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17.邪魔されようがランチはするぞ

ご無沙汰しております。

なんとか年内に間に合いましたが削って繋ぎ合わせる作業をしくじった気がしてしょうがない。

何を申し上げたいかというと今回は時間と心に余裕が有り余る状態でご覧になっていただいた方がよろしいかと存じます切実に。冗談抜きで。ぐだぐだしてます。過去最長のぐだぐだです。くれぐれもご注意くださいまし。

ところで年の瀬だというのに天気予報は雪模様。皆さま体調管理にはくれぐれもご注意くださいまし。



食事とはつまり経口摂取で、口を開かなければ始まらない。

喋るか食べるかどちらか選べと二者択一を迫られたなら私は迷いなく後者を選ぶ。無駄口を叩く暇などない。そういうわけで、今日も今日とて、美味しいランチを食べている。


「画期的でいいなぁ、こういうの」


無心で咀嚼していたものをごくん、としっかり嚥下して、コップの水を傾けながら一人こぼしたのは称賛だった。礼儀作法の類やら人目なんかは気にせずにべろっと舐めた口の端からはトマトソースの味がする。

場所はもちろんいつもの食堂―――――ではなく、まさかの屋外席。

よく晴れ渡った空の下、定期的に刈り込んで整えられているとわかる芝生の上に設置された拡張版テラス席の大人数利用型テーブルは新品とわかる真っ白さでその存在感を主張している。開け放たれた食堂の大窓から聞こえてくる喧騒は平素と大して変わらないものの、遮るものなど何もない外の方が今日は賑やかかもしれない。

何気なく視線を投げた先に展開している食堂の屋外特設臨時スペースは、随分と活気に満ちている。


「バジルとチーズのトマトソースとサラミをここからここまででお願いします!」

「うっそクリームソースのミックスベジタブル順番待ちしてる間に全滅した!?」

「大体これくらいの幅でキノコとキノコとあとキノコ! あとはハーフで四種のチーズピザもおねしゃッ!!!」

「もうちょっと多くてもだいじょ―――――そこ! そこですおばちゃん今がベスト!」

「良かったまだあった魚の塩漬け! ガーリック風味の方ください! 全部!」

「あ、生ハムとハーブのやつ焼き上がり待ちなんですね。じゃこっちのツナとベーコぎゃぁぁぁぁ待て待て待て待てちょっと待てコラそこの人全部は欲張り過ぎじゃぁぁぁい!!!」


青空を背景に轟く咆哮、説明不要の阿鼻叫喚。

屋外だろうが屋内だろうがランチタイムにおける『食堂』は戦場と呼ぶに相応しく、提供側も購入側も今この時間に限って言えば等しく戦士に他ならない。いつも以上に激化しているお昼時の大戦争を静かに横目で観察しつつ、私はお皿の上にあった本日のランチをのんびりゆっくりと持ち上げた。

名前はたぶんピザとかピッツァとか発音的にはそのあたりだろう。薄く平べったく伸ばしたパンのような生地の上に、各種いろんな具材をのせて焼き上げる料理であるらしい。“王国民”たちにとって一般的なのは生地を丸型に成形した円盤状のタイプとのことだが、今回は個々人の好みで自由にサイズを選択出来る切り売りスタイルを採用すべく大きな長方形状にしてあるのだと食堂のおばちゃんが教えてくれた。

でっかい天板に敷き詰められたでっかい薄焼き具材のせパン各種がずらずらずらっと並ぶ売り場は壮観で楽しいの一言に尽きる。ちなみに種類も豊富だった。十は余裕で超えていた。どれもこれもが美味しそうで選ぶのが大変だったので、もう諦めて「端から端までまずは全種類片手で持てるくらいのサイズでください」とか雑な注文をぶん投げた私に弾ける笑顔を返してくれたおばちゃんは間違いなくプロの鑑だと思う―――――大きさが選べるのであればひとまず全種類を味見で試す、というこちらの意図を的確に理解してサイズ調整してくれて本当にありがとうございます。自他共に認める大飯食らいの私にとって少な過ぎず多過ぎない絶妙なバランスが素晴らしい。流石プロ。よく見てる。もう尊敬しか出来ないまじで。

そんな感動を胸に齧った食堂謹製ピザなんとかの具材は肉厚のキノコと燻製チーズ。しっかりと火が通りながらも不思議な弾力に富んだ柔らかな食感を失わないキノコの癖のない味わいと、燻したことで独特な香りを醸すチーズの組み合わせは本気でずるい。美味しいなにこれもう一回買う。


「え………あっという間に消えてなくなった………怖いなキノコと燻製チーズ」

「三秒足らずでノーマルサイズを軽く一枚食い尽くすテメェの方が遥かに怖ェ」


と、視線すらこちらに寄越すことなく雑な発言を放り投げて来る凶悪面の三白眼は横でピザを食べていた。本日のランチは開放型の切り売りピザパーティー仕様らしいのでメニューそのものに違和感はない。が―――――発言の内容はともかくとして、具材の異なる二枚のピザをサンドイッチのように重ね合わせて豪快に齧るその姿には流石の私も二度見で一言。


「え、なにその食べ方天才かよセス」

「ンなわけねぇだろ誰でもやってる」


トッピング面をくっ付けてサンドイッチのようにすることでオリジナルの味わいを堪能しているらしいセスは、呆れた様子で言い放つなり周りを見ろやと目だけで語った。促されたので言われたとおりにぐるりと周囲を見回せば、確かに何人かの学生たちが同じような食べ方で各々ランチを楽しんでいる。

なるほどな、と納得した私はセスの平然とすました横顔に射るような眼差しを突き刺した。


「へえ。ほー。うん。なるほど。“王国”ではそれスタンダードなんだな? 私が知るわけないんだから教えてくれてもいいじゃんか」

「厳密に言えば一部地域にはよくある食い方ってだけであって王国全域の共通認識じゃねぇからわざわざ教える程のモンでもねぇよ」

「本音」

「面倒」

「正直だから許した」

「懐広過ぎて笑った」

「ぶっちゃけ言う程気にしてないしな。ところでセスのオススメ何?」

「あ? 普通買う前に聞くヤツだろそれ。四種のチーズに粗挽き胡椒」

「組み合わせのオススメを聞いたんであってトッピングアレンジ聞いたわけじゃないんだけどそれはそれとして粗挽き胡椒ください」

「試すのかよ。まぁピッツァ・アル・タッリョ最大の利点は味も量も個人の好みでご自由に、ってところだから全然間違ってはねぇけど―――――案外蜂蜜かけても美味ェぞ」

「パイ料理が異常に好きなだけで甘いものはそんなに好きじゃない無類のパイ好き三白眼からまさかのピザに蜂蜜発言!? どうした養蜂家の方々になんかすごい恩でもあるのか?」

「養蜂業界に恩義はねぇけど蜂蜜と胡椒ならここにあるぞ白いの」

「その抜かりのなさ嫌いじゃない。くださいお気遣いの三白眼!」

「三白眼はやれねぇが調味料ならくれてやる」

「あ、ごめん。私の言い方が悪かった。セスの目玉とかもらっても困る。人間は食用外だから要らない。お前のオススメ試してみたいから蜂蜜と胡椒の方ください」

「まさかそんな真面目に返されるとは流石にちょっと予想外だったわ。この蜂蜜は備え付けじゃなく買取タイプの追加品だからテメェで全部使っちまっていいぞ」

「まじで? 気前が良過ぎない? 相変わらず最の高かよセス。どうもありがとうございます!」


会話はどこまでも適当に、けれども滑らかに転がっていく。気前の良い三白眼が自分のランチをのせたプレートからこちらへと移した蜂蜜入りの容器―――別売りにこういった追加トッピングがあることを知らなかったのは悔やまれるけれどもなんか親切にも譲ってくれたっぽいから冗談抜きでホントにありがとう―――を丁重な手付きで受け取って、未だ食べていなかったお皿の上の数あるピザから私はチーズのみの一枚を探す。

ところでどうでもいい余談ではあるが、十人は余裕で腰掛けられそうなテーブル席の端っこに陣取った私と三白眼の並びを避けるようにしてランチを楽しんでいた他グループの何人かがこのあたりで食事を喉に詰まらせて倒れた。水を飲んだ方が良いと思う。


「んんんんんんんんん」

「優勝した………仲良しがきょうだいで優勝した………人類の語彙力は蒸発した………」

「なんなのあの雑だけど面倒見の良いお兄ちゃんムーヴほんとなんなのベッカロッシ………今日帰ったら俺も弟にあんな感じで接したい、頼れるお兄ちゃんムーヴがしたい………」

「末っ子ちゃん効果が絶大過ぎてベッカロッシの属性がもうお兄ちゃん以外に浮かばない………思い出せあの頃の狂犬を………あれ………? あいつ素行悪いって言われてるけど口調とかが粗雑なだけで授業態度とかはむしろ真面目じゃない………?」

「さっきからベッカロッシ侯子をアニキと慕いたい気持ちとあれは末っ子ちゃんのお兄ちゃんであって僕の兄貴分ではないという気持ちが雄叫び上げながら殴り合ってる」

「セス様と妖精さんをセットで遠くから見守る分には平和の極みなのに尊さが暴走してこっち側の心が穏やかじゃなくなってくこの現象にそろそろ明確な名前が欲しい………」

「ただの情緒不安定だと思う、って妖精さん声の幻聴が聞こえたわ仰る通りですありがとうございますグッバイ私の不安定な情緒」

「ぐっちゃぐちゃに不安定なまま安定しちゃえば逆にアリでは?」

「発想の逆転大勝利」

「同胞よ止まることなかれ………」


そろそろ止まった方が良いと思う、とはめんどくさそうなので口にしない。慣れって怖いなと思いつつ、ランチタイムは有限なので食事を優先させるところがいつも通りと言えばいつも通りだ。

そんなこんなで探し当てたお目当てのピザは四種のチーズ、なお料理名は長いから忘れた。種類が違うとは言えども食材的にはたった一つで構成されたシンプルなピザには自信の程が窺える。まだほんのりと温かいそれを、まずは何も付けずに一口―――――想像以上に強めの刺激にちょっと脳味噌が驚いた。塩気のような癖が強い。けれど後味はマイルドで、溶けにくいタイプが混ざっているのかもちもちとした食感もある。濃厚な部分にさっぱりとした瑞々しさが割り込んで、まったく異なる方向性が味に奥行きを生んでいた。チーズだけでこの美味しさとはまったくもって恐れ入る。ありがとうプロの酪農家各位。並びに食堂のおばちゃんたち。こんがり焦げた表面の香ばしさに美味しさの最高値更新が止まらない―――――セスにオススメアレンジを聞いていなかったら秒で完食するところだった危ない危ない聞いといて良かった。そんな気持ちでごりごりと、うきうきしながら食堂備品のミルで胡椒を砕く私である。


「景気良く胡椒砕いてっけどテメェそれ流石にやり過ぎじゃね?」

「調子乗って砕き過ぎたんでちょっと引き取ってくれると助かる」

「テンション大暴走の幼児かよ白いの。とりあえずこの皿に要らん分落としとけ」

「なんだかんだ言いながら面倒見の良さ炸裂しててありがとうお気遣いの三白眼」

「ブレねぇところは嫌いじゃねぇが調味料の足し過ぎは反省しろリューリ」

「やり過ぎは食材の味を損なう愚行でしかないので心の底からすみません」

「おう。パイ生地仕立てのピザでいいぞ」

「好物の要求がさりげないなこの三白眼」

「どうせテメェも食うだろうが白いの」

「話が早くて嫌いじゃない。食べます」


うぉあもおおおおおおおおお、とあっちこっちから押し殺したような鳴き声が複数聞こえてきたけれども牛さんにしては多重奏だし農業科の飼育場はかなり遠い。私は考えるのを止めた。たぶんじゃなくても同じらしいセスは黙々とピザを齧っていて、同じようにアレンジを追加したピザを食んで倣うことにする―――――胡椒の風味はチーズも小麦粉も何一つとして裏切らなかったしセスの言葉は嘘ではなかったと声を大にして言いたい。


「胡椒ってホントいい仕事するよな。完成度高過ぎて涙出た」

「いやおいテメェそれ単純にかけ過ぎた胡椒にやられただろ」

「何言ってるんだセスそんなわけなぶふっ」

「耐えたのは認めるから噎せたって認めろ」

「はいぼくかん」

「いみわからん」


そんなやり取りもそこそこに、周りがばたばた倒れ伏す様にはまったく取り合わずピザを齧る私と三白眼は至って平和だ。平和と言えば平和だったし平和だと思えば大体平和だった。慣れってすごいな、と思わなくもない。


「想像以上の美味しさにおかわりしたい感半端ない」

「皿の上のピザ全種類綺麗に平らげてからにしろや」

「それはもちろんそのつもりだぞ? 冷めたら味が落ちちゃうからな―――――と、いうわけでオススメの組み合わせをご教授ください三白眼」

「あァ? だから組み合わせなんざテメェの好きにすりゃいいだろ―――――トマトとバジルにサラミ合わせて半熟卵ピザにガーリックチキン」

「聞けばちゃんと答えてくれる親切なセスに質問だ。チーズに蜂蜜の意外性がありなら生ハムとハーブに魚の塩漬けって大冒険もいけたりする?」

「大冒険過ぎて帰って来れねぇ無謀な味の足し算は止めろ。方向性の違いで迷子になって殴り合うの目に見えてんだろうが。魚には潰し芋が合う」

「ホントだ全部にハズレがなくてすごい」

「ピザ六枚一瞬で消したテメェはやばい」

「消してねぇよ美味しくいただきました」

「ンなモン見てたから知っとるわ白いの。つぅわけでパイ生地仕立てのピザ頼んだ」

「私が言うのもアレだけどホント好物に全力だよなお前。他に何か欲しいのある?」

「デザートにパイ系があれば食う。そっちの金は自分で払う」

「ブレにないにも程がある姿勢まじで安心感しかない。了解」


セスにオススメされた以外の組み合わせも適当に試しつつ、あっという間にピザの貯蓄を平らげた私は席を立つ。三白眼は黙々と自分で買ったピザを食べていて、少し離れたところでランチを楽しんでいた集団はほとんどがほとんど沈黙していた。死んではいない。生きている。確かめたくはないけれど。

そんな揺ぎ無い本音を胸に、テーブルに突っ伏すか頭上を仰ぐかピザを噛み締めるかしている学生各位の状態に敢えて触れる愚を犯すことなく、食べ終わった後のお皿を手に賑わう戦場へと舞い戻る―――――駆逐されていたピザ各種がちょうど焼き上がったところだったのか、焼き立てが補充された先から景気良く切り売りされていく様は見ていて面白いものがあった。お皿を返却口へと置いて、それから列の最後尾に向かう。


「ところでパイ生地仕立てのピザってどれだ?」


答える声はないと知りながら、ついつい疑問が口から滑った。完全に独り言でしかない。

あまり深く考えずに販売待機列に並んではいるものの、そもそも具材を満載したピザの土台部分たる生地の違いなど私にわかる筈もない。おばちゃんに聞けば分かるかなぁ、と緩いことを考えながら、追加で頼むおかわりピザの種類とサイズに思いを馳せる―――――ちょうど、そんなタイミングで。


「あっ………なんていいところに! たすけて、助けてくださいそこのリューリさん!」


切羽詰まった声に名前を呼ばれた。左腕を両手で掴まれたと感じたときにはもう既に強引な力に引っ張られていたが、体幹に優れた私の体勢はまったく崩れたりしない。結果的に引っ張った側だけが勢い余ってよろめいたところを他人事目線で眺めてみるも、焦燥と驚愕をごちゃ混ぜにした表情でこちらを見上げる少女の顔にはまったく見覚えというものがなかった。

つまりはいつものパターンかなぁ、などと冷めたことを思いつつ、名指しで腕を掴まれている時点で無視をするだけ無駄なのだろう。なので私は端的に、意思の表示を試みた。


「よく分からんけどピザ買いたいから嫌だ。関わりたくない。さようなら」

「え? ピザ? ピザって………ああもうこっちはそれどころじゃなくて! そんな呑気にランチ買ってる場合じゃないんですよ妖精さん! ティトくんがすごく困ってるんです! 大ピンチなんです怖い人に絡まれそうになって逃げてるんです助けてあげてください、あなたも彼のお友達でしょう!?」

「友達になった覚えはないし今後なる予定も無いんだけど?」


なにそれ知らないどこ情報? みたいな顔で言ってのける私に開いた口が塞がらない女子。微妙に居心地の悪い沈黙と停滞しそうな雰囲気を、そこで都合よくぶっ壊さんばかりに慌てた声が飛び込んだ。


「うっわ、すみませんごめんなさいでっかいのが通ります申し訳ありません急いでます通してくださいギャラリー集まるのほんッと早いんでクラーラさんは落ち着いてそんでもって白い人から今すぐ手を離してごめんなさいしようそのひと俺の友達じゃないで―――――す!」


登場の仕方が王子様並みに五月蠅いけれども必死感にかけてはかなり上、あまりの緊迫感に秒で集いかけていたギャラリー各位が思わず道を開けるレベルの騒がしさで駆け付けたのはティトだった。

身体がでかいだけでなく声もでかいので普通に目立つ。ついでに身体能力の高さを裏打ちするような機動力と人垣をすり抜ける素早い身のこなしが意外性を伴って人目を引いた。全力疾走しながらノンブレスで声を張ったにもかかわらず、こちらへと肉薄して急停止した直後でも息の乱れがほとんどない程度には肺が鍛えられているらしい。

私の腕を掴んだまま硬直する女子を見下ろして、たぶん走って来た勢いのままやけに力強くティトが言う。


「ちょっと見失っただけなのに何がどうしてこの状況!? よくわかんないけどまず誤解! セスや殿下でさえ友達認定されてないのに一回ランチ一緒してもらった程度の俺が“友達”分類されてるわけない! です! だから白い人に絡むのは止めよう! 全身全霊で『関わりたくない』って主張してるじゃん明らかに!!!」

「なっ………なんでよティトくん! だってこの人、この間は殿下に頼まれてあなたに付き纏うお嬢様たちをさっくりと撃退してくれたんでしょう!? リューリ・ベルさんは味方の筈では!? だったら今回もお願いして追い払ってもらえばいいじゃない! ピザ買いたいって言ってるから奢ってあげれば大丈夫よきっと!!!」

「無理です! フローレン様と殿下経由ならともかく俺個人で白い人に頼めることなんて何もないです! ていうか“個人”が白い人にごはんをあげると怖いことになるって俺でも知ってる! フローレン様に呼び出しくらうから絶対止めとこうなって殿下も言ってた! よそのお子さんに食べ物あげるときはお家の人の許可大事!!!!!」


間違ったことは言っていない気もしたのだけれども何故だろう、何か今の言い回しに引っ掛かるものを感じたぞ。そんな気持ちが顔に出たのか、もともと隠すような性分でもないので私はジト目でティトを見遣る。


「おい。何かよく分かんないけどこのお嬢さんお前の知り合いか? だったらさっさと引き取ってくれ。見ての通り私はピザが買いたい。そして待機列は動いてる。こんなところでがちゃがちゃしてたら他の利用者のご迷惑だろうが―――――燻製チーズキノコとチーズ尽くしとパイ生地仕立てのピザその他いろいろ買いたいものがあるんだよこっちは。めんどくさいことに巻き込まれてる時間なんて微塵もないです冗談じゃねぇよランチタイムは有限なんだからそっちはそっちで頑張って頑張れ」

「あ、頑張って頑張るってなんかちょっと響きがいい感じ。うん、俺自分で頑張って頑張る! そういうことだからクラーラさん、ちょっと慌て過ぎだから一回マジで落ち着いて? そんでそろそろいい加減本当に白い人から離れよう? いくら腕とか掴んでたところで白い人こういう人だから。無理なもんはいくら頼んでも無理寄りの無理で無理だから―――――っていうかずっと聞きたかったんだけど、そもそもこれってどういう状況か俺にも教えてもらっていい?」


そんなことを平然と、ごくごく普通にティトは言う。

私たちを遠巻きに取り囲んでいたギャラリー各位とピザ販売列に並ぶ面々が一斉に彼を見て沈黙した。私も言葉を失った。展開についていけないばかりかこのままではピザにありつけない―――――それは心底、腹立たしい。

思わず凄んだ私の額にはたぶん青筋とか浮いてた。


「はァ? なんで渦中の人っぽいお前が何一つ把握してねぇんだよふざけんじゃねぇぞ馬鹿二号」

「わぁ白い人セスそっくり! ドスの効いた低音が素で怖い! ごめんな言いたいことは分かるけどでもコレどうしようもなく真面目な話、ぶっちゃけマジでよく分かんない! 知り合いに廊下で会ったんで挨拶したら『大変! 私に付いてきて!』っていきなり叫ぶなり走り出したからとりあえず追い掛けてきただけなんだけど、正直何が起きたのかサッパリ理解出来てなくて………あの、なんていうか、ごめんなさいです」


分からないなりにとりあえず、直感で自分が関わる何かしらの理由でこちらに迷惑がかかっていると判断したらしいティトが謝罪を述べるがこちらにも意味が分からないので謝られたところで困ってしまう。というか、この戸惑った様子を見るに彼は本当に嘘偽りなく何も把握していないのだろう。凄む相手を間違えたらしい。それに関してはこっちがごめん。

そして私の腕を取る女生徒は未だに離れようとしない。思い詰めたような顔をして考え事をしているらしく、誰の声も耳に入っていませんと言わんばかりの集中力でひたすら私の腕にしがみついている。

なんで? 

何がしたいんだこのお嬢さん。男だったらもう殴ってるぞ。女の子にはまぁしないけれども主に肉体の強度的な意味で。

溜息を吐きたい心境で、私はとりあえず首だけ動かして後ろに並んでいる人を見た。不本意ながらも待機列の秩序を乱していることを手短に詫びつつお先にどうぞ、と促せば、後方に居た方々は一様に親切な人たちだったらしく労りの言葉をかけられた上に「よろしければ順番をキープしておきますので、終わったらこちらにお戻りください」とありがたい気遣いまで頂戴した―――――どうもありがとうございます、頑なに本名を明かさない番号名乗りの女生徒さんグループ。なるべく手早く片付けて戻って来たいと思います。

そんなこんなで可及的速やかに話を進める必要が出来た。じゃないとピザが買えなくて困る。

王子様程ではないけれど、美味しいピザを堪能するために話をとっとと進めて片付ける最大限の努力をしようと決意した私は口を開いた。


「よくは知らんけどこのお嬢さん、さっき『ティトくんがすごく困ってるんです』とか『大ピンチなんです怖い人に絡まれそうになって逃げてる』とか言ってたぞ。違うのか? なら違うって言え。そしてこのお嬢さんを回収してくれ」

「えーと、うーん………違う、っていうか………逃げてるってより問答無用で『付いてきて!』って言われたから追い掛けて走ってみただけだし………うん、全然ピンと来ないや。大ピンチとか言われても、その絡まれそうになった怖い人? っていうの俺自身は結局見てないわけだし………え? クラーラさん、俺どのあたりがピンチだったの? 怖い人って誰のこと? そもそもこの“学園”内にランチタイムを邪魔された白い人とパイ料理食い損ねたセスと詳細は省くけどフローレン様以上に怖い人とか実在するの?」

「ちょっと待てお前今の流れでどうして私たちの名前を出した?」

「ごめん咄嗟に思い付いた怖い人トップスリー言っちゃった」

「馬鹿正直かこの野郎」


思わず所感が口をついて出たけれどもたぶん本気で馬鹿みたいに馬鹿正直なんだろうなこのでっかいの。素直過ぎてツッコむ気が失せた。

なお、自分とセスとフローレン嬢ならあのトップオブ馬鹿の手綱を握るお嬢様がぶっちぎりで怖いだろうよ、とは流石に言わないでおいたけれどもぶっちゃけ詳細省いてる時点で誰がトップなのか丸わかりである。ほぼほぼ十割の確率で言い出したのは王子様だな?

碌なこと言ってねぇなあいつ、と心の中で呆れていたら、自分の世界に閉じ篭っていたらしい慌て者のお嬢さんがようやく戻って来たらしい。

その気になればいつでも脱出可能だけれども線の細い王国民のお嬢さん相手にそれをやったら怪我させちゃいそうで面倒臭いな、と棒立ちの選択肢を取っている私の腕をがっしりと握りつつ、彼女はティトに食ってかかる。


「ピンと来ないとか見てないから分かんないとか怖い人って誰だとか………ティトくんあなた自分のことなのにどうしてそんなにも呑気なの!? 事の重大さが分かってないわ、どうしてわたしがなりふり構わずあの場所から離れようとしたと思う? 一度でも捕まったら終わりだからよ! さっき廊下であなたに声を掛けようとしていた相手が誰かも分かっていないからそんなふうにのんびりしてられるんだわ!!!」

「うん、だからそこはもう分かったからそこから先の話をしてくれ。話が全然進んでないんだ。大ピンチだとか慌てる割には状況がさっぱり分からんし一人で焦ってテンパってるだけで正直お嬢さん空回りが酷いぞ? 一度落ち着いて深呼吸したら? もしかしなくても説明苦手か?」

「お気遣いどうもありがとうございますご配慮痛み入りますわたしのことはどうぞお気にならさずッ!!!」

「分かった気にせず引っ剥がして私はピザを買いに行く」

「会話がちっとも噛み合ってないけど物騒な予感がビシバシする!!! ごめんなさい待って白い人、噂の超人的怪力を発揮するのはもう少しだけでいいから待っといて!? そんでもってクラーラさん、貴女がその手をぱぱっと離せば白い人喜んでピザ買いに行くからまずは落ち着いて距離を取ろう! 怖い人とやらより怖い人は間違いなく貴女の隣に居ます―――――ああもう無理これ俺には無理だよすいませんがお近くにフローレン様かセスか殿下は居ますか!?!?」


前者二人はともかくとして、セスは呼んでも来ないと思う。私だったら絶対行かない。だってめんどくさいから。

と、自分では事態を収拾出来ないと利口にも察しているらしいティトが涙目で必死に訴えているがテンパったお嬢さんはまったく聞いてなかった。ヘルプに応える声がないということは王子様やフローレン嬢は近くに居合わせていないらしい。慌てふためき大騒ぎするばかりでよく分からないままの混沌の中、一種の恐慌状態にあると言わざるを得ない形相の彼女は激しく甲高く吠える。


「これは大袈裟なんてものじゃないのよティトくん! 編入してきて日の浅い貴方にはついこの間戻って来たばかりのあの方の恐ろしさなんて知る筈もないのは当然だけど………ちょっとのんびりし過ぎだと思うわ! ひょっとして噂に聞いたことさえないの!? 如何にも高位のお貴族様らしく傲慢な態度で偉そうに振舞って他人を思い遣る優しさの持ち合わせなんか一欠片もないような方だって昔から有名なのよ! 一度目を付けられたらもう終わり、散々にいびられて追い詰められても立場の弱い被害者たちは黙って耐え忍ぶしかなくて、弱り果てて泣き寝入りする姿を見ても何とも思わず追い打ちをかけて嗤って弄ぶような―――――世界一のお姫様気取りで自分の我儘ならなんでかんでも本気で通ると思ってる、そんな厄介で面倒な性格に難ありまくり系令嬢って女子の間では有名なんだからもう少し危機感とか持って!?」

「え? フローレンさんが頂点に君臨してるっぽいこの“学園”の中でそんな強気に振舞えるお嬢さんとか実在するのか? それはそれで普通にすごいな」


命知らず的な意味ですごい。まったく尊敬とか出来ないけれども。王子様あたりが聞こうものならその根性にだけは敬意を示してあとは蛮勇と断言しそうだ。

そんな本音を思わずぽろりとこぼした私に追従してこくこく頷いているティトとギャラリー各位の反応をまとめて叩き潰すように、未だこちらの腕を離さない女子は喧しい叫び声を上げた。


「妖精さんもティトくんも、いくらなんでも能天気過ぎる! 分かってないようだから敢えて言うけど、あっちは女子ヒエラルキーのトップにフローレン様がいらっしゃるにもかかわらずそんなふうに振舞ってもどうにか出来ちゃうお家柄ってことよ! 要するにティトくんは平民どころか貴族子女でさえよっぽどのことがなきゃ太刀打ち出来ないようなヤバイお嬢様に声掛けられそうになってたところを奇跡的に運良く逃れられたっていう現状をまずは認識して! そして妖精さんを味方に付けて!? でないと人生が終わってしまうわ!!!」


本当にそう思っているらしい切羽詰まった熱弁が、昼食時の空に木霊する。誰も何も一言も発さなかったせいで静かになったその一瞬を積極的に終わらせたのは、私の耳に聞き覚えのある自信に満ち溢れた声だった。


「ああ、なるほど。そういうことね? いきなり廊下を走り出したからどうしたのかしらと思ったけれど、あれはそういうことだったの」


ひっ、と誰かの短い悲鳴をまるで合図にしたように、ざざっと音を立てて人垣が割れる。ギャラリーの輪の切れ目の向こうに立っていた淡い金髪の持ち主は、きっちりと巻かれた豪奢な縦ロールを風に揺らして如何にも淑女らしく微笑んでいた―――――けっして口には出していないが「いい度胸だその喧嘩買ったぞコラ」みたいな好戦的に圧の強い目だけはまったく笑ってないけれど。


「つまり―――――先程から聞こえてきていた『世界で一番お姫様気取り』云々の性格に難ありまくり系令嬢というのはもしかしなくてもこの私のことを指していた、という解釈でよろしくて?」

「マ………マルガレーテ・キルヒシュラーガー様………!」


世に言う悪役令嬢のお手本のような存在にロックオンされた隣の女子がこの世の終わりみたいな顔で震えて分かりやすく竦み上がったが、私は彼女と面識があったし別段怒られる要素も無いので視線が合ったなと思った瞬間に一応の礼儀として挨拶をひとつ。


「あ、マルガレーテさんだ。こんにちは」

「ちょっと、許可なくこの私の名を気安く呼ばないで身の程知ら………じゃなくて貴女は大丈夫だったわリューリ・ベルさんなら問題なかったわごめんなさいねうっかりしていたのさっき言ったことは忘れて頂戴」

「縦巻き髪のお嬢さんこんにちは」

「またその呼び名を聞くことになるとは思っていなかったわ私の馬鹿―――――ッ!」


縦に巻かれた豊かな金髪をぶわっと揺らして手で顔を覆って唐突に絶叫するマルガレーテ嬢。度肝を抜かれて固まるギャラリー。ぱちぱちと目を瞬かせるティト。

唖然とした様子で言葉も無いらしい慌て者の女子を置き去りに、がばっと顔を上げた美貌のお嬢様はただ私だけを見据えて言う。心なしかちょっぴり寂し気に、だけど何故か自信たっぷりに。


「名前で呼んで構わなくてよ、と他でもない私が許可したのだから、貴女がこの名を口にすることは全面的に不問にしますけれども『縦巻き髪のお嬢さん』呼びは今後控えてくださらない? そして訂正が許されるのであれば、私のことは本日只今この瞬間から三百十五番と認識して頂戴!!!」

「なんて?」


思わず声が出た。いきなりどうした。本気でどうした。何言ってるんだこのお嬢様と己の聴覚を疑ったのは私だけではない筈だ。だって周囲の観客一同めちゃくちゃ驚いた顔してるぞおい。

ヤケクソにしては堂々としているがなにせ唐突が過ぎるので落ち着いて自分を見詰め直しつつどうか正気に戻って欲しい。フローレン嬢と並び立つお嬢様オブお嬢様が番号呼びを自ら提案とかそれって大丈夫なやつですか。あと自信に満ち溢れた言葉の力強さはともかくどストレートな感情表現も高位貴族のご令嬢的にはどうなんですかと思わず心配になってしまう。

なんだかとんでもないことを言い始めたのでこれは流石に駄目な気がする、と私はキリッと真顔をつくって秒速で即謝罪から入った。


「ごめんなさい。マルガレーテさんはもうマルガレーテさんで認識してるからマルガレーテさんだぞお気を確かに―――――あれ? 三百十五番? お茶会のときはフローレンさんと十四番がどうとか話してなかった?」

「えっ、どうして名前呼び続行? それに十四番ってなんのこ………ああ、“特別枠”のこと? そちらは丁重にお断りしたわ。だってレディ・フローレンに借りをつくるようで癪だったし………何より、フェアとは言えないじゃない。別に番号の早い遅いが気持ちに反映されるわけではないし、競い合うモノでもないでしょう? 番号はただの番号であって順位でも称号でもないわ。ただ『所属を同じくしています』という証明程度のナンバリングなら融通してもらった十番台より順番通りの三桁台の方が休学明けの私にはちょうどいいのよ。優待なんか要らないわ。フローレンからのお情けなんてもっと必要なくってよ―――――人に身分の貴賤はあれど、熱量や性質に多少の差はあれ同じものを尊ぶ気持ちに上下などありはしないのだから、十四番だろうが三百番台だろうが私にはそんなことはどうでもいいの。このマルガレーテ・キルヒシュラーガー、そんな器の小さいことをいちいち気にする女ではなくてよ」


何か文句がありまして? と胸を張ってお嬢様が笑う。堂々とした佇まいに似合う勝気な笑みは華やかで、さっきまで顔を覆って自分を罵倒していたかと思えば声高らかに番号呼びを提案してきた突飛さなどは微塵も感じさせない見事な口上と貫禄だった。相変わらず王子様並みに温度差の酷いお嬢様である。

いつぞやの“お茶会”で既にそれを知っていた私には大した衝撃ではなかったが、見慣れないギャラリー各位にしてみれば驚愕の一言だったのだろう。ぽかん、と虚を衝かれた面子が一様に無言を貫く中で、視界の端っこに映っていたティトがことんと小さく首を傾げた。でかい図体の持ち主ではあるが、愛嬌のある顔立ちのせいか妙に様になっている。彼の双眸は真っ直ぐに、マルガレーテ嬢へと注がれていた。


「怖い人かどうかは知らないけど、あの人、ちゃんとした人だと思う」


それは何の根拠もなければ具体性にも欠けてはいたが、言い放ったティト本人の声には一切の媚も疑念もない。思ったことをただ言っただけの主観でしかない一言は、けれど紛れもない本心であるとは他人の私にも想像がついた。その認識が正しいかどうかはこちらには判断のしようがないので沈黙を貫くしかないのだけれど。

私の腕を掴んだままで唖然としている女子を見下ろして、渦中に居ながら部外者状態のある意味不憫な男子が言う。


「ええと、クラーラさんがずっと言ってた『怖い人』ってあのお嬢様? 確かに如何にも貴族のお嬢様って感じはするけどさっき聞いた話とは違うっぽくない?」

「それは………その、ええと………えー………」


何か想像してたのと違う、と言わんばかりにマルガレーテ嬢とティトを交互に見遣って困った様子の空回りお嬢さんだがどうやらこれは素の困惑らしい。戸惑ってるのはこっちなんだがどうにかならないのかこの状況。いつもは鬱陶しさしかないエンターテイナー王子様の不在が(ほんのちょっとだけではあるが)惜しまれるレベルで話が進まないしぐだぐだしてるぞ。


「そんな筈はないっていうか………見た目をまったく裏切らない傲慢高飛車我儘系の絵に描いたような悪役令嬢って………何が何でも自分が一番で世界の中心じゃなきゃ気が済まないからトップ・レディのフローレン様にやたらめったら突っ掛か………えー………」


自分で口にしていることと現実があまり噛み合っていない、という自覚はどうやらあるらしい。信じられないようなものを見る目を悪役令嬢顔の縦ロールお嬢様に向けている空回りが酷いお嬢さんだが、突っ掛かられている方とされるフローレン嬢からはただの天然ポンコツ仕立てとして扱われているのがあちらのマルガレーテ嬢である。認識の齟齬がえげつない。観客側もちょっとおろおろしていた。

そんな視線と空気を浴びている外見悪役中身は天然の麗しき公爵令嬢は、周囲の困惑が伝染したのか傍らに控えるオルテンシア嬢―――実のところずっと一緒に居たのに気配を希薄に保つのが上手過ぎて存在感を消すプロかと思った―――にさりげなく助けを求めている。

と、そこで私は気が付いた―――――もしかして、説明があまり得意でないっぽい女子と状況が分かってないティトよりもマルガレーテ嬢に聞いた方が格段に話が早いのでは?

美味しいランチに辿り着くためなら手段は択ばない所存。思い付いたら即実行という勢い任せの精神で、ばっさり切り込むことにした。


「なぁマルガレーテさん、もしかしてここに居る男子に話し掛けようとしたら何故か全力疾走で逃げられたからとりあえず追い掛けてきたところだったりする?」

「え? ええ、まあそうなるわね。とはいえ、突然駆け出した彼を追い掛けて廊下を走るわけにもいかないし、見失ってすれ違う方々に行く先を聞いて回ったせいで時間が掛かってしまったのだけれど………そのせいで何故かリューリ・ベルさんが途轍もない迷惑を被っているふうに見えるのは私の目の錯覚かしら。あと、なんだかよく分からないけれど得体の知れない居心地の悪さを感じるのはきっと私の気のせいよね? 気のせいだと言ってオル、いえ、百八十二番」

「畏れながら現実ですマルガレーテ様」

「ちょっと、私がちゃんと番号で呼んだんだから貴女も番号で呼びなさいよう! いくらあのレディ・フローレンが関わっているとはいえ明確な意図があって定められた規約はきちんと守るのが筋というものでしょう!?」

「僭越ながら申し上げます。先程リューリ・ベル嬢ご本人からマルガレーテ様は『マルガレーテさん』と認識しているとのご回答を得ておりますので、今更番号で呼び表したところで逆に混乱を生むだけかと」

「そうだけど! それはまぁその通りでしょうけれど! でも納得がいかないのだわ! せっかく入会を決めたからにはそのあたりちゃんとしようと思っていたのに私がずるをしたみたいじゃない! そういうの気分が良くなくてよ!!!」


おやおやおやおやおやおやー? みたいな顔があちこちから一斉に向けられているが当の本人は気付いていない。気付かない方がいいのかもしれない。フローレン嬢が居ないところでも結構天然ポンコツ仕立てだったんだなこの人、とは流石に言わないでおいた。

なお、傍らに控えるオルテンシア嬢は私の立ち位置からでも視認出来る程にほっこりとした表情を浮かべている。うちのお嬢様可愛いでしょうよと言わんばかりの微笑みだった。愛読書或いは参考書片手に暇を持て余したチビちゃんが丁寧に解説してくれたので私はそういうのちょっと詳しい。外れてたらそのときはそのときですごめん。

ちなみにてっきり連番だとばかり思っていた二人の番号がそこそこ離れている件については触れない方向で可決した。これ以上の脱線はまじで要らない。


「マルガレーテさん質問。こいつに何の用があったの?」


投げる疑問はストレート。力業でぶん投げた核心を突く問い掛けに、プライドの高いお嬢様は何事かを思い出したらしい。ぱちぱちと目を瞬いた後でハッとした彼女は気を取り直し、今までのあれやこれやなど忘れ去ったかのような気品とともに背筋を伸ばして胸を張る。


「あら、いやだわ。この私としたことが、すっかり失念していたなんて………メチェナーテ侯子にお伝えしたいことがあって足を運んだのですれけど、ご挨拶すらまだでしたわね。廊下でお声掛けしようとした際には確かに段取りを覚えていましたのに、お姿を探すことに気を取られ過ぎてしまうだなんて本当にお恥ずかしい限りでしてよ。大変失礼致しました。では、改めて―――――はじめまして、メチェナーテ侯子。キルヒシュラーガー公爵家が一子、マルガレーテと申します。以後お見知りおきくださいまし」

「え? あ、ご丁寧にありがとうございます。メティ………すみません噛みました。メチェナーテ候家が末席に名を連ねます、ティト・メチェナーテと申します。キルフィシュア、違うキルヒスラ………すみませんホントごめんなさい大変申し訳ありませんキルフィスああああああああもおおおおおおお!?」


青空に木霊する絶叫が悲愴。発音の困難さにティトが死んだ。

努力の形跡は窺えるけれども自身の不甲斐なさが堪えたらしい彼は、先程のマルガレーテ嬢を彷彿とさせる動きで顔を覆って膝を折る。元々が長身だったので縮こまるとかなり小さく見えた。落ち込んでいると分かりやすい姿に大多数の視線は同情的だが淀みなくさらさら名乗り終えていたマルガレーテ嬢は形容し難い表情をしている。怒るべきか許すべきか迷っているというよりは―――――え、これどうしたらいいのかしら、みたいな感じの顔だった。


「あの、大変、大ッ変申し訳ないんですけど、お恥ずかしながら浅学菲才の身につき未熟な点は何卒お許しいただきたく存じますキウヒシュラーガー公爵令嬢………あっ! 言えた! 今俺やっとお名前言えた!?」

「ああもう違う! キウヒシュラーガーではなくキルヒシュラーガー! わざとではないと分かっていても流石に聞き流せなくてよ! というか貴方のそれはもう浅学菲才どうこうではなく発音の問題なのではなくて!? 咄嗟にそんな単語が浮かぶならきちんと勉強はしているのでしょう、惜しいところまで言えているのだからあと少しだけ努力なさ―――――いえ、なんでもありません。貴方が平民上がりの養子であるとはこちらも承知しています。及第点と致しましょう………リューリ・ベルさんのご機嫌が目に見えて悪化している気がするので話を進めてもよろしくて?」

「わぁホントだ白い人表情消えてた! はよしろ、みたいな顔してる! お気遣い本当にありがとうございますキルフィシュラーガー公爵令嬢!」

「だから惜しい! ああもう結構、堂々巡りの予感しかしないので貴方は特別にこの私を………ええと、流石にリューリ・ベルさんのような気軽さで名前呼びを許可するわけにはいかないので『公女様』とでもお呼びなさい。このマルガレーテ・キルヒシュラーガーがここまで配慮して差し上げたのだから光栄に咽び泣いてもよくてよ!」

「分かりました公女様! ご配慮ありがとうございます公女様! 言い易さがマジ段違いで感謝しかないです公女様!!!」

「まさかの手放し大喜び!? メチェナーテ侯子は『本音を隠す』という貴族社会の必修科目をもう少し学んでおくべきではなくて!?」

「怖い人じゃなく良い人だって俺の中で確定したのと目上の方に親切にしていただいてなんか嬉しくなりました、でも“公女様”に対する言葉遣いがなってない件についてはまことに申し訳ありません! 可及的速やかに改める所存ですのでお目溢しいただけますと幸いです!」

「心の防波堤が低過ぎる!? いえ、そもそも最初から微妙に噛み合ってない気はしたのだけれど―――――こんな素直過ぎる性格でこの先大丈夫なのこの子!?!?」


心の底からそう思っているらしいティトの純度百パーセント以上な感謝の言葉にマルガレーテ嬢の貴族令嬢然とした雰囲気が一瞬にして瓦解していたが私の心は凪いでいた。何故ってピザが食べたい気分。未だこちらの腕をホールドし続けつつもなんかちょっと呆けてるっぽいお嬢さんの手を振り解いてピザ待機列に舞い戻りたい気持ちがすごい。実行していいかな。実行していいよな。というかもしかしなくても、待機列の進み具合からして私の順番もう過ぎてない? は? それはかなり困る。

―――――もういいやっぱり今すぐ剥がそう。

自己完結して人知れず、まるで必死に縋るが如く私にくっついて離れないお嬢さんを物理で引っ剥がそうとした、ちょうどそんなタイミングで。


「だっ………駄目よティトくんキルヒシュラーガー家のお嬢様に親しみを覚えるのが早過ぎるわ!? ていうかなんで今ので親しめちゃうの!? 怖いもの知らずにも限度があるでしょ相手は公爵家のご令嬢なのよ! 騙されないで! 見誤らないで! レディ・マルガレーテ・キルヒシュラーガーと言えばあのミス・パーフェクトと名高いフローレン様に真っ向から突っ掛かっていく唯我独尊女王様系にしてこの王国の“王子様”の婚約者の座を虎視眈々と狙い続ける王道的な敵役ポジションなんだから!!!」


「あっはっはっはっはっはっは! それは誤解だな明らかに!!!!!」


朗らかな声は、よく通る。断定的な否定とは思えないような明るさできっぱりと高らかに言い放たれたそれに惹き付けられない者は居ない、と証明するかのような求心力で視線を集めたその人物が誰であるかは正直確認するまでもない。

ティトが、めんどくさい女子が、マルガレーテ嬢にオルテンシア嬢や観客たちが一斉に同じ方向を向いた中で、私だけは頑なにピザの販売ブースを見ている―――――燻製チーズとキノコのピザが本日分終了と聞いた心が死んだ。


「キルヒシュラーガー公子がフローレンを意識しているのは自他共に認める事実ではあるが、よりによってこの私の婚約者の座を狙うだなんてことはありえないにも程がある! 何故って? 答えは簡単だ、貴族社会に疎いであろう平民出身の者ならともかく公爵家に相応しい高等教育を受けて育ったまともな神経のご令嬢がこんな負債の塊を欲しがるわけがないだろう! 見た目と肩書だけが立派で中身はお察し案件な“王子様”なんて扱い難い男を伴侶になんて望もうものなら自分で言うのも大変アレだが手に負えなくて人生詰んじゃうぞう!!! 」

「お黙りになって馬鹿王子―――――貴方、よくも、そんな台詞をこの私の隣で恥ずかしげもなく吐けますね? 声高らかに堂々と己を負債と宣える精神力は評価出来なくもなくも無いですけれど………自覚があるなら自重なさいと、何度言わせれば気が済みますの?」

「ごめんなさい。致命的に馬鹿まっしぐらでしかない婚約者でも最終的には見捨てることなく付き合ってくれる懐が広くて慈悲深いご令嬢もといフローレンでないと私の相手には無理ですということを手っ取り早く示そうと思いました」

「正直に申し上げますと殿下の自由奔放で素晴らしく前向きなメンタリティは私の手にも余りましてよ」

「オブラートと笑顔の圧がすごい! 『ふざけろ馬鹿』ってストレートに言ってくれた方がマシだった! 心に壁を感じちゃって悲しくなるのでそれ止めない?」

「ああ、それは殿下の杞憂ですのでどうかご安心くださいまし―――――あるのは壁ではなく溝です」

「どちらにしろなんか隔たってる!?」


視界の端でぶっ倒れた誰かを近くに居た友人と思しき数名が手慣れた様子で回収してどこかへと消えていくのが見えた。いつまでもピザを買う人々を眺め続けていたところで結局買えやしないので、私はいい加減諦めて賑やかしい声の主を見遣る。

王子様とフローレン嬢が当たり前のようにそこに居た。

美しい男女が並んで立つともうそれだけで芸術であるとは宿屋のチビちゃんの言葉だったが、どうやら彼女の私見ではなく大多数の“王国民”にとっての共通認識であるらしい。人口密度と顔面偏差値が爆上がりした食堂屋外席の片隅で、新たに登場した王子様たちに悪感情を向けるものは居ない―――――たった一人を除いては。


「あら、これはこれはご機嫌よう、レディ・フローレンにレオニール殿下。お二人におかれましては本日も非常に仲睦まじく、寄り添うお姿を拝見出来て大変喜ばしく存じます―――――ところで、レディ・フローレン? 私がランチにお誘いした際には所用があるとのことで残念ながら色好いお返事をいただけなかったと記憶しているのですけれど………ご用事はお済みになったのかしら?」

「おっと、申し訳ないが『ピザパしたいから一緒にランチしよう』ってめちゃくちゃ駄々捏ねておいた私の付き添いでフローレンは現在進行形で所用だから今日のところは諦めてもらおうレディ・マルガレーテ・キルヒシュラーガー」

「えっ、ピザパしたいとかそんな理由で駄々捏ねて多忙を極めるレディ・フローレンのランチタイムを勝ち取ったの貴方!? というか貴族令嬢を伴ってピザパって何どういう神経!? フローレンもフローレンでしょういくら“王子様”が相手だからって結局は貴女がレオニール殿下の手綱を握っていることは周知の事実なんだから今日のところは貴族令嬢のお付き合いを優先しても良かったのではなくて!?」

「はっはっは、相変わらずだなぁキルヒシュラーガー公子。確かに私はおよそ褒められる要素の見当たらない“王子様”ではあるけれども、どんなに致命的な大馬鹿野郎だろうがフローレンの婚約者である限り優先順位は私が上だぞう?」

「正論! なのは認めるけれども何故かしら! 面白くない気分!!!」


きいぃ! と可愛らしく歯を食いしばっているマルガレーテ嬢だが突然の真面目な王子様に何人かのギャラリーが追加で倒れた。ところで婚約破棄騒動を起こしておきながら平然と婚約者面している顔の表皮の厚さにはいっそ感動すら覚えるが、反省した上で開き直っている馬鹿には今更何を言っても無駄だとフローレン嬢も分かっているのだろう。公爵令嬢仲間と自身の婚約者が謎の遣り取りをしている横で彼女は平然と双方を無視して周囲の観客に話し掛けつつ簡単に情報を収集していた。慣れている。誰がどう見ても慣れている。慣れざるを得なかったのだろうことを思うと少しだけ目頭が熱くなった。別に今聞こえて来たチーズピザ売り切れの速報が悲しかったわけではない。嘘だ。シンプルにめちゃくちゃ悲しい。


「いやあれフローレン様と殿下を取り合ってるってかフローレン様を殿下と取り合ってない?」

「ええ………そんなことある………? あるね………アレどう見てもそうだよね………」


一番近い位置取りのティトと空回りが酷い女生徒がそんなやり取りをしていたが、実際私の目で見てもそうとしかとれない状況だった。というか、フローレン嬢とマルガレーテ嬢は火花を散らし合う間柄であると“お茶会”を通して知っているからこそきっぱりと言い切れることがある―――――マルガレーテ嬢はもしかしなくても“王子様”本人には興味が無い、と。

おっかしいなあ、みたいなことをこぼしながらもマルガレーテ嬢に視線を注ぐ例の女子を見下ろして、その手の拘束が緩んでいるところを触覚から実感しながらも私の表情はまったくの無だった。キャストが増え過ぎた状況にギャラリーの視点が定まらない中で一番の注目を集めているのは間違いなくマルガレーテ嬢と王子様の会話なのだが流れて来る内容はどこまでも並行的で交わることなく延々とフローレン嬢の話をしている。なんだお前ら。なんなんだこれは。分からないことは分からないまま、役者だけが増えていく。

ねぇこの茶番まだ続くの?

凶暴な衝動が食道を駆け上り脳に空腹を訴える。このどさくさに紛れて本能のままに身体を動かせば望む結果が得られるのだと直感で知ってはいたものの、既に目当てのピザ販売は一部終了しましたという現実がどうしようもなくて少し虚しい。

すっかりささくれている私の心境など誰一人として知らないままに、時間だけが無為に過ぎていく―――――そんな、絶望にも似た停滞の中で。


ひょい、と目の前に突然差し出された物体に食い付いたのは反射だった。


視覚から入る情報を脳が処理するその前に、嗅覚が得た美味しそうな匂いに釣られて口が開いている。考えなしに噛み付いたらそれは美味しいピザだった。さっき食べて素晴らしいと気に入ったチーズの味がする。出来立ての芳香。暴力的なまでに熱いチーズ。蕩ける食感に焼かれる口腔をするすると通り抜け胃に向かう質量。

あっという間にもぐもぐと小麦粉農家と酪農家と食堂のおばちゃん各位からの恵みを喉の奥へと流し込み、生き返って輝く眼差しで傍らの救世主へと思いを告げた。


「おかわり!!!」

「五月蠅ェ!!!」


至近距離から言い放たれた大音量の要望に、腹の底から絞られたであろう怒声が秒で返される。語調こそ荒々しいものだったけれど、追撃に罵倒を放る代わりにピザを差し出して寄越すあたりはただひたすらに親切だった。ともすれば、さっきの衆目を集める怒声は単純に声の大きさで張り合っただけなのかもしれない―――――だって、お気遣いの三白眼はピザを満載したお皿を片手にいつもと変わらない表情で私の隣に立っている。

頑なに私から離れようとしなかった例の女生徒の拘束が先程の大声の遣り取りで緩んでいたのをいいことに、問答無用でそれを解いて差し出されたピザを受け取った。


「あれ? そういやこれセスが買ったの? 私が遅いせいでごめん」

「あ? あァ、こりゃ違ェよ。テメェの代わりに分かる範囲で代わりに注文しておきました、とかいう女子連中が居たらしくてな。俺ンところまで食堂スタッフが大量のピザ届けに来たから一人じゃどうにもならねぇ量だし冷める前に持ってきた。どうせなら美味い状態で食え」

「嘘だろそんな優しい話ある?」

「テメェの目の前にあるだろが」

「ピザを注文してくれた親切な女生徒方と食堂のおばちゃんとセスありがとう! ちなみにお金は誰に払えば?」

「面倒臭ェからもう払っといたわ。今度なんか奢れや白いの」

「お前何食べて育ったらそんなに優しい三白眼になるんだ」

「ピザが冷めるぞ」

「いただきます!」


感謝してもしきれない、そんな気持ちを言葉にのせて、上機嫌で立ったままピザ―――よく見たらこれ今日はもう食べられないと諦めていた燻製チーズとキノコじゃん好き―――を食い千切り始めた私を鋭く咎める声がする。


「まぁまぁ、優しいお兄ちゃんと仲良しさんなのねリューリ・ベルさ―――――じゃない! あまりの微笑ましさに思わず和んでしまったけれども待ちなさいそこのあなたたち! リューリ・ベルさんもベッカロッシ侯子も立ったままピザを食べ始めないの! レオニール殿下もフローレンも穏やかな顔で見守ってないで叱るところはきちんと叱ってあげなきゃお行儀悪い子に育っちゃうでしょう!?」

「言わんとしていることは分かるが口出しは無用だぞうキルヒシュラーガー公子! リューリ・ベルとセスに関してはもう自由気儘にのびのびすくすく健やかに逞しく育てる方針なのでそのあたりは気にしないでもらおうか!」

「自由気儘にのびのびすくすく育った結果が殿下ご本人なのだと思うとその教育方針には心の底から賛同しかねるものがあるのだけれど!?」

「ええ、なるほど。分かりました。情報提供に感謝します、貴女方はもうお下がりなさい………ああもう、はいはい。五月蠅くてよ二人とも。お黙り。止めなさい。静粛に!」


トップオブ馬鹿王子様とポンコツ令嬢天然仕立ての遣り取りを横手からぶった切るかたちで、ぱんぱんぱん、と音が鳴る。手を打ち鳴らす乾いた音と静かにしろという命令形は相手にきちんと届いたらしく、訴えを聞いた王子様とマルガレーテ嬢は二人同時に口を噤んだ。

そんなことが出来る人材を、私はおよそ一人しか知らない。


「殿下もレディ・マルガレーテも無駄口をお控えになっては如何? 冗長な流れはもう結構―――――大体把握しましたので、事態の収拾に移行します。さっさと切り替えてくださいまし。ランチタイムは有限でしてよ」

「おっと、早かったなフローレン。場を持たせる時間を間違えてしまった―――――ナイスなアドリブに感謝しよう、レディ・マルガレーテ・キルヒシュラーガー。それでは切り替えてサクッと行こう! ギャラリー各位、生きてるかー!?」


うぇぇぇえええぇぇぇぇい!!!!!


先程までは確かに瀕死だった筈の連中が王子様の呼び掛けに答えて次々と息を吹き返す。異様な熱気に包まれて上がる本日一番の歓声の中、王子様のノリについていけない私とセスだけが冷めた目をしていた。


「レ、レオニール殿下の今までの絡みがまさかの座持ち感覚説………!? この私がフローレンでなく彼に利用されていたというの………!?!?」


深刻そうな顔で戦慄しているマルガレーテ嬢が何事かを呻いていたけれどおおよそにしか聞き取れない。周りが五月蠅いので無理だ。あの王子様の自由過ぎるノリを真正面から真面目に受けていたら思考が著しく低下するので軽く流しといた方がいいと思う。いやもうホントこれはまじで。


「はい、それでは手始めにこの状況から簡潔にまとめてしまいましょう―――――というか、正直単純過ぎて整理するまでもありません。図式としては『悪名高いと評判のレディ・マルガレーテに話し掛けられそうになっていたメチェナーテ侯子を善意で連れ出したお嬢さんが状況をどうにか打開しようとした結果、よりにもよってリューリさんに白羽の矢を立て混迷を極めまくっていた』というただそれだけの話です―――――端的に申し上げまして、流石に散らかり過ぎではなくて?」


呆れたようなフローレン嬢の言葉に同調するような感覚で、ですよねー、みたいな温度の視線が四方八方から突き刺さる。トマトとトマトを重ね合わせて果肉の甘味を味わう私を素通りしていくそれらのすべては、主に当事者三名のうち空回りの酷かった例の女子へと一番多く注がれている気がした。

けれど、彼女自身は思い詰めた目を僅かに輝かせてフローレン嬢を見ている。切羽詰まった必死な声が、さっきまで私に縋り付いていた女生徒から上がった。


「お、おそれながら、フローレン様! ご事情を把握されていらっしゃるのであれば、どうかお助けいただけませんでしょうか!? 具体的には申し上げられませんがこのままですとティトくんの学園生活が一個人からの圧力により脅かされてしまう可能性があります! 何卒寛大なご配慮を賜りたく!!!」

「は? 一個人からの圧力って、それは私のことかしら? 貴女、何か盛大な誤解をなさっているのではなくて? 随分と妙なことばかり―――――先程までならいざ知らず、レディ・フローレンの前でまでそのような旨の発言をするのであれば、私も流石にそれ相応の振る舞いをしなければならないのだけれど?」


不機嫌そうに、というよりは、単なる事実の確認のように。マルガレーテ嬢は冷静に、かつ淡々とそう告げるなり口の端を釣り上げてほんのりと笑う。他者を威圧するための表情で、呼吸のようにそれが浮かぶのはきっと育ちの成せる業だ。

フローレン嬢が咎めるような視線をマルガレーテ嬢に突き刺した。貴女が喋るとややこしくなるので話を振るまで黙っていなさい、と言わんばかりの眼差しは、しかし別方向を向いているマルガレーテ嬢の目には入らない。


「おそれながら申し上げます。もう止めてください、キルヒシュラーガー様。ティトくんのことはどうか放っておいてあげてください」


些か好戦的に過ぎる彼女に怯える様子を見せたティトの知り合いなる女子は、しかし引き下がらなかった。自然界において子を守る親が如くしっかりと立つその姿はある意味ではとても勇敢で、同時に向こう見ずでもある。

思えば最初から今に至るまで、怯えながらも立ち向かおうと足掻く彼女を駆り立てるものが何であるのかは分からなかった。今食べているピザのぶにっとした謎の食感の食べ物が何かもまったく分からなかった。なにこれ。すげぇ甘い。は? マシュマロとか冗談だろセス。デザートピザ? なるほど。これはこれでありかもしんない。


「この通り、ティト・メチェナーテくんは編入してきて日が浅くてちょっと呑気過ぎるくらいの子です。関わらないであげてください。ここ数日間で様変わりしてしまった彼を取り巻く環境は、とても良いものとは言えません。婚約者を求めるご令嬢方に追い掛け回されていた毎日がようやく落ち着いたと思ったのに―――――貴女様までお出ましになられてはもうティトくんに拒否権とかないです!!! お噂はかねがね伺っておりましたがどうか一時の気紛れで絶賛貴族社会勉強中の子を婚約者に据えるのは止めてあげてください! 肉食獣の輪から逃げ果せたと思ってホッとしてたのも束の間復学直後の“女豹”が出張るとかラスボスにも程がありますってそりゃ絡まれる前に先手打って逃がすしかないでしょう正面対決とか無理無理の無理ですよこちらは生粋の下位貴族なのでッ!!!」

「ええ………? 婚約者だのラスボスだの本気で何を言っているのかしら貴女は? 誤解だと言っているでしょう、まずは話を聞きなさい」

「いいえ! それは出来ません! 聞いてしまったが最後逆らえないのがわたしたちの立場というものですそのあたりはきちんと心得ております!!!」

「この交わらない平行線のどのあたりで何を心得ているというの!?」

「西の大公家のお血筋にしてキルヒシュラーガー公爵家のご令嬢たるマルガレーテ様を退けられるのはあちらのフローレン様を除いて王族でも容易に干渉出来ないと評判の“招待学生”リューリ・ベルさんくらいしか居ないと心得、遮二無二助けを求めていました!!!」


「なるほどそこだけ無駄に冷静」

「感心している場合ですか殿下」


「ちょっとそこ! 先程『事態を収拾する』と明言していた筈の貴女がなんで私を放置してレオニール殿下と雑談しているのか説明を求めるわレディ・フローレン!!!」

「目先のことに逐一反応して話題を逸らして散らかしてしまうその癖そろそろなんとかなさいな、レディ・マルガレーテ・キルヒシュラーガー」

「そうだなぁ、フローレン。反応速度は素晴らしくとも散らかし過ぎはこの通りぐだぐだ展開の元だから、私としては何事も程々が一番だと思う」

「レオニール殿下に駄目出しされた! え、あの殿下に駄目出しされた!? フローレンに言われるならまだしもあの方にまでとやかく言われるのは心の底から不本意極まると叫ばずにはいられないのだわ!!!!!」


マルガレーテ嬢の絶叫と同時に何人かの観客が地に伏した。生ハムをたっぷりのせた薄いピザ生地を丸めて齧る私の耳が、謎の呻き声を拾い上げる。


「こ、これは………お嫁に行ってしまった大好きなお姉様を慕うあまりその旦那様に敵愾心を燃やして噛み付かずにはいられない意地っ張りな妹君のようなムーヴメントが嵐のように………?」

「あ、なんかすごい腑に落ちた」

「新しい風吹きこんじゃったなこれは」

「しかも妹君あれでは? お姉様を掻っ攫っていった旦那様には業腹だけどそれはそれとして自由奔放な甥っ子姪っ子のごきょうだいは結構可愛がりたい派………ただしちょっぴり躾に厳しい」

「今ありがとうを噛み締めてる」

「もうそうとしか見えなくなった」

「妄想は心にしまっておけそれはさておきでかした天才」


秒で聞かなかったことにした。たまに自分の聴覚が怖い。隣でピザをくわえたセスも凪いだ目で遠くを見つめている。たぶん同じ音を拾ってしまったのだとは想像に難くなくて親近感が湧いた。今更と言えば今更だったけれど。


「ところでこれいつまで続くんだ?」

「俺が知るわけねぇだろ。本音は?」

「いつも以上にぐだぐだしててだるい」

「間違いねぇ。あ、パイ生地ピザ来た」

「わーいありがとう食堂のおばちゃんそのピザこっちですこっち―――――!」

「まあまあ、あんなにはしゃいで手を振って、微笑ましい気持ちになるわねえ………って違う! だから! あなたたち! テーブルに座ってお食べなさいって言ってるでしょうが二人とも!!!」

「学習なさいな、マルガレーテ。美味しいものを前にしたリューリさんは基本的に何も聞かなくてよ」

「さも当然のような顔で言われた!?」


フローレン嬢とマルガレーテ嬢が愉快な感じで言い合っていたが、私とセスはパイ生地仕立てのピザを眺めるのに忙しい。よって無視した。綺麗に無視した。無視してピザパーティーに興じた。それ以上に大事なことなんて今この場所においては存在しないと好物を前にしたセスの目が無言で静かに物語っている。


「もう! 埒が明かないわ! いいわよいいわよ、ええ、結構! レディ・フローレンがやらないのであれば私が収拾をつけるまで! とりあえずありとあらゆる意味で誤解著しいそちらの貴女………クラーラ・ハウゼン嬢だったかしら? この茶番劇の幕を引くから四の五の言わずに傾聴なさい、否は一切認めなくてよ!!!」

「お許しください、キルヒシュラーガー様! 退くわけには参りません、かくなる上はやはり北の大公様が後ろ盾についているというリューリ・ベルさんを頼る他に道はなく………ぶっちゃけ次期王妃確定で現公爵令嬢のフローレン様より“北の民”である彼女の方が心理的にまだ声掛けやすいですし!」


なんか決意を新たにしたっぽい声に名前を呼ばれた気がしたが、関係ないので無視しておいた。というか次にこっちに来たら本気で遠くに放り投げちゃうかもだから可能な限り来ないで欲しい―――――せっかくのピザに何かあったらセスと全面戦争だぞ分かってんのかパイ料理だぞコレ。

一抱え程もある平皿にででーん、と広がる円型の生地は見ただけでも分かるぱりぱり加減で香ばしい匂いを漂わせている。具材はまさかの四種類。仲良く分けられる八ピース仕様。喧嘩することなく一人一種類は絶対に食べられるおばちゃんのお気遣いがありがたい。

極薄の生地を重ね合わせて焼き上げられた小麦粉の層は芸術的に美しく、縁にはチーズが折り込まれていてたっぷりと滑らかな糸を引く。もったりとした各種チーズがこぼれる落ちるか落ちないかの絶妙なバランスを保ちつつ、アクセント程度の黒胡椒とたっぷりの蜂蜜に彩られたそれを火傷も辞さずに口へと運んだ。普通のピザ生地とは違う軽やかなパイの食感が、ざくざくさくさく耳に楽しい。

小気味良い音の合間を縫って、苛烈なお嬢様の声がする。


「さっきから聞いていれば貴女………いいえ、この場に着いて時からずぅっと思っていたのだけれど。貴女、リューリ・ベルさんの知り合いでも何でもないのでしょう? 彼女の如何にも迷惑そうな態度と表情を見ていれば流石に復学したばかりの私にだって分かります。今でこそあちらでフレンドリーにベッカロッシ侯子とピザを楽しんでいる人畜無害なフェアリーだけれど、貴女のその度し難い粗忽さで我が国が招いた“北”からの客人にこれ以上の心労をかけることは王国貴族として見過ごせなくてよ。北でも西でもどちらでも、こと“大公”家に関係なく、己が私欲を満たす目的で彼女に纏わりつくことは許されないと知りなさい」


見るものを震え上がらせる類の威圧感を醸しつつ、相手を睥睨する様はまさに悪役令嬢と呼ばれるに相応しい傲慢さ。しかしながらあくまで気高く自信と誇りに満ちている。そんなマルガレーテ嬢に気圧されたのか、言われた方は少し怯んだ。

その隙を彼女は逃さない。畳みかけるよう言葉は続く。厳かに、粛々と、さながら獲物を狩るように。


「心理的に声が掛けやすい、ですって? 何を勘違いしているの、ただの一介の辺境民相手にどうして王家や大公家がここまで気を遣っていると思って? そんなもの決まっているでしょう、『リューリ・ベル』は特別だからよ。この“王国”の支配下にない遠い“北”の辺境地、そこに住み暮らす人々を束ねる一族の長の家系の子。リューリ・ベルさんは言うなれば、“北の民”のお姫様よ―――――そんな相手に迷惑をかけていいわけがないでしょう弁えなさい!」


「お姫様とかなにそれ知らんけど」


ざわっとした空気が爆発する前に普通に言ったら沈黙が下りた。


マルガレーテ嬢が何とも言い難い目で私の顔をじぃっと見ている。フローレン嬢も同じくだった。ぐだぐだしてようが離れることなく場に留まっていた面々は「そうだったのか」みたいな納得顔を中途半端に驚愕で固めて間抜けな感じになっているし、王子様は面白くなってまいりましたと言わんばかりの表情で無駄にきらきらしい美貌を輝かせて楽しそうに笑っている。

さぁあ、と爽やかに吹き抜ける風にびよんびよん揺れるチーズの糸をもぐもぐと口で巻き取って食べて私はとりあえずもう一回言った。


「お姫様、ってなんだそれ? 私は違うぞ。姫とか知らん。“北の民”にはそんなの居ない」

「いや、あのね、リューリ・ベルさん。それはまあそうなんでしょうけれども………ええと、ものの例えというか。だって貴女、“北の民”の族長様の血縁にあたる方でしょう? 北の大地で一族を束ねる者、民族組織のトップという意味では王国における王家と同じよ。つまり、族長『ハーシア・ベル』様の血縁者であろう貴女は意味合い的にはお姫様とい」

「血縁者、ってあれだよな? 誰が誰から生まれたかとか親とか子とかそういうのだよな? じゃぁ私と族長は血縁じゃないぞ。族長親兄弟全部居ないし、子供は出来る前に奥さんと死別して新しい連れ合いもとらなかったから居ない。族長はあれだ、生涯孤独だ」

「リューリ・ベルそれたぶん天涯孤独! 生涯孤独は止めたげて! 『この世に血縁関係が一人も居ない境遇』と『死ぬまで孤独』は全然違う! 与えるイメージと心のダメージがどうしようもなく段違い!」

「そうか? 大体あってるけど」

「自分のところの族長つかまえてしれっと真顔で酷いなお前!? 思わず口を挟んじゃったけれどもこれに関しては後悔してない!!!」


賑やかに騒ぐ王子様は唖然としているマルガレーテ嬢を完全に置き去りにするかたちで、衆目の視線を集めるように殊更大仰に叫んだあとでふと思い出したように小首を傾げた。太陽光を反射して、金色の髪が鮮やかに煌めきながらさらさら滑る。


「あれ? でもお前、リューリ・ベル。『ベル』と名乗っているからには族長であるかの御仁とは関りがある筈だろう。ていうか普通に養子じゃないの?」

「養子、って王国語の定義が『血の繋がりに関係なく人為的に親子関係を成立させること』ってチビちゃんに教わったとおりなら私は養子とやらじゃないぞ」

「宿屋のチビちゃん今日も今日とてナイスアシストありがとう! 養子縁組取り扱ってる恋愛小説多いから薄々予想はしてたけれども!!!」

「脱線していましてよ馬鹿王子。速やかに軌道を修正なさい」

「言う程脱線してなくない? フローレン私に厳しくない?」

「今更何をおっしゃっているのか心の底から分かりかねます―――――そんなことより、リューリさん。貴女と族長様の関係について、どうも我々王国側とそちら北側の認識に何かしらの齟齬があるようで………血縁でなく、養子でもなく、けれども貴女は『リューリ・ベル』で、族長様は『ハーシア・ベル』………もしや『ベル』という家名は、北の方々に多いので?」


さくさくパイ生地の上にのった炭火でこんがり焼けたお肉から感じる独特の風味が大変美味しいが、フローレン嬢から投げられた問いに私は食事の手を止めた。考えて、首を捻る。


「そんなに多くはないと思うけど―――――ていうかまずその“カメイ”って何」

「………………、はい?」


何処かで誰かが呟いて、本日二度目の沈黙が下りた。

一度目よりも尚重く、圧し掛かるような静寂が、仕切りなんてある筈もない屋外の空の下に満ちる。誰も彼もが何も言えない空気には気まずさしかなかったが、一人だけ平然と立っている私は指先から伝わるピザの温度が変わらないうちに食べることを選んだ。優先順位はどこまでも、ランチであって人ではない。


「おい、リューリ」

「なんだよ、セス」


隣から聞き慣れた声がして、呼ばれたからそちらの方を向く。見上げる位置にある三白眼からは何の意図も読み取れない。


「テメェの他に居る『ベル』は何人くらいだ。大体でいい」

「え? うーん。大体か………三十人は居ないと思うけど」

「テメェの血の繋がった家族や親戚はその中に一人でも居るか?」

「居ないな。ベルの中には居ない―――――知ってる限り、皆そうだぞ? だいぶ前には居たらしいけど最近の『ベル』は全員他人だ。『ベル』だけはちょっと変わってるから親兄弟揃ってない方が普通なんだよ。私が『ベル』になったのだって久し振りだったって聞いた」


ベルになった、というあたりでセスの目が僅かに細められ、誰かが何かを言い出す前に彼は次の言葉を吐く。答え合わせのようだった。


「リューリ。テメェが住んでたところに居たのは全員『ベル』って名乗ってたのか」

「は? そんなの当たり前だろ。『ベル』以外で何を名乗れってんだよ」

「あ。私分かったかもしんない………待って? え? そういうこと?」


胡乱な眼差しをセスに突き刺して何を分かりきったことを聞くのかと思っていた耳が拾ったのは、やたらめったら明るく騒がしい馬鹿な王子様の声である。けれど今は珍しく、ちょっぴり元気が足りない気がした。

どういうことですの、と硬い声音で先を促したフローレン嬢に三白眼が淡々と応える。


「どういうこと、じゃねぇよ、フローレン。こいつが今言ったことが全部だ。考え方が違ェんだ。文化も風習もまるで違ェ、そもそも“北”と“王国”の総人口の差からして―――――リューリの故郷じゃこっちに比べて人間の数が圧倒的に少ねぇって話を聞いたことくらいはあったがよ。そのせいかどうかは知らねぇが、少なくともこいつら“北の民”には“家”を継ぐって発想がない。そもそも俺たち“王国民”みてぇな“家”ってモンの概念がねぇんだ。だから親兄弟の認識はあっても“家名”を名乗る文化がねぇし、『先祖から子孫へ代々継承する永続的な個々の家の名』が“北の民”には存在しない。守るべき“家”ってモンがない………あるのは所属を示すための、たぶん、集落か集団名だ」

「じゃ、じゃあ………『リューリ・ベル』さんはベル家のリューリさんではなくて―――――ベル村のリューリさんだと言うの!?」


マルガレーテ嬢の声が引っ繰り返って、私は「ああ」と腑に落ちた。同時に、なんだ、とも思った。


「そういうことか。どうりでなんかさっきから話が噛み合ってないと思った―――――王国民と私たちは、名前の意味合いが違うのか」

「あー。まぁなんつぅか、個人を識別するための記号って意味じゃ何の違いもねぇんだが………所属先がクソ細けぇか超大雑把かの差はあるな」

「ふーん。そういえばこっちで名前聞いたことある人たちやたらと後半バリュエーション多いな、って思ってたけど、あれは個々人の家とやらでいちいち違うからだったのか。王国料理の幅広さを鑑みるに土地も広そうだったから普通に故郷と一緒だと思ってた」

「その言い草からしてやっぱりテメェんとこ住んでる土地で分けてやがるな………地名由来ならこっちにも無くはねぇ文化ではあるけどよ。しかし『ベル』ってのはどういう意味だ?」

「うん? ああ、『ベル』は土地の名前じゃないぞ。これだけは族長の固有名詞だ。族長が『ベル』だったから、族長と一緒に各集落を巡る私たちも全員『ベル』なんだよ。ついでに言うと私は昔『リューリ・アゥ』って名乗ってた。『アゥ』は水の側って意味で、生まれた集落のすぐ近くにでっかい湖があったんだ」

「へぇ。それで? なんでテメェは一人だけ『アゥ』から『ベル』になったんだよ」

「基本的には生まれた場所で育って死ぬことが多いんだがなぁ………人間には向き不向きがあるから、生まれた場所でも生きていくには向いてないって場合もあるんだ。そういう一握りの変わり者にはより生存率が上がる生き方を族長が選んで決めてくれる。その正確さときたらびっくりするぞ。伊達に長生きしてないよな」


私は、アゥには向いてなかった。あっけらかんと笑って言って、『ベル』になった私は肩を竦める。セスはそうかよ、と返したっきり会話はそこで途切れたけれど、ばっちり聞き耳を立てていたらしいマルガレーテ嬢が恥ずかし気に顔を覆って項垂れ始めたのでなんか悪いことをした気分になった。


「こちらとあちらの文化の違いは頭にあった筈なのに、まさか普通に名乗っている名前が全然家名じゃなかったなんて………! 思い込みで事実と異なる情報をさも真実のように口にして、私ひとのこと言えないじゃない………!」


押し殺した声は小さかったが周りが静かなのでやたらと響く。誰が見ても全力で反省していた。プライドの高さは言うまでもないが他人にだけでなく自分にもひたすら厳しい性分らしい。仕入れた情報を精査しないまま突撃してしまう迂闊さに関しては女子の寒々しいお茶会の折にフローレン嬢も指摘していたことだが、自らの非を認める潔さと行いを悔いる精神性をそなえているらしいマルガレーテ嬢はギャラリー各位の生温い眼差しを一身に受けていることに気付かないまま己を恥じていた。

何とも言えない雰囲気の中で、そんな彼女に声を掛けたのは呆れた様子のフローレン嬢。


「きちんとやれば出来る筈なのに、イレギュラーに強くないのも臨機応変さに欠けるのも、人前で暴走しやすいところも何も変わっていませんのね………レディ・マルガレーテ・キルヒシュラーガー? ご気分が優れないようであれば医務室をお訪ねになっては如何? 後片付けならこの私が引き受けても構わないのですけれど?」


挑戦的な物言いで、事実、それは挑発である。そのあたりに疎い北の民の私でさえ分かったのだから、この場に集う王国民やマルガレーテ嬢本人にそれが伝わらない筈がない。

がばっ! と勢い良く顔を跳ね上げたことで淡い金髪の巻き髪がぶわりと派手に広がって、整った顔を険しくしながら噛み付くように彼女は言った。


「結構よ、レディ・フローレン! お気遣いは痛み入りますけれど、ただの立ち眩みのようだったのでこの通り何ともございません。貴女の手を借りる必要なんてこれっぽっちもなくってよ―――――メチェナーテ侯子! こちらに来なさい!!!」

「うおっ!? は、はい! すぐ行きます!!!」


完全に吹っ切れましたというかヤケクソみたいな威勢の良さで叩き付けられた命令形に、それまで空気と化していたティトが即座にびしっと背筋を伸ばした。相手が高圧的な態度であっても特に気にならないらしく、ただ呼ばれたから応えましたと言わんばかりの素直さで、背の高い男子はあっさりとマルガレーテ嬢へと駆け寄っていく。

いきなり動き出した事態に咄嗟の反応が遅れている某女生徒が復活するより、ティトが縦ロールのお嬢様のもとに辿り着く方が早かった。


「お呼びでしょうか公女様!」

「迅速な反応、素直なお返事、大変よくてよ! 褒めてあげるわ!」

「ありがとうございます公女様!」

「本当に素直ね! でもそれは今置いておくとして、貴方、ローズマリー・パラッシュという名前に聞き覚えがあるでしょう? あるわよね? 調べはついています。彼女だけでなくこの数日間、様々な女生徒に追い掛け回され絡まれ倒されメチェナーテ侯子の学園生活に大変差し障ったと伺っております―――――この度は、我が西方貴族の者たちが貴方に多大なるご迷惑とご心労をおかけしてまことに申し訳ありませんでした。一族の上に立つキルヒシュラーガー公家の者として、謹んでお詫びを申し上げます」

「ティトくん駄目よ近付い………………………えっ?」


マルガレーテ嬢が一息に喋って言い終えるなり頭を下げたので、謝罪を受けたティトの顔面と口を挟もうとした女子の動きが揃ってぎしりと固まった。

薄く切った燻製肉を丸めて花びら細工のように仕立てたセンスの光るピザの具に植物性オイルと香辛料のハーモニーを感じつつ、どういうことだと広がる困惑を他人事目線でぼんやり眺める。


「え、えっ? 公女様? なんで公女様に謝られてんの俺!? ちょっ、これ何どうしたらいいんですかどうされたんですか公女様これって俺大丈夫なやつですか!? やだ何も言ってくれないの怖い! どうしろっての!? こういう時なんて反応が正解!?」

「はいはい落ち着け深呼吸しろー、キャパオーバーでなんか泣きそうなメチェナーテ侯子に王子様のワンポイント・アドバイス! ここは謝罪を受け入れる旨を言葉にすればさらっと話が進むぞう。細かいことは気にせずハイ実践!」

「なんかよく分かんないけどごめんなさいされた件了解しました公女様! 頭上げてもらっていいですか!? それとも俺が縮めば解決!?」

「あっはっはっはティトお前やっぱり磨けば光るタイいたたたたた痛い痛いごめんってばフローレン脇腹抓らないですごい痛ぁっだたたたたたたたたたなにこれ抉れるグラム単位のダイエット!?」


外野というか馬鹿が五月蠅いがあちらはフローレン嬢がとうとう武力行使に出たので任せておいて大丈夫だろう。余談だが淑女の細い指先で脇腹をぎりぎりされて悶える王子様というカオスな絵面を目撃した観客の約二割が泣いた。死なないパターンもあるんだな、と思ったが私とセスは心を無にしてパイ生地のさっくり感を楽しんでいる。


「やっと言えたわ。このためだけに私はどれ程遠回りしたのかしら………ああ、いけない、忘れないうちに―――――メチェナーテ侯子、こちらをお受け取りくださいまし」


肩の荷を下ろした旅人のような晴れやかさで顔を上げたマルガレーテ嬢が独り言を呟いて、思い出したように差し出されたのは真っ白くて四角い紙だった。ぱちぱち、とティトの目が瞬く。おっかなびっくりした挙動で差し出された紙を受け取った彼は、それを矯めつ眇めつしてから困った様子で眉尻を下げた。


「ええと、すみません公女様。俺は頭が良くないので、大変失礼ではありますが説明をいただけると助かります………公女様はなんで俺に謝って、お手紙? をくださるんですか?」

「説明、と言われても先程謝罪した際に述べた通りなのだけど………ええと、貴方、アインハード・エッケルトのとばっちりで女性陣に追い掛け回されてとても困っていたでしょう? エッケルト侯子とは私は所謂親戚なのだけれど、調べてみたら貴方を追い掛け回していた女子生徒たちの大半も遠からず縁のある家柄で―――分かり易いところで例に出すならパラッシュ伯爵家のローズマリーとか―――要するに、ここ数日間貴方に迷惑をかけまくったのは私と所属を同じくする者たちよ。私たちのせいで迷惑をかけたの。だから一族の上に立つ公爵家の者として、正式な謝罪をと思っていたのだけど………侯爵家に籍があるとはいえ、平民上がりの養子相手に公爵令嬢が頭を下げるなど社会の秩序が乱れるとか何とか現公爵の父が五月蠅くて。しょうがないから西の大公のおじいさまにお伺いを立てて諸々お許しいただいたわ。なので、そのお手紙はおじいさまからよ。貴方の養父のメチェナーテ侯に渡して早めに目を通してもらって頂戴。謝罪文と補償についての大事なお知らせが入っているから、うっかり落として失くしては駄目よ?」

「分かりました、失くしませ―――――いや待って!? おかしくない今の話!? アインハードがアホだっただけで公女様が謝ること一個も無いじゃん!? 女の子たちに追い掛けられたのはそりゃまぁ普通に怖かったけども公女様ぶっちゃけ無関係じゃん!!!」


元気一杯に返事をする途中で気付いてしまったらしいティトが血相を変えて叫んでいたが、マルガレーテ嬢は怒るでもなく鼻で笑っただけだった。高圧的な表情が、どこまでも似合う人だった。


「必要ない? 無関係? 見縊らないでいただける? 私を誰だと思っているの! 西の大公が直系にしてキルヒシュラーガー公家の娘、マルガレーテ・キルヒシュラーガーよ! 高い爵位を戴いているのは何のためだと思っているの、下の者を束ねてまとめてもしもの際は責を負うためよ!!! 普段は下げない頭だからこそ謝罪の重みが違ってくるの、ふんぞり返って見栄ばっかりで張りぼて細工の頂点だなんて何の意味も価値もないのだと身を以て示さないでどうするの! 貴族の面子や矜持を思えば不必要なことなんかじゃないわ。直接的に関係あるかどうかなんて突き詰めてしまえばどうでもいいのよ。人が人の上に立つ、ということはそういう側面を持つのだと正しく理解しておきなさい―――――侯爵家の養子になったからには、貴方だって無関係ではいられない世界の話なのだから」


静かに締め括られた口上に、感嘆の溜息を聞いた。飲んでいた息を吐くような、身体の硬直が解けたような、そんな緊張感を伴いながら弛緩した空気の真っ只中で。


「公女様、かっこいい」

「誉め言葉として受け取っておくわ………洗練されてはいないけど、センスはそこまで悪くなくてよ」


ティトがぽつりと言葉を落として、マルガレーテ嬢は艶やかに笑った。悪役と呼ぶには邪気がなく、お姫様と呼ぶにはちょっと怖い。それはフローレン嬢と似て非なる彼女の魅力というやつで、それにあてられた人間はきっと少なくはないだろう。


「ああぁぁキルヒシュラーガー様めちゃくちゃ普通にいい人だったぁぁあぁぁぁぁ」


現に今ひとり悶絶している。刈り込まれた芝生の上にがっくりと膝をつきながら、先刻までの己の言動を絞め殺したいと後悔しているのはティトの知り合いの女子だった。

本人の人柄を知らなかったのはおそらく間違いないだろうが、悪役令嬢でございますと言わんばかりの容姿にくっ付いた噂とやらを鵜呑みにして空回りな奮闘を続けた傷跡の深さはちょっと想像したくない。というか散々巻き込まれて迷惑を被ったと思っているのでこれ以上は関わり合いたくない。

そんな彼女に近付いて行ったのはすっかりと平常心を取り戻したらしいマルガレーテ嬢ご本人だったのだが、散々難癖をつけられていたに等しい公爵令嬢が下位貴族の娘に何を言うのかと固唾を飲んで見守るギャラリーは一体何なんだ。お前らまだいたのか解散しろよ。


「ねぇ貴女、クラーラ嬢? ハウゼンと名乗っているのならハウゼン子爵家のご令嬢でしょう? 婚約者であるレズリー男爵家のご子息とは大変仲睦まじい関係であると小耳に挟んでいるのだけれど………そんな貴女が、どうしてメチェナーテ侯子のためにあそこまで必死になっていたの? 誤解して空回りしていても私相手に引き下がらなかったあの言動を踏まえると、婚約者の挿げ替えを目論むお花畑の類とはとても思えないのだけれど?」

「あ。公女様、横からすみません。そのレズリー家のご子息って俺の友達のロジャーです。騎士科で初めてペア組んだ時から平民上がりの俺を気に掛けてなにかと助けてくれる良いヤツです。その婚約者のクラーラさんもすごく親切にしてくれます。ご令嬢方に追っ掛けられて逃げてた時も二人が助けてくれたんです」

「違うわ、ティトくん。わたしもロジャーもあの時はろくに助けてあげられなくて………エッケルト様に夢中だった方々はほとんどこっちより地位が高くて、満足に庇ってあげられなかった。殿下やフローレン様やリューリ・ベルさんのお力でようやく周りが落ち着いて、やっと貴方の学園生活が元に戻ると思っていたら、今度は学園にお戻りになったキルヒシュラーガー様がティトくんの周りを調べているって話を聞いて。どう頑張っても太刀打ち出来ない、形振り構っていられるようなお相手じゃないのは分かってたから………規約違反だとは承知の上で、キルヒシュラーガー様を退けるためにリューリ・ベルさんに接触しました。同意書にサインをした身で許されない愚行でございます。処される覚悟は出来ております。逃げも隠れも致しません―――――二百七十一番、出頭します」

「貴女もまさかの会員だったの!?」


真面目な空気をものともしないマルガレーテ嬢のツッコミの反応速度が素晴らしい。内容に関してはスルーした。こういう場合は管轄外ですという顔でランチに没頭するに限る。香草を練り込んだソーセージと脂まで美味しいハムのピザ美味しい。


「待って待ってそんな覚悟初めて聞いたよクラーラさん!? 言いたいことはいろいろあるけどロジャーに申し訳なさ過ぎる!」

「それについては大丈夫、都合のつく方が死に物狂いで助けに入ることになってたから。ちなみにロジャーは実習の準備当番で今日の昼休みは外せなかったのでわたしが担当になりました」


そこで一旦言葉を区切り、立ち上がってきりりと表情を引き締めた空回り系お嬢さんはマルガレーテ嬢へと頭を下げた。深く、地面と平行に。あるいはもっと深々と。


「謝罪が遅れてしまいましたが、マルガレーテ・キルヒシュラーガー様。心よりお詫びを申し上げます。数々の非礼をお許しください。人伝に聞いた噂話で貴女様を勝手に推し測り、誤解でしかない的外れな発言をお耳に入れてしまったことを深く恥じ入る所存です」

「あら、なんのことかしら? お生憎、囀り程度の雑音はそもそも耳になど入りませんの。何のことだか分からないわね。貴女、謝罪するべき相手を間違えているのではなくて? 今回迷惑を被ったのは明らかに巻き込まれたリューリ・ベルさんでしょう。規約違反は別として、そこはきちんとなさいまし―――――私、貴女に頭を下げられる覚えなんかなくってよ」


澄まし顔のご令嬢は居丈高にそう言い放ち、用件は済んだと言わんばかりに踵を返して立ち去ってしまった。存在感を完全に抹消していたオルテンシア嬢はしずしずとその後を追って行き、後には何だかよく分からない集団だけが残される。


「公女様、やっぱりすごくいい人だった!」


にこやかにそう言い放つティトには若干の思考放棄がみられる。王国民の幻聴を耳にしたときの私の反応と何となく近いものを感じた。友人とその婚約者さんに謎の覚悟で見守られていたという事実については聞き流したらしい。スルースキルが鍛えられる記念すべき第一歩である。


「どうなることかと思ったが、まぁ一応は決着したな―――――はいはい注目、ギャラリー各位! ぼんやりしている時間はないぞう! 各自時刻を確認した上でランチするなり移動するなり適切な行動を取るように! タイムキーパーが不在の時は自分で時間を把握するなり見切りを付けるなりしないと駄目だぞ! そのあたりの自己管理は人生における基本中の基本だ! ちなみに私は合間合間できっちりピザを注文してたので食いっぱぐれる心配はないしフローレンはとっくの昔に着席して料理を待っている! そういうことです! 以上、解散!!!」


青空の下に轟いた悲鳴や怒号が誰のものかは混沌として判然としない。あっという間に散って行く観客の輪を見送って、再び戦場と化した屋外ピザの販売コーナーで戦うおばちゃんたちの健闘を祈った。うるせぇな、とのセスのぼやきを頷くことで肯定しながら、そういうことってどういうことだよと心の中で悪態を吐く。王子様はとっくの昔にテーブル席へと旅立っていたから応える声などなかったけれど。

そしてこちらにやってくるなり平身低頭謝罪してくる面倒臭いお嬢さんと同じく頭を下げるティトを適当な感じにあしらって、いつの間にか最後になっていたパイ生地仕立てのピザの具はまさかのシュリンプとガーリック―――――美味しくないわけがない組み合わせ。


「食堂スタッフは神の使いか?」

「神様そのものだと思うぞセス」

「間違いねぇな。実在したわ神」

「いつになく素直な三白眼こわ」

「そのピザ食わねぇなら寄越せ」

「ふざけんじゃねぇぞ絶対嫌だ」


断固拒否の姿勢を示して即座に口の中に退避させたさっくさくのピザ生地の上で踊る甲殻類の旨味。食欲を刺激しまくってくれるガーリックの香りが最高です。からっと炒めてあるガーリックチップを噛んだ時の気持ちは言葉にならない美味しい以外の王国語は死んだ。


「普通のピザよりこっちの方が好きだな」

「パイ料理を最初に作ったやつは神だわ」

「この三白眼過去かつてなく神様認定がゆっるゆるだな」

「最高と天才と神連発するやつの台詞じゃねぇぞ白いの」

「奢るの明日のランチでいい?」

「おう。待ち合わせは食堂前な」


何事も無かったかのように恙無く会話は流れて流れて、気に入らないことがあったにしても終わりよければすべて良し。今日のランチも絶品でしたという記録だけを記憶に留め、どうでもいいことはさらっと流して私はセスと歩き出す―――――わざわざ言葉にするまでもなく、向かう先が購買な時点で目当てはデザート一択だった。


お疲れ様です、今回もお付き合いいただきありがとうございました。

ぐだぐだ展開にも見捨てずにここまで辿り着いてくださった、あなた様に心からの敬意と感謝を捧げます。


それでは、何卒よいお年を。

来年もよろしくお願いできれば望外の喜びでございます。


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[良い点] 相変わらず最高の一息長セリフ論破トークが最高です。 勢いに任せた勢いトークが正直誰にも真似できないレベルに達してると思います。脳内再生がたのしいです。 [気になる点] 今回もスクロールバ…
[一言] 今日やっとゆっくり読めたと思ったら、まさかのピザ祭り!! パイ生地仕立てのピザが美味しそうで……これは冷凍パイシートを買いに行かねばならない案件か!! 縦ロール嬢もいつの間にか入会してるし(…
[一言] ちなみにピザは切ってみんなで食べる、ピッツァは1枚を1人で食べるのがスタンダードらしいでっせ。今回のは全部ピザやね ……ん?リューリにとっては全部ピッツァなのでは…?
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