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やってきたキラーラビットは丸々太ったウサギだった。走る速さもそんなに速くはないので新人には良い相手だろう。
「いつもなら良い練習相手なんだけど、早く三階に行きたいから倒しちゃうね」
前にいたリーダーが言うと、盾を構えて走ってきたウサギに盾をぶつけた。それだけでウサギは死んでしまった。体当たりした方がダメージ貰うって怖いけど、きっとそれも盾使いの技術なんだろう。
情報通り一階二階は人が多く滅多にモンスターには会わなかったけれど、それでも出てきたモンスターは『全力全開』の皆さんが一撃で倒していた。ウッドゴーレムは魔術師風の人が蹴りで胴を真っ二つにし、ビッグバットは上半身裸の人が投げナイフで一撃だった。
普通に探索するなら一日近くかかるらしいのだが、浅い階層は既に地図が出来上がっていて冒険者ギルドに飾られているので誰でも見ることが出来る。一応俺達も地図を書き写していたが『全力全開』の皆は道を覚えているようでサクサク進み、あっという間に三階にたどり着いた。
「まだ時間はあるけど探索は明日からにしよう」
三階に着いてクルスくんやおじいさんが「いよいよか!」と張りきっていたけど、それでも昼を過ぎていたので今日の探索は終わってしまった。そして、向かったのは安全地帯と呼ばれる場所。そこはモンスターが出てこない、入ってこない場所で冒険者は安全に休憩出来る。この遺跡風の階層では一部屋が丸ごと安全地帯になっている。俺達はいくつかあるうちの一つに入った。運良く誰もいなかったのでゆっくり出来そうだ。ちなみに安全地帯の見極め方は水場があるということらしい。当然ここにも公園にある水飲み場のような物があり、水がチョロチョロと出ていた。その為ダンジョンの中で水は補充出来るけどここのように一階にいくつもあれば、一階に安全地帯が一ヶ所しかない所もあるらしいので、やっぱり水の確保はしっかりしておきたい。
お昼はお弁当を食べたので作る必要は無かったが、夜は作る事になっている。ちなみにポーター達のお昼は『全力全開』が用意してくれていた。テント等の野営の準備も無いので皆で食事の準備をする。基本的に水も薪も肉もあるので肉串とスープになるのでスープをいつも通りシャルちゃん特製スープの素で作ろうとしたのだが、なんと『全力全開』のリーダーが作ってくれることになった。なんとリーダー『料理』スキル持ちらしく、ポーター達に炊き出しをしたりする事もあるようなのだが、かなり評判とのこと。それこそ店を出さないかと誘われた事もあるとか……。これは楽しみである。
しかし、『全力全開』の三人は『料理』スキルに『調薬』スキルと皆スキルを持っているので冒険者を辞めてもやっていけそうである。まぁ、『調薬』と言っても回復薬と毒薬と正反対の薬なのに同じ『調薬』スキルなのは納得いかないけれどね。
浅い階層とはいえダンジョンなのであまり荷物を持ってきていないので料理はすぐに終わった。人数が多いのでお互いが持ってきた鍋二つになっていたが、どちらもいい匂いをさせている。皆もダンジョン探索が出来なくてガッカリしたことも忘れてスープに夢中だ!
結果として食事は大満足だった。塩とウサギ肉の出汁位しか無かったのだがバランスが絶妙だった。シャルちゃん特製スープの素や竜の森産のスパイスを渡したらどれだけの料理が作れるのか、今度お願いしてみよう。




