蔓延している病
「ほら、これでもう大丈夫だ」
「うわ〜! ありがとうお兄ちゃんっ!!」
男達から事情を聞いた俺はすぐに行動に移した。
村にある一軒、一軒を周って寝込んでいる女性や子供、老人にリペアを駆け回ったのだ。
そして、最後に俺達が最初に出会った男の家に来て奥さんと子供にリペアをかけた。
というのも、男に聞いた話は半年程前から村で病が蔓延していて、村人みんなが病にかかったという。
この病は最初は身体がだるくなり、次第に動く事も出来ずに寝込んでしまうらしい。
そして、徐々に体力のない子供、老人、女性へと倒れて行き、男達も病の前に倒れる寸前だという。
病を治す為に、週に一回やってくる商人から薬を買っていたが、働き手もなくなった村にはもう財産がなく、どうしようかと思い、次に村を訪ねてくる人がいたら、お金を奪おうしていたらしい。
そして、ちょうどその時に俺達がやってきて、それを決行したようだ。
「まだ油断したらダメだぞ。悪いのはなくなったけど、まだ体力はおちてるからな」
「うん! 分かった!」
そう言って俺がリペアをかけた女の子は嬉しそうに飛び回っている。
ったく、おとなしくしろって言ってるのに。
「へぇ〜意外ですね〜」
俺が女の子を微笑ましく見ているとミーアが声をかけてきた。
「何がだ?」
「だって、タクト君は金の亡者で詐欺師なのに無償で手助けして微笑むなんて。……どこか頭打ちました?」
「失礼な奴だな、俺は優しい男でーー」
「あー!! 分かりました!! タクト君は『ろりこん』って奴ですね!? 聞いたことあります! 幼い子を好きな人を『ろりこん』って言うって!」
「断じて違うっ!」
「だって女の子には優しくて私には酷いじゃないか!?」
「そりゃ……だって、好きな子は苛めたくなるって言うだろ?」
「す、す、好きな人!? 冗談でもそんなコト言ったらダメですよ!」
「だから、冗談じゃないって」
「もう! タクト君は!!」
そう言ってミーアは顔を赤くして離れていく。
ダメだな、こうやってからかってるうちはミーアとの距離は縮められそうにない。
「……タクト君、私は?」
すると、横からリアンが上目遣いで聞いてくる。
「リアンは……守ってあげたくなる感じかな?」
「……よかった」
そう言ってリアンは胸に手を当て、顔を赤くする。
いや、俺はなんて軽い男のような言葉を軽々と口にして、ミーアとリアンを口説くなんて……まぁこれだけ可愛い子が二人もいるのに、フリーの俺が口説かないってのは健全な男じゃないとも思うけど。
「本当にありがとうございました」
俺がいろいろと悩んでいると、男が声をかけてきた。
「いえいえ、タダで泊めてもらうんですから、これくらいは」
「いや、助けて頂いた方からお金なんて……まして、これくらいしかお礼が出来なくてすいません。ささ、ご飯が出来ました、あちらへどうぞ。こんな状態だったので、大したものは用意出来ませんが……でも、ミーアさんが狩って来てくれたイノシシと鳥は美味しいと思います」
そう、ミーアは俺が家を周って治療している間に、『よし、そういう事だったらこのミーアちゃんが精のつくものを取ってきましょう!』と言って、暗いというのに森に入って食料を調達して来た。
ミーア曰く、炎狼族は夜目が効くから大丈夫との事だ。
そうして、ミーアは鳥とイノシシを狩って来て、村人みんなに分けた。
「いや、御飯を頂けるのはありがたいです。お腹空かせている奴がいますから」
俺はチラッと離れたところで聞き耳を立てていたミーアを見る。
「はは、お口に合うか分かりませんが」
俺達は男の言葉に甘えて、御飯を食べに移動した。
◇◆◇◆◇◆◇
「いただきます!」
席に着くと、ミーアが勢いよく食べ出した。
ちなみに、夕食は野菜のスープとパンに鳥とイノシシを焼いた肉が出されている。
「おいミーア、肉ばっかり食べるなよ」
「いいじゃないですか! だって私が狩って来た奴ですよ? だから文句言われる筋合いはありません! それに炎狼族はお肉を食べないと力が出ないんです!」
そう言ってミーアはイノシシの肉ばっかり食べている。
「ったく、……逆にリアンは肉食べないのか?」
「うん、エルフは元々肉をあまり食べないから」
「そうか」
確かにエルフは肉はあまり食べないって聞いた事がある。でも、リアンの場合はそれだけじゃなくて身体の弱った人達に食べてもらおうと空気を読んでいるのかもしれない。
「あっ! タクト君はお肉食べるなら借金からその分引いてくださいね?」
「……食うか!!」
ミーアの仕返しとばかりのニヤリとした表情に、俺は意地になって肉を食べないで、野菜のスープとパンを食べた。
◇◆◇◆◇◆
「はぁ〜お腹いっぱいで幸せです!」
御飯を食べ終わり、俺達は与えられた部屋に来た。
そして、ミーアは満足気に言葉を口にする。
結局ミーアは終始水すら飲まずに肉を食べていた。
体力をつけるのが大事だと言う事だ。
そして、部屋に戻ってから喉が渇いたのか、喉が渇いたのに気づいたのか、持参した水を飲んで満足気に言葉を発したのだ。
普通、そこまで必死に肉を食べるか?
「ったく、肉ばっかり食べてると太るぞ」
「太るって失礼な!? 乙女に向かって太るは禁句なんですよ!! それに、炎狼族は代謝が良いから太らないんですから!」
確かに、ミーアは太っていない。
身体にはくびれもあり、出るところ出て引っ込むところは引っ込んで……
「やらしい目で見ないでください!!」
ミーアは自分の身体を抱き締めるようにして身体を隠す。
「いや、確かに太ってなくて、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでるなって見てただけだから」
「その目つきがやらしいんです!」
それは男だから仕方ない。
「……うらやましい」
「あっ、いや、リアンはリアンでしゅっとして、スタイル良いぞ?」
俺は慌ててリアンをフォローする。
でも、リアンはリアンで確かに胸の膨らみはないけど、足も細く、全体的に肌もキレイだ。
「……本当?」
「あぁ! 本当本当! さぁ寝るぞ!!」
この話をしていたら、分が悪いと思った俺は話を切って寝る事にした。
◇◆◇◆◇◆
「くっ……」
朝日が部屋に差し込み、それで起きた俺だが、何やら身体がだるい。
まさか……?
「リペア!!」
俺はリペアをかける。
すると、身体のだるさは取れた。
「ミーア、リアン起きろ!!」
俺は二人を起こす。
「ん……何ですか? 朝からそんなにうるさくしないでくださいよ」
すると、先にミーアが起き上がる。
「ミーア! 身体に異変はないか!?」
「えっ、特にありませんよ?」
そう言ってミーアはキョトンとする。
そうか、ミーアは大丈夫か。
リアンは?
「おい、リアン!!」
すると、リアンは起き上がらない。
「リアン大丈夫か!?」
俺はリアンの身体を揺する。
「タクト君……身体がだるくて……」
「分かった! リペア!」
俺は急いでリアンにリペアをかける。
すると、リペアが聞いたのか、リアンはゆっくりと起き上がった。
「……タクト君、ありがとう」
「あぁ、大丈夫で良かった」
どうやら俺とリアンはこの村の病にかかったようだ。
でも、ミーアだけなぜ……?
ミーアの方を見ると、ミーアはキョトンとして首を傾げていた。




