考えていたことなんだよ」

「え!?」

「まぁ、元々は隣国のややこしい連中に対する備えってな感じで、日本のみで行うつもりだったんだがね、既存の法律の範囲でな……しっかし、この話を聞いちまったからなぁ、ドノバン大使もよくぞ話してくれたもんだぜ……でまぁこっちもヴェルデオ大使とも協議して、積極的にやっていかなきゃなんねぇって話になったんだ」

「ヴェルデオ大使とも?……じゃぁフェルも?」

『いえ、マサトサン、ワタクシも先程聞かされて、ビックリしていましタ』

『ワタシハ今コノ資料ヲミテ初メテ知ッタ、ゼルエはドウダ?』

『オウ、俺もだぜ。司令、どういう事かもちろん説明してくれるんでしょうナ?』


 局長クラスの自分達も知らないという事は、やはりそれだけ差し迫っている事だと容易に彼らは理解した。

 そしてヴェルデオは、フェルが報告したドノバンとの会見内容、そして柏木の見解の概要を説明する……

 シエとゼルエは資料を見ながら、その説明を聞いていた。


『……ソウ言うことなのだ。モシこの事態が地球全土に拡大し、我がヤルバーンにも深刻な影響がアった場合、最悪……』

『ナルホドな……本国ガ動くかもしれねーって事ですか……チッ……この間ケラーオオミ達に話した事が、こんな感じで現実の危機になっちまうとはナ』


 ゼルエが舌打ちして、渋い顔をする。


「大見達に話したこと?それは?……」


 柏木が怪訝な顔で聞く。

 ゼルエは、北海道で大見達に話した事、つまり『ティエルクマスカ連合防衛総省』の話をした。


 そして更に、大見達にはその時話していないこと。つまり防衛総省の兵力をかいつまんで説明した。

 兵力規模や数などは機密事項になるため、わかりやすく連合防衛総省の所有する、ある兵器を例に出して話した。


 それは、イゼイラ国防省が所有する、いわゆる『機動宇宙要塞』に相当する兵器。

 彼らの名称では、日本語に直訳すると、『機動人工亜惑星要塞』というらしい。

 その名の通りの規模で、直径500キロ、コロニー規模の要塞兵器で、ヤルバーンのような六角形の物体で構成されたような、ケルビン正14面体状の兵器だそうだ。


 事が起こった場合、それが前線基地となり、宇宙艦艇を展開させるなどの軍事作戦の司令部となるものらしい。


 その話を聞いた日本メンバーは、唖然とした。


 無論柏木も言葉が出なかった……


 そんなものが地球圏に現れれば、ヤルバーンショックどころの騒ぎではなくなる。

 しかも『奴ら』はそんなことを知らずに何かを画策しようとしている。

 それで最悪の状況になり、その要塞を地球圏に送り込まれでもすれば、ヤルバーンの意思など吹き飛んでしまうだろうとも。

 

 確かにそのとおりである。そんな兵器をティエルクマスカ本国が送り込んで来るとなれば、それは連合の国家としての意思そのものを直撃させてくるわけであるから、ヤルバーンの自治権などその時点でなくなってしまう。


 ヤルバーンは、ある意味、『所詮』とでも言おうか……『艦』という艦種で、相当な兵器も所有してはいるが、基本、科学調査船にすぎないのである。  


 ヴェルデオが憂慮したのは、地球世界の国際情勢から受ける影響よりも、それによる本国の反応の方だったのだ。

 ヴェルデオ達は、『機密』として、ある明確な目的をもって日本に来た。しかも日本政府はその機密を追求せず、彼らの予想以上に日本人達とも極めて友好的な関係を築きつつある。それは柏木とフェルの関係を見れば一目瞭然だ。

 この安定した状況を維持したいと思うのは、当然の事だろう。


『ヤハリ、オオミヤクルメニ言ッタ通リノ憂慮カ……』


 シエも、渋い顔をする。そしてチラとフェルの顔を見た。

 フェルは目を細め、少しうつむく……柏木は、こんな顔をするフェルを見たのは初めてだった。

 隣に座るシエが、フェルの背中に手を当てる。



 三島は話す。

 ヴェルデオの懸念も日本どころか地球にとって重大極まるものだが、それ以前に今回のドノバンの話をこのまま放っておけば、世界中のヤルバーンや、日本とティエルクマスカの国交に肯定的な人間や組織が狙われる可能性があると。


 その狙われる理由として、いくつかのパターンと行動があげられると言う。


1)日本とティ銀連の国交、友好関係を破綻させようという行為

2)ヤルバーン技術力の奪取を目論む行為

3)ヤルバーン自体へのテロ等の攻撃

4)これらに関連した破壊活動、誘拐、拉致などのテロリズム

5)これらに関連した裏社会の同行為。

6)これらに関連した一般民間人の殺傷、民間施設への破壊行為

7)前記1・2・3・4・5・6に関連した、ヤルバーンへのイメージ悪化戦略


 これらのパターンを未然に防ぐことができなければ、その結果は必ずヤルバーンにも波及し、結果、日本とヤルバーンの関係に甚大な影響を及ぼし、それが最悪の状況になった場合、シエやゼルエ、ヴェルデオの懸念が現実のものとなる可能性も出てくる。


 そして、ヴェルデオは、日本や地球の事を考えた場合、最悪の状況を迎える前に……

 ヤルバーンは地球から撤退する選択を迫られるかもしれないとも……


 フェルが今までにない不安な顔を見せたのは……この事を考えてしまったからなのだ……


 この委員会設立は、これら考えられる日本とヤルバーンの関係安定を維持するため、それら障害を引き起こすであろう事件を未然に防ぎ、かつ、場合によっては日本とヤルバーンの連携を、例の『奴ら』に知らしめる事を目的としているという。


 会議出席者は、地球の国際問題で終わらない、将来的に日本人や地球の想像を超える事象を引き起こす可能性のあるこの問題に、一斉に黙してしまった。


「ということだ柏木先生、それに出席者のみなさん……一見『実力組織の設立』なんて言やぁ、日本的にはとんだ物騒な話と思うかもしれねぇが、ヴェルデオ大使とも話せば話すほど、今までの日本っぽい『軍事アレルギー』な事言ってられる状況じゃなくなっちまってる」

「……」


 柏木は三島の目を見て、今までにない表情で話を聞く。


「柏木先生……本当ならこんなとんでもない話を決めるのは、政治家だけでやるのが本道なんだろうし、ましてや本来民間人な先生を巻き込んでしまうのは筋じゃねー話かもしれないんだが……今の先生ってな、先生自身が思ってるほど軽い立場じゃないんだよ……なんたって、イゼイラの別嬪さんを嫁さん候補にして……」

「え!三島先生……そ、それ……」

「あ~、いいんだよ先生、別に冗談で言ってるわけじゃねーんだ。そうなんだろ?実際」

「え?……えぇ……まぁ……ハイ」


 この言葉を聞いたフェルは、細くした目をパっと開けて、とても嬉しそうにはにかむ。


「あ~……どこまで話したっけ?……あ、そうだ、それでな、『天戸作戦』の実績もある。外国人招待の実績もある。実際、先生は今回の件に関して、このメンバーの中でも、他の誰でもない有識者で、重要人物なんだよ……だからあの時も先生に大臣の話をしたんだ」


 柏木はコクンと頷く。


「今、もしこの席に柏木先生がいなかった場合、俺ぁどんな会議になるのか、考えただけでも憂鬱になるぜ」


 出席者からこの言葉に乾いた笑いが起こる。

 そして、今まで黙して聞いていた麗子が話す。


「柏木さん、三島様がおっしゃりたいのは、この会議に出席している御方々は、みんなそれぞれ専門的な知識は持っていらっしゃりますし、相応の実績もある方々ばかりです。しかしフェルフェリアさんと毎日一緒に暮らしていらっしゃる貴方ほど、残念ながらヤルバーンに対する色々なスキルを持っているわけではありません。なので、貴方の意見というのは、非常に重要なのですよ、おわかりになりまして?」


 柏木は麗子の言葉にコクコクと頷く。

 白木は麗子の方を向き、ニっと笑っていた。

 麗子も白木の方を向いて、目で頷いている。


「なるほど、わかりました。しかしさすがにこの話は国政にも直結する話ですし、私も迂闊なことは言えません。大森……か。会長?や麗子さん、新橋さんのように国家事業を扱ってきた人間でもありません。なので、話の推移をもう少し見守らせていただけますか?」

「わかった柏木先生、でも思ったことは話の途中でもどんどん言ってくれよ」

「わかりました」


 柏木はそう言って進んでいく会議の内容を聞いていた。

 ここはヤルバーン内部なので、遠慮なくVMCモニターを展開し、色々と会議内容をメモっていく。

 


 会議は進行していく。


 まずは、今後頻発するであろうテロ、特に先に列記したような形での事案。日本とヤルバーンに関する事で起こされようとするテロや犯罪を未然に防ぐための極秘特殊実力組織の設立。

 これは、日本国内は法に基づき警察、自衛隊が対応するが、日本国外の場合、どうしても法の制限があるので対応しにくい。

 したがって、これはヤルバーン側に『日本政府が要請する』という形で対応を協力してもらう形の方針でいくようである。

 担当者となるシエやゼルエは、快諾した。それどころか


『ヤっと俺たちにも、まともな仕事が来そうだな、シエ』

『アア、コノママ平和的ニ事ガ進ンデシマエバ、私達ナド、イテモイナクテモイイヨウナモノダシナ、フフフ』


 と、ちょっとブラックなジョークを言い合う。


 しかし、実際国外の事案に対してヤルバーンに要請するとはいっても、これですら日本的にはかなり超法規的な事でもある。

 今回、この『日ヤ安保委員会』の設立ですら実情はといえば、二藤部や三島、他、春日など一部有志の政治家しか知らない有志による極めて私的な扱いの委員会である。


 ある意味、コレもしかたのないことで、こんな事案を国会にかけようものならどんな騒ぎになるか、そら想像もできないわけで、国内全体に波及する影響は、考えただけでも恐ろしい物になる。

 なのでこういう形で対処するしかないのである。

 特に海外事案は、その秘匿技術の恐るべき高さから、ヤルバーンへ対応を依頼するしか方法がない。


(という事は、オーちゃんや久留米さんが訓練で今回来ていないのも、これを見越しての事なのか?)


 柏木はそう思ったりもする。奇しくもそうなりそうな形になりつつある。


 次に、それら実力組織を支援する諜報部門の担当。これは白木と麗子と大森が行うようになっている。

 白木は元々本職なので問題ない。

 麗子はイツツジグループの一部門『外国為替有価証券情報企画部』の情報を逐一ヤルバーンの中央システムへ送るということである。

 つまり『経済情報とは、人の情報、組織の情報、そして動きの情報』という事である。


「ご希望でしたら、インサイダーまがいの情報も逐一お送りしますわよ、オホホホ」


 とシャレにならない事を言い、大森から「おいおい」と突っ込まれていた。

 日本とヤルバーン間の情報インフラの構築はOGHが担当する手はずになっている。

 阪大の松田は、要請があれば助言を行う事を了承してくれた。


 そして、ヤルバーン側でも、ヤルバーン中央システムを使い、今まで封印していた地球のネットワークに介入し、広範囲の情報取得と、分析を行うという。

 そして場合によってはハッキングを行ってでも情報取得をするという。

 この担当は、フェルと、ポル、リビリィが中心になって行うということになった。


 次に、これらを実行する実行組織の装備の開発、調達、補給などの支援には、防衛技術本部(通称、技本)の佐川、 君島重工の新橋、そして一部OGHのインフラ部門が担当する方向性でいくことになった。

 ここに京大の浜中が、医療臨床部門のサポート、東大の真壁は、必要に応じて要請を必要とする各大学研究機関の仲介に付くという事で了承を得た。


 最後に、実行組織のヤルバーン側の人員養成、これは言わずもがなで、ここにはいないが、久留米と大見がその任に付くことは、現状、既に決定状態にある。

 そして、場合によっては大見のみ、ヤルバーン側、個別実行部隊の指揮をアドバイザーという形で取ることもありうるという事になっている……つまり身分を隠蔽して、領土を超える場合もあるということでもある。

 これに関しても、かなりの超法規的措置である。


 その後、諸々の調整を行う。


 柏木はその推移をずっと聞いていた。

 手を額に当てて、天井を見上げ考える……


(実力組織……秘匿組織……抑止力……う~ん……)


「柏木さん」

「…………」

「柏木さん?」

「え?……あ、はい」


 何か物思いにふける柏木へ二藤部が話しかける


「どうしました?柏木さん」

「あぁ、いえいえ、少し考え事をしていたもので……すみません。それで何か?」

「えぇ、柏木さんには私と三島ら、政府のサポートや、方針・企画立案、交渉などを御願いしたいと思いますが、よろしいですか?」

「了解しました。まぁ現状と同じということですね」

「そういうことになりますね」


 そう言うと、二藤部は一拍置いて


「では、基本こういう組織体制で行いたいと思います。無論、状況によっては随時参加人員が増えることも予想されますが、その場合はこれも随時関係者に何らかの方法で通達することとします」


 二藤部がそう言う間も、柏木は腕を組んで何かを考える顔だ。


「どしたい柏木先生、何かあるのかい?」

「え?、え、えぇいや……三島先生、今回の会議、議題はこれで全部ですか?」

「何言ってんだよ柏木先生、お宅のアレが残ってるだろ」

「あ!あ、そうか、自由入国の件ですよね、すいません、ハハハ……」


 そう言うと、さすがに三島は今の緊張した状態で会議を続けるのはいささかよろしくないと感じたのか


「総理、少し休憩いれましょうや」

「ええ、そうですね、では1時間休憩にしましょう」


 そう言うと、緊張が解け、各自知人と話しながら、一旦会議場を出る。

 柏木もその中に混ざって、議場を出た。

 フェルは、ヴェルデオらヤルバーン組とともにミーティングをするみたいだ。フェルが柏木に目配せをして頷く。柏木も頷いて返す。


 そして、一人大使館を出て、外の広場にあるベンチに腰をかける。

 

「…………」


 まだ何かを考えている柏木。

 そこへ白木と麗子がやってきた。


「よぅ柏木」

「柏木さん、先程から何か考え込んでいるようですけど、どうかなさいまして?」

「あぁ白木に麗子さん」

「どうした、おめーらしくねーな。何か悩んでるのか?」

「ん?あぁいや、別に悩んでるわけじゃないよ、会議の話、ちょっと引っかかってな」

「ん?どうした、何か不満なのか?」


 白木と麗子も、柏木の両脇に腰掛けて、尋ねる。


「いや、不満ってわけじゃないんだが……現状、まぁアレしかないんだろうと思う。ただ、実力行使をする……言ってみれば『特殊部隊』みたいなのを立てるって話だろ、しかもかなり秘匿性の高い」

「あぁ、そうだな」

「そこがな~……ちょっと引っかかってるんだよ……このままの方針で行けば……正直……日本にとってもあんま良い結果にならないような気がしないでもないんだよなぁ……」


 その言葉を聞いて、白木と麗子が顔を見合わせる。


「どういう事ですの?柏木さん」


 麗子が尋ねる


「いや麗子さん、それは会議の時に言いますよ……でさぁ白木、さっきの話だけど、大森社長、会長ってなんだよ、アレ、社長を引退でもしたのか?大森さん」


 その言葉を聴いて、白木と麗子は肩をすくめる


「あのな、柏木……だ・か・ら普段からもっと新聞とか読めって言ってんだろ」

「読んでるよ、ちゃんと」

「オメーが読んでるのは、どっかの国のドンパチ記事ばっかじゃねーか!……ふぅ……麗子、説教は任せた」

「はい喜んで、崇雄」

「えぇぇぇぇ!勘弁シテクダサイ……」


 その後麗子は、大森会長の説明と、あまりに偏った知識が豊富な柏木への説教を含め、休憩時間を軽く消化する。

 その際、特務交渉官へ推薦したのが、大森と、柏木が大阪でベンチャーと交渉した際の君島重工だったことを聞かされて驚く……まぁ今更といえば今更なのだが。





 その後、会議再開。

 二藤部が柏木に尋ねる。


「さて、柏木さん、次は本来の対策会議の議題に戻りますが、まぁ色々ありましたんでね、延び延びになってしまいましたが、例の自由入国の件、お決めになりましたか?」

「はい総理、予定通り行いましょう」

「それは担当者としての決定事項ですね」

「はいもちろん」


 その言葉を聞いて、ヴェルデオが頷きながら微笑む。フェルも右に同じ。

 シエやゼルエも喜んでいた。

 しかし、警察庁の本間が異議を唱える。


「柏木さん、しかし先の話にもありましたが、ああいった状況下でヤルバーンの方々を日本で自由な行動を許すのもどうかと思いますが……正直我々警察としても、彼らが狙われる可能性を考えた場合、完全な安全確保に責任が持てません」

「本間長官、そこは問題ないですよ。な、フェルフェリアさん」

『ハイ、マサトサン。ケラーホンマ、私達ヤルバーン乗務員ハ、ソんなにヤワではありませんよ、フフフ』


 柏木は、彼らの転送技術と、追尾技術、PVMCGのシールド機能に、全員が一応に戦闘訓練を受けていることを説明した


「はぁ、なるほど、そういうことですか……」


 本間はその話を聞いて、頭をかきながら納得する。


「むしろ、犯罪捜査においては、彼らの協力をあおぐ事になるかもしれませんから……確か公安の方にも研修者、行っていますよね」

「ええ、山本達とうまい具合にやってるようですが」

「ははは、リアルエイリアン・ネイションですか?」

「は??」

「あ~、いえいえ、こっちの事です」


 今まで何も発言しない新見がクスクスと笑っていた。ドノバンとの会話でも思い出したのだろう。


 そして三島が柏木に尋ねる。


「しかし柏木先生、本間長官の言い分もわかるぜ。この状況で、えらい思い切った決断するんだなぁ」

「いや、三島先生……実はですね……私のこの判断の件なんですが、さっきの『日ヤ安保委員会』の件とも絡むんですけど……」

「おう、どしたい。是非聞きたいね」


 三島は、やっと柏木の話が聞けると、身を乗り出して尋ねる。

 他の出席者も同様だった。ヤルバーン側も柏木を凝視する。


「実は……私としては少し異議があります」

「異議ぃ?……お、おいおい、もしかして反対ってことかい?」


 出席者は、なんとかここまでこぎつけた議題に異議を唱える柏木を、怪訝そうな目で見つめる。

 ヤルバーン側も「どういうことだ?」と疑問の視線。


 二藤部が問う。


「どういうことでしょうか?柏木さん、他に何かアイディアがあると?」


 さしもの二藤部も、少々困惑気味だ。ここで意見が割れるのは正直良いことではないからだ。しかもヤルバーンに関しては第一人者となってしまった柏木と意見が割れるのはあまり好ましくない……


 しかし柏木は、そんな怪訝な視線を向ける出席者にちょっと焦り


「あ~いやいや、誤解しないでください。その安保委員会設立の方針自体には私も賛同します。なんせ私はフェルフェリアさんと実体験してしまってますからね、ハハハ」


 そういうと、みんなの視線が余計に「じゃあなんなんだよ」という物になる。

 そして二藤部が尋ねる。


「では、柏木さんは、現行の方針には欠陥があるとお思いなのですか?」

「ええ、そういう事になります」

「ふむ、わかりました。では是非その点をお教えください」

「わかりました、では……」と一拍おいて「この話は、実はこの間、そちらのフェルフェリアさんに聞かれてお答えした事なのですが……おそらくその点を踏まえてヴェルデオ大使も懸念を大きくなされたのだと思いますが……」


 柏木はフェルに話した『つかみどころのない雲のような禍々しい存在』の概念を主席者に話した。無論これは柏木の推測であることも付け加えて。


「で、ですね、それに対する実力組織を……特にヤルバーン側の特殊部隊になるであろう組織を『秘匿性の高いもの』にしても、あまり意味が無いと思うんですよ」


 この言葉に出席者全員『?????』な表情。


「だって、そうでしょう、相手も秘匿性の高い……というか究極的に秘匿な存在、いやそれ以上に『存在』なんて言葉が当てはまるかどうかもわからない、単なる『集団的意思』のような存在なんですよ……そんな『連中』をですね、そう、例えれば……真っ暗な場所で、沢山いる悪党を一匹や二匹潰したところで、他の悪党は『それがどうしたんだ?』ってなもんですよ……そんなのを2~3組織、闇の中で葬っても、世の人々は知ったことじゃありませんし、世の人々が『そう言う連中が潰された』ということがわからなければ、結局特殊部隊がいくら頑張っても、おそらく成果って全く上がらないと思うんです」


 二藤部と三島は「ほう……」という感じで、腕を組んで柏木の見解を聞く。


「まぁ、日本国内の自衛隊や警察が造る『S』関係の部隊さんなら、そういう事件もマスコミが嗅ぎつけもするでしょうし、法の範囲内でやるんでしたら、政府も議会に報告したりする義務もあるので、公にもなりましょうが、ヤルバーンさんの方で、闇の者を闇で葬っても、闇の中じゃ何もわかりませんからね。結局それが見えなきゃ『外の主観』から見れば『何もやっていないのと同じ』って事になっちゃいます」


 それを聞いた対策会議メンバーはハハハと笑い、三島も


「お、出たな、柏木先生お得意の持論が」


 と茶化す。柏木は「ま、まぁそうですね」とポリポリ頭をかく

 そして……


「ですから……まぁ青臭い言い方すればですねぇ……『闇を照らすのは光』なんですよ……なので、私はヤルバーンさんの部隊にカッチョイイ名前付けて、テロ屋みたいな連中の前に颯爽と、まぁ?推参、参上、顕現して頂いて、華麗に帰還してもらうような感じのほうが良いと思うんです……正義の味方みたいに……」


 そういうと……


『オオオ……ソレハ面白イナ、私ハ大賛成ダ』とその話を聞いて手に汗握るシエ。

『ガハハ、なかなか痛快な事言ってくれるじゃねーか、ケラー』と豪快に笑うゼルエ。


「ははは、なるほどな先生、そう来たか……やっぱ流石柏木先生だぜ、そうこなくっちゃぁなぁ」


 と、やっとエンジンがかかってきたと喜ぶ三島


「そうですね、確かに、我々は『秘密・隠密・匿名』に拘りすぎていました……そう、相手は我々よりもずっと暗く深い『秘密・隠密・匿名』な連中です。『誰か』とか指定することもままならない」


 と二藤部。


「柏木君、そういう発想でくるかね、なるほどなぁ……なぁ、やっぱウチの社員にならんかね」


 と大森。


「夜の大海原というのは、本当に何も見えない真っ暗な場所ですが、ちっぽけなタバコの火でも数キロ先から確認できます。『連中』にとっては、いやな光になりますな」


 と、今まで黙して聞いていた海自の加藤。


『エェ、決定ですナ』


 とヴェルデオ。


「まぁ、そうなると、フェル達諜報担当が、しっかりと『連中』を捕らえてくれないと、自衛隊に警察、それにヤルバーン部隊がアタフタしちゃうからね」


 思わず柏木はいつもの口調でフェルに話す


『ハイ、お任せくださイ、マサトサン』


 胸を張って「ドンと来い」なフェル。


「地球側は、白木や、麗子さん、大森会長の情報網も重要ですよ、相手はテロ屋だけとは限らない……シンジケートやカルテル?みたいなのも含まれるんですから。一般企業も実は裏では……って奴です」


 そういうと……


「おう、任せろ」といつもの調子な白木。新見と不敵な笑みで頷き合う。

「柏木さん、誰に物をおっしゃってらっしゃいますの?またあとでお説教ですわね」と華麗なる麗子。

「まぁ、設備や人材育成はまかしておきたまえ」と張り切る大森。


 そして、そのやりとりを聞いて、フフフっと笑う二藤部。


「やはり最後は柏木さんがシメましたか、三島先生……」

「ですなぁ総理……あ、そうだ柏木先生、そのヤルバーンさん部隊の『カッチョイイ部隊名』って何かあるのかい?」

「え?……そりゃぁヤルバーンさんで考えてもらわないと。日本人が付ける訳にはいかないでしょう」


 そう言うと、シエが


『フム、言ワレテミレバ確カニナ……ゼルエ、何カ考エロ』

『エ?俺ニ振るのか?……俺がそんなセンスねぇの知ってるだロ……オメーはどうなんだよ』

『ワタシニ聞クカ?私モソウイウノハ苦手ダ……フェル、オ前、何カ言エ』

『ヘ?私ですカ?』

『コウイウノハ、オ前シカイナイダロウ、頭ノ出来ハ、ココデハオ前ガ一番マシダ』

『マシって……失礼デすね!シエ!』

『イイカラ、早ク、何カ言エ』

『モウ!……ウ~ンと……あ、そうだ、この間マサトサンにお話ししたノクタル創世記』


 ぽんと手を打つフェル。


「あぁ、確かクリスマスの時の……確かファバールとかディーズとか」

『ハイ、その中に、『愛と友情の創造主』で『メルヴェン』という創造主がいまス……『メルヴェン』コレにしましょウ』

『メルヴェンカ……イゼイラ創造主ノ名カ……ダストールノ我々ニハ、アマリ関係ナイガ『愛ト友情』トイウノガ気ニ入ッタ。ソレデ行コウ』

『ア、それでいいならいいんじゃねーカ?……ファーダミシマ、そういうこってス』


 なんだかとてつもなく適当な気もするが、まぁそういう事らしい。フェルが何となくプ~っとなっている。


「メルヴェンか、日本人的には語呂も悪くねぇな、んじゃ、こっちの『S』さんのコードネームは『八千矛 (やちほこ)』でどうだい?柏木先生」

「や、やちほこ?……なんですか三島先生、それ」

「お、知らねーのかい?んじゃ、大国主神おおくにぬしのかみなら知ってるだろ?」

「あぁ、えぇ、確か出雲大社に奉られている神様の」

「おう、出雲大社だけじゃねぇけどな、大国主神の別名が八千矛って言うんだ」

「へー、そうなんですか……あっ!そうか、大国主神様は、確か、縁結びの神様でしたね」

『メルヴェンと良く似ていますネ』

「おう、どうだい先生?」


 議場からも、そうだ、それがいいと納得の様子。みんなが納得するなら、OKということで決定した。


 そして二藤部が


「では、ヤルバーン乗務員の自由入国も、そういった連中に日本とヤルバーンやティエルクマスカとの繋がりを見せつけるための物でもあるということですね、柏木さん」

「ええ、そういう事です……ここで萎縮して……まぁビビって引いてしまったら、相手の思う壺です。『連中』の中の『一派』はそういう事も狙ってるのでしょうから」

「わかりました。ではその方向で方針を変更するよう各部署に伝達しましょう」

「で、総理、その『連中』『一派』『奴ら』のコードネームも……いつまでも『連中』『一派』『奴ら』と呼びつづけるわけにもいかないでしょう」


 そういうと、ヴェルデオが


『デは、『ガーグ』としてはいかがでしょウ』

「がーぐ?」

『ハい、ノクタル創世記に登場する、人々を闇に誘う……ニホン語で『混沌』や『無秩序』を意味する闇の存在の事です』

「なるほど……『カオス』の事ですか、わかりました。今後はそういった勢力の事を、総じて『ガーグ』と呼ぶことにしましょう。語呂もいいですしね、イゼイラ語なら言葉から意味を悟られずに済みますし」





 ……こうして、かつて『対策会議』と呼ばれていた、ヤルバーンと関わりを持つ人々は、非公式委員会『日ヤ安全保障委員会』を正式に結成させた。

 

 その地球を覆う大きな『混沌』は、彼らをもってしても完全に駆逐することはできまい。

 しかし、彼らに対する大きな『障害』になる事はできる。そして『抑止力』にもなる……



 

 ヴェルデオ達の動きは速かった。

 会議の翌日には、さっそくヤルバーン中央システムの、地球ネットワーク介入システムのセーフティを解除し、中央システムは、地球世界のネットワーク空間に飛ぶ、あらゆる信号、言葉、そして電波に乗る言葉やデータをとてつもない、尋常ならざる速度で解析しはじめた。


 ポルが作った『警戒コード分析システム』

 フェルが作った『コード相関性予測システム』

 それをリビリィが指揮する警備部の人員を使って、怪しいデータを選別していく。



 そして、システム稼働から数時間後、さっそく警戒コード分析システムに、ある言葉が引っかかった。


【特定の地域から頻繁に発生するコード_】

【各種コードとの相関性:ネガティブ_】

【警戒を要するコード:…………………】




 

【…………………シンニンジョウホウテイシキ_】






 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ