もう他人じゃない
「……なんだお前は?」
俺が近づくと、それに気づいたおっさんは俺に声をかけてくる。
「なぁおっちゃん、いろいろあって悲しいのは分かるけど、おっちゃんが落ち潰れたら、亡くなった家族が悲しむぞ?」
「なっ!? いきなり現れて……お前に何が分かる!!」
「……確かに家族を失う事の辛さは分からない。でも、一人の辛さは分かる」
「……お前…………?」
俺は物心着いた時から孤児院で育った。
後々に孤児院の先生に聞いた話では、近くの村で流行り病が流行した時に、親が生まれたばかりの俺に移らないように一時的に孤児院に預けたが、迎えに来る事はなかったようだ。
そして、後に村は流行り病で全滅したと聞いたらしい。
だから、親の顔も知らないし、これから先知る事もない。
小さい時に街で親と歩く同年代の子が、楽しそうにしているのを見て切ない気持ちになって塞ぎ込んだ事もあるけど、そのままじゃいけないと思った。
きっと俺の親はそんな事望んじゃいないだろうし、せっかく親からもらった人生なのだから。
と、まぁそんな事は大きくなってから思った事だが、おっちゃんがこのまま落ち潰れていくのは、何か他人事とは思えない。
と、言って、言葉だけでおっちゃんが前向きになれる訳でもないってのは分かる。
「なっ!?」
俺はおっちゃんが飲んでいた酒を一気に飲み干す。
「ぷは〜!! なぁこれで赤の他人じゃなくて酒飲み仲間だろ? だから、俺がおっちゃんの代わりに仇をとって来てやる!」
赤の他人が何もなしに立ち直れって言ったって、そんなのは受け入れられる訳でもない。
言葉だけ……そんなのは偽善者だ。
もし、俺の親が殺されたとかだったら仇を討ちたいと思うだろう。
「おまえ……」
「なに、任せとけって! こう見えておれはーー……」
なんだ?
急に世界が回って……
◇◆◇◆◇◆◇◆
ん……なんだ?
俺はどうしたんだ?
……あっ、確かおっちゃんの酒を飲んで……でも、なんだ? 頭に感じるこの柔らかい感触は……?
俺はゆっくりと目を開ける。
「……タクト君、大丈夫?」
目を開けると、俺の事を心配そうに覗き込むリアンの顔があった。
「あぁ、大丈夫ーーってイテェ……」
俺は起き上がるが、それと同時に頭痛がした。
「全く情けないです。人のお酒勝手に飲んで倒れて意識失うなんて」
声のする方を向くとミーアが俺の方を見て、首を左右に振っていた。
そうか、俺は酒を一気に飲んで倒れたのか。
「悪かったな、リペア!!」
俺はすぐさまリペアをかけて、酔いを覚ます。
「……タクト君、本当に大丈夫? タクト君が一気に飲んだお酒はとても強いって言ってた」
「そうなのか?」
「うん、あの小さいグラスで普通のお酒十杯以上って」
「マジか……」
量が少しだからって油断してたな。
でも、そんな強い酒を朝から飲だくれるまで飲むあのおっちゃんは……。
「本当、タクト君は急に何をするかと思えば。でも、タクト君の行動はちょっとーーってどこ行くんですか!?」
ミーアが俺に説教じみた事を言い始めたところで俺は立ち上がり歩き出していた。
「どこって決まってるだろ?」
「決まってるってどこにですか!?」
「盗賊退治に決まってるだろ」
「えっ? あれ、本当だったんですか!?」
「当たり前だろ。男に二言はない」
「……でも、聞いた話だと盗賊の規模が大きそうだし危険」
「かもな。でも、やると言ったらやる。だってあのおっちゃんはもう他人じゃなくて、酒を飲み交わした仲だからな」




