第23話
「アンタ達ねぇ、空気読みなさいよ。私達は祝賀会して楽しく飲んでたのよ?」
「楽しく飲んでたのはカエンさんだけです……」
「トキは黙ってなさい。で、また懲りもせずにやってきたわけ?」
カエンが闇の中に問いかける。何かが動き、顔が月明かりの下に浮かび上がった。前回やってきたシラシス、そしてもう一人は。
「ん? こないだの若造じゃないわね?」
ローブを脱ぎ捨てたもう一人の顔が露わになる。
「あれ、女の子じゃない」
トキよりも若干年上に見える女性が、シラシスの横に立っていた。
「新メンバー? こんな若い娘が入って、紅一点じゃないの?」
「軽口は今の内に叩いておけ」
シラシスが低い声で言った。彼の隣にいる女は真剣な顔つきをして、そこでゴーサインが出るのを待っていた。手には、関節部分が鉄で覆われたグローブをはめている。
「メル、お前は魔導書を狙え。私はキニーをやる」
「はい、シラシスさん」
そして、二人が地を蹴る。
「大丈夫か、本当に……」
トキ達が飛び出て行った後の家では、ルクが一人で二人の心配をしていた。
「一人は魔術師になりたてだし、もう一人に至ってはただの酔っ払いだぞ……」
酒の効力によって顔を赤く染めた幼馴染の顔が浮かんでは消える。それに、いくら試験官を倒せるほどの力を持っていたとしても、トキも心配だ。何せ、実戦経験が少なすぎる。
「まぁ、腐ってもキニー家の当主だから大丈夫だとは思うが」
腐っているが、と言い換えようとしたところで、ルクは顔を上げた。不自然な風の動きを察知してのことだった。
「驚いた。俺にも敵の手が伸びるとは」
彼の目の前には、若い男がいた。サイだ。
「お前がトキとキニーの協力者か」
「だったら?」
ルクは冷静に言葉を紡いだ。しかしそれがサイの気に障ったらしい。彼は若干顔を歪めて、構えを取った。
「殺すまで」
厳しい声で告げられた宣告だったが、しかしルクはそれにも冷静だった。
「天下の捜査局員を殺すか。そうしたら、お前達の悪事が表面化するぞ」
「構わん。元より、そんな矮小な存在に足を絡め取られる我らではない」
「そうか。そりゃあ随分崇高な理念を持ってるな」
「他に言い残すことはないか?」
「そうだな。じゃあ、こういう言葉を残そう。『お前に生殺与奪の権利を与えた覚えは無い』と」
言った瞬間、サイがルクに襲いかかった。




